人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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よく分かるニャル子さんの解説。

八坂真尋

主人公。フォークマイスター。苦労人。

ニャル子さん

ニャルラトホテプ星人。真尋にゾッコン。外道。


あなたの隣にお邪魔する混沌

【というわけで、今日から君達の担任になった山寺です。前任の担当はちょっと宝くじが当たって先生を休職なされました。一緒にバラ色の青春を過ごしましょう。よろしくお願いいたします】 

 

舞台は別次元の北海道、札幌市。舞台説明やどういう学校かは諸々這い寄れニャル子さんシリーズを各自読んでもらうとして、こうしてニャル子ワールドにマジモンの元邪神が無事殴り込むことが叶ったという訳である。無論そのままというわけでもなく、喉にちなんで山寺という名字も名乗り変装も完璧だ。

 

「だらっしゃあぁあぁあ!!」

 

【おっと。はっはっは元気がいいねぇニャル子くん。何処かでお会いしたかなニャル子くん】

 

無論そんな変装で誤魔化せる程この時空のニャル子は馬鹿ではない。愛と怒りと悲しみのシャイニングフィンガーを問答無用でブチかまして来るも、山寺は涼やかに受け止める。

 

(地上最低最悪のドブゲロクソ野郎がいったいなんのご用事ですかねぇ?この世界のニャルラトホテプは私一人でいいんですよ。マジモンのクソ野郎は今すぐ絶版になってくれますかねぇ!)

 

地球人には聞き取れず知覚できない言葉で捲し立てるニャル子。山寺はこのニャル子のSNSを大炎上させた因縁がある故あまりにも低い好感度だ。絶版案件とすら言われようが山寺は笑顔にて返す。

 

(まぁそう言うなニャル子君。私としても関わりたくなかったんだがこちらもワケアリだ。お互い損のしない関係を築いて行こうじゃないか)

 

(あなたが死んで今すぐ消えてくれる以外の条約を結ぶつもりはないんですがねぇ!)

 

(そう言う訳にもいかなくてな。一先ず無闇矢鱈な攻撃はやめてくれ。さもないとお前が惑星保護機構に隠蔽した悪事や職権乱用の数々を洗い浚いぶちまけるぞ。解りやすく言えばバレたら犯罪の数々をリークだ)

 

そっと席につくニャル子。躊躇いなく権力を振るい翳す悪辣な山寺に憎しみの目線を向け続ける。

 

「ニャル子、あの人ってお前が喧嘩売った本物の方の…」

 

「ダメです真尋さん、アレを口にすると呪われるかつ人生を台無しにされます。間違いなくアレは関わる人全員を不幸にする最低最悪の邪神ニャルラトホテプ…警戒して隙を見せたら後ろから殺しますので」

 

ブーメラン刺さりまくってないか…?フォーク使いの邪神ハンターの息子八坂真尋は敵意剥き出しのニャル子に呆れながら、担当を名乗る山寺を注視する。

 

【私は君達の学園生活を心から応援する。いじめや人に言えない悩みがあったら是非とも教えてくれ。教員や現体制をひっくり返してでも君たちを護ると約束しよう】

 

人間離れした美貌に黄金比の肉体、聞くものを魅了する声音をもって彼は自分を速やかに信頼させた。真尋のクラスからは黄色い歓声や好意的な言葉ばかりが彼に向けられており、それはまさに這い寄るかのような人心掌握である。

 

(真尋さん、騙されてはいけませんよ。あのクソ邪神は上辺だけは本当にいいんです。ニャルと付く、或いは冠する全てに関わった輩は碌な死に方を迎えません。私の占いは当たります)

 

(なんでさっきからブーメランを投げまくってるんだお前は

…)

 

【えー、皆様に心地よく受け入れてもらえたので、気分良く皆様に紹介できる事があります。それがこのクラスに転校生が来るという連絡です】

 

「「「「「転校生!?」」」」」

 

さらなる盛り上がりを見せるクラス。新たな仲間である相手がどのような者かを気にするのは当然といったところだろう。男か女かの話題が、担任のインパクトを軽々と押し流す。

 

【実は名字から解るが私の実子だ。皆も仲良くしてやってほしい。…入れ】

 

「ヘッヘッヘ…」

 

「「!?」」

 

入ってきたその転校生に…真尋、ニャル子共々目を丸くする。そこにいた人物の出で立ちが、ちょっと普通じゃなかったからだ。

 

「山寺無有と申します…。皆様、どうぞよろしくお願いいたしますです。フヒヒ」

 

顔面の半分を覆うぐるぐるメガネ、猫背、ボッサボサの髪の毛、若干挙動不審気味な態度。見るからに対人に慣れていない様な言動の転校生。これが、山寺の娘なのだという。

 

【最近引きこもりを脱し勇気を持って外に出ることを決心した涙ぐましい娘だ。こんなナリだがどうか優しくしてやってほしい。とても素晴らしい、いい娘だからな】

 

「御学友と高めあえたら、とても嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします…ヘッヘッヘ…」

 

怪しい笑いと共に挙動不審な所作を織り交ぜる無有。その見るからにコミュニケーション不全気味な動作を訝しむ二人。

 

