人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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――王。少しだけ、お身体を宜しいですか?


《む?どうした?またぞろ好奇心が芽を出したか?》


――祈りたいのです

《――・・・?》

――私と王にとって、かけがえのないマスターの無事と、その行き先の祝福を


答えが出るというならば、その魂の解答と道筋に。有らん限りの祝福が宿ることを願って


《――・・・フッ。好きにするがいい。お前は姫。思うままに振る舞うが良かろうよ》

――ありがとうございます!


(シスター服はここにあるよ!)

――ありがとう!フォウ!


「――では・・・私の為したい事を、成し遂げさせていただきます、王よ」

《赦す。祈るのならば存分に、成就を願い存分にやるがいい》


「――はい!どうか、負けないで――」

(・・・・・尊いなぁ・・・)

「貴女の無事を、祈らせてください――マスター、藤丸立香――」


誇り――――傍らに在りし真理――――

「クハハハハハハ!!死ね!死ね!!痕跡も残さず燃え尽きろ!!我が黒炎!貴様らの醜悪さを油として燃え上がり猛り狂おう!!」

 

 

アヴェンジャーの高速飛来による火炎と弾劾が、醜悪なる獣を焼き焦がす

 

 

【いやぁぁあぁあ!!熱いっ!熱いっ!!】

 

 

【お、俺達がなにをしたってんだ!止めろ!止めろ!】

 

 

【何が悪い!親が子を所有して何が悪い――!!】

 

 

「知れた事!!我が弾劾は少女の心無き叫び!!貴様らのおぞましき定義こそ俺が俺足りうる土壌!!『理由なき悪意』『世に蔓延る理不尽』こそ!オレが復讐すべき総てである!!」

 

 

空間、時間という無形の牢獄すらも脱し、アヴェンジャーは虎のごとく煌々と燃え盛る!

 

 

「言った筈だ!!復讐するは我にあり!!俺が!!この俺が!!理不尽に苛まれる少女の!『救いを求める声なき声』に応えぬ筈が無かろうが!!ヤツが心に宿した気高き龍を貶めた悪徳の坩堝よ!オレは!貴様らを引き裂きたくて仕方がない――!!」

 

炎を無数の弾に変化させ、無数の悪意を弾劾する――!!

 

 

 

【何故だ!どうし】

 

「殺菌!!」

 

拳で人面を叩き潰す

 

【私達が何を】

 

「消毒!!」

 

銃撃で人面の風通しを良くする

 

【止めろ!!何故俺達を――!】

 

「摘出!!」

 

人面を掴み、引きずり出し踏み潰す

 

「際限なく転移する悪性腫瘍!切除、摘出こそが最善と判断しました!私は救います!あなた達を救います!」

 

呪詛の怨嗟を感染と定義し、言葉を発する人面を片端から治療していく

 

殴り、蹴り飛ばし、穿ち、抉り、潰し、引き裂き、切り裂き――ありとあらゆる治療が醜悪なる獣に施される――!

 

【痛い!痛い!痛い!!】

 

【止めてくれ!何故だ!私達が何をしたというんだ!】

 

【私は悪くない!皆がやってたからやったのよ!何が悪いのよ――!?】

 

「感染拡大、一斉摘出を続けます!安心なさい。私はあなたたちの総てを救います!!」

 

人体を理解し、逆説的に破壊の仕方を心得ているメルセデス――鋼鉄の天使が、その名の通りに施術を続ける――!

 

「生命を!!救うためなら私はなんでもするわ!!えぇそうよ!なんでも――!!」

 

 

【助けて!助けてくれ!他の奴等はどうなってもいい!ワシだけは助けてくれ!ワシだけは――!】

 

【皆がやれって言ったのよ!ね!?ね!?私は悪くないわ!だって皆がやってたんだもの!】

 

【ひぃい!嫌だ嫌だ!死にたくない!!】

 

【誰かを虐げるのは楽しい!でも自分が痛いのは嫌だ!】

 

【どうか、どうか――!】

 

 

不完全なるビーストif。現在の特性上、見る影もなく弱体化を果たしている。本来の核たる藤丸リッカを有さぬ為、一切のスキルを封じられている

 

