オフェリア(多少、こちらの世界の馬を調べてみたけれど…トレセン学園にいるウマ娘達は誰も彼もが有名所の名馬ばかり。その中におけるグランド、というのはいったいどういった基準なのかしら…)
「三冠馬?G1勝者?それは指針であって絶対的な基準足りうるのかしら…一体何をもって、私達は彼女達と向き合えば…」
桃髪のウマ娘「うーん、うーん…」
オフェリア「?…あなたは…」
「あ!あなたって、マスターさんだよね?わたし、ハルウララ!ハルウララっていうの!」
オフェリア「…ハルウララ…?」
(有名所にそんな馬、いたかしら…)
「ねえねえ、これ!これって、大切なしるしじゃないのかな?」
『ウマ令呪』
オフェリア「!!」
「なんで、ウララにしるしが出たんだろう?マスターさんはわかるかな?」
オフェリア「と…ともかく、少しお話しましょうか。ハルウララ…さん?」
ハルウララ「うん〜!」
「へぇ〜!グラウンドウマ娘っていう印なんだぁ!じゃあウララも、グラウンドウマ娘になった…ってことかな?」
「そういう事になるわね。あと、グラウンドじゃなくてグランドウマ娘。広場じゃなくて偉大なって意味のグランドよ」
「あ!ちょうちょ!ね、ちょうちょだよ!」
真面目にマスターとしてグランドウマ娘を探していたオフェリアは、ポニーテールに結ったピンク髪、目に桜の虹彩を宿すウマ娘ハルウララと出会う。ウマ令呪が刻まれている以上、彼女も紛れもないグランドウマ娘には違いない。
違いない…のだが、オフェリアはそのイメージたるグランドウマ娘の印象とハルウララのイメージとは噛み合わない齟齬を感じている。第一印象的には良く言えば天真爛漫、悪く言えば集中力がなく落ち着きのない少女。今でもちょうちょを追いかけ、フラフラと何処かに行きかけている。
(シンボリルドルフ、ゴールドシップ、マンハッタンカフェ、ライスシャワー、マルゼンスキー…誰も彼も有名馬である中、ハルウララというウマ娘は彼女達に並べるようなウマ娘なのかしら…?)
「あ!オオムラサキ!」
(ともかく、色眼鏡でなく彼女の本質を見極めなくてはだめね。グランドウマ娘たる以上、何か凄まじさ才能を有しているハズ…)
「ねぇ、ハルウララ。あなたの走りを見せてもらえるかしら?」
ウマ娘とは疾走るために生まれた生命。それならば、意識よりレースにおける走りでその本質は見られるはずだ。マシュコンプロデューサーとして、原石の輝きは見過ごさない。
「レース!うん、いいよ!ウララ走るの大好き!」
(見極めさせてもらうわ。ハルウララ、あなたの素養を…)
オフェリアと共にレース場に向かうハルウララ。オフェリアはその自然体の在り方にこそ活路がある、グランドウマ娘の資格をもたらす何かがあると予想したのだが…。
〜
「……お、遅いわね…」
お世辞にも、口が裂けても疾走とはいえない、むしろ最下位争い常連とも言うべき記録を叩き出したストップウォッチを見て、オフェリアは引きつった笑みを浮かべる。そう、ハルウララの走りは決して速くない。それどころか、鈍足と言って差し支えないものだ。
当然人間よりは速く、ウマ娘最低限の尊厳は保持しているが…それでも尚、レースで一番の疾走は望むべくも無いだろう。なんというべきか、絶不調に走ったかのような走力と言っていいかもしれない。
(トレセン学園の水準を満たしているのかも怪しいのではないかしら、これは…むしろ彼女はどうやって在席しているの…?)
