人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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《怠惰とは何も眠りを貪るばかりを指す言葉ではない。為すべき事を知りながらそれに取り組まぬ事、果たせることを前にしながら挑まぬこと。その在り方を怠惰と言う。そして、人間総てに当てはまる罪過でもある。未だに我が裁定を下せぬ要因だ。まこと苛立たしい。だが――これを知らぬもまた愚か。怠惰を知らぬ者は加速度的に破滅に向かう。省みず、止まらず、致命的な破綻を目指して疾走する下らぬ暴走状態と同じ有り様に成り果てる。無能な働き者こそまさにそれよ。立ち止まり、省み、反省するからこそ次の成果に繋がる。そして怠惰を知らぬ労働者はまた害悪になる。己の過労を誇り、誇示し、周りにそう在れと押し付ける百害在って一理なき俗物と堕ち果てる。そのようになれば対処は一つだ、さっさと殺して冥府に送ってやれ。魂だけにならば休むしかなかろうよ。働かぬのなら機械でよく、暴走が必定なら人でよい。そも、罪も美徳も根源は同じ。ただ、それを受け取る者の裁量一つにて・・・む?》


――すぅ・・・くぅ・・・

《――王の言葉を子守唄にするとはな。まこと、お前は姫に相応しき魂よ。フッ、こやつめ》

――ふぉう・・・えいゆうおう・・・あぁ、きゃすとおふ、きゃすとおふはだめです・・・

《む?夢にまで我が美を思い描くか。ははははは。まことに可愛らしいものよ。よい、赦す。――さて、こやつの夢に紛れたらどうなるか、解っていような、華の魔術師》


(殺していい?)

《バビロニアが終わったならば好きにせよ》





「ギクッ――!!」


怠惰

「ごきげんよう、仮初めのマスター!平穏の時は終わりだ、さぁ、裁きの間の準備が整ったぞ!!」

 

 

バタンと扉を空け、黒き哄笑者が高らかに歌い上げる

 

 

 

「いつもいつもうるさいわね・・・静かにするってできないの?」

 

 

「クハハ!出来ぬとも!我が身、我が魂は燃え盛る炎と同じなれば!紡ぐ言葉もまた然り!総てを焼き尽くす言霊となろうよ!」

 

 

「よーし、今日も地獄に落ちるぞー!」

 

 

熱心に準備運動に励んだリッカが、朗らかに叫ぶ

 

 

「メルセデスはここで待ってて。ちょっと地獄に行ってくるから」

 

 

「はい。リッカ様、ジャンヌ様、アヴェンジャー様。どうかお気をつけて!」

 

 

深くうなずき返し、剣と弓を身に付ける

 

 

「うん!行こう!二人とも!」

 

 

「どんな地獄であろうと恐るるに足りません。そう、私とマスターがいるならばね!」

 

「地獄にて希望を探す最後のマスター!さぁ、今宵の宴も貪欲に食らい尽くせよ!クハハハハハハハ!!」

 

まるでピクニックのように、希望の復讐者達が牢屋を飛び出していった・・・

 

 

「・・・皆様、なんて輝かしい・・・曇りなき魂、激しくも、けして向き先を違えぬ炎。アヴェンジャーとは、そう言った・・・」

 

 

 

 

牢屋を飛び出した先、試練の間へと向かう通路

 

 

 

「では、いつものようにお前に指標を示そう」

 

 

歩きながら、振り返らず背中で語るアヴェンジャー

 

 

「――怠惰を貪った事はあるか?」

 

どきり、と胸が高鳴る

 

「怠惰ぁ?ナマケモノって事?」

 

「そうだ。成し遂げるべき数々の事を知りながら、立ち向かわず、努力せず、安寧の誘惑に溺れた経験は?」

 

「――・・・」

 

アヴェンジャーの問いかけは続く

 

「社会を構成する歯車の個ではなく、ただ己が快楽を求める個として振る舞った経験は?」

 

――――

 

 

朝起きたらご飯を食べながら参考書朗読

 