完全体なりしビーストifは無論このような醜悪な姿ではない。クラス・ビーストとなったアジ・ダハーカは藤丸立香の肉体をベースとする。その肢体は余さず悪性の鱗と呪詛の紋様に覆われる。口には牙が生え揃い、頭には六本の角を戴く。傍らに雌雄の龍の頭を従える。瞳は黒と紅のおぞましき輝きを湛え、この世総てを愛し、慈しまんとする天真爛漫の笑みを常に浮かべている。子宮の上にはこの世総ての悪を孕んだ事を顕す印が刻み込まれる。自らが喰らい、積み上げた屍にて積み上げられた玉座に座りながら世界を慈しむ人龍こそがその真体。人格は他者を尊重し、美徳を見出だし、その総てを肯定し、背中を押す本来のリッカのものと変わらない。快活にして悪辣たる彼女が振るいし災厄は『対話』。この世総ての悪を言霊に乗せ、対話と交流を良しとするその在り方のみで世界を滅ぼす人類悪。意志さえあらば心に入り込み、あらゆる悪徳を育み肥太らせ喰らう龍の獣

 

『意志さえあらば、魔王すらも手中に収める』人格、知的生命体に対する絶対干渉能力こそがアジ=ダハーカのスキル『ネガ・コミュニケーション』。人類を救う事すら叶う筈だった少女、龍がごとき気高さと高潔さが獣に堕ち果てた末路。

 

心、精神活動を有する者に対する絶対干渉権。心に忍び込み、悩みと望みを瞬時に見抜き、『この世総ての悪』にて願望を成就させる。そして対象を心酔させ人格を汚染し、眷属となすおぞましき龍の悪の叡智。そして喰らう。己が欲するままに愛を注ぎ、総てを捧げさせ、その人間のありとあらゆるものを愛の名の下に食らい尽くす。自らを愛してくれた生命体に感謝し、愛して愛して愛し抜く。このビーストに魅入られた者は、余すことなくその身に獣龍の愛――『この世総ての悪』を詰め込まれるのだ。それはまさに、己のみを生命体として認識せず、他者を同じ存在として見れない獣の求愛であるのだ。知性体である限り、けして獣龍の贄となる運命からは逃れられない。心に悪性が僅かでもあるならば、アジ・ダハーカはそれを必ず見つけ出し、育み、慈しみ、食らい尽くす。世界は総て邪悪なる龍の食事場であり、あまねく生命は愛を注ぎこみ取り込む餌でしかない。そしてそれは――知的生命体として最低限の精神があるならばアジ・ダハーカの餌となる。外宇宙からの存在、非生命体にすら適用される

 

そしてそのスキルはそのまま昇華する。無限の愛を以て。尽きぬ好奇心と感謝を以て星を食らい尽くす。一人の少女の在り方を反転し、極限にまで堕落、獣の権能として昇華した原罪のif

 

万象嘲嗤う邪悪なりし龍(アジ・ダハーカ)』――言葉こそが牙、会話こそが火炎。ただそこに在るだけで総てを喰らう獣なりし龍。あらゆる生命は彼女の餌であり、星そのものは彼女の愛を満たすべき食堂である

 

――が。それらのスキル、原罪は主たる藤丸リッカの美徳の認識、罪からの訣別にて剥奪されている。胎動せしまま引きずりだされた今の目の前にあるアジ・ダハーカは胎児を無理矢理外界に出したようなもの。力を持たぬ瀕死の獣である。人類悪に寄生せし彼等の言葉は、浅ましき命乞いの域を出ない

 

 

――そんな身勝手な嘆願を――

 

「死に果てるがいい――!!!」

 

 

傍らに寄り添う紅蓮の魔女は聞き届けるはずはない――!!

 

【【【ギャアァアァアァア!!!】】】

 

 

「あはははははは!!随分とよく燃えますね!!当然です!我が炎は堕落せしもの、愚かなる者を焼き尽くす弾劾の刃!熱いですか?苦しいですか!?――くたばれ、有象無象ども!!お前たちなど!灰すら残しはしない――!!!」

 

 

【【【何故、何故、何故!どうして――!!】】】

 

 

「お前たちが味わう苦悶や苦痛など――リッカが味わった絶望に比べれば塵に等しい!!死ね、燃えろ、消え失せろ!!お前たちの居場所など、地獄にすら在りはしない――!!」

 

炎は燃え猛り、燃え盛り、荒れ狂い

 

 

罪過を焼く地獄の業火となりて獣を焼き払う――!!

