人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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マルドゥーク『……………』

ティアマト『新たな年を、また迎えましたね。マルドゥーク』

マルドゥーク『(⁠◡⁠ ⁠ω⁠ ⁠◡⁠)』

ティアマト『おまえと、わたしが。創った世界が…』

マルドゥーク『(⁠。⁠ŏ⁠﹏⁠ŏ⁠)』

『…おまえが、気にすることではないのです。えぇ。優しきおまえ』

マルドゥーク『(⁠。⁠•́⁠︿⁠•̀⁠。⁠)』

『よいのです。もう、よいのですよ。もう…よいのです』

あの日、おまえは。正しいことをしたのですから──。



年明けと天地開闢と宇宙創世の秘話

かつて、世界には天も地も存在しなかった。ただ、無の海があった。

 

そこにティアマトが産まれ、アプスーが産まれ、万物の母たるティアマトはその権能で大いなる命を産み始めた。

 

彼女は女神であり、命を産み出すものであり、万物の母であった。新たなる神々を、次代を創る神々を産み続けた。アプスーと共に、それらは世界の基礎となる者達であった。

 

メソポタミアの神性とは自然そのものが意志を持つ存在であり、神が生まれるたび世界の法則は出来上がった。水や風、火や土の元素、様々な役割を持つ神々はティアマトが産み出し、またティアマトから生れ出づる神は世界の法則を決めていった。原初の混沌は、少しずつ形を成していき世界の雛形が生まれていった。(いわゆる唯一神が行う天地創造のずっと昔の事であり、唯一神はこの原初の概念を人間の認識する物理法則という形で洗練させた。ルゥ・アンセスはこの頃より星に存在していた唯一種である)

 

彼女は世界の覇者になるつもりはなく、王は夫であるとして、命を育み続けた。自らの産む命で世界が満たされること、それがティアマトの何よりもの幸福であった。

 

夫と、子の満ちる世界。原初の母はそれを幸福としてただ命を育んでいた。

 

…しかし、その幸福はやがて終わってしまう。神々は自らの法則を成り立たせるため、自身らと異なる進化形態のティアマトの子らを世界より排除するようになった。

 

ティアマトの母胎は、ランダムに生命を産み続ける。それらは何もかもがない場合は問題がないが、ある程度星に定着した存在からしてみれば、全く異なる怪物、侵略者、異星人を産み出されるようなものだ。人と、獣と、そうでない命を生み出し続けるようなものである。

 

神々は、自身らの世界を担うためにまずはアプスーを排せんと決起した。妻を護る神々の王。あらゆる命を容認する愚王を排除するために動いた。つまり、子は親を疎んだのだ。

 

…結論から言えば、アプスーは子に殺められた。アプスーの息子である『エア』。その謀略により、ティアマトの夫は無惨にも殺されてしまった。

 

エア神はダムキナ女神と、アプスーの遺体の上に作った神殿で子を設けた。それこそが、太陽神、呪術神、英雄神であるマルドゥーク。あらゆる神々の頂点に立つ、神々の王にして最強無敵の神性であった。

 

(オレ)は出逢うべきなのだ』

 

産まれてすぐ、マルドゥークは言葉を発した。彼の頭髪は  御柳であり、彼の頬髭は扇であり、彼の足首は林檎の木であり、彼の男根は蛇であり、彼の腹はリリス太鼓であり、彼の頭蓋骨は銀であり、彼の覇気は金であった。産み出された神々が束になっても、マルドゥーク神の小指にも満たないほどに力は差があった。

 

そんなマルドゥークは、ティアマトへと会いに行った。彼はティアマトに、成すべき事を成させる為に原初の海に赴き、静かに佇むティアマトに声をかける。数多の命を産みながら、独りである母に。

 

『夫の仇を討て。我はお前の敵だ』

 

マルドゥークは何より聡明であった。産みの親を殺し繁栄を謳う神々などに肩入れするつもりはなく、自らを産んだのはティアマトと把握した。彼は、神々の罪を背負い妻の無念を受け止める覚悟だったのだ。

 

『なりません。私はお前をゆるします』

 

だが、ティアマトはその申し出を断った。ティアマトに差し出された斧を、彼女は取らなかった。何故だとマルドゥークは問うた。

 

『おまえは、おまえたちは私の仔だからです。会いに来てくれて嬉しい。マルドゥーク、偉大なるおまえ。私の自慢の孫息子』

 