 

食べ終わったらサッカー、英会話

 

 

昼前にはビジネス参考書

 

 

ご飯と一緒に簿記計算、終わったらピアノのレッスン

 

三時頃にはラクロス、テニス、バドミントン

 

 

夕方には日本語学の研究

 

 

夜にはお風呂に入りながら一日の復習

 

 

夜遅くまでダンスのレッスンをして

 

寝ながら今日できなかった睡眠学習

 

 

それが私の一日、それが私の日常

 

 

 

日常、勉強、日常、勉強、勉強、勉強、勉強――

 

 

大丈夫、私ならできる

 

 

大丈夫、私ならやれる

 

 

大丈夫、大丈夫、大丈夫。大丈夫――

 

あぁ、でも

 

眠い、ちょっとだけ

 

疲れた、ちょっとだけ

 

一日だけ、一日だけでいい

 

一日だけでいいから

 

 

今日だけは――

 

 

『ごめんなさい、パパ、ママ・・・』

 

 

ちょっとだけ――

 

 

『私には、もう。できません・・・――』

 

 

――

 

 

「・・・大丈夫?マスター?」

 

「!」

 

ガバッと顔を上げる

 

 

「え、あ、いや・・・大丈夫!大丈夫だよ!大丈夫!」

 

「ばか」

 

ぺしっとデコをはねる

 

「あう!」

 

「大丈夫そうじゃないから聞いてるの!なんでもかんでも溜め込まない!私みたいに発散するのも大切よ?」

 

まったくもう、とリッカの背中をさするジャンヌ

 

「いい?どんなに強かろうが、貴女は人間です。私達英雄みたいなキチガイじゃない。きっちり弱さは弱さとして発散していいのです」

 

「ジャンヌ・・・」

 

「懺悔くらい、いつまでも私が付き合ってあげますから。・・・まぁ、私は魔女なので、気の利いた言葉は言えませんが・・・気休めには、なれますよ?なんなら私のスイーツ食べながら・・・」

 

「・・・ありがとう!ジャンヌ!」

 

ガバッと抱き付く。身体はひんやりとしているのに、とても暖かく感じる

 

「これからは、ちょっとずつでも吐き出すね!本当、ジャンヌが来てくれてよかった!」

 

「当然でしょう?言った筈です。私は貴女だけのサーヴァントなのですから」

 

 

「そうだ。如何な機械であろうと、如何な生物であろうと、澱みを吐き出し、廃棄する事は不可欠だ。それが出来ねば溜め込み、肥大し、見るもおぞましきものが産み出されよう。――告発、懺悔は決して悪ではない。お前の思うままをぶつけることは、生命活動として健全と覚えておけ」

 

 

「うん!ありがとう!アヴェンジャー!」

 

 

「――フン。復讐者に礼を言うなどという物好きはお前だけだ、マスター」

 

「マスターが欲しくなった?残念でした!相棒ポジはあんたじゃない!この私よ!!」

 

ビシッ、と親指で自分を指しどや顔をかますオルタ

 

「楽しげだなうたかたの夢よ!クハハハハハハハ!それでいい!喜怒哀楽を知るは人間の証!それを知らぬは人に非ず!さぁ心せよ、この扉の先に待ち受けるは、新たなる裁きの支配者だ!」

 

 

ガチャリ、と扉を開ける

 

 

「ジャンヌ」

「解ってるわ」

 

一度お互いの手を強く握り合い、ゆっくりと離す

 

 

「第三の裁きの間!そう!ヤツこそは罪の具現!!」

 

ばさり、とマントを翻す

 

 

「見るがいい!そして知れ!人間達が転がり落ちる成の果てのその姿をなァ!!」

 

 

 

 

「――主よ!!!」

 

かつて高潔であった声音が裁きの間を震わせる

 

 

「あれ!?この声!?」

 

 

「(総てを察した、安らかな顔)」 

 

 

右手におぞましき本を握りしめた聖なる怪物はわめきたてる

 

