人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アフラ・マズダ『キラナは心地よき眠りへと落ちたようだ。これも、楽園カルデアの居心地の良さとお前のお陰だ。アンリマユ』

アンリマユ【ちっとヤンチャに育ち過ぎなんじゃねぇのとも思うが…あのクソ村にいた頃よりはマシだわな。で、なんだ?まだ絶賛お祝い中なんだぜ、楽園はよ】

アフラ・マズダ『承知している。だからこそキラナを差し向けた。だからこそお前と巡り合わせた。お前の事を、何よりも気にかけているからな』

アンリマユ【〜…そうかい。お人好しな事で】

アフラ・マズダ『本来ならキラナが告げる事柄であるが、はしゃぎ疲れたようだ。スラオシャも実家に帰っている。故に私が代弁として現れた』

キラナ『すやぁ』

【アフラ・マズダをメッセンジャーにねぇ。こいつもとんでもない大物になったもんだぜ──】


善を燃やす怒りの鎧

【まず基本的な事を聞いていいかい?アンリマユとアフラ・マズダ。仲良くしてるのはそっち的にはセーフって事でいいんだよな?キラナまで呼ぶって事はよ】

 

『無論、問題はない。アナーヒターも挟まる以上、我等の確執は人にはなんら関わりのないものだ。私が憎むは独善。討つべきは邪悪なるザッハーク、アジ・ダハーカの本能。悪たるお前と、無垢なるアジーカ。並びにそれを宿せし少女は討ち果たす者ではないのだから』

 

それは結構、とアンリマユは口笛を吹く。要するに、当代のアンリマユとアジーカは討滅対象では無いそうなのだ。アナーヒターは心配ないと言っていたが、とんだ聞き分けのある二元論である。

 

【まぁオレも、ザッハークかアジーカかって言われたら即決でアジーカだ。リッカの魂と溶け合っただけあって、アイツは随分と可愛らしくなった。ザッハークは可愛くねぇ。それだけで説明は十分だろ】

 

さも当然とばかりに自分は可愛いヤツの味方だと言ってのけるアンリマユ。彼、今は彼女でもあるのだが…アンリマユは基本的に自由かつ奔放な性根をしており、あらゆるものを良しとする精神性も当然のように有している。人の愚かさをホレみろと嗤い飛ばし、かといって人間の善行を奇跡と受け入れるその在り方は、何れの時空では暗黒の賢者とも言われていた。そんなアンリマユに、アフラ・マズダもまたかつての戦いや善悪の二元を出す必要も無いとばかりに話を進めている。

 

【で、あの超絶クソ野郎がなんだって?個人的にはさっさとくたばれくらいしか言うことはねぇんだけどな】

 

ザッハーク…アジ・ダハーカの精神と本能の側面である、楽園側ではなくアンリマユ勢力側からも討ち果たす存在と認識された【邪悪】である。アカ・マナフを始めとした悪神勢力も行方を追っている超危険人物だ。サタンと同時に葬ったものの、あれぐらいじゃ死なねぇわなとうんざりげに肩をすくめるアンリマユ。

 

『かつて、かの邪悪なる存在は一つの武具を作った。それは善なる魂やそれに連なる全てを無力化する鎧であり、まさに邪悪の顕現たる鎧であった。ザッハークはそれを我が似姿に近づけ、善なる概念を貶める名目として創り上げたのだ』

 

【ほー。相変わらず人の嫌がることを進んでやりやがるぜ、あのクソ野郎は】

 

小難しい言い方をしているが、要するにアフラ・マズダの当てつけとして善を全て無力化させる鎧を創り上げたと言っていることをアンリマユは把握する。そしてそれだけの事を出来るのならば、当然材料や製法に手間暇がかかっていることも当然理解している。

 

【そんなすげぇもんが、悪の側だけで作り出せる筈はねえよな?…やられたろ。お前ン側とこの良い子たちがよ】

 

『…然り。その鎧の銘とは、無数の善なる魂。ザッハークは恐ろしくも、数々の善なるものを討ち滅ぼし、その魂を鎧へと縛り付け、封じ込めたのだ』

 

善なるものを完全に無効化する、善なるもの達の魂を組み込んで創り上げた鎧。それだけでも十二分に厄介かつ面倒極まる自体であったが、悪趣味な製法の末路はさらなる二次被害を巻き起こしたのだという。

 

『邪悪を許さぬ善なる魂は決して滅する事なく、鎧と成り果てた後でさえもその意志を貫き続けた。やがてそれは悪をも焼き尽くす灼熱を有した、恐ろしき鎧と成り果ててしまったのだ』

 

邪悪に破れてなお、アフラ・マズダの善なる魂たちはその全てを以て猛り狂い、やがて善を弾き、悪を焼き尽くす滅びの呪いを有してしまったのだとアフラ・マズダは語る。それは正しく、善を打ち消し悪を滅ぼす、二元論の終末を齎さんとする遺骸そのものとなった。

 

『私はこれを、『怒れし闇なる善神の鎧(アフラ・マズダー・アエーシュマ)』と名付けた。そしてこの鎧がかつて使われる前にザッハークを討ち滅ぼした。それは私が、封印し保管している』

 

