人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ウルク・ジグラット

賢王「賢しき我よ、此度は目出度き日取りにして大事極まる我等が叙事詩の節目であろう!故にこうしてカルデア、並びに提携した組織、勢力を纏め上げた大祝祭を開いているのだ、それは理解しているな!だというに主賓のエアの姿が見えぬではないか!この日の為にウルク民一人一人にシュメール・スマートフォンを配布したと言うに!」

シドゥリ「我が王よ、グループラインにてスタンプ祭りです」

賢王「ここに来て手落ち、等とは言うまいな!可及的速やかにエアの晴れ姿を見せよ!100インチモニターの準備は万全なのだぞ!」

魔法少女時空・わくわくざぶーん

子ギル「まぁまぁ。女性の準備には時間がかかると言うものです。男性は余裕を持って、優雅に待ってあげるのが甲斐性ですよ」

賢王『フン、そういえば貴様もいたな幼少の我。我は急かしているのではない、案じているのだ。いくら成長したといえ、年齢は二桁にもならぬ。無為に強張っては笑顔も翳ろう』

子ギル「その点においても心配はしていません。何故なら…」

賢王『うむ。業腹だが…ヤツには愚かな我がいるのだからな』


楽園カルデア・至天の玉座

エルキドゥ「あれ、エアとフォウは?もうすぐ全領域のお祝いが始まるよ?」

ギル「解っている。だが、エアには礼を告げねばならぬ者が、エアにのみ礼を告げねばならぬ輩が在るのだ」

エルキドゥ「?」

ギル「まぁ、暫し待て。こればかりは我も未到達の領域だ。──転生者のみにしか到れぬ、な」



遥か刻みし二千の轍
二千に至る偉大なる節目〜至尊の魂、無二の感慨〜


「…アナタと出逢って、紡がれ出したこの物語。色んな人の力を借りて、色んな人と歩んでいって。ただの一歩も途切れなかった歩みが、とうとう二千の轍を刻みました」

 

黄金の都、バビロンの宝物庫。絶えず金型が変化する無限流動の財の蔵、その最深奥。乖離剣、終末剣、天の鎖、英雄神が格納されしエアのみが踏み入れる最重要区画にて、至尊に至った魂は語り掛けていた。傍らには、親友たる獣を共に。

 

「始まりは…正直、ここまで壮大で大掛かりな物語になるだなんて想像もしていませんでした。ギルへの感謝と、現実への適応に精一杯で。世界を救うため、ワタシの研鑽の為もちょっとだけあって。あなたが見出してくれたフォウに見守られながら、一生懸命に頑張ってきたつもりです」

 

(余計なお世話、だなんて言うなよな。ファインプレーだったよ。お互いにとって…な)

 

語りかける二人の眼前に存在する、因果律すらも統べ、あらゆる時空と集合的無意識を支配する事も可能な全能の願望機。かつて、根源と完全に接続していた者の肉体と魂が、奇跡的に形を成した『杯』。あらゆる奇跡とあらゆる事象を、所有者の思うままに成し遂げる正真正銘の全能。

 

だが、そんな効能はエアには関係無い。彼女は偉大な恩師、大恩ある師匠に行うような振る舞いにて語りかける。最早物言わぬ肉体である存在、『アカシック』と呼称されていた存在を尊重するように。

 

「歩みが重なれば重なるほど、日々が眩しければ眩しいほど、あの時出会えた、あなたに感謝の念が強まっていきます。ワタシも、フォウも、ティアマト様も。今生きているのはあなたが見出してくれたからです」

 

アカシック。彼は根源接続者にして全能行使者として人類に保護され、その人格を根源と一つにし、肉体と精神は今の大聖杯の形と変化した。やがて人類の未知と結末を暴く事に恐怖した人間と、アカシックの尊厳を護る為に立ち上がった人間達の争いの果て、研究施設にて放置されていた。それをケイオス・カルデアが発見。オルガマリーが回収…否、『救出』し、王の宝物庫へと保護された。

