つむぎ「そんな事はありません。同じ時間を過ごすのは…過ごせるのは素晴らしい事だと思います。こうして、先生と過ごせるのは…」
【……寂しい二人身だけれど、少し話でもしましょうか】
つむぎ「はい、先生」
【人理が修復され、世界は…あなたの故郷は無事に取り戻された。その中心には夏草が輩出した少女、藤丸リッカがいた。彼女は夏草に救われ、そして世界を救った…】
「はい。それはとても素晴らしい事だと思います。夏草に関わった子が、正しい意志を有することで世界を救う。これは…個人的にも誇らしく思っています」
【自慢の後輩?】
「…はい。向こうは私の事、知りもしないでしょうけれど」
夜の寂しい夏草の公園。互いにベンチに座りながら、星空を見やる。拘束具に囚われながらも、片方露出した眼にて隣にいる後輩にして弟子、つむぎを見やる。
【見ていたのでしょう?謎の脚本家T…だったかしら。随分とアグレッシブな事をしたものね、あなたにしては】
「…知りたかったんです。私達の世界を、私達の故郷を救ってくれたあの娘は…世界を救ってくれるような娘じゃありませんでしたから」
そう、彼女は見ていたのだ。藤丸リッカの、カルデアに至る前の彼女…ビーストIFの因子を強く残していた、あるいは影響を受けていた彼女を。
「カルデアに来る前は見えていたし、見ていたんですけれど…人理焼却が起きてからは、彼女の事はぼやけていてよく見えなかったんです。彼女の活躍も、頑張りも…」
そう、彼女からしてみれば奇怪な事であった。あまりにも危うく、不安定な彼女が、文字通り目を離してみたら、目覚ましい成長と覚醒を遂げていたのであるのだから。
【どう感じたのかしら。ビーストIF…いえ、藤丸リッカの事を。改めて見た彼女から、一体何を感じたのか。聞いてもいいかしら】
「先生…」
彼女の師であり先生であるリリスは、つむぎの感性と直感に興味を持つ。それは、彼女の中にも無論存在する人類への愛への興味であったのかもしれない。
「…半分、ううん…多少なりともといったぐらいなんですけど…少なくとも、彼女はすっごく変わっていました」
【変わっていた?】
「はい。最初に感じた彼女は傷だらけで、危なっかしくて…なんとかして助けてあげられたならと思っていました。でも、再び観測できたリッカちゃんはなんかこう、首根っこひっ捕まえて皆を引っ張っていく感じの女の子になっていたんです」
助けてあげられたなら、助けてあげたかったとずっと思っていた。だが、彼女は既に自分自身で立派に独り立ちして、ずっとずっと力強く生きていた。そう、自身の生き様を、自分の人生を生き方を見出していたのだ。それ自体は大変喜ばしい。そして、祝福すべき事柄だ。勿論自分の事のように喜んだ。喜んだのだが、同時に寂しさも感じていたという。
「その、私が夏草を離れたのは内海さんが夏草改革をする前だったので。カリンやリョーコが頑張ってくれた後に産まれた子たちには基本的になんにもできていなかったんですよね。だからせめて、リッカちゃんくらいの力にはなりたいなと思っていたんです、が…」
【逆ね。夏草に殺されたあなたと、夏草に救われた彼女。同じ場所に生きた者同士、真逆とも言っていい結末を迎えたものね】
リリスの言葉に、彼女は頷く。自身は夏草の闇に殺されたとするのなら、リッカは夏草に救われた過去を持つもの。光と闇、まさにそう名称されるべき二人。
「まぁ、もう普通の人間じゃ全然ないからいいんですけど…最初の頃はショックでしたねぇ。どこまで言っても影は影。光に交わることはできないのかなぁって」
つむぎはカリン、リョーコと呼ばれる夏草にいる存在と同期であり、リッカ達の先輩にあたる。そんな自分がしてあげられることがなかったことが、彼女にとっては無念だという事であると吐露した。リリスはその言葉を受け、目線を向ける。
「あんなに痛くて辛くて、哀しい想いをしたのなら救われなくちゃ嘘だと思うし、そんな彼女を助けてくれたのが物語という虚構だと知って更に嬉しかった。彼女が私にきっかけをくれたんです。物語を、誰かを幸せにするお話を愛することを教えてくれた。でも実際の私は、なんにもしてあげられなくて…」
【諦めるのはまだ早いのではないのかしら】
つむぎの言葉を、リリスは遮る。その言葉には、彼女の先生としての視点からのアドバイスを送る。
