人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

2015 / 2536
前回俺は、カルデア所長を名乗る淑女『オルガマリー・アニムスフィア』に連れられ、カルデアという組織に就職することになった。

ペンギン「人理焼却…去年の半年の謎の空白にはそんな理由があったのか」

オルガマリー「現世の混乱、察するに余りあるわ。そして今からあなたはその際の最前線で戦った組織の一員となる」

ペンギン「それは光栄だが、本当に大丈夫なのだろうか?俺は特別でもない、ただのペンギンだ。スペシャリストの集まりにはとても…」

オルガマリー「大丈夫。資格はたった一つ、『愉快かどうか』だもの」

ペンギン「そ、そうか」

そこで俺は、体感することになる。

ホワイト企業を越えた『プラチナ企業』。ゴージャスという言葉の意味を。


・ペンギン

ゴージャスカルデア転勤となったペンギン。

オルガマリー・アニムスフィア

ペンギンの新しい上司。

ジングル・アベル・ムニエル

ペンギンの新しい同僚。


『テイコウペンギン』


『ゴージャス企業に転職するとどうなるのか?』

〜人種関係ない歓迎

 

「という訳で、今日から一緒に働いてもらうペンギンよ。彼はブラック企業を一人で存続させる事が出来るほどの優秀な人材。私達の心強い味方になってくれるわ」

 

「素直に誇れない気がする…。と、とにかくよろしくお願いします。事務仕事には自信があります」

 

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

カルデアにやってきたペンギンに与えられたのは、暖かな歓迎の挨拶だ。誰も侮りはしない、対等かつ尊重に満ちた対応にペンギンは面食らうほどに驚く。

 

(てっきり動物じゃないか、みたいなツッコミが来ると思ったが。寛容なんだな)

 

「では職員を代表して。ゴルドルフ・ムジーク副所長だ。ブラック企業勤め本当にお疲れ様だ。現代社会の闇を戦い抜いた勇者に、敬意を払わせてもらうよ」

 

「そんな大層なものでは…。よろしくお願い致します、副所長」

 

「うむうむ。解らないことがあったらどんどん頼りなさい。ボイル焼き君を始めとしていい人ばかりだからねぇ」

 

「ムニエルな!よろしくなペンギン、俺達にも書類処理スキル教えてくれよなー!」

 

(上下関係も厳格じゃない。かといって緩すぎでもない。理想的な距離感だ…)

 

 

〜『チートじみた福利厚生』

 

「ここがあなたの個室よ」

 

「…こ、個室?所長、俺には石油王やセレブ御用達の一泊数百万のスイートルームが見えるんだが」

 

ペンギンの言う通り、今のカルデアのプレーン個室は外界の最高級ホテルだ。好みを提出すればカスタマイズもできる。とりあえずの最高級部屋に度肝を抜かれるペンギン。

 

「基本的に全部無料だから寛いで頂戴。はい、あなたの給与口座のカード。契約金2億円分が入っているから無くさないように」

 

「チュートリアルの資金バグか何か?」

 

「月収は月五千万、業務時間は朝8時から昼十二時の四時間、自主練手当あり。ボーナスは1億からマスター業10億、オペレーター業3億追加。生活費寮費諸々はカルデア側が負担します」

 

「至れり尽くせりすぎてドッキリテロップを探してしまう。そ、その資金の出処はどこから?」

 

「カルデアにおけるグランドリーダー、英雄王ギルガメッシュよ。この程度、彼には千円感覚に過ぎないみたいね」

 

「ギルガメッシュ王ってそんなこち亀の中川みたいな人だったの?」

 

「今日はゆっくり休みなさい。明日から、皆があなたに仕事を教えてくれるわ。それじゃ、これからよろしくね」

 

「は、はい!」

 

(…あぁ、自由時間なんていつぶりだろう。夜に寝ることが赦されるのか)

 

「…柔らかい…ううっ、布団が柔らかい…なんて幸せなんだ…」

 

(ありがとう、頑張ります。オルガマリー所長…)

