人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

2010 / 2537
東京・某所

道満「ここは…」

メイ『貴様でもここは知っているな。ならばここでの無礼は死と思え。…さあ、これを誠心誠意読み上げろ』

「巻物?晴明殿、これは一体…」

『意味は解る。読み上げればな。…いや、感じてくださる。カルデアから、高天原からきっと御助力くださるだろう。私の直筆だ』

「…解りました。晴明殿が仰るのであれば誠心誠意!」

メイ『見せてやろう、伽椰子。『上には上がいる』という真理…この日本で怨の頂点ははるか先という事をな』


バケモンには守護神を奉るんだよ

【─────!!?】

 

領域に至りし者を問答無用で呪殺する固有結界【呪怨】。今まで唯一の例外を残しあらゆる存在を屠ってきたその領域の主、佐伯伽椰子。何としても取り逃した一人の男を再び呪い殺さんとしていたその意気軒昂は、叩き壊された扉の音と、侵入してきたその巨大に過ぎる存在の魂により震撼する領域にて霧散した。

 

『───────』

 

黄金の覇気を放ち、清澄なる怒気を漲らせし黄金の鎧武者…。怨霊たる伽椰子が認識できたのはそれだけだった。あの取り逃した大男と同じ程度の体躯ながら、立ち上る憤懣は空気が歪み空間が軋む程だ。顔面の部分に顔はなく、ただ、爛々と燃え盛る一対の紅き丸眼があるのみ。

 

…その紅き眼が、憤怒によりこれ以上なく細められており、映しているものが自身たちであることに至るのにそう時間は必要で無かった。一歩一歩踏みしめるたびに地鳴りが如き振動を響かせながら、家宅内へと進軍する謎の存在。

 

【フニャァアァアァゴ】

 

当然、そんな存在を容認するはずもなく、伽椰子の眷属たる俊雄が謎の鎧武者へと飛びかかる。パンツ一枚の裸体の少年に見えていようが呪霊は呪霊。伽椰子の呪いを伝播する存在。

 

だが。

 

【フギュッ】

 

そんな短い悲鳴を漏らしたきり、俊雄は難なく無力化される。飛びかかるよりも早く伸ばされた黄金の右腕が、正確無比に俊雄の首を掴みとった。俊雄の猫の如き迅速を遥かに上回る神速。生身の人間とは訳が違う。

 

【ぶ、ブギュッ、グギュ…】

 

みるみるうちに力が込められ、口から泡を噴き出す俊雄。この存在はまるで違う。自身に込められた呪いを、意に介してすらいない。

 

【ブギャアッ】

 

虫の潰れたような悲鳴が、そのまま断末魔となる。頚椎をへし折られ、地に伏せた俊雄の頭を黄金の鎧武者が踏み潰した。そして胴体に素早く脇差しを抜き放ち突き刺すと、それには破魔の印が刻まれているのか釘付けになり、霧散により逃げられなくなってしまったのだ。瞬く間に、伽椰子の眷属たる怨霊は無力化された事となる。

 

【アァァァ ア ア ア】

 

喉から漏れるかのような声音。迷い人ではない、自身らに対する明確な敵対行為。何より眷属の惨殺により異常事態と任じた伽椰子が出陣する。2階から、四つん這いにて1段1段と鎧武者へと向かいゆく。

 

『─────』

【ア ア …】

 

なんと、近付く度に畏怖し恐れを懐くは伽椰子の方だった。静かに細められた眼が自分を一瞥している。それを認識した瞬間、魂魄が軋み粟立つような感覚を伽椰子は知る。

 

近付いてはいけない。近寄ってはならない。皮肉にも自身の領域に引き摺り込み無辜の存在を呪怨に巻き込んだ首魁が懐いた本能の発露は、絶対的存在に対する本能的な恐怖そのものだ。

 

【アァァァァァァ】

 

しかし、最早呪いと化した存在に逃げる場所などなく、自身の領域にて敗北などあり得ないと断じた伽椰子は金切り声を上げその存在に襲いかかる。勢いをつけ、蛙のように飛翔し距離を零にする。取り込んでしまえば、どのような存在であろうと。

 

『─────』

 

その稚拙な吶喊に、その魂は微塵も動じなかった。ただ、腕組みを解き拳を握り…。

 

【ブゲァ ァァァ ァ ァ … !】

 

渾身の力で、伽椰子にカウンターパンチを叩きつける。モロに食らった形となった伽椰子は首を何回転もさせながら1階より吹き飛んで行き、大騒音を起こし血反吐を吐きながら悶え苦しむ。物理的な威力ではない。それでは霊は倒せない。

 

満ち溢れる神威。充溢する神気。イタコの家系だった伽椰子は理解する。

 

──これはまさしく、神であった。

 

『…………』

 

殴り飛ばしただけに終わるはずもなく、伽椰子に歩み寄るその神。神の怒り、即ち荒御魂たる威厳が、威風が迫りくる。

 

【ァ ア ァ】

 

助けを求めるかのように逃げおおせようとする伽椰子の脚が、むんずと掴まれる。万力、或いは鬼のような膂力に抵抗虚しく持ち上げられる伽椰子。

 

そのまま、伽椰子はヌンチャクのように家中に叩きつけられた。人間一人を軽々と片手で振り回す様から、最早人知を超越した存在であることは一目瞭然。そのあまりにも隔絶した力の差は、伽椰子などが全く歯の立つ相手などではない。

