人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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《強欲。単純にして明快に帰結するシンプルな罪だ。欲しがること、求めること。それらを罪と定めた業だ。求めることそのものは無論罪ではない。森羅万象あらゆる動物が当たり前に行う生命活動だ。赤子は産まれて直後に欲しいと泣く。常に生命はより良き進化を、未来を、環境を欲しいと叫びその寿命を全うする。――それが罪に転じると何が起こるか。解るか?エア》

――王が財を求めるは本能、欲ではありません。その認識が似て非なる、という事は・・・

――!英雄王が求めた、不死の旅路・・・!

《そうだ。『見失い』ながら『求める』事こそが罪過。何を欲したのか?何を求めたのか?何をもたらしたかったのか?愉悦か?物欲か?安心か?それを見失いながらも手を伸ばす浅はかさこそを罪と定義するのだ。そも、生命とは結果を求めるもの。何かを成すために欲を抱くのだ。それを罪と成すは認識、裁量。欲しながらも欲の形を弁えず、欲と認識を乖離させる事。つまり『身の程』を知らぬという事に他ならぬ。己が身の丈を弁えぬ蒙昧、己が器を越える大望。――纏めるとしよう。己を弁えぬ『蒙昧』。己が身の丈を省みぬ『大望』。取捨選択を忘却した魂の『裁量』を以て、強欲は大罪に数えられるのだ。自らの破滅で済めばよい。だが大抵は――己もろとも世界を破滅に導くが結末である。まこと、過ぎた欲は身を滅ぼすとはよく言ったものよ》

――それを、美徳とする事は

《簡単なことだ。『定める事』よ。何を欲するのか、何を成したいのか、何を以て己が欲を満たしたと定義するのか。目標を定める、と言ってもよい。要するに識る事だ。自らの魂を、器の程を見定めよ。そうすれば己が何を欲するのかは自ずと輪郭を帯びてくる。だが――容易いようでいてこれが中々に難儀なモノよ。欲とは生命活動。欲を捨てるとは人であることを捨て去るに等しい。生きながら死ぬ事、死にながら生きること。難儀ではあるが・・・悟りを開けとは言わぬ。己を知り、身の程を知り、望みを知る。それこそが『強欲』を『我欲』に保つ手段である。・・・余談だが。我欲は聖者の大悟を阻むものだ。我欲なければ悟りを目指すことなく、我欲あらば悟りに至らぬ。まことままならぬは人の生。――だからこそ、人の生は・・・見応えがある》

――英雄王・・・

《エア。何を望もうと構わぬ。何を欲そうとも赦す。――一つだけ、お前に釘を刺しておこう。――『何かを欲する』事を、けして忘れるな。救世主などという、最もおぞましき人種には成り果てるなよ。我の庭は、けしてお前を飽きさせる事はない。思うままに望む限り、お前の愉悦は終わらぬのだからな》


――はい!・・・では早速

《ん?》

――これからも、寄り添わせてくださいね。英雄王!

《――フッ。真っ先に王の傍らに在ることを選ぶとは。まこと、強欲なモノよ。ふはは。まことお前は、姫の名に相応しい――》


強欲

「第六の裁き、第六の支配者――」

 

 

 

廊下を歩きながら、アヴェンジャーは語る

 

 

「唐突ね。前振りもないとか」

 

 

「強敵なんだよ多分」

 

 

地獄にふらりと立ち寄る心持ちの二人は呟く

 

 

「お前たちは見るだろう。およそ人間の欲するところに限りなどない、と。彼以上に強欲な生き物をオレは見たことがない。事実、驚嘆に値する」

 

 

「彼、っていうと・・・」

 

「男なんだね、次の人」

 

バキリ、と拳を鳴らすリッカ。それを頼もしそうに見つめるジャンヌ

 

「富を、金を、私財を腹へ溜め込む為ならば、実の娘を捧げようとした男さえ、彼には遠く及ぶまい。彼の欲は、文字通り世界へも及ぶものだ」

 

