人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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オフェリア「大丈夫?行けるわね、ハルウララ」


ハルウララ『うん!でも、いいの?ウララ、いきなり走って』

オフェリア「あなたにしかできない走りをしてらっしゃい。それが私の最高になるの」

ハルウララ『そう?なら、いっぱい走ってくるね!』

オフェリア「そう。あなたは輝けるわ」

(思い知りなさい、メロス。あなたは速すぎるが故にハルウララには勝てないのだから…!)


駆け抜けろ!ウマ娘と繋がる心

「ほう、これはこれは!」

 

バクシンオーが駆け抜ける領域、それは暗闇と星空が広がる不可思議な空間。走り抜ける事により、星が光条として後ろに過ぎ去っていく。

 

「この様な世界を走ることが出来るとは!委員長たる私は星には収まらないというメッセージであるのでしょうか!いやそうなのですが!まさにその通りなのですが!」

 

しかしバクシンオーはその不可思議な光景をものともせずに駆け抜けていく。流れ星となるその光は、バクシンオーの走りが正しく世界を置き去る速さを叩き出していることの比喩だ。

 

「バクシンバクシンバクシーーン!!!」

 

光は見えずとも、令呪の煌めきが進むべき道を示してくれる。バクシンオーはそう信じ、一直線に駆け抜けていく。誰もいないその空間にも、ただ進むだけと言わんばかりの疾走。

 

「おや?」

 

そんな中、バクシンオーはとある声を耳にする。それは、マスター契約を結んだマスターアルトリアの声であることに彼女は即座に思い至った。

 

『バクシンオーは真面目で、頑張り屋で、ちょっと真っ直ぐすぎて面白い娘なんだなって』

 

「アルトリアさんの声ですね、これは!」

 

それはマスターの声。パスにより繋がったアルトリアの声が、孤独なレースにウマ娘たるバクシンオーに届いているのだ。その言葉は、ウマ令呪から伝わってくる彼女の本心。

 

『彼女ならきっと大丈夫。あっという間に走り抜けて後に繋いでくれる。それくらい、彼女は出来て当たり前だって知ってるから』

 

「アルトリアさん…!そんなにも私の事を理解し信じてくれているとは!!」

 

『頑張れ、バクシンオー!いつか全レースを制覇するなら、あんなガチムチなメタルスライムなんかに負けていられないでしょ!』

 

「勿論です!!更に気合をいれてぇ!!バクシンバクシンバクシーーーン!!!」

 

アルトリアの言葉が届き、走り抜けるバクシンオーの眼前に光が満ち溢れる。そう、この孤独の馬場はマスターと令呪こそが完走の肝なのだ。

 

「一番乗りはいただきましたよスカーレットさん!!さぁ、次の方どうぞ!!」

 

ウマ令呪が光り輝き、次なるウマ娘へとタッチされバクシンオーは走り抜ける。彼女は無事、スプリンターの役割を果たしたのだ──。

 

 

「な、何っ!?」

 

メロスが突如速度を落とし、観測されたのはバクシンオーの走りが結実した証だ。彼の聖杯は、過分に魔力を消費している。一時動きが鈍くなるほどに。

 

「来たわマルちゃん!行っちゃって!」

 

同時に、バクシンオーのウマ令呪が切り拓いた聖杯へのアクセスコースが大口を開けている。入念にアップをしていたマルゼンスキーは素早く駆け出す。

 

「オッケー!マルゼンスキー、レッツラゴーよ!」

 

「躓いただけだ、私は負けぬ!!」

 

加速を開始したメロスを追う形で、マルゼンスキーはその空間へと飛び込む…!

 

 

『アタシ、自分はロクデナシだって解ってるのよね。本来ならあんな素敵な輪にいていい存在じゃあないんだけど…』

 

マルゼンスキーがその真紅の軌跡を残す走りの中、ペペロンチーノの胸中を聞く。語りかけているのではなく、響き渡っているものなれど。

 

『でも、カルデアにいられて良かったのは本当よ。皆キラキラしているし、汚れたり後ろめたいものを、そのまま受け入れてくれる人ばかりだし、毎日は楽しいしね』

 

「アロちゃん…」

 

『特にこういう変則的な特異点は最高よ!マルちゃんみたいな素敵な娘と縁結びできるしね!あの自由で颯爽とした走り、あれこそ、私にない奔放さ!ずっと見ていたいウマ娘の走り!』

 

ペペロンチーノはその走りに魅せられていたのだと語る。それは、マルゼンスキーにとって心地よい感覚でもあった。

 

『だから頑張って、マルゼンスキー!今度はまた、とびきりの舞台であなたの走りを見に行くわ!無事に返ってくるのよ、約束ね!』

 

「モチのロンよ、アロちゃん!また一緒に、首都高をトゥギャザーしてブッちぎりましょう!」

 

マルゼンスキーは更にフォーミュラめいた加速を見せる。そしてその走りは、真紅の魔力となり次の走者へ──。

 