「此なる舞台に我を下ろしたもうたは貴方か!ならば宜しい!私は悲劇にも喜劇にも応えられようぞ!」

 

身ぶり手振りが空を切る 

 

「しかしどうか勘違いめされるな。我が演目の全ては涜神のそれと定められているがゆえ!」

 

顔が憤怒に歪む

 

「輝かしきモノよ、我が冒涜を前に震え上がるがいい!聖なるモノ、我が嘲りを以て地に落ち穢されよ!」

 

ギョロり、と深淵に覗かれし瞳がこちらを覗く

 

「おぉ、おぉ、祝福を此処に!我が胸の高鳴りはここに際まれり!」

 

高らかに両手を掲げる

 

 

「神の御前に最高のCOOLを供えてみせましょう!例えばそう、希望に満ちて歩む勇者の魂を供物として!」

 

 

「あっれ――!?なんか私の知ってる怠惰と違う――!?」

 

「アイツいつも演説してるわね。中ボスが好きなのかしら・・・」

 

各々の所感を浮かべる一行

 

「お前ならば解る筈だ、エデなりし復讐者。ヤツが何故、怠惰たる具現なのかを!」

 

 

「勿論よ。・・・マスター、アレは間違いなくナマケモノです。さっさと目を潰して殺しましょう」

 

「え、ホントに?そうなの?」

 

 

「はい。神を知りながら祈ることをせず、騎士でありながら気品と礼節を護ることをしない。ただ財を撒き散らし、頭のおかしい魔術やらなんやらに傾倒して自分自身すら見失った『怠惰』の果ての姿がアレなのです」

 

クイ、と呆れながら指差す

 

「――全く。小娘一人に己の総てを懸けるからそんな目に逢うのですよ、ジル」

 

「そうだ!そうだ!ベッドにて惰眠を貪る事だけが怠惰に非ず!己が使命!己が天命!それらに目を背け自慰に耽るもまた怠惰!紛れもない罪だとも!!」

 

 

哀れみに声を出すジャンヌ、吠え猛るアヴェンジャー

 

 

「為すべき事を為さず、それらに目を背けるは罪・・・」

 

ゆっくりと、黒き哄笑者の言葉を胸に落とすリッカ

 

 

「お褒めに預かり恐悦!!そしてまた逢えましたなジャンヌ!!」

 

「えぇ、お互い顔は見知っています。――私が貴方に確認したいことは一つです」

 

 

ゆっくりと剣を抜き、旗を開く

 

「『貴方はマスターを阻むのね?』」

 

「無論!無論ですともジャンヌ!光輝く暗黒の太陽!感情を、罪を知らぬ最新の獣!その魂!その傷だらけの果実を私は喰らい、味わいましょうぞ!!それこそが喜劇!『輝かしき獣を主の前に突き付ける』という最高の演目に他ならぬならば!!」

 

「そう、なら」

 

簡単に笑い、――憤怒に美貌が染まる

 

 

「死ね!!私のマスターを害する者は、神だろうが怪物だろうが悪魔だろうが赦しはしない!思い知りなさいジル、貴方が望み、貴方が産み出したジャンヌが掴んだ、かけがえのないモノへ手を出す事への愚かさを――!!!」

 

 

「おぉおぉおぉおぉお!!!地獄にて熱く!鮮烈に輝くかジャンヌゥウゥウゥウ!!!」

 

おぞましき本から現れる海魔の群れ

 

 

「マスター!ただ一言を私にちょうだい!」

 

振り返らず、ジャンヌは問う

 

 

「『アナタを信じてる』と!その言葉が有る限り、私は誰にも負けません!!」

 

「――アナタを、心の底から信じてる!!」

 

令呪を一画使いながら、マスターは最愛の復讐者に言葉を贈る

 

 

「ありがとう、私の大切なマスター!――――地獄の果てで在ろうとも、我が救済は此処に在りて――!!」

 

確信と喜悦に全身を震わせながら、ジャンヌオルタは駆け抜ける――!!