アヴェンジャーは楽しげだ。笑顔さえ浮かべている

 

「随分と楽しそうですね?そんなに好みなのですか?次のアレは」

 

「・・・ふん。そうだな。考えたこともないが、或いはそうかもしれん」

 

アヴェンジャーは呟き、天井を見つめる

 

 

「彼は回答を求めた。正しきものが真にこの世には無いのなら、と。尊きものを、人の善と幸福を信じたがゆえに、悪の蔓延る世界を否定したとも言えるか?お前たちには分かるまい。いいや、それともお前であれば真に理解が及ぶか?」

 

真っ直ぐに、リッカを見つめる

 

 

「そう、彼は。この世すべてに善を成さんとした男だ。お前とよく似ているぞ。彼は世界を救おうとしたのだから(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「・・・――」

 

世界を、救おうとした?それが、強欲?

 

何かを救おうとすることが、欲?欲なのか?

 

何故?それは、本当に?

 

 

「まぁ、お前と似ているものなどいはすまい。・・・親にその存在を剥奪され、名と意味を喪った者などそうはいまいよ」

 

「・・・何なのですか。リッカを獣、獣と。レディーに対して失礼な連中が多すぎます。燃やされたいのですか?」

 

 

「何れ分かる。何であれ――ある種の敬意さえ抱いているのだ、オレは。その無謀!高潔!強欲!喝采には相応しかろう!故に、故に。この上ない敬意と共に。我が黒炎は悉く破壊しよう。正しき想い、尊き願いにこそ、オレの炎は燃え上がる。覚悟せよ、マスター。お前は・・・」

 

 

「世界を呑み込む強欲を砕く。解りやすくシンプルな答えです。――リッカ、大丈夫ですか?」

 

「――うん。私は進むよ。生きるために!」

 

 

「そうだ、殺せなければ死ぬだけだ。有り体に言えば、そう――」

 

アヴェンジャーが扉を粉々に砕く

 

 

「難敵だ。気を抜けば、たちまち死ぬぞ」

 

 

「死なせません。私がいる限り。世界に届く強欲?ハッ、上等です。私の炎は世界を焼き尽くす業火!どちらが世界を呑み込むに相応しいか、試してやろうじゃないの!」

 

ジャンヌがリッカの手を握る

 

「――ね?リッカ」

 

「うん!私たちは――必ず勝ち取る!勝利を!」

 

 

「――くははっ!では、垣間見るとしよう!第六の支配者の姿!その罪を――!!」

 

 

第六の間

 

見知った地獄、そこにいたのは・・・

 

「来ましたね、アヴェンジャー。前回は後れを取りましたが、私も決断しました。貴方を倒し、貴方を止める」

 

 

聖なる旗、決意の瞳。現れしは人間城塞

 

 

「それこそが貴方への導きになるのだと信じています、今は」

 

 

「違う!!違う違う!!!」

 

 

吹き出る黒炎が、裁きの間を手当たり次第に吹き飛ばす。びしりと空間が揺れ、叫びにより大気が震える

 

「ジャンヌだよね。彼じゃないよねアレ」

 

「はぁ・・・まさかジャンヌフェイスに言うとは思いませんでした。何度も出てきて恥ずかしくないんですか?」

 

「憎悪と業火のジャンヌ。私は、貴女も救いたい。――例え、貴女が有り得ぬ私の側面だとしても」

 

「死ね、アバズレ」

 

ベッ、と唾を吐く

 

 

「確かにおまえは逃がさぬ!おまえはいずれ殺す!だが今ではない!なんという間の悪さだ、旗の聖女よ!その間の悪さ!カドルッスにも匹敵しようか!!」

 

アヴェンジャーの怒りは尋常ではない。その剣幕は、その激情は何よりも強く、凄まじい

 

 

