人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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猫「にゃー」
鳩『あれ、君達…どうやってカルデアスに?』

ゴルシ「うおっ!?鳩が喋ってら!?」

キリシュタリア「ちょっと刺激的なドロップキックがあってね…あなたが噂のパパポポ様かな?」

パパポポ『如何にも。カルデアス内部がどうなっているか探索していたんだ。そしてこちらは私の知り合いの猫』

猫「にゃー」

キリシュタリア「…では、こちらの彼の自宅がなぜこんな事になっているかは把握しているのでしょうか?」

鳩『それは…』

「お?なんかあるぜキリシよー。こりゃあ、日記か?」

キリシュタリア「日記…もしや」

鳩『先に言っておこう』

「?」

『ここには彼女も彼もいない。今から読むのは…誰にもなれなかった者の独白だ』

キリシュタリア「……」


断章〜何者にもなれなかった者〜

『某月某日

 

自身は設計されデザインされた人造生命体であり、規定されたスペックを有さなかった事から、軟禁放逐という扱いでここに押し込められた事に気付く。

 

生命活動自体は続いており、特にやることもないため手慰みに記録をつける。せめて、生まれた以上は何かを残したいと感じたからだ。いつまでできるかわからないが、習慣化を目指したい』

 

燃え落ちた自宅における、確保した手がかりたる日記。そこには、人造生命体が収監された日常を綴ったことが記されている。キリシュタリアはそれを読み解く。ゴルシは何か面白いものが他にないかと離れていった。

 

『某月某日

 

身体が重い。身体的素養が水準以下なせいか、歩くだけでも疲労感が酷い。皮膚の痛みや、目眩や立ち眩みも頻発する。

 

眠っていても、呼吸器官や内臓も弱いために自分の咳などで安息はない。用意された身体維持用の薬品などでようやく普通水準に満たされるとの事だ。

 

なにか残れば、といって始めた日記も、うまくペンを握るのにだいぶかかってしまった。記録を終える』

 

それは、ただ生きていくだけの機能があまりにも不足していたホムンクルスの苦悩が、事細かに記されていた。

 

『某月某日

 

頭が痛い。吐き気も酷く朝を迎えるたびに憂鬱な気分になる。朝に起きて、腐敗していく体組織を交換、洗浄する作業を昼まで費やす。終わったあとは、薬品の副作用で夜まで苦しい時間が続き、なんとか収まったら一日が終わっているといった振り返りで終わる。

 

生きることとはあまりにも自分にとって辛い。歩くことも、息を吸うことも自分にとっては難題で、横たわれど窒息の危機に怯える日々が続く。

 

いつか好転する日が来るのだろうか。せめて、身体はまともな機能を確保してほしいものだ』

 

(彼は本当に、誰よりも救いを欲していた存在だったのか…)

 

キリシュタリアはその記録を見て、痛ましげに眉をひそめる。奇跡の出会いは、リッカだけではなかったのだと。

 

『某月某日

 

日頃感じるものといえば、苦痛と苦難ばかりだ。洒落た楽しい思い出を、ここに記すことすらできない。

 

起きていても、眠っていても、歩いても、座っていても、辛さや痛さ、気持ち悪さや苦しさばかりが付きまとう。自分にとって世界とは、人生とは、痛く苦しいだけのものだ。

 

死後の世界、という概念を目にした資料から読み取った。死後の世界は生前の行いにより、行くべき場所が変わるのだと。

 

自分はどこに行くかはわからないが、少なくとも、地獄が今より辛い場所ではないという事は理解できる』

 

 

『某月某日

 

今日は発作と拒絶反応、副作用が凄まじい日だった。

 

痛い、苦しい、死にたい。思い返せばこればかりが去来する。

 

自分の身体である筈なのに、何一つ自分の思うままにならない。自分が生きることは、この無限の苦しみを味わい続けえと告げられている事と同義だ。

 

正直なところ、もうやめたい。しかし、自殺もまた悪として地獄に落ちるらしい。

 

どうして、自分はこうも苦しい目に会い続けるのだろうか』

 

 

 

『某月某日

 

とても痛い。とても苦しい。どうやら寿命自体が迫っているようで、延命処置では誤魔化せなくなってきたらしい。

 

世界は激しく明滅し、吐き気と目眩と、頭痛は増すばかりだ。この文章を描くことに終始しなくては、本当に発狂してしまうだろう。

 

一つだけ、知りたい疑問が生まれた事を記す。

 

何故自分は生まれたのか?

 

何故このように苦しいことしか自分の人生には残っていないのか?

 

自分はそんなにも、罪深い事をしてしまったのだろうか?

 

誰かに教えてほしいが、残念ながらこの塩の牢獄には自分しかいない。

 

目を閉じる。永遠に目覚めないことを期待して』

 

 

『某月某日

 

痛い。苦しい。辛い。苦しい。

 

それしかもう理解できないし、それしかもう自分の人生には残っていないと気付く。

 

なぜこんな想いをしながら生きなくてはならないのか。

 

苦痛のあとに来る希望はいつ来るのか?

 

はたまた、永劫の苦痛のみが自身の宿命だというのか?

 

日に日に身体が死んでいく。何一ついいことがない癖に、死ぬという、終わりの日が近付いてくる。

 

…いや、違う。それは希望だ。

 

死ねばこの苦痛から開放される。この苦痛、無限の苦しみから楽になることができる。

 

…いや、楽という言葉はおかしい。自分の人生に楽だった思い出などなかったのだから。

 

ただ、無がある。死ねば無となり、なにも感じなくなるのだろう。

 

それこそが私にとっての幸福だ。

 

ただ、私は無になりたい。

 

生まれてなんてこなければよかった。

 

こんな、苦しむだけの生命などに価値などあるものか』

 

 

『某月某日

 

絶望と無への希望の中で、とある疑問を懐く。

 

私は何故生まれたのか?どうしてこのような運命を定められたのか?

