アンリマユ【お?お?なんだよ離せよ、仲間を呼んでくるって話だろ?ちょっと待っとけって】
キラナ『その必要はない、はず!』
アンリマユ【あぁん?】
『はず!』
【………あ〜、解った解った。マジでピンチになったら呼ぶって事でいいか?】
『ん!』
【ったく、とんだじゃじゃ馬だったわけね。大人しかったのはあれか?猫かぶりか?】
『?』
【……そんな器用じゃねぇか。どっちもお前なんだよな】
(やれやれ。村の奴らも私も、計算外にも程が在る娘だぜ…しょうがねぇ、一端のナイトでも気取るとしますか)
【そういやお互い、末路は善悪両方に捧げられたって話になるんだ。私はアンリマユに、お前はアフラ・マズダに。最後はぼんやりと眺めてるしかなかったから分からんが、どういう経緯で使徒なんかになったんだ?お前さんは】
光輪が道を指し示す。そう言わんばかりにキラナとアンリマユは観測未明領域を飛来しており、オートマチックナビゲーションに揺られるまま飛んでいる。何故か仲間の同伴を嫌がったキラナのわがままを聞いた形による二人きりであるが故、依代たるセーヴァーの感覚がより強いアンリマユは、キラナに問う。
『えっとね。私が死んだ後は大いなるアフラ・マズダの下に導かれたの。神霊の座っていう場所に、私も召し上げられたんだって言っていたのを覚えてる』
セーヴァー以外の存在を認識できなかった程の大いなるスケールたる魂は、英霊ではなく神霊のカウントをされアフラ・マズダへと導かれたらしい。そしてそこで、アフラ・マズダへと邂逅したのだとか。
『アフラ・マズダは、私を受け入れてくださった。私の事を痛ましいとして、優しく受け入れてくださったの。あの御方は、私に色んな事をしてくれた』
なんという酷い仕打ちを受けたのか。これこそは、悪よりも恐ろしき善である。そう、これこそは独善という悍しきものなのだ。
齢が二桁もない人間に刻まれた聖なる刻印。枯れ木のような手足、痩せ細った身体。おおよそ善なるものが受けてはならない傷にアフラ・マズダは大いに嘆いたという。元々その村は善からも、悪からも良く思われてはいなかった。善き生き物と悪き生き物、それらがあまりにも狂っていたからだ。
『アフラ・マズダは私に力を授け、世界を踏みしめる強さと智慧をくださった。世界の裏側、幻想の種たちの場所に連れて行ってくれたりしたんだ。ペガサスやユニコーンにも乗ったの。大いなるアフラ・マズダの慈悲は、私に新しい世界をくれた』
【ほーん…やるじゃねぇか、あの野郎。セファールにボコボコにされて、ちょっとは融通がきくようになってた訳ね】
アンリマユの知っている…というよりセファール来襲前のアフラ・マズダはもっと冷徹で無慈悲であった。善なるものが悪なるものを滅する。善なるものでなくばソレは悪である。滅ぼすべき大過であるとし、言われる唯一神の信仰弾圧にも積極的に賛同を示すタイプですらあったであろうと記憶している。
しかし、セファールに破壊され減衰しきった果てにものの分別を弁えたのだろう。はたまた、あまりにも華奢で儚い自らへの供物に情緒と脳が破砕されたか。どちらにしろ、自身の殻である少年は浮かばれる結末で何よりだと悪神は笑った。
『セーヴァーは?セーヴァーはどうだったの?急に会えなくなっちゃって、私ずっと心配してたんだから。ずっとずっと、あなたの事を思ってたんだから』
【あ〜…………】
こちらの…というよりセーヴァーの末路はそう良いものではない。呪術で人格と名前を切り取られ、存在を奪われありとあらゆる苦痛を受けたセーヴァーたる少年は、親だった存在に目をくり抜かれた瞬間に発狂したからだ。
その先は、と言えば。彼の魂は自分、アンリマユへと捧げられたのだ。供物として、この世すべての悪として、正真正銘の悪へと祀られたのだ。本来ならそこで終わりなのだが…その話には続きがある。
【あいつの、ことが…しんぱいだ…】
自分のすべてを奪われておきながら。身勝手に他者に蔑まれておきながら。口にしたのは恨みでも、憎しみでも、復讐でもない。ただ、純粋に他者を思いやる言葉。供物に過ぎない存在の末期の言葉に、悪神アンリマユは多少興味を惹かれたのだ。
【コイツ、今際の際で誰かを思い遣るタイプかよ。なんだってそんなヤツが我に捧げられたのか?というかそもそもそうまでさせるヤツってどんなだ?ケツと乳がでけぇ女か?】
面白い。面白いと思ったから、ただ供物として貪るのはやめにした。丁度神秘も衰退してきた頃あいだ、コイツを使えば都合がいい。