「・・・ジャンヌ、苦手?」

 

「・・・私が言うのもなんですが、ジャンヌにキレすぎじゃないですか?」

 

旗を肩に担ぎながら困惑を向けるオルタ

 

 

「オレが!!オレであるからだ!!憤怒の存在を認めぬのであれば!それはこのオレを否定するにも同じこと!!」

 

「――あぁ、それなら私も解ります。――えぇ、えぇ。八つ当たりには相応しい理由、憤怒を焚くに、業火を燃やすに相応しい理由です――!!」

 

ガァン!と旗を叩き付ける。熱く猛る赤き炎が狂おしく大気を焼く

 

 

「真っ当な村娘であったなら、喜怒哀楽を知る田舎娘であったなら――贋作でない私になれたものを、何憂いなく、リッカのサーヴァントになれたものを――!!」

 

「ジャンヌ・・・」

 

「――ごめんなさい、みっともない八つ当たりを・・・アイツがアイツであるからこそ、英雄になれたのは解っています。・・・でも・・・」

 

「ううん。ジャンヌ。――あなたは、私にとって――何も恥じることない、私だけの英雄だよ!」

 

「――あぁ、リッカ・・・!」

 

 

「・・・やはり、貴女は私ですね。ジャンヌ」

 

「・・・ぁ?」

 

「猛り続ける者。アヴェンジャー。憤怒はそう、時にはあなたの言う通り――容易く消えはしないのでしょうね。私にも理解できず、幾度も目にしました。怒りは、藁に灯った火が如くして、きっと煌々と燃え盛ってしまう」

 

その目線の先には、ジャンヌ・オルタも映っている

 

 

「怒れるものと、その周囲にある多くのものを燃やし尽くすまで。けれど・・・憤怒を胸に秘めたとしても。同時に、赦しと救いを想うことだって叶うのです。――かけがえのないマスター、いえ。――大切な魂の伴侶を得た、貴女のように」

 

「――――――――」

 

 

 

「だからこそ、貴女も、アヴェンジャーも。私が止めます!貴女が手にしたかけがえのないものを、貴女自身が焼き尽くしてしまう前に――!」

 

「・・・ジャンヌ・・・」

 

 

・・・あぁ、やっぱり

 

ジャンヌは、かけがえのない、光と救いを掲げる英雄なんだ

 

 

――だが

 

 

「小癪!!オレに赦しと救いを問うか!!」

 

「――――――」

 

 

「何故なら、あなたも、一度はそれを経験した筈でしょう?――『エドモン・ダンテス』」

 

 

・・・エドモン?

 

「エドモン・ダンテス・・・?」

 

 

それは、アヴェンジャーの・・・?

 

 

 

瞬間――ブチり、と

 

「――はは、は」

 

ギリィ、と

 

 

「――っはは」

 

何かが、切れる音がした

 

 

「はは・・・!は・・・!はははははははははははは!!ククッ、ハッ、ははははははははははははははははははははは!!!」

 

 

「あっ――はははははははははははははははははははははははは!!!!あはは、あははははははははははははははははは!!」

 

狂ったように笑う、笑い続ける二人

 

 

「ふ、二人とも・・・?」

 

 

瞬間。アヴェンジャーは黒き炎のヒトガタに変わり

 

ジャンヌ・オルタの身体中から、真紅の業火が溢れ出す

 

 

「我が恩讐を語るな、女!!!」

「ブッ殺すわよ脳筋!!私のリッカを、救いなどに貶めるな!!!」

 

逆鱗に触れられた二人のアヴェンジャーが、まさに荒れ狂い猛り狂う

 

 

「リッカは私の救いなどではない!!対価を求めるような関係に語るな!!救いが何をしてくれる!あんたを救った!?笑わせるな!神の名の下、焼き払われたくせに!!私はリッカに何も求めてはいない!!『ただ、傍にあるだけ』!傍にいたいだけだ!!この身が朽ち果てるまで、最後の最期まで、ただ総てを捧げるだけだ!!知ったふうな口を利くな――私の抱いた気持ちを踏みにじるな、怒りの一つすら懐けない欠陥人間風情が――!!」

