人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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シャムシード【ザッハーク…!ザッハークぅうぅうぅうぅうぅうッ!!!!】
ザッハーク【そうだシャムシード。お前が八つ裂きにしたいザッハークはそこにいる。眼の前にいるぞ。さぁ、殺せ。八つ裂きにしろ】

シャムシード【うぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!】
アンリマユ【ちぃっ…!!前後不覚の馬鹿女が!!】


キラナ『セーヴァー!うっ…!』
アフラ・マズダ『キラナ、お前に戦闘は向かぬ』

キラナ『でも…!私、セーヴァーもシャムシードも、助けたい…!』
アフラ・マズダ『そう言うと思っていた。耳を澄ませ』

キラナ『!』

『………アフラ・マズダ……私は…私は…』

キラナ『シャムシードの声!』
アフラ・マズダ『真なる光輪を持つ、お前ならば迎えに行ける。戦うのではなく、救うのだ。それがお前の戦いだ』

キラナ『はい!だったら…!』
アフラ・マズダ『向こう見ずの、突撃だ』

『うん!』


降臨せし聖王

【オレは残念でならないよ、アンリマユ。あぁそうだ、哀しみで胸が張り裂けそうというヤツだ。こんな気持ちがオレの中に残っていたとはな…!】

【何の話だ、テメェ…!】

 

ザッハーク、そしてアンリマユ。かつて同じ勢力下にあった者達が鎬を削り合う。お互いにお互いを思い遣る情も、通じ合う心もない。悪のアフラ・マズダとなったシャムシード、そしてアンリマユとの熾烈な戦いは、互いを食いちぎろうとする迫力に満ちている。大剣とチェーンソーのぶつかり合いの最中、ザッハークがアンリマユに憐れみを向ける。

 

【セファールに敗れる前の貴様はこの様に腑抜けてはいなかった。遍く全ての悪、この世すべての敵対者。絶対悪たるこのオレすらも憧れる、万物における邪悪の根源だった!】

 

【…!】

 

【かつての七大魔王を従え、世界の悪を担っていた貴様と比べて今の貴様はあまりにも弱い、悲しい程に!人間の姿形を奪わねば顕現すら危ういまでに、アンリマユは弱り果てた!】

 

シャムシードはかつての聖王。それを依り代にした鎧の力は凄まじく、圧倒的な膂力にてアンリマユを吹き飛ばす。もんどり打ったアンリマユに追い打ちで刃を振り下ろすザッハーク。彼はアンリマユの変化を、嘲笑っていた。

 

【昔の貴様はそうじゃなかったよアンリマユ。息をするように他者を破滅させ、悪の全てをもたらし世界を呑み込む姿はまさに大魔王だった。この世すべての悪とまで謳われた、我等が悪神の姿が今はどうだ?】

【…!】

【こんな依代ごときに無様に圧されてみせる。あんな取るに足らないガキに絆され、あまつさえ世界を救ってすらみせた!なぁ、違うだろう?そうじゃないだろう、貴様の在り方は!】

 

アンリマユを掴み、地面に叩きつけ引き摺り回す。その膂力は甚大で、背中を中心に甚大なダメージを刻み込まれるアンリマユ。

 

【ぐあぁあぁぁっ…!!】

 

【善と悪の境界は緩みに緩み、たるみにたるんでしまったよアンリマユ。そもそもセファール相手に、手を取って戦った事がそもそもの過ち…!】

【へっ、笑わせるんじゃねぇや。アフラ・マズダ側にしてやられてさっさと封印されてた癖によぉ!】

 

【───あぁ。それもそうだったな。オレは確かに、善の英雄に敗れてダマーヴァンド山の深くに封印されていたのだった】

 

ザッハークは大袈裟に肩を竦め、アンリマユを開放する。そういえば、等というが意図的に伏せていたのだろうな、とアンリマユは嗤う。どこまでもせせこましい輩であると。

 

【お陰で遥か未来にアジ・ダハーカの魂は呼び寄せられ、精神と本能であるオレはザッハークとして世界に刻まれた。実に数奇なモノだなアンリマユ。これも生みの親が不出来なせいだ。子は親に似ると言うだろう?】

 

