人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
アロナ『本当にありがとうございます!オルガマリーさん!私達にも何か、お礼が出来たらいいのですが…』
オルガマリー「お礼、ですか。本来ならば協力関係だけ築ければそれで良い、のですが…」
アロナ『オルガマリーさん?』
オルガマリー「今、悩んでいることがあるのです。先生として…意見を戴いてもよろしいでしょうか」
アダム「先生として…か。わかった。私で良ければ」
「成る程…自身の父が創り上げた組織、施設と共に世界を救ったが、その施設が世界の、宇宙の敵となりかねない危険性を孕んでいた、と」
『人理焼却、グランドオーダー!凄いです!オルガマリーさんは世界の自由と平和を護る正義の味方だったんですね!』
荒唐無稽としか言えない前提の話をするオルガマリーを、アダムは冷静に受け入れてアロナは興奮気味に囃し立てる。オルガマリーはデイビッドの言葉を胸に秘めていた。そしていっその事、先生…人類最古の人間たるアダムに相談したのだ。
今まで戦ってきたこと、今まで頼りにしていたもの。それらが全て根底から崩される懸念。ともすれば、人理の保障を掲げたカルデアは取り返しのつかないことをしていたのかもしれない。今までの旅路を否定する気はない。だが…それは果たして、間違いであったのならば、自分の存在で償えるものであるのだろうかと。
「最悪の場合、その星を…カルデアスを破壊する事も考案する必要もあると提示もされました。…所長としては、その判断は至極当然だとも思います。最悪の事態に備えるのは当然だと。…しかし」
「しかし…?」
「…私達は、カルデアスのお陰で人理焼却を覆すことができた。それは間違いなくマリスビリー…父の遺したもの。カルデアスも、私は大切な財宝として王に捧げました。言うなれば、仲間と…考えている自分がいます」
カルデアス、レイシフト。それは今でも、地球や人理を護るために奮戦してくれている。言うなればカルデアの心臓、自分達には欠かせないものだ。
「それが、もし本当に宇宙に危機をもたらすとして、またそうした事態をもたらす悪だとして…私は即座に、カルデアスを切り捨てるべきであるのでしょうか」
『オルガマリーさん…』
「この見解は、私の肉親や遺産に対する色眼鏡が入っているかもしれません。先生としての見解や意見を、どうか聞かせてもらってもよろしいでしょうか」
…涼しい顔で権謀術数を駆使するオルガマリーであるが、カルデアの生活と仲間は彼女の心に当たり前の善性を与え魔術師の悪辣さを抜き取り、心を贅肉まみれの豊かな状態にしたのだ。
それは、オルガマリーにカルデアスへの愛着と信頼を根付かせていた。そのカルデアスが宇宙に、何かを齎さんとしているとして。それでも、排除と破棄には踏み切れない。今用意している第二次カルデアも、カルデアスの齎してくれた恩恵を切り離すことは出来ない。
人類にとって有用で、カルデアにとっても不可欠で、しかしそれでも破壊しなければいけなかったとしたら。所長として、どういった決断を下すべきか。オルガマリーは、悩んでいたのだ。
「………私には、世界を滅ぼす者として鋳造された生徒もいる」
「!?」
アダムの切り出した言葉を聞き、オルガマリーはコーヒーを噎せだしかける。冗談ではなく、何より彼がジョークを飛ばせるようには見えない。
『アリスさんと言います。以前、彼女を巡ってアダム先生はゲーム開発部とその仲間たちと共に戦ったこともあります!』
「ひゃ、百戦錬磨なのね。アダム先生は…」
想像以上に経験を積んでいるアダム先生に驚愕しつつ、その言葉に耳を傾ける。その境遇は、カルデアスに通じるかもしれない。
「アリスはゲーム開発部との絆の末、魔王として生まれながら光の勇者となりたいと願った。私も、ゲーム開発部の仲間たちと彼女に伝えた。『自身のなりたいものに、なればいい』。生まれながらの使命が定まっており、そうあれと望まれたとして…その者がそれを果たさなければならない、殉じなければならない道理はないのだと、私は思う」