 

『人は必ず、善い事をするものだ』

 

「これは、デイビッドさん…の、声」

 

マンハッタンカフェ。友だちの声に導かれ走る彼女にも、マスターの声は聞こえた。絆が、彼女らに声を届かせる。

 

『マリスビリーのカルデアから、オルガマリーとギルガメッシュ王の体制になったカルデアは別物となっている。暖かい居心地や、崇高な理念が介在している良い場所に』

 

(カルデアが、デイビッドさんの居場所なんですね)

 

『尽力していたつもりだが、今回のウマ娘特異点は流石に困った。俺にまともな意思疎通ができるかどうかだが…マンハッタンカフェは俺を信じてくれた。交信と霊感、近いものがあったのかもしれないな』

 

(お友だちは、彼を天使の受信者と言っていた…)

 

『だから俺もカフェを信じる。彼女たちなら絶対にできる筈だ。信頼には、信頼で応えるべきだからな』

 

デイビッドは淡々と、しかし確実な言葉を残す。無駄を削いだ端的な言葉を。

 

『信じているぞ、カフェ。必ず走り抜き、戻ってきてくれ。君は、君だけの世界を有する素晴らしいウマ娘だ』

 

「…はい。必ずや、やり遂げてみせます」

 

ウマ娘のリレーは続いていく。それは、ただの一人も脱落者が現れぬ証でもあった。

 

 

『正直、メロスさんや特異点のお話はあまり関係が無いのよね。今の私やエミヤ君には』

 

(アイリスフィール…?)

 

その不穏気な言葉に少し気を取られたオグリキャップだが、それはすぐに勇気に変わる。

 

『だって、そんなの関係なくオグリの走りを見ていたいのだもの!あの綺麗な芦毛をたなびかせ、荒れ狂う走りと言ったらなんて素敵なのかしら!あの姿に、私はもう夢中なの!』

 

(…!)

 

『マスターとしてではなく、一人のファンとして魅せられてしまったの、私は!もっともっとオグリの走りを見ていたいわ。だからメロスさん、精々いっぱい逃げ回ってちょうだいね!』

 

アイリスフィールの物騒ながらも親愛の籠もった言葉に頬が緩む。本来、人の心は分からずレースは孤独なものだ。しかしこうして、届く言葉は存在する。

 

『頑張れ頑張れオグリ!傍にいなくても、心から応援しているわ!』

 

『君は下馬評、心無い侮りを跳ね除け最高に愛された名馬となった。生まれではなくどう生きるか、どう人生を駆け抜けるか。君を知った日から、君は私のナンバーワンhorseだ』

 

(エミヤコック…)

 

『どうか無事に帰ってきてくれたまえ、オグリキャップ。君の鮮烈で破壊的な走りに見合う、飛び切りのご馳走を用意させてもらうとしよう』

 

「それは…実に、楽しみだ!」

 

更に唸りをあげ、メロスが生成する特異点と聖杯に追い縋るオグリキャップ。彼女が本来聞けるのはアイリスフィールだけの筈だが、エミヤの声も確かに聞き届けた。

 

それは、彼が名もなき者達の代表たる側面を有していたからかもしれないが故の奇跡なのであろうか。それほど彼女は愛されしウマ娘であり、それが起こした奇跡なのであろうか。

 

詳しいメカニズムは至れねど、解ることは。オグリキャップは更に絶好調の脚質において、空間を捻じ曲げるほどの走りでメロスの背中を捉え──

 

「見つけたぞ…!!」

 

グングンと速度を上げ、肉薄し、そして──全く同じタイミングで特異点へ至る。

 

彼女達の奮闘は実を結んでいる。誰も追いつけなかったメロスに、肉薄する事ができているのだから。

 

「ぐおぉおぉおぉおぉおぉお!!」

 

「貰ったぞ…!」

 

残るグランドウマ娘の数は約半数。メロスが静止する瞬間が、刻一刻と迫っている…!

 

 




メロス(なぜだ!なぜカルデアを振り切れない!追い縋っているのか!沈む夕日より速い私に!?)

「背後から近付いてくる輩はわかる、だが追いつけはしていない!ならば何故、。肉薄され捕捉されている!?」




オフェリア『そのままよ、ハルウララ。あなたはいつもどおり、楽しくはしれば大丈夫』

ハルウララ『宇宙を走ってるー!わかった、ウララ、頑張るー!』

(ウマ娘が走る意志を捨てない限り、メロスは逃さない)

『ウララ〜、宇宙旅行〜♪』

(メロス、あなたの速さにハルウララは及ぶべくもない。でもそれ故に、あなたはハルウララから逃げられない…!)

誰よりも遅いウマ娘が、メロスを誰よりも追い詰めている切札となっている。それを、オフェリアは理解していたのだ。

局面は勝負所、最後の直線へなだれ込む──!

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