 

 

【【あはははははは!あはははははは!!】】

 

その弾劾を受けながらも、獣は嘲笑う

 

 

【【無駄!無駄!私達は滅びない!私達は消え去らない!何故なら我等はあの女を核とするもの!ヤツが有る限り、我等はビーストif・アジ・ダハーカとして在り続ける!】】

 

「・・・!」

 

【【ヤツに『誇り』など在るものか・・・!ヤツは我等の模倣品!そう在れかしと育ててきた!ヤツの身につけた総ては私達が身に付けさせてやったもの!『傲慢』すら懐けぬ人間としての欠陥品に!我等を切り離すこと叶おうか――!!】】

 

「傲慢――誇り・・・」

 

【【故にこ――】】

 

「クハハハハハハ!!」

 

「処理!!」

 

醜悪な男と女の面を叩き潰すメルセデス、アヴェンジャー

 

 

「――気付いたな!エデなりしアヴェンジャー!」

 

「アンタ・・・」

 

「お前は見てきた筈だ!マスターの輝きを!見てきた筈だ!マスターの足跡を!――それが最後の鍵だ!この獣を討ち果たす最後の一手だ!!」

 

「――っ・・・!」

 

「お前が『傲慢』を打ち破る最後の希望!故に!オレはお前を招いた!!――さぁ、行け!あそこで頭を捻っているマスターに伝えてやれ!!――ジャンヌ・ダルク!!かけがえのない者のためだけに、旗を振るい憎悪を燃やす誇り高き英雄よ!!」

 

「精神的安静を与えてください。隣人患者への呼び掛けは、尊き万能薬でもあるのですから――――開口!!」

 

【【止めろ!リッカに意志など――】】

 

「黙れ!!親とは子を慈しみ、育て、やがて旅立ちを見送るもの!!貴様らは親などではない、語る資格もない!!『生命を謳歌する権利は、あらゆるモノに赦されている』!!その反吐が出る傲慢!我等が完膚なきまでに!!鮮やかに!!焼き尽くしてくれる!!」

 

 

「最優先で摘出します――!!」

 

背中を押され、マスターの前に突き出されるジャンヌ

 

「あっ――」

 

「うーん、うーん、うーん・・・!あ!ジャンヌ!どうしよう!?どうしよう!」

 

あたふたと慌てるリッカ

 

「私、自慢できるようなもの持ってない!あわわ、どうしよう!よく考えたら基本習い事だけだったし!グドーシにサブカルで勝てるわけないし!どうしよう!」

 

「――・・・自慢できるもの、ですか」

 

 

――あぁ、全く。このマスターは、本当に・・・

 

 

「――ばかっ!」

 

ぽかっ、とリッカの頭を叩く

 

「あいた!?」

 

「落ち着きなさい、私のリッカ。――貴女の自慢できるものなんて。もうとっくに持っているじゃありませんか」

 

 

「え――?」

 

 

【【止めろ!止めろ!止めろ――!!!】】

 

醜悪なる獣が吼えたける

 

 

【【教えるな!!認識させるな!!ヤツは!ヤツは!!】】

 

 

「致命的な綻びはそこにある!!さぁ、告げるがいい!!――訣別の時だ!!」

 

 

「まさか、当たり前すぎて忘れてしまいましたか?・・・なら、私が言わせてもらいますね」

 

 

【【止めろぉおおぉおおぉおお!!!!】】

 

 

 

 

――ジャンヌ・ダルクは告げる

 

 

「――貴女は『藤丸リッカ』。好きなことはコミュニケーションと、サブカルチャー全般。嫌いなことは、裏切りと先入観。――貴女の信念は・・・」

 

 

――彼女が意識せぬまま掲げていた『誇り』を

 

 

「『意志があるなら、神様とだって仲良くなってみせる』――でしょう?私の、大好きなマスター――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そう、だ――――――

 

 

 

何故、今まで気づかなかったんだろう

 

 

 

何故、今まで忘れていたんだろう

 

 

自分は在る。ここに在る

 

 

在ったんだ。確かに

 

 

誇りなんて、探すまでもなかった

 

 

 

グドーシが、私を救ってくれた

――どうか、善き旅路を

 

高校生活の皆は、私を受け入れてくれた

 

――お前は男とか、女とか。気にしないで皆と触れあってくれる。だから、性別リッカって言うんだよ。親しみ込めてな。メチャクチャ失礼だけどな!