 

この肉体に、大聖杯に魂は宿っていない。誰もこの全能の所有者ではない。この大聖杯を所有するには、かの魂を有さねばならないが、その在り処を知る者はただ一人。『彼が見出した』魂であるエアのみだ。

 

だが、全能だとか大聖杯だとか、そんなものはエアには重要ではなかった。エアにとって必要なのは、ギルや世界に巡り合わせてくれた大恩ある彼、あるいは彼女。その尊厳たるこの杯がもう、誰にも利用されないという事実。その尊厳の確立だ。故に彼女は語りかける。ギルに出逢うよりも前。自分を見出してくれた本当の始まりの存在たるアカシックに。

 

「なんという偶然なのでしょうか。あなたの魂は今、根源と一緒にあって一つになっている。その肉体が、あなたがいた証が。まさかこの世界に在るだなんて」

 

(今の彼が、今更自分の肉体の在処なんて知るわけないだろうし興味もないだろう。本当に、無量大数の世界からたった一つ。君とエアは巡り会ったんだな)

 

フォウの言うとおり、今のアカシックは自身に対する事を知る由もない。彼の魂は根源の調律者。生きた書記官、あるいは全能の番人として全能に囚われているのだから。

 

「魂が別だとしても、最早人でなくても。あなたの全てはあなたの者です。こうして…」

 

『』

 

「こうして、また巡り合う事ができて本当に良かった。ワタシ達がいるのは、楽しい日々を過ごすことが出来るのは、あなたのお陰だから。アカシック」

 

そう、転生者たるエア達はアカシックに見出された魂だ。転生することが出来なければ、エアはそのまま無明の闇に消えていただろう。フォウも、ティアマトも、そのまま消え去っていただろう。

 

(君はほんの気まぐれのつもりと言ったな。その気まぐれで始まった物語がこんなにも沢山の人達に愛されて、積み重なって、こんなに遠い所に来たんだぜ)

 

遥かに歩み続けた道。遥かに積み重ねた研鑽。誰もがあの日に始まった頃から進歩した。無銘であった魂は、やがてこの世の総てを尊び重んじる理を宿した。

 

(お陰でボクも立派な人類愛だ。かつての善き人々だけじゃなく、ボクにとっても唯一無二の人を助ける力と運命をくれた。…本当に、感謝してるよ)

 

傍らにあるフォウも、エアに寄り添い感謝を告げる。そしてそれはここにいないティアマトも同じだった。フォウの首に、『ありがとう』と書かれたメッセージカードが吊り下げられている。それは、かの母が受け取った人類からの返礼。至高の言霊。

 

「ワタシの歩みがどんなものか。どのような意味を持つか。目の当たりにした方々がどう思うのか。その答えはワタシが決めるものでなく、一人ひとりが懐くもの。だから、それがアナタにとって善きものであるかどうかは…ホントは、解っていないのです」

 

エアは自身の成すべきを目指し歩んできた。研鑽を重ね、ゲーティアの偉業を看取った。今もなお、その旅路は続いていく。

 

だが、それが正しいものか、価値あるものか、意味あるものかを考えたことはエアには無い。それはやがて至る裁定の時にて王が、そして目の当たりにしてくれた一人一人に委ねているものだからだ。

 

だが、そんなエアがたった一人。たった一人だけ、自身の歩みがどのようなものであったかを尋ねるとするならば。彼女が自身の研鑽を、成果を誇る相手がいるならば。どんなもんだと胸を張る相手がいるのだとするならば。

 

「アカシック。だからこそワタシはアナタに告げたいと思うのです。ワタシの総てを始めてくれたアナタに。ワタシに、素晴らしい運命を与えてくれたアナタに。ずっとずっと、見守ってくれているアナタに」

 

それはフォウと結ぶ親愛にも、等しく世界に懐く情愛にも、ゲーティアに告げる労りにも、王に捧げる敬愛にも属さぬ感情。総てを尊ぶ彼女が、王と同じく特別な『感謝』を懐き続ける相手。

 

「──どんなものですか!あなたが無味無臭とまで言った魂は、今も元気にやっているんですからねっ!」

 

ふんすっ、と鼻息荒く胸を張る相手。彼女の始まりを見た相手たるアカシックこそ、彼女が永劫忘れぬ感情の向き手。決して忘れる事のない、無情の感謝と温情を懐く相手なのだ。

 

(ボクの意志を華麗に無視して転生させてくれたな!よくやった!それはボクにとって最高のフェイトだった!ボクの感謝もお前に預ける!)