(あの子が娘だって言うのか…?なんだかコミュニケーションが苦手そうだけど)

 

(生意気にもいつの間にガキなんて拵えてたんですかあのクソ邪神は。あんなのとベストマッチ(意味深)した輩の気が知れませんね。とりあえず警戒しましょう真尋さん。邪神に関わる輩はとにかくろくでもない、これ鉄則です)

 

(そうだな、お前とかかわってからろくな目に遭ってないもんな…)

 

【では無有、席に付きなさい。まぁ空いてる席ならどこでもいい。きちんとできるな?】

 

「ヘッヘッヘ…心配することはありません」

 

【よろしい。では早速授業を始める。自習!各自好きな事をやるように。先生は購買の品を吟味してくるからね。解散!】

 

大歓声の教室。山寺先生素敵ー!抱いてー!等と黄色い声を後にしながら優雅に去るニャルラトホテプの後ろを見逃さぬニャル子。

 

(チャンスです真尋さん!あいつを後ろからバールでカチワリなうしてやりましょう!そうすれば巨悪は滅びハッピーラッキーデイですよ真尋さん!)

 

(やめろ、まだ何もしてないだろ!一先ず様子を見るんだ、何かをするなら確実にアクションが起きるはずだからな)

 

(うう、なんとお優しいのですか真尋さん…!ですがその優しさを利用されないようにしてください!最初に言っておきますが、あれはラブクラフト本来の邪神ですからね!)

 

「ヘッヘッヘ…御二方」

 

ぎゃいぎゃい騒いでいる二人に、挙動不審のナイアが声をかける。手には、クッキーが握られていた。

 

「お近付きの印に作りました、クッキーです。御二人でお食べください。ヘッヘッヘ、毒物などの心配はありませんよ」

 

「私と真尋さんの!?いやー新入の立場を解ってますねナイアちゃん!何か困った事があったら是非ともお伝え下さい!力になって差し上げます!おー、このアホ毛よくできてますねー!」

 

掌ドリルモジュールなニャル子に呆れ果てながらも、ジャージに制服上着羽織の意味不明な衣装のナイアを注視する真尋。

 

「よ…よろしく。同じクラスは、助け合いだから」

 

「ヘッヘッヘ、その通りです。ニャル子さんの次に仲良くしてください…フヒッ」

 

背を丸め、去っていくナイアル。同時にクラスメイトに取り囲まれ質問攻めに合う姿を見送る真尋。

 

「父親に似ないで良かったですねぇあの娘!私と真尋さんを応援してくれるなら白!ファングですよ真尋さん!」

 

「チョロすぎるだろお前…うん、美味しい」

 

丁寧に作られたクッキー、女子には特に念入りに作られたようで、ニャル子も実に御満悦だ。

 

(ニャル子とは別の、正真正銘の邪神…)

 

その割には、娘も含めてなんだか常識的だよな…。そんな感想を懐きながら、クッキーを頬張る真尋。

 

「あ、美味しいなこれ。って…もう無い!?」

 

「すみません真尋さん!美味しすぎてこの手が勝手に!最後の一個は…口移しでよろしいですか?」

 

「ふんっ!!」

 

「ねおじおんぐーっ!!?」

 

流れるようなクッキー略奪に真尋のフォークが冴え渡り、ニャル子は特異な悲鳴を上げるのでしたとさ。




真尋宅・帰路

ニャル子「結局尻尾を出しませんでしたねー。クー子やハスターやシャンタっ君にも見張らせていたのに成果なし。強かなヤツです」

真尋「神出鬼没だな、本当に。本物の邪神の手腕って事か」

ニャル子「なぁに心配ありませんよ!なにか起きたらあいつを問答無用で殴ればいいんですから!宇宙CQCの出番です!」

真尋「通じたらいいな…。よし、ただいまー」

真尋宅

ニャル【おや、今帰りかい?少しお邪魔させてもらっていたよ】

八坂頼子「先生、これからも息子をお願いしますね!」

ニャル【はい、全力を尽くします】

真尋「───な」

ニャル子「なんでここに!?」

ニャル【何って…家庭訪問だよ。親御さんに話をしてたんだ】

頼子「ニャル子ちゃん?先生の邪魔なんてしちゃだめよ?この方は素晴らしい先生なのだから、ね?」

ニャル子(──やられた…!!ママさんに根回しされ、不意打ちの大義名分を潰しに…!)

真尋(仮に敵対者として…個人情報と、住所を抑えられたのか…!)

ニャル【素晴らしい家族だ。次はクー子君やハスター君にもお会いしたいものだね。では、失礼するよ】

真尋「は、はい…」

ニャル【君からも言っておいてほしい。私の娘を、いじめないでくれ…とね。それでは】

頼子「ありがとうございました、先生ー!」

敵対勢力を瞬く間に取り込み、そして懐柔するその手腕。先んじてニャル子の行動を完封する立ち回り。住所を特定し、その気になればあらゆる意味で壊滅させられる王手。

真尋「トリックスター、ニャルラトホテプ…」

その狡猾さに、生唾を飲み込む真尋。彼は理解したのだ。

──生活に這い寄ってきた、混沌に。

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