 

 

「生き生きとしているな。『求められた』事実が、霊基の隅々までに刻み込まれているか。――さぁ、助けたくば呑み込む必要がある。学習、反芻の時間だぞマスター」

 

ゆっくりと歩み寄り、見つめる

 

 

「人が求める安寧、その負の側面。堕ち、転がり、けして這い上がれぬ愚かな誘惑、怠惰。――これを見て、お前は何を思う?」

 

 

「・・・――」

 

――怠惰は罪なのか?

 

休みたい、楽になりたいということは罪なのか?

 

 

 

本当に?――――いや

 

 

違う、違う筈だ

 

 

だって私はいつも思う

 

 

休んでいいよ、と、楽にして、と

 

 

大切な人達に、いつも感じているのだ

 

 

かつてのカルデアの一幕だ

 

 

仕事で働きづめのオルガマリーとロマンが、穏やかにスイーツを頬張っていた時間がある

 

 

それは罪か?――そんなわけない

 

 

トレーニングを終えたマシュが、うたた寝をしていて、風邪を引かないように上着を着せた事がある

 

その細やかな眠りが罪か?――そんなわけない

 

 

改築を終え、忙しなくカルデアを動き回っていたギルが玉座にて息を吐いていた事を覚えている

 

 

 

それが、罪か?

 

 

怠惰に身を委ねるは罪なのか?怠惰を知らないことは美徳か?休まず働き続けるロボットを、罪無きと称えるのだろうか?

 

 

――違う

 

けして違う。怠惰は罪じゃない

 

 

怠惰を、罪というならば――

 

 

 

「――怠惰は罪かもしれない、でもそれ単体の事を、罪とは言わない」

 

ゆっくりと、アルテミスの弓矢を展開する

 

 

「怠惰だけならそれは『安らぎ』だよ。悪いのは・・・『やることをやらないで休むこと』。そして、『怠惰をいらない』と思うことだと思う」

 

 

 

そうだ。怠惰は、いや。安らぎは罪じゃない

 

 

疲れたから眠る。仕事を果たしたから一息つく

 

おだやかな時間を、誰かと過ごす。

 

何も気にせず、ゆっくりと過ぎる時間を慈しむ

 

 

それは決して罪じゃない。生物すべてに与えられた、かけがえのない美徳であり、不可欠なものだ

 

だってそれを見てきた

 

 

所長として頑張っているオルガマリー

 

 

総てを抱え、恐れながら走ってきたロマン

 

 

怖くても、勇気を奮い立たせ奮闘するマシュ

 

 

そして――誰より偉いはずなのに、誰よりも働き屋さんなギル

 

そんな皆の休息を罪だと言うのか

 

皆に、一時の安らぎも赦さないと言うのか

 

 

もしそうなら――そう言った弾劾こそが私の敵だ!

 

 

「魂を呑み込むのが『怠惰』!魂を癒し、寄り添うものが『安らぎ』!けして、怠惰は罪なんかじゃない!だって、それが無かったら人は、人になれない!」

 

――そう。安らぎない日々は、地獄だ

 

今理解する

 

 

 

小さい日の、あの日々は

 

安らぎないあの日々は・・・辛くて、嫌で

 

 

私は――休みたかったんだ・・・

 

 

 

「『吼えたてよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!」

 

 

マスターとアヴェンジャーを除く全てを、ジャンヌが焼き尽くす!

 

 

「あなたの罪過を私が禊ぎましょう!でも覚悟なさい、私は加減を知りません!何せ断罪される側だったのだから――!!」

 

「ハハハハハハハハハハハハ!!これが!これが我が愛しきジャンヌを焼いた炎か!私の胸に歓喜あり!これこそが私が求めていた憤怒だ!ジャンヌ!!」

 

「るっさい!私を生んでくれたのは感謝してるわ!苦しませたくないんだからさっさと死になさいよ!!」

 

「いいえ、いいえ!この裁きを乗り越えるのは、アナタだけでは足りぬのです!このように――!!」

 

瞬間、ジル・ド・レェが肥大化する

 

海魔を束ね、重なり、肥大化し、おぞましく肉を敷き詰め、天蓋を高らかに突き破りなお巨大に蠢くその偉容

 

 

「追い詰められて巨大化とか、戦隊ものの御約束なんてこんなところでやるんじゃないわよ――!!!」

 

かつてフランスにて顕れた聖なる怪物――再び地獄にて再演される!

