道満「ではお二人共、はい、チーズ!」
メイ&香子「「いぇーい!」」
メイ「さて、次は第二書店だが〜…」
道満(晴明殿!晴明殿!)
(なんだ鬱陶しい)
(明日!期日はもう明日なのですが!何か、何か秘策などはおありで!?)
(ある)
(あるのですな!?このままでは拙僧、無念の退去なれば!)
(明日になれば解る。せいぜい祈れ。そこから先はお前次第だ)
(は、はぁ…)
(香子君の鬼のような本屋巡りに忙しいんだ、荷物持ちに精を出さないか)
(は、はい!)
〜そして翌日 高天ヶ原にて
道満「………!」
(い、井戸の映像…)
ポツンと置かれた井戸。そこより…
「!!」
白き手が伸び、やがてゆっくりと這い出てくる女性。
「山村、貞子…!!」
ゆるりゆるりと、身体を揺らしなんとテレビの枠から身体を飛び出させてくる、伽椰子の対となる怪異。
ビデオを見た道満を呪い殺さんと、顔を上げたその瞬間──。
イザナミ『あなや皆様!行きますよー!せーの!!』
日本神霊の皆様『『『『『おいでませ!山村貞子ー!!』』』』』
貞子【…!?】
熱烈な、日本の神々の歓迎を受けるのだった。
【…………】
『長い間の彷徨…なんと痛ましや貞子ちゃん!伽椰子ちゃんはもう手遅れだったのも哀しく、またこちらも哀しい!ゆっくり、ゆっくりなさってね貞子ちゃん!およよ、およよよ〜!』
お祝いされた後、身の上話をイザナミに話し無事おばば号泣。肩ポンされたり抱擁されたりの神話ばあちゃんの温もりを受け落ち着いたのか、道満の用意した座布団に座る貞子。霊能者の娘でもあるので、イザナミやアマテラス、ツクヨミや日本武命に囲まれあぁアカンわこれとなり停戦と相成ったのである。道満と、向かい合う形だ。
「は、はじめまして貞子殿。一週間前、呪いのビデオを拝見した蘆屋道満と申します」
【その節はどうも。貞子です】
話してみればとても礼儀正しい貞子。霊感オンリーなので声はしないが霊力で会話する。手をついたお辞儀は格式の高さを感じられた。
【伽椰子は祓われたみたいですね。せいせいしました】
『ご存知で?』
【テロみたいなやり方を推し進めた仁義外れですので。報いを受けて当然です。まぁ怨霊なんですが】
意外と話の解る貞子をスカウトしようとしていたのは先見の明なのだろう。見切っていたのだとしたら大したものだ。いや、見切っていたのだろう。だからこそ、こうした呪いなど介さない清澄なる高天ヶ原を選んだのだから。
【それで、どうしました?苦しませないでサッと殺すつもりですので御安心くだされば…】
だが言うことは物騒な貞子に咳払いをしつつ、道満は彼女に除霊を行う。
「山村貞子殿。単刀直入に言います。徘徊する怨霊ではなく、日本を代表する怨霊となってみませんか?このカルデアにて」
【えっ?】
そう、晴明は初めから彼女をスカウトするつもりでいた。伽椰子と違うところは、その呪殺に美学を感じたからである。呪いのビデオ、期日、見たものしか邪魔しない限り殺さない。そこには、理性とルールがあった。伽椰子のような無差別ではない、理性の光がだ。
それを活かせるならば、きっとカルデアの理になる。そう信じ、貞子という霊をスカウトという道に踏み切ったのである。
「貞子殿は有名で、皆の支持や畏怖も集めております。フリー活動にしておくのはあまりにも惜しい。場末の怨霊でもなく、世界のためにその呪力を使ってみませぬか」
【ええと、私これスカウトされてます?】
「その通りです。よろしければ、あなたを是非プロデュースさせていただきたいとの事です!あなたは羽ばたくのです、大スター怨霊として!」
道満の満面の笑みに、ふむと腕を組み考える貞子。うーん、と唸る沈黙の中、高天ヶ原のど真ん中で寝ているミラルーツのイビキが聞こえたのが風情を感じさせる。
【地道な下積み呪殺が実を結んだのは嬉しいですが…難しいのでは、ないでしょうか】
貞子は考えた後、しゅんと項垂れる。その理由を、訝しげに道満は問う。
「と、申されますと」
【呪霊、怨霊というのはもう【そうなるしか無かった霊】なんです。変わるタイミングも、救われる機会も全部自分で手放していて、他人を呪うことしか出来なくなった存在。それはもう自業自得ですし、それに何人も呪殺していますし…】
「貞子殿…」
【そんな霊に用意されるのが、地獄ではなくスターダムの道というのは…なんというか、その…虫が良すぎる、のではないですか?】
彼女は怨霊としての自分を客観的に理解しており、客観的に判断できていた。もう怨霊に堕ちたのだから、最期まで堕ちきるしかないのではないか、と。そんな自分に救いは赦されるのかと。
…全てを呪いきっていた伽椰子とはまるで違うのはここなのだろう。女性の尊厳と命を奪われながら、怨霊としての在り方の線引と末路を思う。この理知的な魂こそ、晴明が望んだスカウト対象なのだ。
「…………はて。拙僧はそう思いませぬ」
【?】
