人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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オセロトル『†¢£€№№®』
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オセロトル『†№§‥¿‥‡’』
マシュ「くっ、うっ…ぐうっ…!!」

イスカリ「…意外だな。人質が通用する精神性を有しているとは。だが、それでは愛しの女は嬲り殺しだ」

立香「マシュ!!」

マシュ「大丈夫、大丈夫です!立香さん!私は、まだ大丈夫です!」

立香(英霊を喚ばないとマシュが倒される!かといってネモ・マリーンを見捨てるなんてできない!)

ネモ・マリーン「ごめんなさい…!また僕、やっちゃった…」

立香(所長も言峰神父も、なんとか敵を散らしてくれているからこちらには来れない!どうする、どうすればいい!)

英霊は喚ばない…英霊を喚べない…

英霊は、喚んではいけない…

(────!!)

…また、助けてもらうことになる。

情けなくて泣きそうになる。彼女には彼女の戦いがあるのに。頼ってばかりで何も返せていないのに。

でも、それでも。カルデアのマスターとして。これ以上何も失っちゃいけない。失えない。

情けなくてもいい。無様だって構わない。

尊厳だろうとなんだろうと、大切なものを護れるならいくらでも捨ててやる。

だから、願う。だから、頼む。

どうか、オレに力を貸してくれ!

「──助けてくれ…!!【リッカ】──!!」

言峰「…お嬢様、お下がりを」

『はぁ!?』

「史上最悪、そして最高の【鬼札】がやってきます」

『──はぁ!?』

その願いに、応えるかのように。

隊長の少年「…!」

リッカ「……………」

──空間が引き裂かれ。少女が静かに、南米の地を踏みしめる───


プロレスVSピストル(ジャパニーズマカナVSテスカガン)

【──────】

 

藤丸立香の召喚──今の彼は運命力を喪失した状態ではあるが──に応えたリッカは、フレンドである召喚の縁を辿り単独顕現を使用し、マシュ、立香の傍らに現れる。サポートサーヴァント、或いは影として。その願いに応えたのだ。

 

静かに、リッカは状況を把握する。肌に感じるうだるような暑さと湿気と熱気からそこは南米大陸の環境に近しい事を理解した。シミュレーションの極地適応にて走破したものの一つにそれはあった故、瞬時にここが南米に関わりある異聞帯であるのだと理解を下す。

 

マシュと藤丸は、敵意…いや、殺意というべき気概で敵対勢力を睨みつけている。傍らには、アトランティス・ボーダーをひと回り小さくした意匠の大破した戦艦が不時着している事態を認める。リッカはそれを、マシュと立香は一時的に本拠地から離れていて、なんとか今ここへ帰ったのだと推測した。

 

そして殺意の元となっている原因は、周囲に散らばるカルデア職員の死体だとも認識した。ムニエル、ゴルドルフらの無惨な銃殺体。これが『本物』であるのならリッカは敵対者になんの慈悲もかけなかったが、彼女はオルガマリーから学んだソレからその真意を見る。

 

『魔術師の遺体なんて信用しては駄目よ。無能でない限り、衆目に晒す遺体なんて全て偽装と思いなさい』

 

その判断と、ボーダーから聞こえる人の会話から無事である事を把握するが二人には伝えられない。敵対勢力は目の前にいるからだ。

 

「は、ははははは!そうだろうカルデアの者達!お前達はそうするだろう、必ずそうすると思っていた!」

 

銃火器で武装した【ジャガーの被り物】をしている兵士達。その隊長格たる存在が、ネモ・マリーンを捕縛している様子を把握する。

 

(人質を取られ、満足に戦力を呼べない。それでも打開を信じて私を呼んだ。このままじゃマリーンが殺されてマシュと藤丸君が抑え込まれる)

 

ここで、英霊ではなくリッカを呼んだのは死地を巡り研ぎ澄まされた藤丸のマスター能力の冴えの発露だ。右も左も分からぬ中では、英霊といえど数瞬、行動に隙間が生まれる。サーヴァントはマスターの指示なくして動くことはできない。

 

だが、リッカは藤丸のフレンドであり、人間として独立している。対話能力と裏打ちされた経験、そして、とある神の教えが彼女を躊躇わず、迷わず、突き動かすことを叶わせた。

 

その教えとは──楽園に在る、翼ある蛇の言葉にして神託。

 

 

『いい、リッカ?これからの戦いで、いつかこの言葉を思い出すことがあったら迷わず動いてくださいネ?』

 

それは、たった数句の誓い。

 

『ジャガーの被り物をしている連中がいたら…私が許しマース!情け容赦なく、ぶっ殺してあげてくだサーイ☆!』

 

それこそが──この場における、リッカの迷いのすべてを取り払わせた。

 

 

ゴトリ、と重い何かが落ちる音がした。

 

「うわわっ、うわわぁ!?」

 

捕らえていた筈の人質が、頼りなさげにつんのめりバランスを崩した。

 

「──な、に?」

 

隊長格の少年…『イスカリ』と呼ばれし存在は、呆然とそれを見た。

 

【…………】

 

絶対零度の表情でこちらを見据え、味方のもとへ帰還する人質たる存在の間に立つ、自身とそう歳の変わらない少女の姿。そして…

 

──届かぬ場所に蹴り飛ばされた、自身の【右腕】を。

 

「ぐっ、ぁ、ぐああぁぁぁぁっ!?」

 

数瞬遅れてやってきた激痛と喪失感、噴出る鮮血。そしてそれ以上の混乱が、彼を襲う。悲鳴を上げるなど戦士にあるまじき醜態だが、それほど彼の困惑は大きかった。

 

(なんだ、一体何をされた!?僕は片時も目を離さなかった、何故僕の腕が斬り落とされた!?いつのまに!?)