 

――カルデアの皆は、私にかけがえのない時間をくれた

 

アナタは、私達の大切な仲間なんだからね。それは、マスターでなくても同じこと

――オルガマリー

 

そして、僕は運命に出会ったんだ――

 

 

――ロマン

 

先輩は、私の大切な先輩です!

 

――マシュ

 

そして――

 

 

――ふはははははは!それでこそ、我のマスターを名乗るに相応しい!!

 

――大好きな王様、ギル

 

そうだ。そうだった

 

それら総てが私の『誇り』

 

 

グドーシとの出逢いから始まった私の総てが、私の掲げる『誇り』そのもの

 

 

グドーシの導きで出逢えた皆との絆こそが。私の『誇り』

 

 

――そうだ

 

 

そうだ。今世界は危機に陥っている

 

総ての人が、誰かの助けを待っている

 

 

世界中が――私を待っている!

 

 

世界中が、私を見つめてる!

 

 

そうだ!今世界を救える力を振るえるのは私だけなんだ!

 

 

世界を覆い尽くす、哀しみの未来を!

 

 

振り払い!

 

立ち向かい!

 

――かけがえのない愛を護る事が出来るのは!皆に支えられ、絆を背負って、いまここに立っている私だけなんだ――!

 

 

誰かの為じゃない

 

誰かに押し付けられたからじゃない!

 

 

私自身が望む、私自身の願いの為に――!!そう!私は――コピーなんかじゃない!!

 

 

高らかに叫ぼう!!私は此処にいる!

 

 

 

私の誇りは此処にある!!私は心に、総てを滅ぼす獣を宿す化け物であり…!!

 

 

――その闇を抱きしめ、光へと進む!!この世でたった一人の存在!!

 

 

その名は――!!

 

 

 

【【止めろぉおぉおぉおぉお!!!】】

 

 

「ッッ!!」

 

ジャンヌ・ダルク諸とも噛み砕かんと傲慢の怪物が牙を唸らせ食らいつく!

 

「この――!!」

 

――だが

 

「――ありがとう。ジャンヌ。私、やっと見つけたよ」

 

その二体を、瞬時に童子切安綱が切り裂く

 

 

「――リッカ!?」

 

【【ギャアァアァア!!リッカァアァア!!おま、お前はぁあぁあ・・・!!】】

 

晴れやかに、迷い無く。真っ直ぐに獣を見つめる

 

 

【【親に、親に手を出すのか――!!お前を育ててやったのは】】

 

 

「黙れ!!」

 

 

【【!!】】

 

チャキリ、と刀を高々と掲げる

 

 

「そして聞け!!この場にあるものが、この世総てだって言うんなら丁度いいや!!」

 

そして、少女は告げる

 

 

「私は藤丸リッカ!!マスター番号48番!!身長158㎝、体重ヒミツ!!スリーサイズは上から84、56、82!!好きなことはコミュニケーション!サブカルチャー全般!!嫌いなものは先入観と裏切り!!カルデアのたった一人のマスター!!世界を救う為に戦ううら若き乙女!!彼氏募集中!!私の『誇り』は――」

 

 

瞬間、獣に輝きの楔が穿たれ、鎖ががんじがらめに巻き付けられる

 

 

 

「意志があるなら!神様とだって仲良くなる!!この在り方が、この生きざまが!――人類最後のマスターという『この世総ての救済』を担う立場こそが!!私の総てだ!!」

 

 

高らかに叫ぶ。地獄を蹴散らし、吹き飛ばす

 

 

 

「――嗚呼。それが。――世界を救う『人間』の姿だ。藤丸リッカ――」

 

万感の想いで呟く、アヴェンジャー

 

――ここに、『獣』は討ち果たされ

 

 

あらたに『人』が新生を果たす――

 

 

そして――

 

 