トップクラスのウマ娘、シンボリルドルフの走りをウマ娘のレクチャーで目の当たりにしたからこそ解る、その真逆の鈍足ぶり。しかし、彼女の手には確かにウマ令呪が刻まれている。
「はー、楽しかった!ただいまー!」
練習レースを走り終え、オフェリアの下に帰ってくるハルウララ。オフェリアは目頭を抑えながら、ハルウララを労る。
「お、お疲れさま…。と、とりあえずお話しましょうか…」
「うん!」
何と言ってあげればいいのかすら解らない…オフェリアはそんな、シンプルな問題に直面してしまう。ともあれ、ウマ令呪を信じて彼女を深く知ろうとする、真面目なプロデューサー気質なのであった。
〜
「レース、走るのは楽しいかしら?」
なんとなしに、オフェリアはハルウララに聞いてみた。あの走りでは、一位争いなど夢のまた夢ではあるのだろうが…それでも彼女は、ハルウララへと問うた。
一位を目指せないウマ娘。走るのが遅いという宿痾を、ハルウララはこう返答する。
「うん!とっても楽しいよ!走るの、大好き!」
「…失礼だけど、一位になれなくても?」
「うん!走れるだけで、ウララは幸せだよ!だって、一生懸命走れるってとっても幸せだもん!」
ハルウララの問いに、オフェリアはふむと思い直す。
(…確かに、名馬はその脚質や速さはあれ、それは故障と隣り合わせの花道でもあった。ライスシャワーやサイレンススズカの最期は、もう語ることすら憚られる程の…)
「身体が丈夫で、いっぱい走れる!こんなに幸せで楽しい事、他にないってウララは思うよ!オフェリアさんは、マスター!楽しい?」
オフェリアはその問いに、カルデアの時間を思い返す。皆でやるミーティング、レクリエーション、そしてティータイム。思い返せば、楽しくない思い出は皆無と言って良かった。
そして、その中心たるリッカはいつも笑顔だったと思い出す。彼女は何よりも楽しげに、愉快にカルデアのマスターとして振る舞っている。それは目の前の、ハルウララのように。
「あー、また走りたくなってきちゃった!ねぇねぇ、オフェリアさん!また走ってきてもいいかな?」
オフェリアはその問いに、頷いた。本来なら速さという観点で、彼女に見るべきところはもうないが…
「えぇ、見せて。あなたの走りを」
オフェリアは、もう一度。彼女の走りを見たくなったのだ。
〜
「うらららら〜!!」
「…」
レース外から、ハルウララの走りを見るオフェリア。先程見たように、彼女の走りはトレセン学園水準以下の鈍足だ。覆しようもない。しかしオフェリアは、その走る速さではなく彼女、ハルウララを見つめていた。
「楽しそうに走るのね、彼女。なんの結果が伴わなくても、例えどんなに後ろだろうと」
勝者が笑むのは当たり前で、接戦したウマ娘が笑むのもまた不自然ではない。彼女が笑む姿は、きっとどんな順位でも変わらないのだろう。
不真面目、ではない。むしろ逆だ。彼女は走るということそのものを楽しんでいる。そしてその走りは、圧倒的な速さで周りを置き去りにするものではない。
「…ふふ」
見るものを笑顔に、苦境や逆境に負けない笑顔をもたらす走り。どれほど辛くても、輝くものはきっとあると信じられるような走り。それがハルウララが示す走りの真価であるのだ。
「無事此、名馬。…あなたの為にあるような言葉ね、ハルウララ」
オフェリアは既に見抜くことができたのだ。彼女の持ち味と、彼女がグランドウマ娘に選ばれた意味を。
彼女はきっと、緊張しきった中でも変わらぬままでいてくれるだろう。そういった強さもまた、不可欠な要素とオフェリアは信じる。ゆえに──
「ただいま〜!あれ?オフェリアさん、どうしたの?」
「いえ、なんでもないわ。ねぇ、ハルウララ。もし良かったら…私を、あなたのマスターにさせてもらえない?」
「え!?マスターって、マスターってこと!?ウララ、グランドウマ娘ってこと!?」
「そういう事。一緒に頑張りましょう、ハルウララ」
「やった〜!!ウララ、頑張る!よーし!グランドウマ娘として、いっぱい走るぞー!!」
何も、アイドルというものは絢爛な宝石店に並ぶものばかりではない。こういった、輝ける原石だって大切な存在でもあるのだから。
オフェリアは正式に、彼女を相方として迎え入れた。彼女の天真爛漫な走りを、間近で見つめる第一人として。
「グランドウマ娘って、いっぱいニンジンを食べていっぱい眠って、いっぱい走ったらなるのかな?じゃあウララ、グランドウマ娘になれてたんだね!」
「そうね…当たり前のことを、誰よりも上手くできる人やウマ娘は…本当に凄い存在なのは間違いないわね。そういう意味では、あなたは間違いなくグランドウマ娘よ、ハルウララ」
「うー!嬉しいなー!オフェリアさんやみんなのために、いっぱいいっぱい頑張るぞー!」
オフェリアにとっての名馬のイメージは違うとも。彼女を選んだ事に後悔はない。
ニンジンを頬張りながら、オフェリアはハルウララと穏やかな時間を過ごすのだった。
『いい馬ですね。足が遅いだけで』
これは、汎人類史において最高峰の騎手が、ハルウララに贈った評価である。
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