ティアマトは子供の罪を容認し、マルドゥークを祝福した。それは、自らを担ぎ上げ親を打倒せんとするメソポタミアの神々どもの祝福よりも彼の心を満たした。

 

『馬鹿な親め。排斥されるしかない哀れな女神である癖に』

 

そう言いながら、マルドゥークはティアマトの下へと通った。子の罪すら、夫の離別すら飲み干すその愛は、マルドゥークに満ちる無限大の力が産み出す心の孤独や渇望を、暖かく柔らかく癒やした。

 

『おまえがいてくれれば、子どもたちは大丈夫。彼等の言葉と願いを背負いなさい、マルドゥーク』

 

ティアマトを重んじていたのは、当たり前の親愛を懐いたのはマルドゥークただ独り。いつか、マルドゥークが神々の王として成し遂げる事を知りながら、ティアマトは彼を愛した。女神として、母として。

 

『おまえに、世界を任せましたよ』

 

それは、言葉少ないティアマトの願いであった。子に置いていかれる哀しみは、いつか巣立つであろう寂しさは、手を離れてしまった子供達の仔、マルドゥークが癒やしたのだ。

 

その願いは──次代に継ぐ際、マルドゥークが何をするべきかを静かに伝えていた。その時既に、神々の王たるマルドゥークはソレを行わなくてはならなかった。

 

神々は満ちた。後は治めるにたる天地が必要となったのだ。そしてそれに成りしは…ティアマト神の身体以外には有り得なかった。

 

 

『マルドゥーク。おまえと出会うのはこれが最後です』

 

ティアマトは哀しげに、涙を浮かべマルドゥークを抱きしめた。マルドゥークは泣いていた。これから神々は、比類なき大罪を再び犯す。天地創造の儀が近付いていた。

 

(オレ)に母を殺せというのか。死体を辱めろと言うのか』

 

母を殺すだけに飽き足らず、その遺体を引き裂かなくては天地の概念はならない。それはマルドゥークが成すべき創世の儀であり、後に続く世界を創るために必要な出来事だった。

 

だが、マルドゥークにはそれが出来ないと泣いた。共に笑い、共に語り、共に寄り添った。自らの生誕の始原たるティアマトは最早自らの大母であった。それを殺しあまつさえ辱めるなど、マルドゥークには最早出来なかった。

 

『いいのです、マルドゥーク。愛する子。聞きなさい』

 

それは望むべき、素晴らしい結末だとティアマトは優しく告げた。

 

『私はもう、神々には不要なのです。ならばせめて、子供たちが踏みしめる大地となりたい。子供たちが見上げる天空となりたい。子供たちが満ちる世界となりたい』

 

最早ティアマトは不要だった。侵略者を産むティアマトは殺すべきだと神々全てが告げていた。最早マルドゥーク以外の全てがティアマトを憎んでいた。マルドゥークだけが彼女を愛していた。

 

『私を愛してくれるおまえの手で、それを果たしてほしい。私の願いを叶えてくれますか、マルドゥーク。私は、おまえに天地の王権を委ねたいのです』

 

マルドゥークは神々の王だ。ティアマトは創造の女神だ。ティアマトを倒すことができるのは、あらゆる神の倍の力を持つ英雄神たるマルドゥークのみにしか叶わなかった。

 

マルドゥークは、母の胸で天雷のように、荒れ狂う海のように泣き続けた。ティアマトはそれを抱きしめ、優しく温もりを分け与え続けた。

 

…その後、ティアマト神は荒れ狂い、吠え猛り、後の世を変革していく命『ヒト』の材料たるキングゥに天命の粘土板を渡し、11の魔物を生み出し神々に勝負を挑んだ。

 

マルドゥーク神は逃げ出したキングゥを除き、あらゆる魔物と怪物を叩き潰し粉砕した。そこには、今の星には邪魔な生態系情報を有した生物たちを結集させていた。星は、一つになっていく。

 

『戦え、マルドゥーク』

『解っている、母よ』

 

ティアマトは竜となり、マルドゥーク以外の神々を薙ぎ倒した。ティアマトとは創造の女神。その力は子などに負けるはずはない。彼女を倒せるとするなら、ティアマトの2倍の力を持つマルドゥークのみだ。

 

