人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アダム「………朝か」

アロナ『むにゃむにゃ…もう食べられないれふ…』

アダム「………」

アロナを連れて行く
アロナを置いていく←

「…………」


〜アビドス・砂漠新緑地帯

黒服【ここは本来、嵐により砂漠化した寂しい場所でした。そう、あなたが耕し、再生させる前まではね】

アダム「……」

【そんな事が出来るのはあなただけですよ、アダム先生。いや…始まりの人類、異聞帯エデンの王アダム】

アダム「話の前に、これを受け取れ」

『半額の代金』

アダム「公務員は、賄賂を受け取ってはならないからな」

黒服【ふふ…そうでしたね】



先を生きるもの

「本題に入ろう。何故お前は、オルガマリー教育実習生を狙う?」

 

早朝4時。まだ外も薄暗い中で、アダムとゲマトリアの黒服が相対する。白と蒼のシャーレの服装たる黒髪赤眼のアダムと、何もかもが黒い黒服は鮮烈な対比となってお互いを引き立たせている。

 

【ふむ。そうですね。理由は様々なものがありますが…アダム先生は根源、アカシックレコードといった類の言葉は御存知ですか?ざっくり言ってしまえば、全知全能の力と言えるものです】

 

「………」

 

【我々ゲマトリアは研究が使命の一つ。その人智の及ばぬ領域の研究にも着手するべきと考えましてね。そのきっかけに根源への穴を空けるとされる聖杯、それを内部核とした彼女、オルガマリー・アニムスフィアを足掛かりとしようとしている。順序としてはこのようなところでしょうか】

 

「その様子では、研究にさらなる先があるように聞こえるが」

 

【鋭いですね、アダム先生。我々の目的は聖杯…それも、この無限に広がる世界のどこかたった一つ存在する【全能の聖杯】と呼ばれる超遺物の探索ですよ】

 

全能の聖杯。全能に繋がってしまった存在を組み替え、産み出された人類のオーパーツとも言うべきもの。それを、ゲマトリアは捜索しているという。

 

【根源や全能とは、言わば超絶情報集積体。即ち、全宇宙のデータベースです。手にすれば、ありとあらゆる研究と解明が飛躍的に進み、我々を全知へと導いてくれるもの。ですがそのような超物体は、我々の研究結果からたった一つしかないと結論付けられました。解りますか?今この瞬間も生まれている並行世界も含めたった一つ。その希少さと発見の難解さは、このアビドスを緑で満たす事より遥かに難しい。計画そのものを打ち切り、見合わせなくてはならない程に。しかし──】

 

「聖杯は存在した。オルガマリー・アニムスフィアという名で」

 

【その通り。万能の願望機だというなら、それは子機のようなもの。聖杯を手にし、願うことで我々は至るのです。大いなる全能の聖杯…アカシックグレイルへと】

 

アダムはそれをただ、聞いていた。大人は相手の言葉をただ遮ることはない。議論とはそういうものだ。

 

【まさか並行世界の聖杯からコンタクトをこちらの世界に取ってもらえるとはまさに僥倖。後は先の要求通りです、先生。オルガマリー・アニムスフィアをこちらに引き渡していただくだけでよろしい】

 

「見返りは、空想樹か」

 

【あぁ、実在を疑いですか?ホシノ生徒のようにまた契約外からの不正が気がかりと?ご安心ください、こちらに用意してありますよ】

 

そして取り出されたのは、逆三角形の身体に真円が浮かぶ不可解な形のオブジェクト。おおよそ生物とは思えぬシルエットのそれ。

 

【これは種子です。空想樹の種子…人類史やエネルギーを捕食することにより、空想樹として開花し成長する。そうすることで、あなたの空想である異聞帯エデンは確かな根を下ろし実在することとなる】

 

「………」

 

【あなたの長い長い放浪は、こちらも把握している次第です。神殺しのエデンの王。その圧倒的かつ規格外のパワーはキヴォトス最強と言っていい。いや、それどころか世界において並び立つものはいないでしょう。あなたはそういう存在です。生徒達をいつかエデンに招き入れたい、そういった善性であなたは先生となった】

 

しかし、と黒服は付け加える。追放されたわけでもないのに、それほど長い時間放浪するのは不可解だと。

 

【出る手段があるなら、帰る手段もなくてはそれは追放も同じ。これはあくまで予想、推測に過ぎませんが…アダム先生。あなたは神殺しの代償に【壊れかけ】なのではないですか?】

 

「……」

 

【楽園に戻る機能が壊れ、神を殺す力も減衰している。モノを殴れば反動は伝わるもの。大切な者達を護るため、戦ったあなたは消えない傷を負った。それを誰にも知られないままで。…やや、ロマンチックな予想を一つ。あなたは、死に場所を求めているのでは?】

 

自壊を悟ったアダムは、自ら楽園を出た。自身がバグとなり、エデンの者達を害さないように。その放浪の中で成果を見つけ、壊れるのを覚悟で帰参する。命の使い道を既に定めた行軍であると黒服は推察する。

 