【誰がテメェなんぞ子供と認めるか、バーカ。手間のかかるアジ・ダハーカはアイツラだけでいいんだよ】

 

【それは残念。ではさっさと、親権放棄の親など殺すに限る】

 

(…マズったな。リッカの技量でなんとかなってるが、あのカキタレと鎧の相性が良すぎる。ちっと手のつけられんシナジーかましてやがるぜ、ったく)

 

自分で失墜を選んだ噴飯ものの魂であるが、かつて確かなる光輪の所有者だった女なだけあり、その適正は折り紙付きなのだろう。力の殆どをリッカに受け渡している今のアンリマユでは、ザッハークの悪辣さを兼ね備えたシャムシードは手に余る。何故か?戦いとは相手の嫌がる事をするものが勝つ。ザッハークはその点において、最強の存在と言って良いだろう。

 

相手への嫌がらせ合戦の戦いにおいて、ザッハークの悪辣を宿したシャムシードへの勝ち目は薄いだろう。なんとかしなくてはならないが、そう上手くいかないのが現状である。仲間を連れてくるにしても、キラナと二人きりを選んだ自分自身の自業自得であるので、さてどうするかと立ち上がった…その時だった。

 

『セーヴァー!!』

 

【んん…?】

【!?】

 

仄かに立ち込めたどん詰まりの絶望を拭き晴らす、清らかな声。見ればキラナが立ち上がり、アンリマユへと…セーヴァーへとエールを贈っているではないか。

 

『頑張れ、セーヴァー!私も頑張る、頑張るから!』

【キラナ…】

 

『二人で、あのくそやろーをやっつけようよ!だから、絶対諦めないで!』

 

その言葉遣いはやめなさい、と遮りたくなったが…それよりもアンリマユはキラナの意志に注目した。あれはやけっぱちでも、誰かに結末を委ねる傍観者の目でもない。確かに何かを、やってやろうとする目だ。

 

【…なぁ、クソ野郎。人助けをするとよ、飯が美味いってのを知ってるか?】

【ンン?】

 

【美味いんだよ。飯が。助けてくれてありがとう、とか、コンビネーションが上手くいったな、とか。そういう、誰かに良いことしてやれた時に食う飯ってのはとんでもなく美味いんだぜ。知らねぇのか?】

 

アンリマユは告げる。それはかの悪神が、曲がりなりにも善側にいる理由と理屈。美味い飯を食いたいという、原始的欲求への発露だった。

 

【アジーカもそうなんだとよ。口に流れ込んでくる悪性より、ほんのちょっぴり、金平糖みたいな善性の方が何百倍も美味かった。だからこそ、リッカと会えて良かったなんて言ってたっけかな、あいつ】

 

【意味不明だな。何が言いたい】

 

【要するに…イイコトして食べる飯の為に、私らはリッカと一緒にいるってこったよっ!!】

 

瞬間アンリマユが反転し、猛烈なラッシュをザッハークへと叩き込む。窮地に陥った時への足掻きというものは凄まじくシャムシードの剣戟を僅かに押していく。

 

【ほう、呆れた押しの強さだ。火事場の何とやら、というヤツか?】

【火事場のクソ力ってなぁ!だから負ける訳にゃぁいかねぇ!反省と後悔なんて、飯を不味くするもんだからよぉ!】

 

【下らん…。そんな下らん理由を持ち出すなど、本格的に悪の柱は腐りきっているとはな!】

 

しかしザッハークもまた、シャムシードと鎧を駆使し瞬時に対応してみせる。雷位やアルテミスの祝福、イザナミの鉾やアマテラス、将門公の神器は流石に再現できないので奥義は使えず、最後の一手は押しきれない。

 

【ここだ。稚拙な悪あがきだったな、我等が悪神】

【ッ……!!】

 

瞬間、ザッハークの刃が深々とアンリマユの肩を貫く。致命的ではないにしろ、尋常でない刺し傷だ。生殺与奪の権が、大きくザッハークへと傾く。

 

【貴様を殺せば、藤丸リッカは無限の魔力を喪い弱体化する。取るに足らない小娘となり、一線から外れるだろう。カルデアの頂点から落伍するヤツの苦悶はどのような甘露だろうな?】