使命がそうだとして、それは誰かとの出会い、触れ合いで如何様にも変化していく。それは人であれ、機械であれ、何ら違いは無いのであるとアダムは伝える。
「例えばこのアロナが世界を亡ぼすプログラムAIだったと判明したところで、私は最後までアロナを信じることをやめはしないだろう」
『先生…!』
「何故なら私はアロナに常日頃から助けられていて、どのような事実をもってしてもその恩と事実は決して無くなりはしないからだ。どのような存在であろうと、どのような運命であろうと、紡いだ時と絆は離れず、切れず、途切れないからだ」
端末のアロナを撫でながら、澱みなき瞳でオルガマリーに説くアダム。そこには、揺らがぬ情と愛が宿っている。
「勿論、君の言うカルデアスとアロナは違うものだ。君達のカルデアスは、人類を保障するために他のすべてを蔑ろにする可能性を有しているかもしれない」
「…人理保障。それは人類のみが有する未来を保障するものだとすれば、きっと」
「だが君たちは滅びた人類、その未来を取り戻す為にカルデアスの力を借り、その果てに成し遂げた」
『それなら、カルデアスは皆さんの仲間だと思います!確かに道具や機械に感情はないのが普通だと思います。でも私がカルデアスなら、胸を張って伝えたいです!私も、オルガマリーさんや皆さんの仲間だって!』
「信じてあげてほしい。カルデアスを作った者の思惑がどうあれ、君達の人類を取り戻す意志に力を貸してくれた筈だ。その奮闘だけは、その共に戦った時間だけは決して…」
決して、間違いではない。アダムはアロナと共に強く頷いた。アダムにとって誰に産み出されたか、誰にどう望まれたかは関係ない。大事なのは、どう生きるかだ。
『それに、カルデアには全てを手に入れたご機嫌な王様がいるのですね?聞けば、全てを見て決める凄い王様だとか!凄いです!』
「え、えぇ。カルデアスも、王様に捧げたのよ」
『それでは、良いも悪いも決めるのは王様だと思います!他の誰がなんと言おうと、カルデアスを宝物と受け取ってくれたのなら!カルデアスは大切な宝物じゃないですか!』
「…!」
『迷うことはありません!これからもカルデアスを、カルデアを信じてください!アロナはきっと思います!カルデアスは一緒に皆様と戦っていきたいはずですから!』
アロナの言葉、アダムの教えはまさに値千金の言葉だ。そうだ、何を悩むことがあるのだろうか。
カルデアは、カルデアスは既に王に捧げたものだ。そしてそれを、王はどこまでも改築し、自身のものとして愛でていた。もう、とうにアニムスフィアの手からカルデアは離れている。
カルデアスとは王の財。それがもたらす結果がどのようなものであれ、それは王の裁量。宇宙の誰がそれを糾弾しようと、王の裁定を覆すことは誰にも叶わない。
絶対王者とはそういうものだ。思い悩む事などどこにも無かった。王が財として、受け入れてくれた事のみを忘れなければいい。
「…そして、私達がカルデアスを信じていけばいい。もたらす全てを、善きも悪しきも受け入れればいい。それこそが」
「大人の責任、という事だ」
『はい!きっとオルガマリーさんもできますよ!私達を助けてくれた、オルガマリーさんなら!』
その言葉は、オルガマリーの迷いを吹き晴らした。答えははじめから、一番近くにあったのだから。
「ありがとう、アダム先生。次はあなたの故郷について、是非力とならせてください」
「あぁ、是非ともよろしくお願いする。次は別の学園を紹介しよう」
『これからも、仲良くしていきましょう!皆で!』
改めて握手を交わすオルガマリーとアダム。…教育実習生として、彼を先生と仰いだ事は決して間違いではなかったのだ。
(お父さん。あなたのカルデアと私達のカルデアは違う道を歩むわ。私達の信じる、人理保障機関として)
──シャーレのオフィスで、三人は乾杯を交わす。その顔は、晴れやかな笑顔に満ちていた。
そして数刻後…
アロナ『すや〜…』
アダム「…君も飲みに来たのか」
拘束具の女性【リリスとは絶対に無関係よ】
「そうか」
屋台にて、何かと出逢う…