【おやめなさい、アダム先生。御身体は大切になさらないと。この空想樹を持ち、楽園で静養なさるべきです。あなたのいるべき場所は、この楽園からの追放者達の輪ではない。事実、エデンであるべきだ。人類史が発展性のみしかケチの付けられなかった、完璧なる楽園に戻るべきなのです】

 

「……」

 

【オルガマリー・アニムスフィアはほんの一瞬すれ違っただけの他人でしか無いでしょう?愛着も、信頼も、紡がれるには時間があまりにも少ない。彼女をこちらに放るだけで、あなたの6000年の放浪は報われるのです。生徒の誰も、傷つけることなく。さぁ──】

 

黒服は端末を指差す。それはアダムが先生たる証、シッテムの箱。

 

【彼女を呼んでください。、これは裏切りではありませんよ、アダム先生。あなたと彼女は、先生と生徒ですらないのですから】

 

それを聞き終えたアダムは、静かに頷き行動を取る。シッテムの箱の起動…では、なく。

 

「…………」

 

ネクタイを緩めた、戦闘態勢。神秘の塊の、生徒の魂とも言われる『ヘイロー』すら容易く破壊する、神殺しの拳を握った状態だった。

 

【…何のつもりです?私の言葉が分からぬほど、あなたは愚かでは無いはずですが】

 

「あぁ、理解している。理解した上で、私は決断している」

 

【交渉を跳ね除けると?】

 

「そうだ」

 

【何故?あなたは何のために放浪してきたのです?自らの世界を、救いたくは無いのですか?壊れかけのエデンの王よ】

 

「オルガマリー・アニムスフィアは私の生徒だ」

 

【…は?】

 

何を、と言う前に、アダムの持つ端末から声が上がる。それは、彼のパートナーたる存在の少女。

 

『アダム先生からしてみれば、世界の全ての存在が生徒になります!』

 

【…シッテムの箱。まさか声を聞くことになるとは】

 

『アダム先生は『先に生きるもの』!アダム先生より後に生まれた全ての生き物がアダム先生の生徒と仮定すれば、オルガマリーさんだって立派な生徒なんです!だからアダム先生が、オルガマリーさんを引き渡すなんてありえません!』

 

「ありがとう、アロナ。自分で言うのは照れくさかったからな」

 

『いえ!こちらこそ、アロナを信じて全てを教えてくれて、ありがとうございます!アダム先生!』

 

【…話したのですか。自らの来歴を。自身が異世界の存在たる事実を】

 

「パートナーとは、信頼し合うものだろう」

 

アロナをアダムは起こし、身の上を話し問うた。そして、この契約の反故をアロナは考案した。それは黒服の提案を蹴るための屁理屈、要するに【大人の理屈】である。

 

【だとするならば、カイザーコーポレーションの人員への武力行使は生徒への虐待となるのでは?】

 

「時と場合で理屈と都合を使い分けるのが大人だろう」

 

【……仰る通りで。どうやらあなたが甘いのは、担任生徒だけのようだ】

 

「具体的にはキヴォトスの学園生徒全員だな」

 

【では、この空想樹は無用だというのですね?あなたの放浪の成果、全ての答えを手放すのですね?】

 

「その答えは、こうだ」

 

彼が拳を振るう。すると、空想樹の種子は原子振動を起こし、崩壊霧散していく。

 

【──────】

 

「誰かを犠牲にした成果は無用だ。例えまた6000年かかろうとも…私は妻に胸を張れる成果を掴んでみせるよ」

 

【………犠牲も対価も必要とせず、苦痛と徒労を糧にハッピーエンドを掴み取る。残念です、エデンの王よ。この地獄の頂点たる歴史にて、あなたの生き方は夢のように気高く、また儚すぎる】

 

「ならば、汎人類史の皆に先生として教授する事にするよ。──夢は、必ず叶うものだと」

『先生!アロナは…どこまでも先生の味方です!』

 

大人同士の交渉は、決裂に終わった。アダムにしか利のない、アダムにとっての最高の旅の終わりは霧散した。

 

だがそれを、彼は後悔することは無いだろう。

 

──生徒のために命を懸ける『先を生きるもの』。それが、この放浪の果てで得たアダムの生き方なのだから。




黒服【哀しいですが、交渉は決裂となりました。誠に残念ですが、私はあなたを倒す事で自らの計画を進めることにします】

アダム「出来ると思うか」

黒服【出来ますとも。この世界は、あなたが思う程透き通ってなどいない。その証拠を今、お見せします】

【大人のカード】

アロナ『!先生、あれは!』

黒服【時間と覚悟を代償にする先生の特権、その使い方をあなたに教えましょう。───起動せよ、【ネガ・ティーチング】】

瞬間、辺りが急速に暗がりに染まり、地響きと共にそれは現れる。黒服の代償を糧として、顕現せし、魔王が如きシルエットのそれ。

【【人類悪・登壇。厄災の獣、ビーストH・ゲマトリア。さぁ、あなたにこれが倒せますか?神殺しの王、壊れかけのアダム先生…】】

アダム「人類悪…ビースト。人類史の癌細胞か」
アロナ『あわわわ、なんですかこれはー!?』

たった二人の人類をかけた大人の戦いが、今幕を開けようとしていた──。

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