 

「我が黒炎は、請われようと救いを求めず!我が怨念は、地上の誰にも赦しを与えず!!」

 

 

――――虎よ、煌々と燃え盛れ。汝が赴くは恩讐の彼方なれば――

 

吼え立てよ、我が憤怒。あまねく世界の総てを焼き尽くさんと猛り狂え。その総ては、ただ一人の為に――

 

「オレは巌窟王(モンテ・クリスト)!!人類史に刻まれた陰影、永久の復讐者である!!」

 

「私は魔女ジャンヌ・ダルク!世界を救うマスターの未来を、明日を!!我が魂の焔で照らし、守護し、切り拓く者だ!!!」

 

 

 

「彼こそはシャトー・ディフの復讐鬼。パリへと舞い降り、数々の復讐を成した人物」

 

 

「――その名、エドモン・ダンテス。世の悪意に苛まれ、人間性の総てを炎に変えた、人類史上最高の復讐者か」

 

「はい!モンテ・クリストとも言われてるみたいですね、調べました。救世主の山と同じ名前です」

 

 

「恩讐の彼方に在って怨念は消えず、煌々と燃え盛る。モンテ・クリストとは復讐のみに総てを費やした男の名。鋼鉄の決意、窮地の智恵を身に付けし、生ける黒炎――」

 

――エドモン・ダンテス・・・

 

《――お前が堕とされし語るも穢らわしき監獄の塔。其処に住み着く、悪鬼の名だ》

 

 

 

 

 

「理解した。承知した。旗の聖女!おまえの性質は、どうあってもオレとは相容れぬ!!」

 

 

「思い知れ――我が決意、我が憤怒、我が魂の咆哮!!リッカの前に立ち塞がる神の声の代弁者、諸共に焼き尽くしましょう――!!」

 

 

「「吼え立てよ、我が憤怒!!望むがままに与えよう!我等が復讐の何たるか――!!」」

 

憎悪が猛る。炎が燃える

 

 

「二人とも、息ぴったり・・・!」

 

「・・・!」

 

それが今、聖女に――

 

 

「――言葉だけでは届かぬ想いもある。聖女よ、あなたもよく知っているはずですが」

 

ゆっくりと、暗がりから歩みでるは、褐色の男性

 

「分かっています。分かっているのです。けれど、私はどうしても諦めきれない」

 

 

「――だからこそ、主は今もあなたを愛し続けるのでしょうね」

 

「――おぉ、待ちかねたぞもう一人の調停者。強欲の具現たるもの」

 

ゆっくりと、アヴェンジャーが人の形を取り戻す

 

「アイツ・・・確か・・・」

 

「なるほど、見事な考えではあるだろう。例外(エクストラ)には例外(エクストラ)をもってあたるか」

 

「・・・復讐者二匹に対して、二人の裁定者が相手ですか。随分と念入り、入念な事ですね」

 

怒りをすぐに脇に追いやり、即座にリッカを不意討ち、奇襲から守護できるように寄り添う

 

「私の傍から離れずに」

 

「う、うん!」

 

 

「サーヴァント・ルーラー!天草四郎時貞!」

 

 

「――はじめまして、アヴェンジャー。そして、有り得ざる憤怒のジャンヌ。斯様な場所でなければ、違うかたちで出会う可能性もあったでしょうが。復讐のクリストを名乗る貴方には、最早祈りも言葉も届かないのでしょう。だが――一方で私は貴方を信じてもいます。これ以上ないほどに」

 

「――ンン・・・?」

 

天草は続ける。告発を続ける

 

「この世の地獄を知るものならば、真に尊きものが何であるかも同時に知った筈。――そう」

 