【何事も、取り返しのつかない事はそう無いものよ。今のあなたはきっちりと自意識を有している。あなたはあなたとしているのだから、今からでも彼女とコミュニケーションは取れるのではないかしら】
「今からでも、ですか…?」
【チャンスは平等よ。仲良くなれるのか、なれないのか。そういった機会というのは平等に与えられている。それをまだあなたは手放していない。結果や結末が不服であるのなら、覆すためには行動あるのみよ】
リリスの言葉は堅苦しいが、そこには確かな親愛と親身な優しさが込められていた。彼女からしてみれば、光と闇は等価値であり決して優劣がつくものではないのだろう。つむぎの背中を、強く優しく後押しする。
【世界に平等をもたらす手段は大体の目星を付けた。まもなくこの地上に、平等なる楽園が造られる。私はその楽園を…人々が平等に赦された世界をもたらすことになる】
「先生、それは…」
【そんな世界に、あなたやリッカは生きて行くの。そんな中で喧嘩や仲違いというのは悲しいでしょう?一緒に生きていく事ができるのなら、その機会があるのなら躊躇わずにそうしなさい。あなたたちには全てが赦されているのだから】
それはリリスの真摯なる心配と配慮。いつか来る平等の楽園に、わだかまりは持っていかない方がいい。常に語り合える事や、話し合える事は素晴らしい事なのだから。
【悔いのないよう選択しなさい、あなたの生き方を。私の生徒、弟子に近しい立場だというのなら、自分を低きに置いて話してはいけないわ】
「リリス先生…」
【私の言葉、伝わったかしら。ならばあなたは、少しずつでもどうすればいいのか解る?】
つむぎは頷く。彼女の言葉、彼女の思いは確かに届いたのだ。
「…また、リョーコやカリンと話したり、リッカや皆とお話できたらいいかなって…思います。皆、夏草が繋げてくれたたくさんだから」
【それでいいのよ。あなたの生や心はあなた自身のもの…。誰にも縛られるものじゃないわ。あなたは自由であるべきで、世界は自由かつ平等であることがいいのよ】
リリスの言葉に、つむぎは顔を上げた。彼女は一人の存在として、積極的になることを決意する。
「ありがとうございます、先生。私…自分なりの正解を求めて頑張ってみます。カルデアと、リッカちゃんたちをもっと幸せに出来るような選択肢を、選べるように」
【えぇ。精進と頑張りを続けなさい。人には全て平等の機会がある。あなたならきっと出来るはずだもの。無念のうちに果てたならば、薔薇色の幸福がもたらされるべき。それこそが、平等というものなのだから】
それは単純に、未来の夏草のメンバーやかつての旧友と交友しろ、といったものでしかないのかもしれない。だが、それを躊躇いなく勧めるのはリリスならではの親愛の発露でもあるのだろう。
【次に会うときは、きっとあなた達はあらゆる罪から解き放たれ、汚れなき生命を謳歌できるようになっていくはずよ。期待して待っていて、その瞬間を】
「あ、先生…!」
【私は必ず作ってみせるわ。全てが平等である美しい世界を。その手段はもうすぐそこにある。私がそれを手にしたとき、あなた達は必ずや────】
最後まで言葉にする前に、リリスは消え去る。彼女の放浪は呪いだ。彼女は一箇所に留まれないのだ。
「リリス先生…」
貰った言葉を反芻しながら、つむぎは静かに師匠を想い星空を見上げる。
───人類赦免の刻。それは確実に、迫ってきていた。──
(長い間、放浪を繰り返してきた)
それら全てが、もうすぐ報われる。
(人は長い間、苦しんできた)
それら全てが、もうすぐ赦される。
(世界は長い間、傷ついてきた)
それら全てが、もうすぐ立ち直る。
【…さぁ、待っていて。救いの刻は訪れる。そう、もうすぐに…】
無限の世界を放浪しながら、彼女は待ち続ける。確信と共に。
楽園の上に浮かぶ『月』。そこにある『願望機』に至るその瞬間を。
那由多、不可思議、無量大数の世界を放浪しながら、彼女は確信している。
近い将来、必ず自身はそこに至る。何故ならば…
『そこ以外の世界の全てに漂着すれば、最後の行き先はそこしかないのだから』
その狂気に満ちた巡礼が…間もなく、終わろうとしていた。
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