【それじゃあそれでいいんじゃねぇの?リッカには私の泥と、アジーカの鱗がついてる。今更鎧のスペアなんてお呼びじゃねぇしな】

 

アンリマユとアジーカがいる故、呪いの装備なんざ必要ない。そう突っぱねたアンリマユに、アフラ・マズダは鎮痛な面持ちで告げる。

 

『私は、キラナよりリッカと対になる存在を見定めた。夏草なる地にて光溢れる祝福を受けたリッカとは異なる、悪の坩堝にして混沌の夏草にて命を落とせし者』

 

【あー…たしか、白銀つむぎとかいう女か。ドラランドで脚本書いてたっていう】

 

そんなやつがなんだってんだ、と聞き返す前にアンリマユは考える。それは、リッカと対になる存在と言った。

 

【…今のアンリマユ、つまり私とアジーカはリッカのお陰で光の存在になってると仮定するだろ。そうなると光のアンリマユの対って事は…】

 

『闇のアフラ・マズダ。先の怒りの鎧を着用する可能性は十分にある。さすれば藤丸リッカ、白銀つむぎは互いを際限なく殺し合い、死に絶えるまで血の流れるは止まることが無いであろう』

 

その言葉を聞き及び、アンリマユは頭を上げる。いつものように適当に流すつもりではあったが、半身でありアジーカの相棒たるリッカへの被害を考慮した時、表情が変わる。

 

【鎧を着させちまったら最後、悪への怒りが限界突破してリッカや私らに友人が襲い掛かってくるって訳か】

 

『それだけでは恐らく済まぬ。万が一藤丸リッカが討たれし時、その燃えたぎる悪への怒りは最早留まることを知らず際限なく広がっていき、やがて全てを巻き込み、流し、無へと返していくだろう』

 

ザッハークという、生きていようが死んでいようが人を不愉快にさせる終身名誉人格破綻ゴミクズゲロ野郎の手掛けた鎧がそんな悲劇を見逃す筈は無いとアンリマユは冷静に判断する。アフラ・マズダの予想と予測は必ずや未来の現実となって、リッカ達への災になるだろう。

 

【…放っといたら、リッカもキラナもエライ目に遭うのは想像に難く無いわなぁ】

『むにゃ…セーヴァー…』

 

傍らで幸せそうに眠るキラナの頬を撫でる、善を無効にするというのなら、ザッハークがその気になればアフラ・マズダ陣営を皆殺しにできると同義である。そうなれば、きっとキラナもまた死ぬのだろう。リッカもまた、悪への怒りとやらで決して無事には済むまい。

 

白銀つむぎとかいう輩は正直なところどうでもよいアンリマユであったが…正義と尊重、人を学び始めた眷属や、己の器量のみで世界と全てを救ってみせた藤丸リッカ。それらが失われてしまい、あまつさえキラナに面倒がかかることはあまりにもナンセンスであったとアンリマユは思う。

 

『この鎧は、けしてザッハークに渡ってはならないのだ。我々が歯が立たぬ以上、お前に頼むしかないのだ。アンリマユ…悪なる神。善なる心に惹かれたお前にこそ』

 

流石は主神、口の上手さがダントツでお上手ねなどとがる口の一つでも叩こうかと考えたが…

 

【解ったよ。こっちも最高の宿泊先も護るためだ。一切の遠慮なく行かせてもらうとしますか。運動しないとせっかくのリッカの美ボディが台無しになっちまうからなァ!】

 

自分が、自分だけが。そんな目に会い続けたセーヴァーが二度とそんな事はさせないと叫んだのか。単なる、自らの主の守護の為か。はたまたどれでもなくとも、アンリマユに迷いはない。

 

【いつか以来の共闘と行こうや、アフラ・マズダ。今度はトチらない様にしてやろうぜ?】

 

『感謝する、アンリマユ。キラナと協力して鎧の無力化を成し遂げてほしい。その後は、キラナを預ける』

 

いらないではなく、キラナの個人的選択を尊重する選択を取らせる。奇しくもセーヴァー、父という存在が彼にはいた。とっくに、孤高の弱者がピッタリであったアンリマユはどこにもいない。

 

 

【よーし、じゃあ早速案内しろよ。仲間、こっちで見繕うからよ】

 

『うむ。くれぐれも…キラナを頼んだ』

 

こうして始まった、正月の共同戦線。

 

要は──生まれてしまった鎧の破棄である。何やら立ち込めている不穏さに身震いし、アンリマユは軽薄に笑うのであった。




アンリマユ【おら、起きろ。仕事の時間だぜ】

キラナ『はっ、そうだ!凄い鎧がやばいんだって…えぇ!?なんで知ってるの!?』

アンリマユ【アフラ・マズダがわざわざ教えてくれたんだよ。お前が寝てる間にな】

キラナ『寝てた……あわわ…』

アンリマユ【ぐっすり寝てたなぁ。こりゃあ頑張らないとヤバイよなぁ】

キラナ『お…汚名挽回のチャンスを!』

アンリマユ【汚名を取り返すな汚名を。ま…久し振りの一緒にやりたいことだ。よろしくな】

『うん!!』

アフラ・マズダ(次代の二元論は、お前達が作るのだ。任せたぞ…今の世代の者たちよ。キラナよ、セーヴァーよ──)

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