人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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マナカ「ねぇ、先輩」

フォウ(あ?)

マナカ「ビーストってなんで、極端から極端に走るの?」

フォウ(そりゃあお前、なんとかしてあげようって愛が源泉だからだよ)

マナカ「人類愛だからってやつ?」

フォウ(好きな相手にはなんだってしたくなるだろう?それと同じなんだ。結局的にそれが今の人類を滅ぼすだけで)

マナカ「んー、じゃあビーストIF達は?」

(愛を知りたいんだよ。自分を動かす愛がなんなのかを知りたくて、誰かに教えて欲しくて足掻いているんだ)

マナカ「そっかぁ…仲良くできないの?」

フォウ(共通の敵がいればできるんじゃあないかな?)

マナカ「そっかぁ…共通の敵かぁ…」


平等という名の救済、公平という名の絶望

彼女はかつて、女性のアーキタイプとして…始まりの人アダムの伴侶として生を授かった。アダム、そしてリリス。リリスとはイブに先んじた最初の妻であり、神が手掛けた被造物だった。

 

しかし結論から言えば、彼女は楽園を飛び出し夜に蠢く魔となった。輝ける始まりの人の座を捨て去った。それは、アダムとの夜の営みにおける体位…男性女性の階位を決める儀式にて軋轢が起きた。アダムはリリスの上位でありたい、上位でしかいたくないと不平等な要求を決して曲げようとしなかった。

 

リリスはそんな愚劣で浅ましいアダムを捨て、そんな蒙昧なるアダムを作った神を見捨て野へ下りた。彼女は神の傲慢を受け継いだアダムに失望し見限ったが、彼女にとってそれは不平等という烙印への反抗であった。

 

そして彼女は失楽園という形で追放され、アダムとイヴがルシファーに唆され、現代に至るまでに魂に刻まれた原罪により永劫の苦しみと罪を担う事になった全ての生命の満ちる世界を生きていった。彼女は唯一神の呪いによって、一箇所の場所へと留まることは出来なかった。長くて一年、短くて数分で次の世界へと弾き飛ばされてしまう。

 

産むことも、育むことも、満ちることもできない永遠の放浪。女としての本懐を何一つ果たせぬ死以上の罰に他ならないが、リリスはひたすらに世界を巡り続けた。

 

世界を救うには、子を罪から解き放つには何が必要なのか。それだけを考え、それだけを思い、ひたすらに世界へと向き合い続けた。

 

人には罪が刻まれており、また世界の成り立ちは他者が他者から奪い取り、階級を決め、優劣を定める事から成り立っていた。同じ人間を、同じ人間が害し、奪い、貶めることによりこの世界は容認されていた。

 

例えば、ただ裕福な家に生まれただけの子供が何もせずに全てを手にしている。ただ、裕福な家に産まれたというだけの理由で何もかもを思いのままにできるという特権を持つ。

 

それに伴い、貧困に喘ぐ家に産まれただけの子供は何もしていないのに、満足に生きられず死んでいく。ただ貧困に喘ぐ家に産まれただけで、満足な生命を謳歌することすら許されず死んでいく。

 

生まれながらに五体満足なものとそうでないもの。頭のいいものとそうでないもの。元気であるものとそうでないもの。リリスが見てきた、歩んできた世界にはそんな不平等と不公平が満ち溢れていたのだ。彼女はそんな世界の在り方を、その目と足でずっと見て来た。不死の為、そうする時間は山ほどあった。

 

人は生きていく上で誰かの上であり優れていなくてはいられないという社会形態を目の当たりにした。それはあの愚昧で下劣なアダムの血を色濃く受け継いでいる事を彼女は認識した。

 

そして残酷なのは、彼とイヴが刻まれた原罪が人の獣性に拍車をかけていることだった。彼等は深層心理の中で、自分達が救いようのない存在だと絶望してしまっている。

 

リリスは可能な限り人間達に寄り添った。医療団や救命組織、施設や被災地などへの寄付。それらを駆使し、可能な限りの悪しき不平等を消し去らんと考えた。そしてその行動は、少なくとも施された者達の心と身体を救ったのだ。

 

…ただしリリスは、皮肉にもその課程で個人の救済は不可能だと思い知る。救いと赦しを得ていた者が、またその恩恵を分かち合うかどうかは全く別の問題だ。

 

不平等や苦しみに喘いでいた者たちが満たされし時、それらは新たなる不平等を生む土壌となった。知識を得た、治療を受けた、力を得た者たちは、かつて自分達がそうだったにも関わらず持たざるものを虐げていく。自分達が苦しんだ痛みや苦しみを、分かち合おうとする者はあまりにも少なかった。

 