『――まぁ。あらま勇ましい。出番を端折られてとても残念だったけれど、この瞬間のためにあったというならば納得させていただくしかありません。とても逞しく、雄々しい輝きの魂です事。――えぇ、あまりに眩しくて』

 

 

【――――!!?】

 

幽世から、彼岸から、『それ』は届く

 

 

『うっかり手元が狂ってしまったわ。――不躾な横槍、いいえ。横刀を赦してくださいね。――さぁ、御別れのときは近いみたい――』

 

 

それは、不死そのものを殺し、不死にすら安寧を与える

 

 

――無垢なる式の、空の一太刀――

 

『部員の皆様が仰っていたお姫様はいないのね・・・それではいつか、また。誰もが寝静まる夜に出逢いましょう――』

 

 

《――ようやく人として目覚めたか。フッ。長い、あまりに長い幼年期であったな》

 

愉しげに呟く王

 

 

「――・・・・・・」

 

シスター服に身を包み、手を組んで祈りを捧げる英雄姫

 

「――どうか、マスターが。この愉悦と愛に満ちた――素晴らしき世界に舞い戻る事が出来ますように、貴女と、貴女の取り巻く総てに祝福と、幸福が充たされますように――」

 

――この世界は、貴女を待っています

 

どうか、哀しみや、悪意に負けないで

 

 

――ワタシは、私達は・・・貴女と、貴女の総てが、大好きです

 

 

同じ様に――世界の総ては。かけがえのない貴女を待っているのだから――

 

《・・・祈りを捧げる、か。誰に届くやも知れぬ自己満足ではある行為だが――他ならぬお前の願いだ。我が叶えず誰が叶える》

 

 

ゆっくりと呟き、手のひら大の鍵剣をちゃらりと握る

 

 

《裁定は下った。人類最後のマスターは人として自らを定義した。――ならば、誕生祝いの一つも用意してやらねばなるまい――おっと》

 

ポイ、と波紋に鍵を投げ入れる

 

 

《うっかり手放してしまった。我も優雅めを笑えぬな。――所詮余り物の錆び付いた鍵、一度しか使えぬしな。どこぞの地獄に紛れようが特に問題はあるまいよ。ふはははは!!》

 

 

王は笑い、姫は祈り続ける

 

 

「例え、貴女が選ぶ姿がどのようなものであっても――ワタシは、貴女の魂を愛しています――」

 

一人の少女の、無事を願って――

 

 

 

【【【グァアァアァアァアァア!!ァアァアァアァアァアァアァアァア!!!】】】

 

 

断末魔の悲鳴をあげるアジ・ダハーカ

 

 

「完全に依るべを無くしたか!クハハハハハハハハハハハハハハ!!良いぞ!!宴の終幕だ!!獣よ!!知るがいい!!貴様はけして――恩讐の彼方に至ることはない!!」

 

いよいよ以て、黒炎が最高に猛り狂う!

 

 

「完全治療――滅菌を完遂します」

 

 

ゆっくりと、銃をホルスターに差し込み、両手を開く

 

 

「ありがとうね!ジャンヌ!――あなたがいなかったら、気づけなかった!」

 

力一杯抱きしめる

 

「そんなに畏まることじゃないですよ。ただ――」

 

ゆっくりと、その温もりをジャンヌは噛み締める

 

「事実として・・・その誇り高い生き方に救われた、小娘がいたという、だけの話です。――誰にも求められない筈だった贋作の私を――『英雄』にまで導いてくれて――」

 

ぎゅっと、力を込める

 

「泡沫の夢を、かけがえのないモノにしてくれて・・・ありがとう。リッカ」

 

「うん、うん!」

 

 

【はーいちょいと失敬~!空気の読めないヤツが通りますよっと~!】

 

ぐいっと、いつのまにやら現れた少女が二人に割り込む

 

【戦場でラブロマンスしてたらぐっさり行かれるぜ~?そーいうのはね、部屋でやんなさいよ部屋で】

 

「・・・!?」

 

 

――そこにいたのは、藤丸リッカだった。マッパの

 

 

胸の部分、腰、頭に紅い外套を巻き、身体中におぞましき紋様を穿ち、嘲笑いを浮かべる軽薄な顔つき

 

