人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ベリル(う…なんだ、ここはどこだ…?)


?「これがカルデア提供のモルモットかい?」

?【ああ、強度は折り紙付きだ。ウマ娘用の肉体強化のモルモットとして存分に使ってくれ】

?「とてもありがたいよ。グランドウマ娘ではないが、裏方としてカルデアに協力しよう。あぁ、ケイオス・カルデアだったかな?」

?【今後とも宜しくね。さて、頑張れよ。ベリル】

ベリル(あぁ、これはまた…ろくでもない巡り合わせだってことは分かるわなぁ…)


フォーミュラ・オブ・ルージュ

「ウマ娘…いいわね、ウマ娘!皆和気あいあい、かつギラギラしてて、火傷しちゃいそうな熱気がムンムンするわぁ!」

 

マスター達がグランドウマ娘探しに奔走する中、ペペロンチーノは特に目当てのウマ娘がいるわけでなく、ただトレセン学園をフラフラと巡り、ウマ娘の生活そのものを見つめていた。

 

誰も彼もが、自身に譲れない何かを見つけている場所。その上昇志向の高さはカルデアの皆と極めて近しい熱量を生み出す。ペペロンチーノはそれが非常に心地よく、また歓迎する熱でもあった。個人的に指導の立場ではなく、ただ一人のファンとして、道行くウマ娘達を応援したくなる気持ちになっているのである。

 

「アシュヴァッターマンの熱量にも負けないウマソウル…んー、素敵!さーて、私の運命のウマ娘ちゃんは誰なのかしら!」

 

そうして程々にパートナーを探すペペロンチーノではあったものの、グランドウマ娘が持つ(かもしれない)特有の気配は感じ取れず、これといった運命を感じ取るには時間を有しても巡り合うことができない。

 

正確には、自分が関われる運命のウマ娘が見当たらないのだ。自分が共に歩けるような、頼りないウマ娘はいない。皆、自身の中の何かを燃え上がらせていて、自分が入る余地がない。そうペペロンチーノは感じていたのだ。

 

 

(それはそうよねェ。皆遊びでやってるんじゃないし、少なくとも勝ちたいって気持ちをムンムンに漲らせて暮らしているのだもの)

 

楽園でマシになったとはいえ、ペシミストな自分が横入りしていい相手などそういるはずもなかった。だからこそ、有望なウマ娘を見てもそれは遠目で拝見に終わってしまう。

 

(ん〜、困ったわねぇ。マスターとして、スカウトはしなくちゃいけないのだけれど…ウマ娘だって生活があるわけだし…)

 

その邪魔をする気にはどうしてもなれないペペロンチーノは、風に当たろうと練習場に出る。ウマ娘達が一番輝く場、それがこのレース場であると彼は知っているゆえに何かのきっかけを求めたのだ。

 

そして、そのきっかけは唐突に現れる事となる。

 

「……──あら…」

 

ペペロンチーノの目に、ぴったりと止まった相手。ジャージ姿なれど、その鮮烈な走る姿に彼は視線を鮮やかに奪われた。

 

たっぷりとした鹿毛のロングヘアーで、後頭部には黒いリボンをなびかせているウマ娘。その快速のスポーツカーのような、颯爽としたキレのある走り。

 

「あの娘……イイわね…」

 

思わずペペロンチーノが洩らす程、彼女の走りは『自由』であった。見てきたウマ娘は皆、闘志と気迫、決意や使命感などを漲らせた、ギラギラとした熱さを有していた娘たち。見出した走りにも、それが如実に現れていた。

 

しかし、あのウマ娘はひたすらに自由で、奔放で、それでいてただ走る事のみを楽しんでいる。それでいて、その走りは何者

も寄せ付けない程に速い。

 

それは、運命に諦観しきっていた頃の自分とは真逆の領域に感じられた。その走りはまさに、何者も縛れない圧倒的な天衣無縫。そのウマ娘はまさに、走る事のみを心から楽しんでいるように見受けられた。

 

「イイわね…凄くイイ…イイわぁ…」

 

その走りに、魅せられたといって差し支えないだろう。ペペロンチーノはレース場を駆けるそのウマ娘を、ただただ見つめていた。時間も忘れるほどに。

 

「…あら?切り上げどきかしら」

 

そしてどれほど見つめていただろうか、そのウマ娘は走りを止め、レース場から離れていく。まだもう少し見ていたい、そう思うほど鮮烈な走りが終わった事に名残惜しさを感じていると…

 

「ハァイ♪さっきから熱い視線をくれていたのはアナタ?思わずドキがムネムネしちゃったわ♪」

 

先程のウマ娘が、なんとペペロンチーノに接触を求めて来たのである。彼にとっても願ったりな展開だが、彼の言葉はマスターとしての第一声とは呼べないものだった。

 

「素晴らしかったわ。あなたの走り。楽しそうに、それでいて誰も追いつけないくらい速く走るのね」

 