そのまま、リッカを見やる

 

「この世総ての悪から『未知の獣』を生み出す。――魔術王の策略に・・・」

 

 

「黙れ」

 

言葉を遮る

 

「オレの振るまいに関与するはオレの意志のみ。救済も、焼却も、オレには関係無い。――オレはただ、伝えるのみだ」

 

背中越しから、呟く

 

 

「『生命を謳歌する権利は、あらゆるモノに赦されている』という、真理をな」

 

 

「――生命を謳歌する権利は、あらゆるモノに・・・」

 

 

「そも――この女を知りながら、我が前に調停者を名乗り立つことの意味は理解しているだろうな」

 

吐き出すのは、漆黒の殺意

 

「怠慢を贖う時だ。声無き救済に耳を傾けず、形無き救済を求める手を振り払った。その過ちにて少女の胎に獣を宿し、獣を育んだことを看過した者たちよ」

 

いよいよ以て、猛り狂う

 

 

「――――死ぬがいい。調停を名乗りながら一人の少女を獣に堕とした業、我等の手で弾劾し、焼き払う時だ」

 

 

「・・・アヴェンジャー・・・」

 

「・・・では、ジャンヌ・ダルク。力をお借りします。イフ城に配置された者ではなく、同じルーラーとして」

 

「――えぇ、天草四郎時貞」

 

 

「はははははははははははは!!では開幕だ!!二人のルーラー、二匹の復讐者!!お前の傍に寄り添うは憎悪の化身!!過去、主の救いなどないと知ったオレ達が!!」

 

「現在、主にすがりつくアンタ達を焼き殺す!――さぁ、行きましょうリッカ!私と貴女は一心同体!」

 

力強く手を握る

 

「貴女がいるならば!神も、魔王も、総て踏み越え、焼き払いましょう!貴女が望む――未来の為に!!」

 

「――!!」

 

 

私が、望む、未来――

 

 

「そうだ!あらゆる救いを断たれたシャトー・ディフに於いて、しかして希望し!生還を真に望むモノは!」

 

 

虎のように、虎のように吼え猛る

 

 

「導かれねばならないのだよ!!お前を、導けるのは――!!」

 

「貴女の未来を照らせるのは――!!」

 

 

 

「このオレだけだ!!」

「この、私だけです!!」

 

 

――決まっている

 

自らの終わりはここではない

 

自らの道はまだ続く

 

 

地獄など、単なる障害物だ

 

私の怒りを、願いを阻むものに過ぎない――!

 

 

「何を今更!必ず私は――私達は!」

 

 

――皆と共に、必ず!

 

 

「楽園に戻る!皆と一緒に!!」

 

 

「はははははははははははは!!そうだ!お前もまた、虎のごとく吼えるのだ!!!!」

 

「さぁ、開幕を告げましょう!!」

 

「――獣を殺し!!尊厳を掲げ!!人たる己が総てを取り戻せ!!!」

 

 

二人のアヴェンジャーが、調停者に襲い掛かる――!!

 

 

 

「憎悪と憤怒の私!今の私なら、貴女の気持ちが解ります!」

 

「――は?」

 

「だって、私も・・・誰かを想った事があるのですから!貴女の想いが、尊いことだと解ります!」

 

「――ますます救えない女ね!それを私に伝えてなんとするのですか!?」

 

「だから――これ以上自分を燃やすのは止めなさい!貴女が燃え尽きてしまって誰が一番悲しむのかは解るでしょう!」

 

旗がぶつかりあう。黒と白、ルーラーとアヴェンジャー

 

「――ハッ!貴女がそれを言うの!?怒りすら持たなかったアンタが!私を抱きすらしなかったアンタが!今更恋を知りました~なんて私に嫌味を言うわけ!?」

 

「そ、れは――!」

 