 

「ううっ…静かな空間なんて久しぶりだ…」

 

〜『仕事は正午上がり』

 

ペンギンはオペレーター、書類整理業務、同盟戦力への外交営業を割り振られた。

 

それらは某企画で鍛えられたペンギンの処理能力で瞬く間に処理され、初日から驚異的な業務効率をカルデア職員に見せつけたのだった。

 

「ふぅ、なんとか昼前に終わったな」

 

(簡潔に纏められた資料に無理ない仕事分配。某企画とはまさに雲泥の差だ。書類の出来栄えも同僚の頼れぶりも比べ物にならない)

 

「お疲れペンギン!初日から大活躍だなぁ!」

 

「ムニエルさん。皆が作ってくれた書類が素晴らしいからこそです」

 

「嬉しい事言うな!もう今日の業務は終わりだから、きっちりタイムカード押すんだぞ!」

 

「えっ。マジで正午上がりなんですか?」

 

「そうそう。午後は遊ぶもよし寝るもよし自主練もよしの自由時間なんだよ。自分に何が必要か考えて取り組む。それが一番成長できる秘訣なんだ」

 

(自主性を委ね過ぎれば堕落のリスクもある。それを皆理解しながらも自由を活用している。素晴らしい人達だな)

 

「なら、俺は自主練します。少しでも早く皆さんに追い付きたいので」

 

「真面目だなぁオイ。よしわかった!なら俺も付き合ってやる!」

 

「ムニエルさん…いいんですか?」

 

「初心者って、何がわからないのがわからないのがよくあるだろ?そういうときのために経験者や先輩がいるんだ。任せとけ!」

 

「ありがとうございます!」

 

(後輩にもこんなに親身になってくれる。衣食足りて礼節を知るという言葉がこんなにも痛感できるなんてな)

 

 

〜『頑張りを評価してもらえる』

 

「スタンプカード…。タイムカードとは別に押されるものなのか」

 

(この珍妙な動物は一体…む、何か書き込んであるな)

 

『新たなる仲間、ペンギンさんへ』

 

(これは…)

 

『困難に堪え、理不尽に気高く抵抗し続けた貴方を心から尊敬いたします。貴方の事を皆が褒めていましたよ。勿論ワタシもです』

 

(手書き…俺のために書いてくれたのか)

 

『貴方の全てに期待させてください。どうか傷ついた心身を、このカルデアでゆっくり癒やして言ってくださいね。 ギルガシャナ=ギルガメシア はなまる!』

 

(……社会に出てから、誰かに褒められる事は極端に少なくなる。社会に努力賞はない。全てできて当たり前だからだ)

 

【働け働け〜!お前の頑張りで俺は楽ができる!家畜と社畜の義務を全うしろ!】

 

【出来てすごい、だなんて思うなよ?社会ではノルマはこなして当たり前、出来て当たり前なんだからな!】

 

(そう思っていたから…)

 

「……この労りに満ちた一字一句が、輝いて見える。心に染み渡るようだ…」

 

ペンギンは涙ぐみ、そっとメッセージを一番目立つ場所へと飾る。

 

「やってみせる。この期待を…絶対に裏切るものか!」

 

 

〜『働く事の喜びを知る』

 

一週間が経過し、ペンギンの評価は極めて高い査定を授かった。一人で10人以上の仕事をこなし、協調性や立案性に秀でたペンギンは先輩達やカルデアを非常に良く支えた。

 

その功績と推薦により、ペンギンはサブチーフまで上り詰める。チーフのムニエルと意気投合し、彼はカルデアの居酒屋で酒を飲んでいた。

 

「流石だな、ペンギン。異例のスピード人事だぜサブチーフなんてよ。ホントはチーフになる筈だったのに遠慮しやがって」

 

「俺は誰かを蹴落としたいんじゃなく、カルデアに貢献したいんです先輩。サブチーフですら、自分には不相応と思いますから」

 

