シャムシード「私は、私はアフラ・マズダより与えられた祝福を…あのような下劣なザッハークめに…いえ、違う、選んだのは私。私なのです…!」
アンリマユ【───カウンセリングは任せたぜ、キラナ】
キラナ『!…うん!』
アンリマユ【こっちはまぁ、なんとかするわ!】
鎧『─────』
【…できたらな!】
【って言ってもどうしたもんかね…私はリッカの半身かつエネルギータンクなわけで力もアジーカ頼み。出来るといったらリッカの心の傷を辺りに撒き散らすくらいのもんだが…】
善が封じられし鎧。善が効かぬが故に悪にしか対処できない鎧。その対処が出来るのが諸事情によりアンリマユしかいないことに彼女本人が独りごちる。アンリマユ本体は、リッカに力のほぼ全てを譲渡している。それとオルガマリーの回路が合わさり規格外の魔力となり、マシュという触媒があり、リッカ本人の溢れる運命力の三つが彼女のマスターとしての才覚を超一流に跳ね上げている。ここにいるアンリマユは、ぶっちゃけそんなに強くない中核の存在だ。アジーカもいなければ尚更である。そんな彼女が、トップクラスのエネミーとやり合えるかは未知数なわけで。
『案ずるな、アンリマユ。その為に私がいる。お前に扱える武器がある』
【おう!マジかさっさと寄越せ!】
『それはキラナの持つ光輪だ』
【頭湧いてんのかテメー!!】
よりによって悪神を滅する特効武装をメインウェポンに添えさせる言動に切れ散らかすアンリマユ。触っただけで浄化されかねないニトログリセリンを武器として勧めるアフラ・マズダ。これは悪を滅ぼす善神である。
『心配はいらぬ。キラナは元々藤丸リッカに光輪を託さんとしていた。半身たるお前ならば叶う』
【ノリで言ってねぇよな…!マジで平気なんだな!?】
『藤丸リッカなら大丈夫だ』
【私の無事を聞いてんだよ!!うぉっ…!!】
瞬間、手に刃と槍を装着した鎧が猛り狂う。善を通さぬ相手に光輪が効くのか甚だ疑問だが、やらなければやられ、リッカの旅路に影響を出す。腹を括るしかないようだとアンリマユは手を伸ばす。
【影でいい!寄越せや、光輪!】
『そのつもりだ』
【ぎゃぁあぁあぁあぁあ!!あっちぃいぃっ!!】
影とはいえ、弱点属性の武器だ。それは当然アンリマユに多少良くない影響を与える。具体的には接地面が蒸発し肉が溶ける感覚をもたらすがさしたる問題ではない。やらなければ死ぬのだ。キラナも己も。
【クソがぁ!!ザッハーク覚えとけこの野郎ォ!!】
『!!』
手にした際は悶絶案件だが、リッカの魂に深く結びついているアンリマユはリッカの経験を無理矢理憑依させ、源氏武者めいた超機動で鎧の背後を取り、光輪を太刀に変え一閃する。しかし…
【クッソ、傷一つねぇな…!善はやっぱ通さねぇか!】
『万事休すか…』
【ざけんなよテメー!!もういい、現場判断でなんとかしてやる!】
素早く反転し、斬りかかる鎧の一閃をあえて後ろに倒れ込む事でかわすアンリマユ。
【なら、コイツでどうだ!】
瞬間、光輪の太刀に泥を込め、刃の部分を悪神の刃…要するにチェーンソー形態に変化させる。アンリマユの身体に刻まれた紋様がチェーンソーに集い、この世すべての悪となった光輪が起動し怨嗟の駆動を興す。両足で太刀を鋏み受けていたため、鎧は身動きが取れない。
【くたばれぇえぇえぇっ!!】
突き刺した鎧の部分から火花が飛び散り、凄まじい音を立てて刃が食い込んでいく。アンリマユの予想した通り、悪の刃は素通りするのだ。これは深く傷付く程度には効いたらしい。
そして同時に、内部に封じられていた善の魂が解放され、光輪へと回収される。アフラ・マズダの姿を傷付けられぬと倒れていった勇士の魂たちであろう。
【ハッ、スカッとするぜ!おポンな善神様の顔を抉るのはよぉ!】
『どうやら善の魂はそれで解放出来るようだ。アンリマユ、引き続き頼むぞ』
【任せとけ。殴ろうが蹴ろうが心の痛まねぇデザインだからなぁ!!】
そして始まる、チェーンソー対ソード&ランス。藤丸リッカの経験には、ヘラクレスから教わった体術に武術が叩き込まれている。純粋な技量なら、とうの昔にカンストしているのだ。王も羨む教育環境は伊達ではない。
【ハラワタ見せてみろよぉお!!ギャアッハッハッハッ!!】
ハイになったアンリマユが顔面部分にチェーンソーを叩き込む。弁明しておくとこの一面はセーヴァーでもリッカでもない悪辣、下劣、残酷、外道のアンリマユがセーヴァーの言動で、リッカの外見で行っているだけである。より最悪とも言える。
【悪いなぁ…!今借りてるカラダが極上なもんでよぉ!】
斬りつけられた刃、身体に食い込んだ剣を泥で絡め取り、蹴り飛ばした後踏みつけ拘束。唸りを上げて鎧の中心部に向けてアフラ・マズダの鎧を引き裂いていく。
【死ねやあァァァァァァ!!!】
狂気に満ちた表情で、首から胸にかけて光輪チェーンソーで引き裂く。瞬間、白きエーテルが弾け飛び閉ざされていた魂たちが開放されていく。
『流石はアンリマユ。善の鎧すらも格により上回ったか』
【オラァ!オラァ!キラナを大切にしてくれてありがとうよおポン野郎!オラァ!!】
『…アンリマユ?』
【はっ。やべぇやべぇ。ついつい最大限の感謝を告げちまった。てへっ♪】
ツバを吐きかけ蹴り飛ばし、アフラ・マズダへの感謝を告げるアンリマユ。終わった…と認識していい仕事ぶりだが、アンリマユは頭を働かせる。
(あの終身名誉クソ野郎の仕掛けた策だ。こんなヌルいので終わるはずがねぇ。それに…)
『セーヴァー!お疲れ様〜!』
(あのザッハークのカキタレはどうしてここにいる?あいつは確か、生前何もかもをザッハークに台無しにされた元、光輪の所有者だ)
『ジャムシード、まぁ表記ゆれなのでシャムシードでもどちらでも可。長い長い、放浪であったな』
「アフラ・マズダ…我が身、またこうしてあなたに出会えるだなどとは思いもしませんでした。この、使徒たる方にも…」
(そもそもここは封印領域だ。そこになんでシャムシードはここにいる?何をしに?なんのために?)