 

 

『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!如何ですかジャンヌ!この姿こそ我が答え!この姿こそ怠惰の具現!さぁ、さぁ、さぁ!己が単体の限界を知りなさいジャンヌ!ハハハハハハハハハハハハ!!』

 

「くっ――こんなの燃やしきれるかどうか・・・いいえ、ファイトよ私!アヴェンジャーはマスターの為に戦う決して諦めを知らないクラス!絶対に突破口はあるはず!」

 

「クハハハハハハハ!!それは違う!お前は『王手』をかけたのだ!ジャンヌ・ダルク!さぁ歓喜の鐘を鳴らせ!!――主賓の登場だ!!」

 

 

「はっ?」

 

「ありがと!ジャンヌ!」

 

後ろからジャンヌに抱き付くリッカ

 

「ひゃっ――ま、マスター?」

 

 

「これ終わったら、ゆっくりだらだらしようね!」

 

「・・・――えぇ、そうですね」

 

アイコンタクトで、互いの意思を伝えあう

 

「ここは、お任せしてもいいですか?」

 

 

「任せて!・・・――行くよ、アルテミス」

 

 

ゆっくりと、巨大なりし怪物に歩み寄る

 

 

 

『感情を知らぬ獣よ!我が前に立ちますか!宜しい!宜しい!その罪知らぬ魂!如何な意志をもち戦うのか!?その月なる弓矢を以て何を為しましょうや!?此処は地獄の奥底!あらゆる神の助けは届かず――!』

 

「届かないから、祈りは無駄だとでも?」

 

『――――』

 

 

――祈りとは、心の所作

 

正しき心が祈りを為し

 

正しき祈りが、信仰を為すのだ――

 

 

「例え地獄の底でも、例え誰もが見失う地の果てでも」

 

 

ゆっくりと、月女神の弓矢を

 

 

「――月は、いつも其処にある――」

 

握り離す――

 

 

瞬間

 

 

『!?』

 

 

月女神の弓矢は猛烈なスピードで天井を突き破り、遥か彼方上空へと飛来する

 

 

高く、高く、雲よりも高く。何よりも高く飛んでいく

 

 

『何を――』

 

目の前には、目を閉じ、両手を組み祈るリッカ

 

 

「――アナタに祈りを、アルテミス。どうか――」

 

 

 

 

 

「リッカ!?」

 

がばりと起き上がるアルテミス

 

 

「聞こえた!今聞こえたよダーリン!リッカの声が聞こえたよ!!」

 

「マジかよ!?」

 

「うん!『アナタが幸せでありますように』――きゃぁあぁあ♥♥!!リッカ大好き――!!そんな事想ってくれるの、アナタだけだよ♥!――それでは」

 

「ファッ!?」

 

 

「月の女神『アルテミス』の名の下、アナタの無二の信仰に応えましょう。我が神体の力の一端、今こそアナタに、藤丸リッカ――さぁ、行くわよダーリン!!せーの!」

 

「待って!?全然情況が解んないんだけど!?」

 

 

「『アナタに届け、月のすべて(アルテミシオン・アルテミット・レイ)』リッカが私と同じくらい幸せでありますよーにっ!♥きゅう」

 

「アルテミス――!?」

 

 

 

 

 

 

 

――祈りは、届いた

 

 

 

成層圏にまで到達した月女神の弓矢が、世界をあまねく照らす夜の支配者『月光』を際限なく吸収し、増幅し、『月光』そのものを放つ矢へと替える

 

弓を構える必要はなく、矢をつがえる必要もない

 

月の光が『届くならば』、星の総てが射程距離

 

そして威力は月の輝きにこそ比例する

 

 

人間の身にはあまりに大きいその力は、何億分の一にすら減衰を果たしてしまえども

 

 

その減衰した威力であろうとも『対城宝具』の域は容易く到達せし月光射撃

 

 

月夜に一度放たれし

 

 

――女神の祝福、その極致――!!