【よう!可愛いほうの後輩さん!そんで、眩しい眩しいマスターさんよ!わりぃけど無許可で姿借りちゃってますがまぁ、多目に見てくださいなと】

 

差異はあれど、それは確かに・・・

 

 

「は?アンタも敵ですか?」

 

【そりゃあ敵ですよ?私が敵じゃなきゃ誰が敵なのよって話。誰にでも都合のいいラスボスそれが私。以後お見知りおきを。この世総ての悪が出たってんで、ちょいとお姿を借りてですね?先輩の威厳をみせるためにですね?心の深いふかーいとこからやってきた次第?や、私よりやべぇのがすみつい・・・まぁそれはいいや】

 

ヒヒヒ、と嗤う藤丸立香をまといしモノ

 

 

【ともかく!美味しいとこはいただくぜぇ?何せ最弱の英雄の大一番だ!乗るしかねぇ!このビッグウェーブに!アンタが無意識に溜め込んだ苦痛、煩悶!余さず返礼してやるから見てなって!なぁに、『末代まで呪う(いいところ)』見せてやっからさ!】

 

「――あなたも、この世総ての悪なんだね」

 

【御明察ぅ!――あぁ、もうアンタには不要なものだ】

 

 

ゆっくりと向き直り、背中越しに告げる

 

【背負うのは獣じみた観念にしときな。――この世総ての悪なんざ『人間』が背負うものじゃないんだからよ】

 

グッ、とサムズアップを二人に贈る

 

 

【光はあちら、深淵はこちらだ。ママンに宜しくな!精々みっともなく足掻きやがれよ!】

 

 

「まっ――あいたぁ!?」

 

引き留めようとしたリッカの頭に

 

「・・・なんですか、それ?」

 

 

錆び付いた鍵が当たり、手の中に収まる

 

 

「――あぁ、やっぱり・・・見ててくれたんだね。ギル――」

 

ぎゅっと、握りしめる

 

「――さぁ!決めよう!ジャンヌ!!」

 

 

「はい!!リッカ!帰りましょう!楽園に!!」

 

 

――宴の幕が、下ろされる!

 

 

 

【【【【ガガガ、ガガガぁあァアァアぁあ⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!】】】】

 

 

【おーおー苦しそうですねぇ。ま、そらそうか。胎児が外に引きずり出されたようなもんだ。さぞかし辛いでしょうねぇ?NDKってやつ?】

 

嘲笑いながら、ゆっくりと姿を変えていく

 

 

【だがまぁキツいのはこっからだ。――覚悟は出来てるよな、お前ら。人を『呪う』っていう意味をさ】

 

【【【【⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!?】】】】

 

 

【人を呪わば穴二つってな。誰かを呪った輩は、呪った輩より深い深ーい穴に落っこちるのさ。――忘れてないぜぇ。お前らが私にしてくれたこと、入念にたっぷり。お前らの大本、オリジナルの魂にまで返してやるよ――!!!】

 

黒き少女の姿が変わる。身体中にびっしりと呪詛を刻んだ獣――

 

 

否――雄々しき翼、巨大なる体躯。6本の角。身体中に力をみなぎらせ、地獄を確かに二本の脚で屹立する、漆黒の龍が現れる

 

 

逞しい両腕には『龍頭』を象ったガントレットが装着されている。真紅の眼をギラリと輝かす、漆黒の三頭龍

 

腐り果てた獣を見下ろす、一人の少女の深淵をかたちどった似姿――!

 

其は、光にて抱きしめられ続けた、リッカが抱く深淵にて抱く闇

 

――ゾロアスターの悪龍、アジ・ダハーカの具現である――!

 

 

【ここは地獄の底なんだろ?なら私の独壇場!呪いを魂にかけるなんて造作もねぇ!おまけに私を育んだアイツはとびきりの器だったんでね!恨み骨髄、堪忍袋もギチギチよ!――散々人を呪っといて平和を満喫できるなんて思うなよ!自業自得!因果応報!下手な呪いは身を滅ぼすってな!誰一人にがしゃしねぇ!!私と一緒に、無に行こうぜ!!同じ穴のムジナ方!!】

 

 

【【【【い、いやだ!いやだいやだいやだ!!助けて助けて助けて助けて助けてくれ!!死にたくない!死にたくない死にたくない死にたくない!!】】】】

 

 

【ゴチャゴチャうるせぇ!!私がんなもんいつまでもどこまでもきいてやらぁ!!てめぇらの自業自得だ!!――光射す世界に行く前に、ツケは存分に払ってもらうぜ!――逆しまに死ね!!!】

 

 

邪龍を象りし、原初のアヴェンジャーは吠える!