「人並みの想いを懐けたなら何故あの結末を選んだ!人並みの幸せを懐けたのなら何故人々の為などに生きた!!なぜ、何故――『今更になって、人間の生き方を夢見た』!!アンタが怒りも何も抱かなかったから、私はこんな贋作に成り果てたのに――!!」

 

「・・・っ!!」

 

「答えてみなさい!私を救ってみなさい!さぁ、さぁ!!どんな答えを私にくれるのかしら!?『オマエはいらないけど私は人並みに幸せになりまぁす』とでも言うつもり!?あははははは!!お笑い草ね!!」

 

「それは・・・それは・・・!」

 

「滅べ!!ジャンヌ・ダルク!!『誰かに肩入れした調停者』なんて、偽善と欠陥に満ちたこの世で最も愚かな生き物よ!!そんな卑怯で不平等で不公平なアンタが救いを口にするな!!私とリッカの未来への道の邪魔をするなあぁあっ――――――!!!」

 

 

「・・・ジーク君、私は・・・!彼女を・・・どうしたら・・・!」

 

 

憤怒をジャンヌ・オルタは叩き付ける。ひたすらに、ただ真っ直ぐに

 

 

 

「クハハハ!そんなものか強欲の化身!本懐を遂げるにはあまりに力不足!地獄の底にお前の望む杯はない!故に、故にだ!オレを砕きたくば!強欲にて打ち砕くしかないぞ!!」

 

 

「猛り狂う魂。これほどとは・・・」

 

黒鍵がぶつかりあい、飛来する炎、斬り合い、打ち合い凪ぎ払う高速戦闘

 

 

 

「だが!今宵のパーティーの主役は我等ではない!!」

 

「何ですって?」

 

 

「――見ろ!!調停者ども!!お前たちが忘却の彼方に葬り去った獣が、お前達に牙を剥く!!さぁ!目覚めろマスター!!」

 

 

バサリ、とマントを翻す!

 

 

「お前の欲を見つけ出せ!!その答えこそ、人理を取り戻す動機と成り得る唯一の我欲になろう!!」

 

 

 

「――」

 

 

 

――求めることを罪といった

 

 

今更罪を知ったところでどうにかなるわけじゃない

 

 

知ろう。受け入れよう

 

 

私は、何を欲しているんだろう?

 

 

そう言えば、なんで人理を取り戻したいのか、考えたことはあんまりなかったっけ

 

 

大変そうだから、とか、みんな困ってる・・・とか、私しかいなかったから、だったらやろう!みたいな感じだったと思う

 

 

・・・私は、何を為したいんだろう?

 

 

考えた、刹那

 

 

思い出す。思い至る

 

 

――そうだ

 

 

それは、オルガマリーの固有結界

 

 

青空、太陽。どこまでも広がる世界

 

 

あれは、本当に綺麗だった。マリーの描いた景色

 

 

・・・見たい。

 

 

もう一度、あの景色を見たい

 

 

見たい。知りたい

 

 

その広がる果てを見てみたい

 

取り戻したい

 

世界の未来を。世界の総てを

 

 

そこにいる、総ての人達の明日を取り戻したい

 

 

そして・・・

 

 

――思い至る。その理由を見つけ出す

 

今の私が欲しいもの、それは――

 

 

 

 

「――私が欲しいものを見つけたよ」

 

 

ゆっくりと顔を上げる

 

 

「ほう!どんな大望だ!聞かせてみろ、マスター!」

 

 

「うん。――私がほしいもの、それはね」

 

晴れやかに、迷いの消えた目で告げる

 

 

「『世界』。世界の未来が欲しい。カルデアの皆と、平和になった世界を取り返したい」

 

 

「――――」

 

天草が息を飲む

 

 

そう告げるリッカの目は晴れやかで、澄んでいて

 

 

どこまでも――輝いていたのだから

 

 

「いつか皆で、旅行したり、ショッピングしたり、水族館にいったり、動物園行ったり、遊園地に行ったりしたい。――平和な世界が、私は欲しいよ、アヴェンジャー」

 