 

 

 

臨界を遥かに越え

 

 

 

地獄の底に、月夜の大矢は放たれる――!!

 

 

 

『ハッ――――――』

 

 

それが、断末魔になった

 

 

飛来した数秒の一瞬の直後

 

 

怪物より遥かに、遥かに膨大な光の束と輝きが、おぞましき肉塊を消し去り飲み込み、降り注いだのだ

 

叫びすら赦さない

 

身じろぎすら認めない

 

 

ただ、『祈りのためにアナタは死んでね♥』と言わんばかりの無慈悲な照射が、怪物を呑み込み、その存在を昇華せしめるまで照らし尽くされたのである――

 

 

「な、何よこれ――!?」

 

「クハハハハハハハハハハハハハ!!見逃さぬとも!見失わぬとも!月は太陽の輝きを受けて輝く!ならば月の光は確かに轟く!そう!太陽は此処に在るのだから――!!」

 

 

「ありがとう、アルテミス――」

 

 

ゆっくりと祈りを解く。掲げた左手に、月女神の弓矢が帰還する

 

 

「おめでとう、マスター!第三の裁きは確かに砕かれた!お前は『安らぎ』を知った!これは勝利だ!間違いなくな!」

 

――『怠惰』は『安らぎ』である

 

 

――業の一つが、光に変わる

 

 

「わーい。かえろー」

 

すたすたとジャンヌの手を握るリッカ

 

「まてしかー」

 

「ま、マスター?大丈夫?」

 

「魔力からっぽ・・・疲れた、ねむい・・・だらだらしよう、そうしよう・・・」

 

「・・・もう。極端ね・・・」

 

「ジャンヌ、抱き枕になって~」

 

「はいはい、アナタにだけ、特別よ」

 

 

「――勝利の安寧に身を委ねよ、マスター。また、次の試練にて巡り逢おう。――よい夢を」

 

バサリとマントを翻し、復讐者は消えていった――

 

 




「おかえりなさいま」


「あぁ~・・・」

「り、リッカ様?」


「眠い。ねよー。あぁベッドかたい」

「あぁ、気にしないで。マスターはやっと『休む』意味を知ったのよ」


「じゃんぬ~だきまくらぁ~」

「はいはい。冷たいわよ、私の身体」

「やわらかいからいーのー」

「・・・ばか」

「・・・ふふ、では、寝台を整えますね・・・――」



「説明しまーす!アルテミシオン・アルテミット・レイとは!リッカの祈りを弓矢から受け取って、私が許可して放つ一日一回の月射撃でーす!威力はほんとは人を貫くぐらいなんだけどー。リッカ大好きだからうんとサービスしちゃいまーす!威力はズバリ対城宝具クラス!ぜんぜんたりなーい!!神秘?設定?なにそれぜんぜんわかんなーい!月があるならどこでも撃てるわ!防ぎたかったら月を壊してみればいいんじゃない?あはは!頑張れー!リッカ!頑張れー!あはははは!」

「自重しろバカ野郎!神様が本気で援護するとかマジでギリシャの英雄じゃねーか!!女ヘラクレスが帰ってこれなくなるだろが!!いやマジヤバイ、リッカちゃんの進化が留まることを知らない!」


「ねぇダーリン、野球部とラグビー部どっちが好き?」

「え?・・・ラグビー?」

「じゃあ伝えとくね!ダーリンは、ラグビー部・・・と」

「???」

「浮気したらリッカにチクっちゃおー☆リッカ!これからもよろしくね~!」

「お前なにいって」



『私を性別リッカと呼んだラグビー部と野球部は、例外無く潰すと決めている』



「ヒエッ――――!!??」

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