見れば、キラナとシャムシードは手を取り合いこちらへと歩み寄ってくる。
────気付いた、というより。本能的だった。それは一人分より、三人分だったのだろう。
まず、アンリマユはザッハークの事を最大限に評価していた。あいつは悪辣なクソ野郎であり、意味のない事をしないやつだと。
次いで、セーヴァーの魂はキラナを何よりも考えていた。何をおいても、キラナの世話役という事実を第一に…何よりも重んじて考えていた。それが、アンリマユを動かした。
そしてそれを成し遂げさせたのが、藤丸リッカという最大限に鍛え上げられた心身だった。二人の願いを、彼女はその魂で叶えさせた。
『────え?』
キラナは、それを見ずに済んだ。瞬間、アフラ・マズダが目を覆ったのだ。光輪により。
「ぁ────」
シャムシード、或いはジャムシード。それは紛れもなく善なるもの。かつてはそうだった。ザッハークによりあらゆる尊厳を破壊されるまでは。
なら、今回もきっとそうなのだろう。この女は永遠に、ザッハークに踏み躙られるのだろう。ならば、アンリマユにとっても馴染み深い、反吐の出る時間だ。
【臭い芝居は止めて出てこいよ、クソ野郎。女に寄生するのはいい趣味じゃねぇぜ?】
チェーンソーを、深々と首にえぐり込みながらアンリマユは嗤う。
【──それはお互い様だろう、アンリマユ。高校生の瑞々しい身体はそんなに具合がいいのか?穴の一つも味わわせてくれよ、我らが悪神】
敬虔に赦しを求め、善神に涙を浮かべていた女の顔が…醜く、歪んだ。
少し考えれば解ることだ。何故ここにジャムシードがいるのか。
それは新たなる生け贄だ。善なる鎧に捧げられし生け贄。霊基に寄生されたこの女は、ザッハークの好きに呼ばれるのだ。手頃な玩具として。
そうすれば、鎧に捧げるもよし。キラナやアフラ・マズダへの餌にするもよし。自在に使える便利な手駒というわけだ。
結論から言えば、キラナとシャムシードを新しく善なる鎧に組み込まんとしたのであろう。躊躇いなく光輪を託したアフラ・マズダの決断により、刃はザッハークに届いた。
【ハッ。こうみえて清らかな処女でな。そこのカキタレとよろしくやってろ】
【それはそれは。気にいるわけだな。では…この使い古しで我慢しようか】
ザッハークはシャムシードを翼で包み、アフラ・マズダの鎧へと収束していく。
『セーヴァー!』
【大丈夫か?来たぜ、アイツが…終身名誉クソ野郎だ】
キラナを庇い、分の悪い戦いへの移行をアンリマユは感じ取る───。
ザッハーク【ふん…やはりそこのガキを奪えなかったのは失敗だ。傷が直りきらなかったな】
アンリマユ【けっ、アフラ・マズダの鎧を纏うとはよ。とことんゲス野郎だぜ】
ザッハーク【いいものだろう?手籠めにした女はこう使うものだ。腐るだけの肉塊、日に日に朽ちる豚は適当に屠殺するか使い潰すかのみだ】
アンリマユ【リリス辺りに殺されろ、カス野郎】
キラナ『シャムシード!シャムシード!』
ザッハーク【改めまして、キラナ・シャーンティ。私…ザッハークと申します。お見知りおきを】
アフラ・マズダ『…………』
シャムシードを核に再起動した鎧を纏い、悪辣にザッハークは名乗る。それは──邪悪の化身の書いた筋書き。
アンリマユ、並びにアフラ・マズダを葬る為の…シャムシードを囮にした、醜悪な脚本であった。
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