 

 

【『偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』――!!!】

 

 

それは原初の呪い

 

自分の傷を、傷を負わせた相手の魂に写し共有する呪い

 

 

――藤丸リッカの中に宿りしこの世総ての悪が余さず記憶した、魂に受けた苦痛を

 

 

同じ様に、総ての魂に叩き返す因果応報の呪詛――!!!

 

 

【【【【【【ギャアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァア――!!!!!!】】】】】

 

積もり積もったその総ての呪いと苦痛を、正しく返礼されるビーストif。そしてその呪いはこの世の総ての悪を辿り、藤丸リッカを害した魂総てを捉え、刻み込む――!!

 

【これぞアヴェンジャー先輩究極奥義!『末代までフォーリン・カース』!呪いの先約呪詛残しってなぁ!人理が戻ったときをお楽しみに!この世の総ての苦痛と絶望を、必ずや皆さま方にお届けいたしまぁす!!ヒャハハハハハハハハ!!私ツエ――――!!!!溜め込んだ分は!じっくりしっかり返してやるよ!なにせそれが『復讐』の本懐って奴なんだからよ!!】

 

 

人類悪を心から嗤いながら

 

 

 

【――行け!!人間サマ!!人類最後のマスターさんよ!!もう二度と、私なんかに関わるんじゃあねぇぞ――!!】

 

 

リッカの深淵に澱んでいた何者かは、闇に溶けるように破滅し、消え去った――

 

 

「いまだぁっ!!!」

 

 

リッカの意思に呼応し、鍵が砕け散る

 

 

同時に展開されしは――

 

 

「ギル!!使わせてもらうね!!『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』!!」

 

 

豪華絢爛なりし、王の財宝!人間の可能性――!!それらが一斉に襲い掛かる!

 

 

【【【【ぐぎゃあァアァアァアァア!!】】】】

 

余すことなく身体を串刺しにされるビーストif。財に情けも慈悲もありはしない

 

「お母さん!力を貸して!『牛王招力・怒髪天衝』!!」

 

『えぇ――!勿論ですとも――!』

 

リッカが母の愛を形にし、五人となりビーストifに躍りかかる!

 

 

ビーストifの翼をへし折り、脚を砕き、肉を裂き、骨を粉々にする神使達!

 

『我が子に宿るは私のみ――!あははははは!さようなら、さようなら!私が引導を渡しましょう――!』

【【【【【グギィイィイァアァアァア!!!】】】】】

 

「ジャンヌ!!」

 

「はい!!――これは『矜持』と『決意』によって磨かれた、我が魂の咆哮!!」

 

ジャンヌは胸に抱いた、憎悪を補填せし感情を燃やし尽くす――!!

 

「『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』――!!」 

 

ビーストifを、鮮やかなる真紅の炎が焼き果たす!

 

【【【【【ギィイィイアァアァアァア!!!】】】】】

 

悪性を撒き散らす人面が、有象無象が完膚無きまでに焼き払われる!

 

「我が行くは!我等が往くは恩讐の彼方――『虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)』!!」

 

あらゆる軛を脱する巌窟王の超速にて分身した個体総てが、ビーストifを焼き尽くす!

 

【【【【【⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!!!】】】】】

 

身体中に炎を受け、腐り落ちていた大半の身体が消し飛ばされる

 

「全ての毒あるもの、害あるものを絶ち!我が力の限り、人々の幸福を導かん!!」

 

戦場を駆け、死と立ち向かった天使の精神性が昇華され、更には彼女の逸話から近代にかけて成立した「傷病者を助ける白衣の天使」という看護師の概念が結び付いた宝具を開帳する!

 

背後に超巨大な看護師の似姿が現れ、手にしたあらゆる毒性と害意を切り裂く、清廉潔白なる大剣を――毒そのものであるビーストifに振り下ろす!!

