人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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モリアーティのバー

モリアーティ「ダンディな宇宙海賊に気に入られて何よりだよ、ミスター・ハーロック。君、酒好きなんだねぇ」


ハーロック「フ…。誰に追われることもない、穏やかな日常など久しぶりだ。堪能するに酒は一役買ってくれる」

モリアーティ「身を持ち崩す麻薬であり、気持ちを上げる劇薬でもあり。キャプテンならではのお酒の付き合い方をご教授願っても?」

ハーロック「簡単な事だ」

モリアーティ「?」

ハーロック「酒は飲んでも呑まれるな…。先人の金言を、人はそうやすやすと上回れんよ」

モリアーティ「違いない。ならば授業料として一杯奢るとしよう」

ハーロック「助かる」

モリアーティ「船の方は大丈夫かネ?」

ハーロック「俺よりも何倍も詳しい友に任せている。心配はいらないさ」


人類の到達点へと

〜マイノグーラサイド

 

(成る程ねぇ…汎人類史、最も可能性と繁栄の目がある世界を護る為にカルデアは存在している、か)

 

マイノグーラはカルデアにやってきた後、その来歴や理念、そしてカルデアの奮闘を把握し理解する。彼女は邪神としての力は物理や暴力には使わず、その知識や狡知に長けていた。カルデアの奮闘記録、そして、人類悪や人理焼却などの事例に興味を持っていたのだ。

 

(人理焼却。霊長類に向けた最大の殺戮事件。それを単独で覆した、ギルガメッシュ王率いるシャングリラ・カルデア。年末における大魔王サタンとの決戦と人理テクスチャ保護の為に今は準備中…か)

 

それはカルデアが担う戦いが紛れもなく世界を相手取ったものである事の証左だった。地獄の大魔王を越え、その先にあるという人理をかけた戦いに身を投じる。人間の歴史を全て背負った戦い。それが、カルデアの未来を掴む戦い。

 

(紛れもない大義名分を有した、眩しい戦いね。サタンに挑む組織が楽園だなんて、洒落てるぅ)

 

マイノグーラは口笛を吹き、そのカルデアの練度に納得が行く。仲間割れ、内乱などする暇などないのも納得である。むしろ、どれだけ戦力があっても足りないだろう。

 

見たところ、現戦力や人間力に問題はない。十二分とすら言える。英雄、今を生きる人間、光の巨人に月の同盟。それらは宇宙全て…別次元の破壊魔や外なる神、宇宙の全てにも十二分に通用する。その結束は実に素晴らしい。

 

問題を見出すとすれば…それは、カルデアの中核システムが現所長の父、マリスビリー・アニムスフィアからの引き継ぎ品だと言うことだ。それはつまり、【今の洗練された組織の外】であるものを意味する。

 

(確か地球における魔術師は人でなし、だったらしいわね。……厄ネタじゃないのかしら、これ)

 

理解はできる。煮えたぎるような人類への愛がなければ、こんな魔法めいた装置は作れない。間違いなく、人類のために作られた逸品だ。

 

しかし、提供してもらった資料からマイノグーラは把握している。人類悪とは人類愛。今の世をより良くするため今の世を消し去らんとする活動だ。

 

ならば…【この装置や組織は、娘すら知らない何かがまだ隠されている】と考えるのが自然だろう。人類愛をもって作られたと言うならそれが答え。

 

カルデアにはまだ、何かがある。誰も知らないような秘密が、必ず隠されている。

 

(となるとー、宇宙的リッチな私が出来ることは一つよねー)

 

そんな可能性を把握していない筈があるまい。ならば必要なものは莫大なリソースやコストであろう。資金、時間といったものだ。カルデアのシステムを引き継いだ、全く新しいシステムを作る事こそ、唯一無二にして大切なファクター。

 

それを支援する方法は、たった一つ。そう、投資だ。見込みある存在にリソースを注ぎ込む。成長を助けることこそ富裕層の役目でもある。そこは無論問題ない。カルデア…邪神すらも虜にする組織ならば、悪用などは杞憂に終わるだろう。

 

(問題は技術系統よね。今の所、ノーリスクでレイシフトを行う技術は確立されていない。素養や入念な存在証明が必要…)

 

解析させてもらえば少しは全容を把握できるやもしれないが、そこは然るべき契約を結んでからであろうし焦る必要はない。問題は技術面だ。人間の純粋技術で編み込み、組まれたものを引き継ぐのだ。

 

新たなカルデアの発足には、科学技術の極みが必要だ。ノーコスト、ノーリスクのレイシフト、或いは人理の観測。カルデアに潜んでいる不発弾、その最後の憂いをなんとかして断ち切れたなら負けはあり得まい。

