?(うっふふふ…)
(尾けられているわね…わざわざアダム先生と分かれてからの尾行。…刺客と言うことかしら)
?(困ったわ…話しかけるタイミングを盛大にミスしてまるでストーカーじゃないのよこれ…ただ名刺渡そうとしただけなのに…!ただ売り込もうとしていただけなのに!)
オルガマリー(ダンテを呼べばよかったわ…こうなったら…)
?(えぇい、こうなったら…!!)
?「すみませんちょっといいですかそこのあなわぁあぁぁ!?」
オルガマリー「…………」
?「お、おちつ、落ち着きなさいキヴォトスの座敷わらしさん!銃を突きつけられてはビビって話もできないわ!ね?ね?お話だけでも!お話だけでも聴いてください!お願いします!」
オルガマリー「…私はオルガマリー・アニムスフィア。シャーレの教育実習生みたいなものよ。あなたは?」
?「こ、これはこれはご丁寧に。実は私こういう者!金さえ貰えればなんでもやるがモットー!頼れる貴方のビジネスパートナー、便利屋68のそう社長!!陸八魔アルと、申します!受け取ってください、これが私の誠意よ───!!」
オルガマリー「…模範的最お辞儀ね…」
「なるほど。急速に息を吹き返したアビドスを調べたところ、私に行き着きその、便利屋しっくすな」
「68です!!」
「失礼、68を私に売り込み、あわよくば投資や契約に運べればいいなーと一念発起したところ話しかけるタイミングが分からず結果的に尾行という形になってしまった、と」
「ふっ、クライアント候補に要らない警戒を持たせてしまったのは謝るわ。でもあなたは見たところ、キヴォトスに来て日が浅い!喜んでもらえると嬉しいわね、そんなあなたに屈指の便利屋が目に掛けこうして手を差し伸べたというのだから!」
ラーメンからファミレスはしごに結果的になってしまったが、オルガマリーは聖杯なので体型は変化しない。陸八魔アルたる生徒とビジネス的な会話を繰り広げている。どうやら最初から売り込みのため、目をかけていたようだ。
「先に言ったように、便利屋68は金でなんでもやるがモットー!一日一惡を掲げ、アウトローとして誰にも靡かず、己が道を邁進、驀進、大進撃するイケイケ組織!ホシノ奪還作戦の際には、アビドス並びにアダム先生に助力し多大な戦果を挙げた経験、アリよ!オルガマリーさん!」
見た目は麗しく、スタイルも素晴らしく、社長に相応しい風貌なのだがイザナミ族ばりに表情筋が忙しい。愉快な人物とオルガマリーは彼女に判断を下した。何せ、売り込み方が扉に足を引っ掛けるタイプな方なのである。おもしれー女に間違いない。
「依頼は成功報酬一括受け取り!事前報酬前付け金一切受け取りません!規則正しく信頼は絶対に裏切らず信頼で返す!どうかしら?なんだか雇ってみたくならないかしら!アダム先生にも是非よろしく言ってほしいのでお安くするわ!できればその、投資とかもしていただけたなら大変助かるのだけど…どうかしら!(力説)」
(このかわいい皮を被ったグランドセフトオートのような世界で、なんの後ろ盾もなく私立組織を運用するその胆力と実力…もしかして相当な実力者なのかしら。その割には売り込み方が地味だけど)
もしかしたらもしかするかもしれない。それに理念が非常に気に入ったので、オルガマリーは試しにカマをかけて見ることにする。
「何か、要人暗殺の実績は?」
「へっ?」
「国庫襲撃、紛争幇助、サイバーテロ、国土侵攻、テロリズム。何か国家形態に打撃を与えるような実績はおありかしら」
「え、あ、その……い、一度もないです…」
「そう。ではそうね……国家要人の警備経験などはある?SP用務などは?暗殺対策などはどうかしら」
「それも…ない、というか…もっぱらゴミ拾いや猫探しが多くて…」
「……大したアウトローね。何て真っすぐで清らかな道かしら」
軽く思い付く国家転覆クラスの重犯罪を並べてみたが、アルは黙りこくってしまった。こんなものは片手間にやるべきタスクだが、流石にそれは学生には酷な模様であると反省する。
「では、所属事務所はどこかしら。オフィスはあるのよね?」
「…こ、公園で…テントを…」
「公園。テント」
「アビドスに以前は構えていたのですが、その、諸事情で売り払うことになりまして。今は流浪の身というか、その…非常に困窮切迫していて…」
「…………」
「…………」
「…ひょっとして。数多無数の投資先からブラック認定されてない?あなた」
「よくわかりましたね!その通りよ!!」
どうやら理想に現実が追いつかないタイプの組織だったようね…。オルガマリーはヤケクソ気味に涙目で叫ぶアルを見て俯く。スペックあれど、理念に溺死するタイプの御方だと看破する。
とは言えど、武士は食わねど高楊枝。どれほど困窮しても道を踏み外す事なく真っ当な手段で自身を売り込むその気高さはオルガマリー的に非常にポイントが高い。名声を得るたびに組織は腐敗する。理念は暴走し、気高い崇高な志は権益主義と拝金思想に呑み込まれて肥大化していく。