【ハッ、笑わせるんじゃねぇやマヌケ。例えドンケツになろうが、アイツはアイツのやることを見つけるし、皆アイツを頼りにすることは変わらねぇ。そういうヤツだから皆ついていくし、そういう場所だからアイツはああなれたんだよ】

 

刃を引き抜こうとしたザッハークだが、違和感に顔を眇める。その刃の刺し場所が…抜けない。いや、抜けぬように抗っているのだ。

 

【有り難いぜぇ!斬って斬られてが面倒くさかったんでよぉ!!】

【ぐっ…!?】

 

瞬間、胸に深々とチェーンソーが突き立てられる。それはアンリマユ起死回生の一撃。鎧を穿つ、必勝の機会。唸りを上げて、ザッハークごと内部をずたずたにする。

 

【ヒャアッハハハハハハ!!散々コケにしてくれたなザッハーク!今のテメェは弱りきった悪神以下だァァァッ!!!】

【ぐ、あ、うぉおぉおぉおぉおぉおッ!!】

 

【汚ぇハラワタぶち撒けて死に晒せオラァァァッ!!!!】

 

瞬間、入れ違いに鎧の前方を叩き壊すアンリマユ。その衝撃でチェーンソーの刃が砕け散るも、光輪がザッハークの身体を深々と穿つ。

 

【貴様…!死んだふりとはやってくれる…ッ!?】

 

【行け!!キラナ!!】

 

顔を上げた瞬間、ザッハークの目に飛び込んで来たのは…

 

『シャムシードを返せ!くーそーやーろーっ!!』

 

【何いっ…!?】

 

戦えぬとばかりに思っていた…小娘の姿。鎧の綻びの中へ、侵入していく──!




シャムシード「…アフラ・マズダ。大いなるアフラ・マズダ。私を、どうかお許しください。私は貴方よりも素晴らしきアフラ・マズダとならんとした大逆人。愚者の極みです。この身をザッハークに、アジ・ダハーカに汚し尽くされ、尚も利用され続けている」

キラナ『うん…うん』

「私にできる償いは、如何なる事も致します。私は、もう一度アフラ・マズダに…かつての栄光を捧げたい。愚かしき自らの償いを果たし、もう一度、善なるアフラ・マズダへとお詫びを申し上げたいのです」

キラナ『うん』

「大いなる使徒よ。その為ならばこの身を如何様にもお使いください。貴方様の護りたい者の為に、成し遂げたい事の為に。我が身と力を、貴女に全て捧げます」

キラナ『いいの?』

「はい。この鎧がある今ならば、ザッハークが表装している今ならば。我が身を全て、貴女に委ねます。願わくばどうか、貴女の愛するあの御方を救う力に…!」

キラナ『えへへ。じゃあ…一緒に行こう。償いの旅路を、共に!』
シャムシード「えぇ、大いなるアフラ・マズダの使徒、キラナ様──!」



ザッハーク【ぬぅうぅうぅうっ!?】
アンリマユ【!?】

瞬間、鎧から光が溢れる。同時に黒きモヤが弾き飛ばされ、幻影のように立ち上る。

アンリマユ【キラナ…!?】

キラナ『──そうだよ、セーヴァー。私、キラナ!』

そう告げるキラナの姿は、あまりに違っていた。小さき少女だった身体は、美しき淑女のシルエットに。長かった髪が大地に付かぬほどの長身に。頼りない細身が、肉感的でしなやかなスタイルに。それはシャムシードの本来有した肉体の面影であり、キラナの成長した姿。

『シャムシードの霊基と合体して、鎧もしっかり回収したらこうなった姿!んーと…聖王キラナ・シャーンティ!』

アフラ・マズダ『光輪により、キラナはシャムシードへと憑依したのだ。この霊基において、最早ザッハークは振り払われた』

ザッハーク【このオレから、シャムシードを引き剥がしたのか…!光輪の運び手如きが…!】

聖王キラナ『シャムシードの尊厳、セーヴァーを虐めたうらみ!纏めて返してあげる…ハラワタぶちまけろ!くそやろー!』
アンリマユ【やべぇ…教育間違えたわ…】

シャムシードを助け、ザッハークを捉える。逆転の布石を、聖王キラナは王手に繋げる──!

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