 

二人して、アカシックに告げる感謝。彼等はアカシックの魂の在り処を知っている。その魂が何処にあるかを知っている。

 

だが、彼女や獣にとって重要なのは世界の命運を左右する全能でも、世界の総てたる根源でもなんでもない。たった一人の、大切な一つの魂。

 

そう──アカシックという、無二の『恩人』への感謝こそが、大聖杯に捧ぐ想い。彼に、彼女に想いよ届けとする、無垢にして無私なる願いこそが、全能に告げる全てなのだ。

 

世界の全ては王に。無二の感謝は彼に。ここに至って尚、何かを奪い生を謳歌する獣性を宿すことなく、彼女はここまでやってきたのだから。

 

「よぅし、言いたいことはキチッと告げられました!見ていてくださいねアカシック。王とその財たちはますます以て素晴らしい叙事詩を紡いでいく事でしょう!何せ、王が認めし至上の財なのですから!」

 

ふん、と自慢気に鼻を鳴らしフォウを抱くエア。…そして表情を柔らかい慈愛にて崩し、そっとアカシックへと触れる。

 

「…いつか…必ず会いに行きます。もっともっと研鑽を続け、ワタシは、必ずアナタに会いに行きますから」

 

『』

 

「その時は、ワタシのお話に付き合ってくださいね。これまでの頑張りや奮闘、これからの未来や希望。アナタに話したいこと、話せることは盛り沢山ですよ」

 

その時はきっと、王も答えを出すだろう。人の紡いだ紋様の価値を定めるだろう。それが終われば、王の手には無が残る。

 

その手透きとなった王に、胸を張って紹介しよう。自身の大恩人にして永遠の感謝を捧げる相手。

 

──自身の運命を見出してくれた、かけがえのないアナタを。ワタシの大好きな王様と共に、いつまでもいつまでも伝えよう。

 

アナタがいてくれて、本当に良かった。心から…ありがとう、と。




フォウ(…そろそろ時間だよ、エア)

──そうだね、フォウ。始まるよ。今まで関わってきたすべての時空と祝う、2000の祝祭が。

アカシック『』

──また必ずやってきます。何度でも、何度でもやってきます。王への敬愛と同じように、あなたへの感謝は絶対に無くなりません。

フォウ(次はティアマトも連れてくるからさ。…見てろよ、アカシック。もう退屈なんてさせないさ)

──それでは、また。アカシック。

エアとフォウは、そっとアカシックから離れる。誰にも利用される事ない、誰の手にも渡ることない黄金の座にて、アカシックは静かに佇む。


ギル《戻ったか。既に高天ヶ原、サーヴァントユニヴァース、光の国、幻想郷、閻魔亭、夏草、ウルク、魔法少女の準備は万端だそうだ。おそらく、まだまだ増えるぞ?》

──はい!お待たせいたしました、ギル!

フォウ(始めよう!盛大なお祭りを!)

ギル《フ──然り!では行くぞ!!二千の大祝祭、この我が開幕を告げてくれる!!》


そしてまた、迎えた記念を共に祝う。未来をまた紡ぐ為に。過去を忘れぬ為に。

───!
フォウ(あれっ、指輪に…?)

Congratulations(おめでとう)

──……!!

ギル《フッ。どうやらお前達の祝辞は確かに届いたようだな?》


────……はい!!



旅路は紡がれていく。


遍く全てを照らす星が示す道を、揺るぎ無い足取りで。

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