そう考えれば、この誇り高さは非常に珍しい。溺死寸前だとしても、その気高さと崇高さを譲らないのは非常に素晴らしい。──楽園が契約を結ぶのなら、こういった一本筋の通った存在がいい。
(あぁ、もうおしまいだわ…また契約失敗で一人前ラーメン四分割生活…皆、辛い思いをさせてごめんなさい…)
「いいわ、アル社長。あなたと契約します。便利屋68を、こちらから全面的に信頼し労働分の報酬を必ずやお約束するわ」
「はい、今回は御縁が無かったという事でこれからをご応援いたしええぇぇぇっ!!?け、契約!?」
「はい。まぁ立場上、永続契約になるだろうけど」
「け、契約とはつまり!契約するということでよろしいのかしら!?」
「そういう事よ。成功報酬しか受け取らないのよね。では依頼報酬は都度振り込むわ。よきビジネスパートナー…いえ、それ以上になれたら嬉しいわ。アル社長」
アルに握手を申し込むオルガマリー。当のアルは震えながら、その両手に手を取る。
「あ、ありが、ありがとうございます!!永続契約だなんて…!便利屋68一同!シャーレ及びカルデアに全身全霊をかけて貢献することを約束致します!!」
「よろしくね。…ビジネスパートナーとなった以上、あなたたちの困窮した活動拠点は見過ごせないわね…」
「は、はい!その分ガンガン依頼をしていただけたなら!あっという間に立派なオフィスを…あれ?オルガマリーさん?」
オルガマリーは端末を弄り、承認が出たことを確認し衝撃的な事を宣う。
「昼からやっていた、カイザーコーポレーションの株式の過半数の買取が成功したわ。これでカイザーコーポレーションは丸々私のものになったと言えるわね」
「はっ?………は?」
「ではまず、アルにはカイザーコーポレーションの代表取締役社長になってもらおうかしら。そしてその力で私にキヴォトスの近況と情勢を教えてちょうだい。これも依頼、当然報酬は振り込ませてもらうわね」
宇宙人と対話しているかのようなアルに端末を放り投げ、オルガマリーは席を立つ。支払いは当然こちら持ちだ。
アビドスの土地がカイザーコーポレーションとアビドス側との正式な契約により買い取られていたため、ニャルやカエサル、モリアーティの力を借りカイザーコーポレーションそのものを買い取り、活動拠点を増やしたのである。なんてことはない、カエサルが株主に交渉を付け、モリアーティが代表取締役の弱みを見つけ、ニャルが家族を人質に取れば容易く済むことだ。後はオルガマリー名義で代表取締役に就任し完遂である。皇帝、教授、邪神にビジネスゲームなどで勝てるものは存在しない。正当な手続きで、会社をお譲りいただいたのだ。
「今からあなたはカイザーコーポレーションの社長よ。しっかりね。誇り高き便利屋68さん。それでは、情報提供依頼、成功を心待ちにしているわ」
席を立ち、アルにサイン済み契約書を渡し立ち去るオルガマリー。アルはそのあまりの急転直下に理解が追いついていない。
「…………ざ」
座敷わらし……!!!関わった人間を間違いなく幸福にする妖怪と、オルガマリーを幻視するアル。
(良かった…!売り込んでおいて本当に良かった…!アダム先生!これで対等なビジネスが出来そうね!!)
ホームレスめいた便利屋が、一日で大企業の社長に就任する。カルデアの、シャーレの本気は凄かったと後にアルは語る。
こうして、キヴォトスにおける情報源を確保したオルガマリーは、アダムの次なる動向をよりよくキャッチできるようになり。
アルたち便利屋は、毎日キチンとしたご飯を食べられるようになりましたとさ。
『カイザーコーポレーション買収!新社長、陸八魔アル!社名をスーパー便利屋68に改名!!』
アロナ『おぉ!凄いです便利屋の皆さん!乗っ取ってしまいました!』
アダム「やればできる子だったからな。大いにやったな」
オルガマリー「これでアビドスは正式に我々のものになりました。これで別学園の業務に移れるでしょう」
アダム「これならいける。ありがとう、オルガマリー」
アロナ『カルデアは本当に凄いです!』
オルガマリー「ふふ…暫定、秘密結社だもの」
〜スーパー便利屋68オフィス
アル「それでは皆〜!便利屋の大躍進に、かんぱーい!!」
浅木ムツキ「かんぱーい!!さっすが社長!売り込み大成功〜!ナメた組織を奪い取るなんてやるぅ〜!」
伊草ハルカ「い、いいんでしょうか!たくさんおかわりしていいんでしょうか…!」
アル「いいのいいの!経営とかはモリアーティとかいうおじさんがやってくれるらしいし、私達はいつも通りの便利屋よ!オルガマリーさん、ありがとー!!」
鬼方カヨコ「…上手く行き過ぎて怖い。罠とかじゃない?」
アル「信頼には信頼で応える!日頃の行いがいいアウトローにはいいことがあるのよー!おっほほほ!」
(((アウトローって…)))
キヴォトスにおいて、非常に有用な組織と手足を手に入れたカルデアであった。
オルガマリー(…カルデアが悪の組織って…今更なような…)
そして自身をちょっと省みたオルガマリーであった。
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