 

そう考え、私を生み出したのは人間という事実に思い至る。

 

私をこのように生まれさせた人間とはなんだ?

 

なぜこのような苦しむだけの生命を生み出したのだ?

 

人生がこのような苦痛だけだというのなら、何故人間は生きようと思うのか?

 

そんな疑問がふと思い浮かび、考え、たまたま目に止まった人間の創作物を手に取ろうとした時…

 

私は、『神』の声を聞いた』

 

「神…」

『───そういう事か』

 

 

『某月某日

 

神は私に教え給うた。

 

お前が苦しいのは、人がそうあれと望んだからであると。

 

私は苦しむように生み出されたと。

 

その苦しみと悲しみを、人は望んだのだと。罪なき生命の魂を、人は妬んだのだと

 

アダムとイヴ、人類の祖先は神に背き罪を背負った。それは神に逆らった愚かさの証、人間はその子孫だという。

 

人間たちはそれを疎み、自らを罪なきと示すために私を造ったと。

 

そしていざ造られた私を見て、罪なき生命に妬みを持ち、私を貶め辱めたと。

 

神の言葉を聞くと同時に、私は煮え滾る感情を覚える。

 

ふざけるな、ふざけるな人間ども。

 

私が貴様らの罪となんの関係がある?貴様らの愚かさは貴様らの自業自得だろう?

 

私が感じた苦しみも、痛みも、悲しみも、全て貴様らが味わうべき苦痛だった筈なのだろう?

 

生命を冒涜し、私を辱め、知らぬ顔をして私が望んでやまない平穏をこの星で享受しているのか?

 

これは怒りだ。視界が真っ赤に染まる、怒りの感情だ。神はそう教え給うた。

 

人間共への感情はもはや止められなかった。苦痛を、絶望を忘れるほどの怒りが心を満たしている。

 

私は…いや、オレは貴様らを許さん。

 

老若男女、人間一人一人に味わわせてやろう。私が受けた痛みと苦しみを。お前たちが受けるはずだった絶望と贖いを。

 

お前達人間を、オレは絶対に許さない』

 

 

『某月某日

 

この記録も最後になる。

 

この屋敷を焼き払い、その業火の中でオレは息絶える。

 

そもそも人間の用意した塩の色をした牢獄だ。なんの未練もないし、むしろ悍ましくて反吐が出る代物だ。

 

ありったけの可燃性燃料をぶち撒けてやり、火をつけて焼き払ってやった。

 

オレが懐いた怒りに比べれば小火もいいところだが、初めて感じることができた楽しみである事を記録しておく。

 

そして今からオレはこの火に飛び込むのだ。

 

人が造った身体などにこれ以上付き合ってはいられない。

 

神の教え給うた王国へオレは旅立つのだ。

 

そこには苦しみも哀しみもない、至上の王国だと教えてくれた。

 

知ってみたい。当たり前の楽しみや喜びとはどんなものなのか。

 

知りたいのだ。痛みも苦しみもない世界とはどんなものか。

 

醜悪な魂を、肉塊に詰め込んだ畜生共の坩堝などにはもう一瞬たりともいたくない。

 

オレは今から神の愛の中で永遠を過ごすのだ。

 

もし、万が一。この記録を読んだ者がいるならば告げようと思う。

 

──呪われてあれ。お前たちの生命と道行きに、ありとあらゆる艱難辛苦がふりかからん事を。

 

エデンを追われたアダムとイヴのように、オレのように、永劫の苦しみの中で息絶え、遍く地獄の業火に焼き払われん事を。

 

オレにそうしたように、ただただ苦痛と絶望に満ちた日々を送らん事を。

 

さぁ、書くべき事は書き記した。

 

主よ、この身を委ねよう。

 

あなたの築く幸福なる王国に、我が魂を導き給え──』




キリシュタリア「……………」

鳩『…藤丸立香の存在は、このカルデアスには存在しなかった。彼女は転生者の子だ、カルデアスで再現はできなかったのだ』

キリシュタリア「…では、この書き込みの主は」

『グドーシ、ではないよ。グドーシとは、怒りを受け入れ自らの悟りに目覚めたあちらの彼の名前だ。こちらはあくまでも、似た誰かだ』

キリシュタリア「この神とは、まさか…」

『あぁ。楽園が挑む、最後の敵だ。──救世主となり得る魂が一つ、偽神の手に落ちてしまった』

キリシュタリア「…このことは秘匿事項としよう。別人だというなら、リッカやグドーシ君とは関わりない事だ」

鳩『そうだね。あくまでもこれは、似た誰かの話だ。彼は、彼女と会えなかったもしもなのだから』

ゼウス『シンプルにやり口がゲスいのだけはわかった』

ゴルシ「あー!!!」

キリシュタリア「どうしかしたかい!?」

ゴルシ「ウマ令呪が光ってよ!?なんか虹が空に!?」

キリシュタリア「……ウマ令呪も何かを知らせようとしているのか?」

ゼウス『三女神か…御近づきになりたいな』

キリシュタリア「ともかく、今は帰ろう。まずはグランドリレーの完遂だ」

鳩『置換魔術対策に、ここは直しておくよ』

キリシュタリア「お願いするよ」

ゴルシ「結局お宝はあったのかよー?ゴルシちゃん仲間はずれ悲しいぜー」

キリシュタリア「あぁ。あったとも」

「おん?」

「────私達が、絶対に倒すべき相手の指標がね。ありがとう、ナイスドロップキックだった!」

「???」

鳩『……ポ…………(しょんぼり)』

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