 

 

「『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』――!!」

 

 

その真名。フローレンス・ナイチンゲール

 

 

あらゆる生命を救うために奔走した、クリミアの天使である――!!

 

【【【【【【うぎゃあぁあぁあぁあ!!!】】】】】】

 

 

毒そのものである悪性にて形成されたビーストifが、真っ二つに両断される!

 

そして――――!!

 

 

 

「うぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!!」

 

 

人類最後のマスターが、引導を渡しに駆け抜ける――!

 

 

【リッカ!リッカ!助けてくれ!痛いんだ、辛いんだ!娘だろう!?お父さんを助け――】

 

 

父であった傲慢の首を叩き斬り

 

 

【私だけは助けてくれるでしょう!?ね!?ね!?私はあなたのお母さ――】

 

母であった傲慢を刀から放つ雷で粉々に吹き飛ばし

 

 

「だぁぁあぁあぁあぁあぁあぁあっっっっっ!!!!」

 

 

跳躍し――腐り落ちた竜にめがけて刃を振り下ろす――!!!

 

 

【あははははははははは!!あははははははははは!!ありがとう!ありがとう!!この世の総てに――ありがとう!!あははははははははははは!!!】

 

 

 

――誅罰、執行

 

 

 

母の想いを抱いた刀は、確かに振り下ろされ、邪悪なる獣の首は断ち落とされる

 

 

【――もう、おしまいなんだね?】

 

 

「――――うん。貴女の居場所は、そこじゃない。」

 

ゆっくりと、刀を収める

 

 

「でも――私の大切な人たちには、かけがえのない居場所がある。なら私は未来を取り返す。皆が望み、私が望む明日のために。皆の幸せが、私の望み。私は私のために戦う――戦う理由は、それだけでいい」

 

 

崩れ落ちる、あり得た自分の姿に訣別を告げる

 

 

「さようなら、私から産まれた獣。――私は、貴女をけして忘れない。あなたという獣を抱きしめて、私は進むよ。――世界を救うために」

 

――崩れし獣が、何かを告げる

 

【――――うん。貴女のために、世界を――救えるといいね――】

 

 

それは幻聴か、はたまた幻覚か

 

 

――その答えを胸に抱き

 

 

跡形もなく消え去る、ビーストif

 

・・・もはや、シャトー・ディフに獣の兆しはない

 

 

「――救うよ。必ず。私が、私であるかぎり」

 

 

拳を高々と突き上げる

 

 

「獣みたいに、私は走る。邪魔するなら誰だろうと蹴散らして進む。化物と言われたって構わない。ビースト飼ってた私に、もう怖いものなんてない。人が人として生きていられる世界を・・・私は人間として望み、追い求め、つかみとる!その為なら、私は誰よりも速く駆け抜ける!私はもう二度と、私であることから逃げはしない――!!」

 

 

獣は――地獄の底にて倒された――

 

 




――ハッピーバースデーでござるよ。リッカ殿――



・・・逢わなくてもいいのか?


無用。拙者とリッカ殿は既に今生の別れは済ませた身。――英雄の身ならぬ拙者など、リッカ殿の歩みの妨げにしかならぬでござる。――お呼びはかかった気がしないでもないでござるが、返事は決まっているでござる

だが・・・

優しいでござるな、・・・良いのでござるよ。拙者は天国にも地獄にも、座にも用は非ず。流れ着いたこの場所で、親友の快進撃をただ、見守るのみでござる。・・・あ、匂いますかな?

いや――貴方は、美しい

勘弁してくだされ。確かに醜悪な器から解き放たれたは良いでござるが、魂の見た目など傍目からは解らぬでござるからして。――ホムンクルスの先達たる貴殿とは比べ物にならんでござる

・・・自信を持て

タラシでござるなぁ・・・

・・・世界は救われるだろうか

無論。我が親友有る限り。それはけして覆らぬ約束された結末でござる。何せ・・・我が親友は最高なのですから!

・・・なら、同じように信じよう。君の親友と、その傍らに在る、誇りを燃やす彼女を

それが宜しい。――進むでござるよ。リッカ殿



――どうか、善き旅路を。我がかけがえのない、永遠の親友よ――

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