 

それはあり得ない事だと。彼は戦神テスカトリポカの加護を受けていた。神に見出された肉体は、如何なる存在に傷などつけられる筈もないと確信した。こんな事実はあり得てはならなかったのだ。

 

「翼ある蛇は言いました」

 

カルデアの者共、そう認識している輩と似た服を着た、召喚された【何か】は口を開いた。いつの間に握っていたのか、右手には薄く長い刃を持っており、左手にて指を指してくる。

 

「ジャガーと蜘蛛は、問答無用でブチ殺していいのだと。見たところあなたたちはオセロトル、ジャガーの戦士のようなので…」

 

ビュッ、と薄刃を女が振るった次の瞬間。

 

「問答無用でブチ殺させてもらいました。アディオス・ルード」

 

自身の配下たるオセロトル…神に選ばれしジャガーの戦士達の【首】が乱れ飛び、噴水の様に鮮血を断面から撒き散らし斃れていく。手にした銃火器が暴発しないよう、腕の部分は全員細切れにされた事が混乱した理性ではなく戦士の本能として把握できた。

 

「オルガマリー!うわ〜ん!おっかないやつらからもっとおっかない女の人が助けてくれたよ〜!」

『マリーン!良かった…無事で良かった…!』

 

「────…」

 

瞬間、人質が無事保護された時に見せた笑顔はこの状況を引き起こした者とは思えぬほどに人情に溢れたものであったが…右腕を失ったジャガーの少年に見せたものは全く別のモノだ。

 

「あなた、テスカトリポカ系列の信仰者だよね。見たところ」

 

「…!」

 

「殺し合いをしてたんだろうし、藤丸君らもそういう覚悟はしてると思う。だから恨みなんて無いけれど…」

 

人間が放つような気迫ではない、まさに怒れる神が如き覇気と殺気を漲らせ、女が近付いてくる。空気が歪み、大気が揺れ、空間が歪むような怒気は最早、恐ろしき戦神のそれに通じる。

 

「私の信じる神様が言ってたんで──ここで殺す」

 

金色の瞳がこれ以上なく細められた時、イスカリたる存在は理解する。

 

──こいつは今、自身と同じ理屈で動いている。神の怒りに震え、神の示唆に従い、全く自分と同じ流儀で自分を殺しに来ている。

 

それは、これ以上ない宣戦布告。神の名の下に殺戮を行う、先刻までの自分たちそのものであった。

 

「く、うおぉおっ!!」

 

右腕を失いながら、イスカリなる存在は吠え左腕で全滅した部下の銃を拾い乱射する。それは絶対の殺戮宣告を振り払うような斉射であり、苦し紛れの弾幕。

 

「遅い…!」

「ぐはぁっ───!!」

 

リッカはそれを、稲妻の閃きが如くにかわし、渾身のボディーブローからの膝蹴りを顔面に叩き込む。くの字に折れた身体から顔面を蹴り込まれ、血反吐を吐くイスカリなる少年。

 

「速さも高さも敬意も信頼も足りてマセーン。ケツ姉に変わってルチャのなんたるかを叩き込んでやりマース」

「なん、だ…がぁあっ!?」

 

瞬間、猛烈な勢いで背中から地面に叩き落とされた。そのまま両足を、腕を、内臓を、頚椎を、順々に流れるように破壊されていく。ピストルを有したジャガーの戦士には、それらは最早未開の技術であるが故に逃れることすらできない。

 

「超人圧搾機。バラバラにしてやりマース」

「ぐぅおぉおぉおぁあぁあぁあぁあぁあ…………!!」

 

絞め技の全身立ち関節技により、余すことなく身体の部位を破壊されるイスカリなる少年。タップの文化も3カウントもないリッカ流ルチャ、地獄の急所封じ。ケツァル・コアトルと壮絶なルチャ経験のあるリッカは、瞬く間に少年を圧殺してみせた。

 

「お、まえは、何者、だ…!?何故、神に見出されたる僕の身体を、こんな…!」

「テスカトリポカの宿敵、ケツァル・コアトルのスパーリングパートナーなので。あなた達にはククルカンの方が通りやすいかな?」

 

「!!ククルカン…だと…!?」

「じゃ、トドメね。ウルティモ・トペ・パターダ、ラストワン」

 