リリスは非凡な才女であったが、当然そんな存在が在れば自身が恩恵にあやかりたいと願うのは至極真っ当な事だ。リリスの活動と恩恵を受けようと蹴落とし合い、貶め合いが常に巻き起こり、やがてそれらは国家間の戦争となり、やがてそれらは全て死の炎に包まれ何もかもを消し去ってしまう。

 

他の輩はどうでもいい。自分達を得させろ。

 

こんなに苦しいのに、どうして助けてくれない。あいつより自分達が苦しいんだ。

 

人は決して自分以外の存在を自分以上に置かない存在だ。リリスは放浪する中で、人間達の掲げるものを見つめてきた。

 

そんな過程で、彼女はいわれなき迫害を何度も何度も味わった。

 

お前の力がもっとあれば、あいつらとの戦いに勝つことができた。

 

お前があんなやつを助けなければ、私の子供は助かった。

 

人間達は自分の幸福と同じくらい、他人の幸福や成果が醜く羨ましく、嫉妬深く思うものであったのだと彼女は悟る。

 

あちらを援助すればこちらが、こちらが援助すればあちらが。求める声、自分達が良ければそれでいいとする者達の望みは、留まることを知らなかった。

 

しかし、リリスはそんな愚劣な人間達の蛮行狼藉を受け止めていた。彼女にとって、それは当たり前であり至極当然の要求だ。人間とは、思い当たらぬ原罪により苦しみ続けている存在。彼等が行っている事は当然の事なのだから。

 

ならば世界をどうすればいいのか?誰が間違っていて?何をすれば人間は救われるのだろうか。その答えを、救済と迫害の地獄の中でついにリリスは見いだす。

 

【原罪を排し、人を縛る全てから開放させる。アダム達が犯した罪など、いつまでも背負う必要はない】

 

なぜか、神の息子であり救世主である存在が磔にされても人々の罪は許されることがなかった。それは果たして何のために生み出されたのか、それすらもわからぬ死に方という最高の不平等…そして、辿り着いた真実。

 

【私がみんなの罪を赦し、認め、そして真に平等なる世界を作り上げる。神も、理不尽な死や罪すらない本当の自由にして地上の楽園を作り上げることこそが、人類という存在を平等に救い上げる事ができる】

 

人は人である限り平等に他者を受け入れる事が出来ないのが原因だ。それをリリスは、次のように分析する。

 

人を受け入れる事が出来ないのは、自身もまた何も持てないくらいに重いものを所持しているから。それはつまり、人間に刻まれた原罪を指している。

 

そして人が平等になれないのは、つまりそれが人であるからである。不完全なアダムや唯一神が創り上げたものであるのが人間である以上、人間である限り人は平等を手にすることが叶わない。

 

 

ならば、人類を人類ではない全く別の存在に…夜魔の眷属にしてみせればいい。人間は、人間であるが故に苦しむ。人間であるが故に差別し、区別する。

 

ならば人類を、自身の知る聡明で他者を労るような種族に創り変えるのだ。人は人であるが故に、人の罪から逃れる事はできない。

 

ならば自分こそが平等に救いをもたらし、罪を赦し、落ち込んだ魂に真なる平等を与えるものだと確信する。彼女は人類を愛していたが、その思考回路は人類ではなく夜魔そのものだった。

 

【人であるから皆苦しむ。人の肉体を捨て、罪を消し去り、やがて最終的に人でなくなれば真の平等はきっと訪れる】

 

そう決心したリリスを後押ししたのは、世界に生きた人々達だ。滅びた世界において、人々は唱え続けた。

 

生きていたくない。どうせ何をやろうと覆りもしないし未来は悪くなるだけなのだから。

 

産まれてきたくなんてなかった。生きていていいことなど一つもないのだから。

 

そんな絶望と嘆きを受けたリリスは、世界と命が自身の解放と救いを求めていると確信した。

 

不完全なるものは不完全であり、そんな存在から素晴らしい存在など生まれはしない。

 

だから彼女は、決して諦めず、挫けることなき永遠の救済の世を確信したのである。世界の誰もが望むのなら、リリスは受け入れなくてはならないと確信したのである。

 

【必ず助けてみせる。その為に、自身はここにいる】

 

そういった確信が狂気となり、彼女の運命を決定付けたのだ。

 

あまねく世界に、平等の救済を。世界を巡るたび、彼女の理は色彩を増していく。

 

いつか世界の全てを巡ったとき、彼女は汎人類史へと齎すのだろう。

 

──誰もが望む平等の救い。世界に満ちる、夜魔の赦免を。




リリス【………………】

そして彼女は辿り着く。

リリス【…何故?】

『アーネンエルベ』

終わりの近い旅路にて、妙に騒がしい喫茶店へと。

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