 

【ア…ア…】

 

血塗れになり、抵抗する気概も失せるほどに弛緩した伽椰子。脇差しを突き刺された俊雄も、最早動く様子すら見せない。

 

『────呪怨、片腹痛し』

 

だらりと垂らされ、確保された上から語られる、静かながらも怒りに満ちた声音。その声が告げる事実に彼女は瞠目する。

 

『我が真名、平将門。貴様が如何なる怨霊なれど、我が身を讃える渾名には及ばず』

 

本来ならば勝負にもならないのは当然だ。現代にて積み重ねた怨霊など、束になろうと敵うまい。

 

『我…この日の本における【三大怨霊】の一角也』

 

そう、崇徳上皇、菅原道真公、そして最後に連なるは平将門公の名。日本において畏怖により告げられた3体の怨霊、その一角が、明確に伽椰子を誅伐するために動いたのだ。

 

『ますたぁの故郷…関東夏草への進軍、赦さず。汝ら、滅するが為に参ぜり』

 

そう、関東の守護神とは平将門公。神秘が消え失せた現代にすら神威を見せる圧倒的なその威令は、伽椰子の遥か上に在る偉大なる存在。

 

その存在が在る中で、関東進出しようなどとするならば…サーヴァントとしてマスターに仕える将門公の怒りに触れるは自明の理であった。

 

『狼藉、赦さず。此方に来るべし』

 

【アァ、アァ…!】

【………】

 

髪をふん掴み、乱雑に俊雄諸共屋敷から引き摺り出す将門公。抵抗などできる筈もなく、二人は牙城から引きずり出される。

 

『崇徳院、出番なれば』

『うん』

 

入口に待っていた少年の名前は、さらなる仰天を呼ぶ。そう、三大怨霊の一角崇徳上皇。その敬称を外した呼び名である存在がなんと玄関先にて待っていたのだから。

 

『それっ』

 

崇徳上皇が、サッと小さな刀を振る。すると瞬間、伽椰子の固有結界たる家屋が一瞬のうちに寸断され霧散し、伽椰子自身の力がみるみる内に減衰していく。繋がりを、固有結界を縁切りにより断ち切られたのだ。縁切りにて祀られし皇ともなった崇徳上皇の、絶対的な力の発露。

 

『是にて、貴様らは浮遊霊も同じ』

 

最早恐怖に染まるは伽椰子の方だ。切り裂かれた喉から空気が、ガチガチと歯から怯えの音が漏れる。

 

『最早救われる事も無し、虚無へと失せよ』

 

ずりずりと、将門公は安倍晴明が一帯に用意した成仏用の大結界へと伽椰子達を運んでいく。無論これは、伽椰子達の為に用意した物ではない。

 

【ァァァァァァ───】

 

力の限り伽椰子らを投げ入れ、荘厳な様にて腰の大太刀をを抜き放つ将門公。それは伽椰子の取り込んだ魂たちを解き放つ一撃──。

 

『将門司刀・新皇顕現』

 

最大範囲が日本列島そのものたる、白き霊刀が二人を一閃する。当然ながら伽椰子達はそのまま雲散霧消し、呪怨に取り込まれ成仏できぬ苦悶の魂が結界内に満ち溢れるが…。

 

『えい』

 

崇徳上皇がさっ、と刀を振ると、魂を縛っていた呪怨が魂より断ち切られる。魂たちはそのまま天に登っていき、結界により魂を洗われあるべき場所へと戻っていく。

 

「ありがとうございました。将門公、崇徳上皇。お見事なるお手前です」

 

歩み寄るは安倍晴明。この人員の為、入念に地脈と霊脈を確保していた結果が実り、完膚なきまでの除霊を果たす。その功労者たる二人の神と皇に、最敬礼を行う。

 

『気にするは無用、ますたぁの為に動くがさぁばんとなれば』

『子々孫々のためだもの。全然いいよ』

 

「深き感謝を。これで…魂たちは還りましょう。あるべき所へ」

 

時刻は午前。三人は天へと立ち上る魂たちを静かに、厳かに見送る。

 

バケモンにはバケモンをぶつけんだよ、ではない安倍晴明ならではの策。これこそが、日本一の陰陽師の悪霊祓いであったのだ。




道満「やりましたな、晴明殿!」

メイ『やったのは私じゃない、あの方々だ。間違えるな』

将門公『晴明殿の結界あればこそ也』
崇徳上皇『やったねっ』

メイ「有難き御言葉…。元はと言えば、お前が勝ててればこうはならなかったのだぞ」

道満「拙僧?」

メイ「貴様の手に余る以上、直接はリスクが高かった。ならばこそこうして二方に声を掛けたんだ。お前の不手際だと思え、道満」

道満「それはそれは、たいへん忝なく…」

晴明「だが、結界が無駄にならずに済んだ。ついでに浄化もしたから、この地に悪霊が出ることも無かろう。充満する魔力はアンリマユ君のものだ、人払いはそのままだしな」

道満「流石ですな晴明殿!あふたーけあも万全!」

晴明「…どうやら、リッカ君は茜のお気に入りだったらしいからな」

道満「?」

晴明「なんでもない。さぁ、次は貞子だぞ。一週間後、お前はある場所で貞子と会ってもらう」

「場所とは…?」

「高天原だ」

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