 

――そう

 

誰かに言われたからではなく、自分の為に世界を救う

 

 

それならば大丈夫。どんな苦難にも挫けない

 

 

だって、人間は・・・目的のためならあらゆる事を為す生き物だから

 

 

藤丸リッカは自覚する。己の世界を救うための理由

 

 

世界を救わんとする『強欲』に・・・皆で挑むという『我欲』が加わった

 

 

リッカの中で、業の一つは光に変わる

 

 

「だから――」

 

そう、だから

 

 

「私は立ち止まるわけにはいかない!世界の未来を、手に入れる為に――!!」

 

 

――世界の未来を『喰らう』のではなく『望む』

 

「クハハハハハハハハハ!!それでいい!!未知の獣に一つ、致死の楔が穿たれた!!」

 

 

――獣の欲は、人の願いへと確かに変じたのだ

 

 

「さぁ!!謳え!!お前の願いのままに!生誕の声を上げろ!!それがお前の欲ならば!欲するままに敵を砕け!!」

 

 

「――うん!」

 

呼応するかのように、童子切安綱から

 

 

「わっ――!?」

 

 

【あははははは!!ようやく産声を上げてくれましたね、愛しい我が子!】

 

 

刀から、声が響く

 

「お母さん・・・!?」

 

 

【そうです。それでよいのです!世界を欲し、総てを欲し、あらゆる敵を撃滅なさい!彼女が守護ならば、私は私の手段で我が子を護りましょう・・・!それこそが私という半生を、貴女に譲り渡した頼光の真意なのですから!】

 

「ぁ――っ」

 

ゆっくりと安綱を手に取り、引き抜く

 

「――お母さんを、近くに感じる・・・――」

 

【えぇ、そうです。母は貴女の傍にいるのですよ。さぁ愛しいリッカ。私と共に――我欲を阻む敵を誅しましょう・・・!】

 

 

「解った!」

 

 

高々と刀を掲げる

 

 

【――来たれい四天王!!いいえ――】

 

 

瞬間、リッカの影から四つの影が分離する

 

【――牛頭天王の神使達!我が子の深淵より出し泥と混ざり、形を取りて――】

 

 

呼応するように雷がシャトー・ディフに落ち、4つの形を取らせる

 

 

「なっ――!?」

 

目を剥くジャンヌ・オルタ

 

 

 

――そこには、五人のリッカがいた

 

 

紅い刀を持ち、怒りを表すリッカ

 

氷の長巻を持ち、氷点下の表情を浮かべるリッカ

 

月女神の弓矢を持ち、底抜けに楽しみを浮かべるリッカ

 

黄金のマサカリを持ち、獰猛に笑うリッカ

 

――それら総ての眼は、紅い瞳、黒い眼球となって敵を見据えている

 

 

 

「クハハハハハハハハハ!!見ろ!見るがいい!あれがお前たちが見過ごした少女の闇だ!救いを口にする欺瞞なりし者達よ!救って見るがいい!今すぐ、ヤツに真っ当な生を授けて見せるがいい!!お前たちが!真に!救いを掲げるならば!!」

 

 

「――行こう、お母さん!」

 

【えぇ、見せてあげましょう。我等が前に立つことの愚かさを・・・!】

 

 

「世界を救う、その為に!あらゆる敵を撃滅せん!」

 

 

刀を構える――そして

 

 

「『牛王招力・怒髪天衝』――!!」

 

 

一斉に、リッカの魂を象った牛頭天王の神使がルーラー二人に殺到する――!