素早く少年の頭を掴み、高く、太陽に届くかのように高く振り回し放り投げる。今のリッカにはアジーカやアンリマユはおらず龍になれず鎧も纏えないが、それでも雷速の彼女を捉えられる事は人間どころか並の英霊にすら不可能だ。

 

「何を、する…!?まさか…!?」

 

ガキリ、と首にニードロップをかけ急速落下。リッカ…否、リングネーム・アジダハマスクの必殺ホールド。異聞帯のテスカトリポカに叩き込む、ケツァルコアトル名代の一撃。

 

「『獣の断頭台(オセロトル・ギロチンライブス)』───!!!!!」

 

マットなどない、あるのは固い地面のみ。銃による冷たい殺戮を選んだ悪役には、当然の報いと言うように。

 

「が─────」

 

イスカリ、以下カルデア襲撃部隊は全滅の憂き目に逢う。イスカリなる少年は渾身の一撃を首に受け、そのまま速やかに意識を手放すのであった。

 

「ふぅ。大丈夫?マシュ。一人でよく頑張ったね」

 

その様を無感情に見下ろした後、マシュにリッカは向き直る。どうやらギリギリまで人質を思いやり、マシュはマスターを守り抜いたようだ。どこの世界でもマシュは最高の盾であることを改めて知り、リッカは笑顔を浮かべる。

 

「いえ!リッカさん、本当に…本当にありがとうございました…!」

 

「フレンドとして呼ばれた使命を果たしただけだよ。困った時はお互い様!それよりも…」

 

そしてリッカは、マシュに耳打ちする。彼女の哀しみと憎しみと怒りで濁りきった心を癒やすように。

 

「ゴルドルフ副所長も皆も、生きてるよ。立香くんとボーダーの中、探してご覧?」

 

「!!り、立香さん!皆さんが、皆さんがもしかしたら!!」

 

「あ、まっ、待ってマシュ!リッカに、リッカに御礼がまだ…!!」

 

安心と歓喜のあまり立香を引きずる勢いのまま、マシュはマスターと共にボーダーへと引っ込んだ。程なくしてマシュの大泣きが聞こえてきたことから、自身の予想は当たっていただろう。

 

「そりゃそうだよ、マシュ。カルデアに無能なんて一人だっていないんだから」

 

今、どんな戦いをしているのか。それは聞く必要はない。今はただのフレンドサーヴァント。自分はこの世界の主役なんかではないのだから。

 

「あ、あの!あのあの〜!」

 

そして彼女が速やかに消えようとしていると、ネモ・マリーン…先程人質にされていた存在が、おずおずとリッカに話しかける。

 

「あの、ありがとう〜!君に、助けてもらっちゃった〜!ホントにホントに、ありがとう〜!」

 

「いいのいいの。私、人助けをするのが趣味だから!」

 

『何よ、それ。奉仕体質というの?損な生き方だけど…』

 

…だが、リッカは視界に入れていなかった。ネモ・マリーンを保護していた存在の姿を。

 

『──秘書は今それどころじゃないだろうから、私が代わりに。…ありがとう、カルデアのフレンド。あなたがいなかったら、きっとネモも藤丸立香も殺されていた。地球大統領、Uオルガマリーとして、御礼を言わせていただきます』

 

「オル…………!?!?!?!?」

 

あまりにもこう、ぶっとんだ親友の別側面的何かに完全に思考停止するリッカ。ウルトラウーマンの姿、なぜ!?ずるい、私を差し置いて!?様々な疑問が浮かんだが…。

 

『本当に…本当にありがとう。ネモ・マリーンの唯一性を死守してくれて』

「おっかないなんて言ってごめんなさい〜!ありがとう、素敵なお姉さん〜!」

 

「──どういたしまして!」

 

…その笑顔と、安堵した事による涙目。何より傍らのネモ・マリーンを慮る姿が、親友とそっくりであったので。御礼に、満面の笑みで返し──

 

「リッカ!リッカ、いるかい!?御礼、御礼まだ言ってないから俺…!!」

 

『…消えたわよ。彼女。いるべき場所に帰る、って』

「かっこいい〜!できる女だ〜!マスター、知り合いなら紹介してよ〜!」

 

「ぁ…………。………また、一方的に助けてもらっちゃった…」

 

これ以上、彼の物語を邪魔しないため。あえて何も告げずに…藤丸龍華は、ただの儚い影としてこの世界より退去したのだった───




スイーツじゃんぬ

リッカ「はっ!?」

じゃんぬ「おはよ、ねぼすけリッカ。皆高天ヶ原で待ってるわよ?」

リッカ「……夢を見たんだ、じゃんぬ」

じゃんぬ「?」

リッカ「オルガマリーがウルトラウーマンになって…大統領でネモ・マリーンとおねショタしてる夢を…」

じゃんぬ「……………?????」

リッカのあまりにも特異な発言に、さすがのじゃんぬも閉口せざるを得なかった。

そして…

「……………ぅ…ぐっ……」

「…イスカリ。大丈夫ですか」

因縁を取り上げることなく、リッカはイスカリを九分殺しに留めていたのであった──。

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