 

(カルデアがもし、膝を屈するとするなら…きっとそれはカルデアそのものに仕込まれた爆弾。外部からの意見、聞き入れてもらえるかしら)

 

そう──人類の純粋技術の到達点。そこに秘められた基礎原理。それをカルデアは手にする事を求められるだろう。そしてマイノグーラは、その在り処を確信する。

 

(英雄王の宝物庫の最深奥に眠っていたとされる、英雄機神マルドゥーク。何一つ現人類や銀河系列技術で解明できないこの英雄神の身体に、その光明が秘められている)

 

マイノグーラのそれは確信に近いものだ。最後の懸念を拭き晴らす鍵は、この英雄機神マルドゥークが握っている。太古の神々の王。あらゆる神の二倍の力を持ち、創造の女神ティアマトすら単独で討ち果たした神の中の神。アザトース、ゼウス、シヴァ、ヴィシュヌ、オーディンらよりも更に古く、それでいて後の世を築くことなく世界を拓き委ねた人類の兄。ここに、勝利の鍵が眠っているとマイノグーラは推測を果たす。

 

【さて…それはいいんだけど、信じてもらえるかにゃ〜】

 

一応、冷静かつ客観的に物事を整理したつもりだが、オーパーツにして純人間のテクノロジーの極地の塊たるその神体には非常に興味がある。人類が到達した完全なる神の器。遥か太古に勇退した魂の楔となりし黄金の機神。

 

【あーん、技術開示してもらいたーい!特許取らせてー!】

 

そんな純粋興味を口にしながら、マイノグーラは計画書を書き上げる。それは、オルガマリーへと向けられた進言書。

 

即ち──『新生カルデア発足』の企画書。スポンサーになる申し出であり、対価にはこう書かれていた。

 

『英雄機神の解析』…と。

 

 

〜トチローサイド

 

(ハーロック、艦隊の修理はほぼ終わったぞ。カルデアの連中、現代科学の数百年先を行っている。だから南極の独立組織だなんて離れ業ができるんだな)

 

「個の極地か。なるほど、世界を相手取る者達に相応しい」

 

ハーロックを呼ぶトチロー。エネルギーや装甲は完璧に発足し修理された。航行自体が完璧に行えるまでになったのは、一重にカルデア技術班の高すぎるスキルとトチローの的確な艦体把握の賜物だ。

 

(だが、未来へ帰還するには少々難儀するかもな。俺たちの未来の座標を掴み、莫大なエネルギーを費やしゲートを開かなくてはいけない。ワームホール生成技術やタイムトラベル部門の修理や発足は目下勉強中らしい)

 

「一朝一夕ではどうにかならんものだな」

 

(そういう事だ。人類の夢の一つ、未来旅行や時間旅行。我々はそれを形にしなくてはいけないことになる)

 

そうしなくては帰れない。どれほど居心地が良くてもここは別次元であり自身らは来訪者。必ず発たねばならぬ日がやってくる。

 

(その為にはもう一度、神頼みをしなくてはならないかもしれないぞ。ハーロック)

 

「エル少年が言っていた、人類の技術の到達点か」

 

(あぁ。人類の技術の到達点。カルデアが有する黄金の神の船。そこには遥か先の人類の技術が込められているという。きっとそこには、未来次元移動のノウハウもあるはずだ)

 

「秘蔵の宝を見せてくれと頭を下げるわけだな。海賊にしては殊勝に過ぎるが」

 

(全くだ。だが間違いなくここが人類技術の最先端だ。俺達が戻るには、その殊勝や無理を通すしか無いぞ。ハーロック)

 

「………人間、困った時の神頼みは性なのかもしれん」

 

ハーロックは静かに告げ、ドックを見上げる。人類の極地を持たねば、自由の海を往けぬと言うならば。

 

「頭であろうとなんであろうと下げてやろう。誠意や敬意は、然るべき相手には齎すべきものだ」

 

(あぁ。ここの人間は信用できる。海賊だろうと、人を信じない訳ではないんだからな)

 

「…ではその前に…酒気をドックで抜くとするか」

 

(お前…飲み過ぎだぞハーロック)

 

「久しぶりの平穏だったからな。お前もどうだ、トチロー」

 

(全く…。腑抜けて腰砕けは勘弁してくれよ、ハーロック)

 

アルカディア号の近くに座り込む親友に、呆れながらも忠告を返すトチローであったとさ。




エア『〜♪』

マルドゥーク『(⁠人⁠*⁠´⁠∀⁠`⁠)⁠。⁠*゚⁠+ 』


楽園の勝利の最後の一手。並びに宇宙海賊の命運。


それは、黄金の英雄機神のみが握っていた。

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