 

 

――それは、母の愛の極致

 

 

「くぅうぅうっ――!!?」

 

 

魔性・異形としての自己の源である牛頭天王、その神使に形を与え、敵軍を一掃する奥義

 

それらは本来、けしてリッカには扱えない。――しかし

 

魔性、異形の魂を拠り所として、指揮し、振るい、呼び出す者がいた

 

 

それは、刀に宿りし母のもう一つの人格

 

 

頼光の託した童子切安綱に意識を『写し』母として近くに侍り守護していた『神性』

 

 

名を――【丑御前】

 

 

母頼光が、自らの手の届かぬ場所へ子をやってしまった際の保険とし、あらゆる脅威を撃滅せんと無意識にリッカに譲渡した

 

 

リッカの深淵に潜みし――正真正銘の『鬼子母神』である――!

 

 

それが今、罪の6つを取り込み、洗練された魂に応え、姿を顕したのだ――!!

 

 

蹂躙していく。破壊していく

 

 

「リッカが増えた!?え!?え!?」

 

 

刀が、長巻が、弓が、マサカリが

 

 

「クハハハハハハハハハ!!見たか!これが人類最後のマスター!この世総ての悪を担わされし獣!!世界を救う高潔な目的を掲げ、本能的に外敵を砕き続ける人への新生を間近に控えし女だ!!」

 

 

徹底的に、無慈悲に、天草とジャンヌを打ち据えていく――!

 

 

「お前たちの神とやらが手を差しのべず!ついぞ救わなかった故の姿である!あぁ、心配するな!ヤツはもうすぐ生まれ変わる!復讐者を喰らい!調停者の秤を砕き!!そして――!!」

 

 

「ジャンヌ、私の傍に!!――矮小十把」

 

 

ジャンヌを令呪で呼び寄せ

 

 

 

「――ここまで、ですか。では、最後に」

 

 

「――なんだ、天草」

 

「復讐は人には過ぎ足るもの。――あなたは必ず、その炎で自らを滅ぼすでしょう――」

 

「塵芥になるがいい――!!!」

 

漆黒の雷撃を刀に纏わせ、宿し

 

 

「――ジャンヌ」

 

「・・・!」

 

 

「――祈ります。貴女が・・・――大切な人と」

 

 

一回転して、放たれる――!!!

 

 

 

「――最期の時まで、一緒にいられますように――・・・」

 

それが、最期

 

 

 

ジャンヌと天草は、黒縄がごとき漆黒の雷撃に呑み込まれ

 

 

 

跡形も無く、消え去っていた――

 

 

 

「――何よ、バカじゃないの?・・・言われるまでもないわよ、そんなの」

 

「――お前たちは甘すぎる。なればこそ、強欲や憤怒などを押し付けられたのだ」

 

 

アヴェンジャー二人が、見つめる先には

 

 

 

【良くできました。貴女の願い、母は・・・えぇ、母は心から応援していますよ。――心に巣食う目障りな獣を排せれば、我が子の深淵は私のもの・・・ふふ、ふふふふふふ・・・】

 

 

「――残る地獄はあと一つ、かぁ・・・」

 

ぼんやりと呟く、人類最後のマスターがたたずんでいた・・・

 

 




――母と父に拒絶された子は、自己を失った


極めて希薄な自己意識と存在は、劣等感と無力感に苛まれる現代社会の悪性格好の捌け口となった


『アイツを虐めれば日常が楽しくなる』

『自分達が上手くいかないのはアイツのせいだ』

『自分達の幸福が足りないのはアイツが奪っているからだ』


余りにも身勝手な断定


余りにも一方的な迫害

それらはとある一件を境に、あらゆる悪意を以て彼女に降りかかった



愛を知らず、罪すら知らなかった彼女は学校という『社会』にて産み出される悪性の格好の捌け口となる


虐げられるは彼女のみ


貶められるは彼女のみ


大義名分は加速し、人の悪性はとどまることを知らず


少女、それに抗う意志と術を持たず


その生き様、とある村にて祀り上げられし少年と奇しくも酷似する



その有り様、ゾロアスターの悪神の如く


正しく『この世総ての悪』である――
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