【名前も自分ももう無い絞りカスよ、今からお前は我のものだ。悪神アンリマユの殻として、永遠の時を過ごすがいい】
それだけを告げ、アンリマユとセーヴァーは一体化した。というよりは一方的な侵食、同化だが…そうすることで、アンリマユはセーヴァーの人格と精神、ついでに記憶を手に入れた。いや、正確に言えばセーヴァーに成ったのだ。アンリマユとはセーヴァーであり、セーヴァーはアンリマユであった。
そんなアンリマユは…意外にも、セーヴァーの願いに殉じた。セーヴァーが心残りだったキラナ、その頃は名前すら無い女をただ見つめていた。ビーストではなかったので、村に焼き付いた呪いという形でキラナをただ見つめていた。
結論から言えば、キラナは涙し、嘆き、最期に男の名を呼び動かなくなった。その身体は光に包まれ、差し込む光にかき消え無くなった。誰かを恨むこともなく、憎むこともなく、ただ、侘びていた。己の不徳で、永遠にいなくなってしまった誰かを偲び、悼んでいた。
キラナの言う通り、ただただセーヴァーを想っていたのだろう。読み取った記憶の中のキラナは笑顔ばかり浮かべていた。神たる魂を、星を撃ち落とした名もなき青年。それは、彼女を人へと落としたのだ。
【悪いな、キラナ。ちょっと色々忙しくて会いに行けなかったんだわ。いやほんと、悪い悪い】
『ぷく〜〜〜〜!(膨らむほっぺ)』
だが、それはあくまでセーヴァーの所感だ。いや、もうセーヴァーは自分であるのだが…それでも、あの時何を考え、何を思っていたのかはもうセーヴァーにしか解らないものだ。セーヴァーだったものにしか解らないものだ。
今の自分は、藤丸リッカという存在でもある。セーヴァーの想いを赤裸々に語るのは、やめてやろうという悪神の心遣いによりキラナには伝えられなかった。本人は不満げだが、プライバシーというやつである。
【まぁまぁ、お互いに元気でやってたんだ。そいつで良しとしようじゃねぇの。なぁ?】
『(ぷすん)それは、そうだけど』
【ほれ、そろそろ光輪が止まりそうだ。クソ野郎の封印した鎧がどんなもんか、拝見させてもらおうじゃねぇの】
そうやり取りをしながら、キラナとセーヴァーは共に再びこの場所にて笑い合う。
どちらも神に捧げられし魂。片や神にも届く格を持ちながら、取るに足らない人間一人により人の心を手に入れることが出来た女。
片や、何者でもない存在でありながら、当たり前の人の善性を重んじ、自分よりも大切なものを見つけることの出来た最悪に幸運な男性。
【成る程ねぇ。こりゃあ、野暮は言いっこ無しだよな】
セーヴァーがそうだったように、キラナもきっと心待ちにしていたのだ。また再び巡り会える事を。セーヴァーと共に、またこうしてあの日の続きを過ごせる事を。
ならば、自分は精々その時間が長く続くよう奮闘するのみだ。今の自分は藤丸リッカであるため、人助けをするのは趣味でありライフワークである。それはチャチな正義感や、背中がむず痒くなるお節介では決してない。リッカの心と行動を迷わずにしているのは、別の理由だ。
何てことはない。──人を助けると、メシが美味いのだ。リッカは人の笑顔と幸せが、飯を美味くする調味料なのだ。誰かの涙や苦悶は、何より飯を不味くさせる。アンリマユが味わった中で、グドーシを喪った時の白米と、沖田オルタを喪った際のおでんが吐き気を催す程に不味かった。
リッカが曇るとメシがまずい。リッカが元気だと、アンリマユもアジーカもメシが美味い。だから二人はリッカになんのデメリットもなく力を貸している。いや、力を振るっている。
【美味い飯を食うためにも、きちっと片付けて帰ろうや】
『?うん!』
そんな感慨を浮かべて…キラナの笑顔を見やる、世話焼きの悪神でありましたとさ。
封印領域
アンリマユ【ここか。クソ野郎の鎧はどこに置いてあるってんだ?】
キラナ『!こっち!』
アンリマユ【あ、おい。離れるなって】
キラナ『こっちに…あった!』
アンリマユ【マジでか。…あ?】
キラナ『あなた…!』
ジャムシード「…どうか、どうか…お許しください。アフラ・マズダ…我が道をどうか、お許しください…」
アンリマユ【ザッハークのカキタレじゃねぇか。こんなとこで何して…うおっ!?】
瞬間、祈りを捧げられた鎧が駆動し…アンリマユへ向けて刃を向ける───!
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