だが道満は、はいそうですと首を振る事は無かった。理解したのだ。晴明が自身ではなく、道満にスカウトを頼んだ理由を。
「貞子殿。魂の行き先や行き着く果てというのは他人が決めるものではないのです。辛く苦しい道を選んだのだから苦しんで死ね、というのは他の誰かが決められはしませぬよ」
【というと…】
「果たして初めから怨霊を望んだ方がいるでしょうか?将門公、道真殿、崇徳上皇らもまた、始まりは只人でありましたでしょう。貞子殿、あなたもまた」
始まりは皆人だった。そして三者はやがて神になり、祀られた。ならばそれは、不変の道ではないのだ。
「貞子殿。あなたは大変な苦難の果てに怨霊になられました。そして今も成仏できず苦しんでおられる」
【…………】
「そんなあなたを、差し出がましくも私は心配してしまっております。伽椰子殿はもはや、伽椰子殿自身すら呪怨に喰われ失われておりました。恨み辛みの果てがあれだとするならあまりに酷い。救われる魂すら、呪いは奪ってしまう」
それは道満が気にかけた民草にしたような、親身の説法である。彼にとって、今目の前にいる怨霊すら助けたい存在に他ならない。
「残念ながら、伽椰子殿は助けられませなんだ。拙僧の力不足、及ばぬが故。しかし貞子殿、あなたは違いまする。こうして話せる貞子殿がここにおられましょう。まだあなたはあなたでおられましょう」
【道満さん…】
「であれば、不幸となった以上の幸福を願うは間違いではありますまい。あなたへの祝福を願うは間違いではございませぬでしょう。まだ間に合います。まだあなたは、貞子殿なのですから」
その言葉を、貞子は静かに聞いていた。恐れられはしたし、疎まれもした。むしろずっとそうだった。
「どうか貞子殿。あなたの幸せを、願わせてはもらえませぬか…」
だが、こうも慮られ、労られ、歓迎されたのは…まさに初めての経験であったのだ。だからこそ、貞子は呪いすら忘れて道満の言葉を聞き入れていた。
【………………】
「………………」
長い長い沈黙。高天ヶ原のど真ん中でスヤスヤ眠る白い龍のイビキが遠く響く。
失敗すれば、決裂すれば道満は死ぬ。だがそれでも、道満は貞子から目線を逸らさなかった。
【………………】
そんな中、すっと貞子が立ち上がった。ふらふらと、テレビへと戻っていく。
「さ、貞子殿?」
【………私の死んだ場所はこの井戸なんですが、まだ私の死体は井戸の中で腐ったまま放置されています】
ひたひたとテレビに戻る姿には、哀愁と…決意があった。
【もし良かったら…弔ってもらえますか。そうしたら…道満さんのスカウト、前向きに検討させていただきます】
「貞子殿…!」
【ありがとうございます。本気で心配されたの、歓迎されたのなんて…初めてだったかもしれませんから】
よいしょっと、とテレビをまたぎ、すぽーんと井戸に落っこちていく貞子を最後に、テレビはまた砂嵐を映し出す。
「…ありがとうございます、貞子殿…!」
『あの井戸の立地的に、多分場所は伊豆大島ですよ。道満くん!』
見るとイザナミが即座に場所を特定し、地図に丸をつけていた。肝心なときにしか役に立たないが、肝心な時には外さないのがイザナミである。
『井戸水の汲み取りにはタケちゃんを頼りなさい。おばば、新しいお仲間のお部屋を拵えたもう!』
「伊邪那美命さま…ありがとうございますれば!」
『いいのですいいのです!さあいざ!供養成仏の為に伊豆大島〜!あなやー!』
イザナミの声援を受け立ち上がる道満。
「約束は果たしますぞ…貞子殿」
懐には、貞子のアイデンティティである古びたビデオテープを持って。道満は伊豆大島へと向かう──。
伊豆大島某所 廃棄井戸
道満「上げてくだされー!」
タケル『ふっ』
辿り着いた道満たちは早速水の汲み取りを始める。貞子の遺体を傷つけぬため、人力の汲み取り作業は困難を極めたが、タケルの剛力により作業は半日で終わる。
道満「これが…」
メイ「あぁ。山村貞子の遺体だ」
腐り落ち、髪の毛が付着した遺骨。これが、貞子の成れの果ての姿。
メイ「供養するぞ。高天ヶ原に運べ」
それは晴明の指示の下、高天ヶ原にて丁重に供養され葬られる。
イザナミ『(祈祷中)』
道満「安らかに…貞子殿」
メイ「まぁ成仏されたら困るが…未練がなくなったなら、それはそれで構わんさ」
立ち上る煙を二人で見上げている中、ふと背後を振り返る。
貞子【…ありがとうございました。皆様】
「貞子殿…!」
そこには、髪の毛をだらりと垂らしながら一礼する…日本を震撼させる怨霊の姿があり。
メイ「ほう…」
道満の懐のテープと共に、静かに天に登り消えていったのだった。
──こうして、民間を震撼させた二大怨霊はその姿を消すことになる。
二人の陰陽師の活躍により…悪霊は、祓われたのだ。
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