マルドゥークはせめて、母への苦痛をもたらすまいと弓を構え、一息に心臓を撃ち抜いた。飲み込まれる瞬間、嵐を放ち空いた口から弓矢を叩き込んだのだ。ティアマトは、マルドゥークにより倒された。

 

『ありがとう、わたしのこども』

 

死が間近に迫りながらも、ティアマトはマルドゥークの頬を撫でた。マルドゥークの頬には、消えない涙の跡がついていた。

 

『わたしは、しあわせです。こんなにも、あいされて』

 

死にゆくティアマトを救うことはできない。ならばせめて、マルドゥークは誓いを立てた。母を安心させるように。

 

『誓うぞ、母よ。我は天地となったあなたを守護しよう。満ちる命を護り抜こう。遥かな未来、天地から命が飛び出し歩み出すその日まで。母に恥じぬように、世界を我が護っていこう。約束だ、ティアマト。我が母よ』

 

力強く手を握る。するとティアマトは、微笑んだ。

 

『しんじています。マルドゥーク、あなたのことを。うまれるすべてを。ありがとう、わたしの、たいせつな、むすこ──』

 

ティアマトは、それを告げて動かなくなった。回帰の願いもあっただろう。今一度、万物の母になりたかっただろう。

 

【おまえはいらない】と、全ての神々に捨てられた。

 

それが、人類が滅ぼす悪であった。

 

『我が母よ』

 

それが、人類を助ける愛であった。

 

…マルドゥークは誓いに従い、母の遺体を真っ二つに引き裂き、天と地を創り上げた。この功績を以て、この星におけるあらゆる神々の頂点の座は不動のものとなった。

 

そして同時に、マルドゥークは消え去らねばならなかった。天地における無双となった自身がいれば、それは永劫の神々の繁栄の到来だ。発展もなく、進歩もなく、神々はただ産まれる人を奴隷として未来を閉ざすであろう。

 

マルドゥークもまた、次代には不要であった。『神』ではなく、『人』の世に英雄神は無用となったのだ。

 

マルドゥークは、躊躇うことなく自分を自然に還した。神の死とは、自らを星に還すこと。自らを、世界に託すことだ。それは、自らが覇者とならんとするどの神にもできない選択だった。

 

マルドゥークは無敵の王であり、最強の神だった。だが彼は、その全てを世界に託し、世界の表舞台から去った。その選択は神々から『無敵』の概念を消し去り、神々もまた次代に座を譲る運命を決定付けた。

 

神々の英雄として世界と時代を造り、また神々は必ず滅びる呪いを遺した。これが英雄神であり、呪術神であるマルドゥークの神性の発露であった。

 

しかし彼の強大な魂は滅せず、宇宙に浮かぶ太陽と、並びに木星の概念となって母の世界と子らの命を見守り続けた。その魂は不滅であり、いずれ成長した生命の兄たらんと決意したのだ。

 

マルドゥークは神々を救った。世界を救った。輝ける明日を約束した。

 

そしてその生命と力を全て使い果たし、最後に母を救った。今もなお、彼の魂たる太陽は輝いている。

 

『母よ、これでいいのだろう』

 

遥か未来、至尊の魂と人間の叡智により君臨するその日まで。母に胸を張るかのように。

 

──マルドゥークは、万物を力強く照らし輝いているのだ。

 




ティアマト『またこうやって、一緒になれましたね。マルドゥーク』

マルドゥーク『o⁠(⁠(⁠*⁠^⁠▽⁠^⁠*⁠)⁠)⁠o』

ティアマト『今度はずっと、皆と一緒ですよ。マルドゥーク』

マルドゥーク『(⁠人⁠ ⁠•͈⁠ᴗ⁠•͈⁠)』

ティアマト『カルデアの皆を、世界を。その力で護ってあげてくださいね。あけまして、おめでとう。マルドゥーク』

マルドゥーク『(⁠人⁠*⁠´⁠∀⁠`⁠)⁠。⁠*゚⁠+(⁠ノ⁠◕⁠ヮ⁠◕⁠)⁠ノ⁠*⁠.⁠✧(⁠つ⁠≧⁠▽⁠≦⁠)⁠つ』

それは、誰も知らない親子のお話。


エア「マルドゥーク神〜♪新年なので更にピカピカになりましょうね〜!…ほへ?」

『新たなデータがあります』

フォウ(おお?これは…?)

ギル《ほう…年始の年玉とは流石よな、マルドゥーク》

正確には…二人と一匹しか、知らないお話。

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