「無欲だなぁ!ま、出世なんてどうでもいいよな。幸せは全部周りにあるんだからさ」

 

ムニエルに酌をしながら、ペンギンはふと質問を投げかける。それは疑問であり労働の根幹に問うものだ。

 

「先輩や皆は、何故働いているんです?お金ならもう、数十億があるはず。カルデアを離れて遊ぶこともできるはずだ。一体何故?」

 

そんな問いに、ムニエルはきょとんと答える。

 

「そりゃあ、働くのが楽しいからだよ」

 

「働くのが、楽しい」

 

「なんで労働が嫌なのかを考えたこと、あるか?俺はな、労働は『やらなきゃいけない』事だからだ。社会的地位、食い扶持稼ぎ、出世、生きるため。労働なんてやりたがらないさ。だが、生きていくためには働かないとダメなのはわかるよな?」

 

「…はい。社会に生きていく上で、無職は害悪とすら呼ばれてしまう」

 

「カルデアでは違うんだ。俺達は働きたいから働くんだ。自分の為に、大切な人や世界のために、一生懸命に頑張ってるんだよ」

 

働くために働く。それは強烈な矛盾のように思えて、大事なこと。

 

「衣食住も全部揃えてくれた王様。一番偉いのに一番頑張る所長。世界のために、懸命に頑張る子供ら。そんな皆を支えられるのが嬉しいのさ。もっともっと支えたくなるのさ」

 

「大切な人達のために、働くのが原点ですか?」

 

「そういう事だ。カルデアにいる連中はさ、『自分だけがいい』なんてやつが全然いないんだ。自分が全部手に入れていても、誰かを助けたいって想いだけは誰かがいなきゃ果たせない。このカルデアで働くのは、そのたった一つの信念の為なのさ」

 

「誰かを、助けたい」

 

「だから皆、脇目も振らず自分を鍛えるのさ。誰一人いなくならないために力を合わせる。助け合うために自分を高める。自分の欲が全部満たされた人間は、やっと他の人間に優しくできる。そんな場所が働く場所なのさ、このカルデアは」

 

(そうか…そういうことだったのか。ギルガメッシュ王がこんなにも衣食住、生活に彩りを見せてくれるのは)

 

ムニエルの言葉を理解し反芻しながら、ペンギンはムニエルと穏やかに呑み明かす。就寝し、彼は至る。

 

(誰かを助けたい。人の醜い欲望を抜き去ったら、残るのはありのままの善性のみ。だから、カルデアはこんなにも輝いているんだな)

 

誰かがやれ、と言わなくていい。

 

誰かがやれ、とやらせなくていい。

 

だってこれは、自分が望んだ事だ。望んだ労働なのだから。

 

(本当に素晴らしい会社っていうのは、一人ひとりが『もっと働きたい』と思える場所の事なんだな)

 

ペンギンは理解し、そしてカルデアを当てはめる。かくいう自分も、あれほど疎ましかった仕事の日々がこれ以上なく楽しいのだ。自分の為が誰かのためになる。その爽快さがたまらない。

 

(カルデアで、もっともっと頑張ろう。俺はようやく、誰かのために働いていると実感できているのだから)

 

その誰かとは、自分の為。ようやく今、自分は自分に優しくできている事を知る。

 

「また明日も…頑張ろう。自分のために、皆のために」

 

おやすみ。そう呟きペンギンは安らかな寝息を立てる。

 

──次の起床は、8時間後であった。

 




次回予告


上司「ぬぅう、ペンギンの薄情者めぇ!転職先から推薦状を書いて俺を招き入れるぐらいしないのか!せっかく俺が育ててやったんだぞぅ!恩を仇で返す気かー!」

ニャルラトホテプ【そんなにカルデアに来たいの?なら歓迎するよ?】

上司「おぉ本当か!行く行く!行かせてくれぇー!」
パンダ「僕もー!」
シャチ「やっぱりペンパイと働きたいですー!」

ニャルラトホテプ【……………はーい】

【超絶暗黒企業に転職するとどうなるのか?】

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