「ふふ、走るの大好きだもの。私はマルゼンスキー。あなたは確か、グランドウマ娘をスカウトする、マスターさんだったかしら」

 

「ぺぺ…いえ、ミョウレンジ・アロウよ。不躾だったけれど、あなたの走りに見惚れちゃっていたわ。ごめんなさいね」

 

本名を名乗ったのは、それほどに鮮烈なものを見せてくれた礼なのだろう。マルゼンスキーを名乗るウマ娘は、うんうんとうなずく。

 

「それは嬉しいわ。でも、ごめんなさい。私はグランドウマ娘じゃないのよね。残念無念、また来週なんだけれど…」

 

マルゼンスキーがグランドウマ娘であったなら、それは頼もしい仲間となったであろう。彼女謝罪するが、ペペロンチーノはそれを否定する。

 

「いいのよ。むしろ安心したわ。あなたが余計な重荷や責任感を背負わないで」

 

「え?」

 

「あなたはただ走るのが楽しくて走っている。あの華麗な走りはそういう自由さが根本にあるから素敵だったのよ。余計な重荷や重責なんて、あなたには似合わないわ。きっとね」

 

だからこそ、グランドウマ娘だったとしてもペペロンチーノは彼女をスカウトする事はなかっただろう。その魅力を殺してまで、彼女を迎える気にはなれなかったからだ。

 

「あなた以上にピンときたウマ娘はいなかったけれど、そういうアナタならむしろ嬉しいわ。本当に素敵な走りをありがとう。じゃあね」

 

「え、えっと。あなたはそれで大丈夫なのかしら?色々、マスターの仕事とか…?」

 

「いいのよ。アタシの他に素晴らしいマスターはいっぱいいる。今回は参加を見送るわ。あなた以上に素敵な走り、見つけられる自信が無いものね〜!」

 

いいもの見ちゃったわ〜!ありがとね〜!!そう手を振り、ペペロンチーノは帰っていく。

 

「……ミョウレンジ・アロウさん…ね」

 

…マルゼンスキーは、そのスカウトやマスターとしての使命すらも追いやり、自分の走りと信条を重んじた彼の事をただのファンとしては見れなかった。

 

マルゼンスキーはトレセン学園にて、使命感や闘志に燃える他のウマ娘と比べて場違い感を懐いていたのだ。

 

ただ走るだけでいい、それが楽しい。それでいて、他人をそんな浮ついた気持ちで置き去るのは無礼なのではないか…と。

 

そんな気概で、数多のスカウトをも断ってきた彼女が向けられた、走りだけを見てくれたファンを名乗る彼。

 

彼には、きっと退けない理由や理屈があるのだろう。シンボリルドルフから、グランドウマ娘の説明は聞いていた。

 

それを押してでも、自分の在り方を尊重してくれた彼の言葉と態度は、決して彼女にとってありふれたものでなく。

 

 

「…グーね。ベリー・グー!バッチグー!」

 

そんな彼と挑むレースなら、きっと素敵な景色や走りが見出だせるに違いない。

 

彼がファンだというのなら、それはきっと、彼を魅了できるだけの走りが自分の最高の走りであるのだろう。

 

「アロウさん、ね。きっとまたすぐに出会えるわ。そう、きっとまた、すぐに…ね?」

 

風が吹き、たなびく髪を抑えながらペペロンチーノの背中を見やる。

 

そう、彼女は初めて見出す事ができたのかもしれない。

 

その疾走するスポーツカーのような脚を、間近で見てもらいたい様な、そんな純粋な一人のファンを。

 

そして、その決意に呼応するかのように、右手が熱く輝く。

 

そこには──三女神を象った真紅の紋様が、厳かに刻まれていた。




夕方

ペペロンチーノ「ん〜、やっぱりマルちゃん以上のウマ娘は上澄みも上澄みになるわね〜。アタシには御しきれない娘ばっかり。はぁ、これは本格的に参戦見送りね〜…」

マルゼンスキー「アロウちゃーん!!」

ペペロンチーノ「あらぁ!?スポーツカー!?」

マルゼンスキー「お久しぶりダイコン♪お昼ぶりね!ねぇねぇ、もしよかったらなんだけどね?私の愛車、タッちゃんに乗らないかしら?」

ペペロンチーノ「あら、乗っていいの?」

マルゼンスキー「硬いこと言わないの!ほら、あなたを乗せる資格はアリアリよ♪」

『ウマ令呪』

ペペロンチーノ「あら…!?」

マルゼンスキー「あなたの期待や願いくらい、背負えないほどヤワじゃないわ。というわけで、あなたと私で組みましょ?夕陽に向かってレッツラゴーよ!」

ペペロンチーノ「…嬉しいわ〜!!じゃあマルちゃん、よろしくね〜!」

マルゼンスキー「こちらこそ!さぁさぁ、飛ばすわよ〜!!」

ペペロンチーノはマルゼンスキーの愛車の助手席に乗り、ハイウェイを駆け抜けていった。

その後の選抜期間の間、二人を見たものはいない…

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