ベリル「おいおい、装備一式だなんてちょっと大袈裟…」
『狩人の装束』
『仕込み武器』
ベリル「えぇ…?」
ニャル【死なないように身を守れ】
「死ぬ!?」
「なんか小さくてかわいいやつ、ねぇ…だから略してちいかわなのか。安直だなオイ」
【口を慎め、シンプルイズベストだぞ。さっき装備は渡してやった。さぁ、調査と休暇を開始しろ】
休暇って上司に見張られながらやるもんか…?そんなほのかな疑問を懐きつつ、ベリルは休暇にやってきた世界を探索し始める。空は青く、のどかな風景が広がるうららかな場所。なんの憂いも心配もない、天国のような場所だ。
「そんな場所になんで俺はこんなガチガチの装備してるのかねぇ…」
それに対し、ベリルは支給されたガチガチの漆黒狩人服に身を包んでいる。ニャルより渡された変形武器、ノコギリランチャーを構えながら、妙な等身になりつつ歩いていく。
【いずれ解る。きっとお前は私に感謝することになるだろう】
まぁ邪神が絡む以上最悪な事になるのは規定事項だと全てを受け入れベリルは歩みを進める。いちいち突っ込んでいては色々もたないのだ。メンタル、主に正気的な意味で。
「ん?あ、おい旦那!あれって…」
そこに、ベリルがとあるものを見出した。発覚したそれに向けて、走り寄る。その迂闊さを、あえてニャルは責めない。
「おいおいおい、炊飯器だ!炊飯器が埋まってるぜ!中身は炊きたてご飯じゃねぇか!」
どうなってんだ一体!?ベリルが叫ぶのも無理はない。そこには電源オンの炊飯ジャー、そして中にはアツアツのご飯が詰まっていたのだから。炊飯ジャーが地面に埋まっている。しかしそれだけでは終わらない。
【見ろ。あそこにはどら焼きが成っているぞ。あっちにはピザまんが置いてある】
「はぁ!?菓子やピザまんが群生してるってか!?」
【湧きドコロ、といってな。ちいかわワールドにはそういう、食事が成る場所が点在しているんだ。故に、そうそう食うのには困らん】
おいおい、まじかよ…。ベリルはその生命維持の容易さに感嘆を漏らす。生物の絶対原則は食事だ。食料の為なら殺し合いだって起きる。そんな食べ物が、そこら中に成っているというのならそれはもう喧嘩するのが馬鹿らしいというものだろう。
【義務教育だの労働だのは生きていく為にやっていくものだ。そこにはそれがない。生きていくだけなら湧きドコロの飯を食い、寝て、また湧きドコロを探せばいい。シンプルな世界だろう?】
「…マジでこれ、食っていいんだよな?」
【毒や罠といった世界観ではないから安心しろ。さぁ、腹ごしらえを済ませてしまえ】
ニャルに促されるまま、そこらに生えた料理を食べていくベリル。味も最適化されるのか、口いっぱいに甘味や旨味が広がっていく。
「美味い!イケるぜ旦那、どこから見てるか分からねぇがお一つどうだい!」
【エキドナのお弁当があるから結構だ。腹ごしらえが終わったら寝ても構わんぞ。そこはあらゆるものが許されているからな。休暇故に、好きにゴロゴロしようとも咎めはしないぞ】
「マジでか!ラッキー!じゃあ遠慮なくそうさせてもらうぜー!」
ベリルは身体を野原に投げ出し、大きく深呼吸して空を仰ぐ。最近ではモルモットや実験、特異点先行調査や要人暗殺など多種多様な仕事をやってきたため、その疲れを癒やさんとするにはうってつけの時間として割り当てることを彼はえらんだ。
「のどかすぎる時間だぜ…ニャルの旦那が関わってるのにこの平和っぷりはどうだい。なんかチャンネル間違えてねぇか?」
【中々余裕が出てきたな。でもなんかお前に馴れ馴れしくされるの不愉快だから殺していい?】
「壁が高ぇなぁ…旦那との親交度の度合いがよぉ…」
何もしなくていい、ただ生きていくだけでいいその世界の穏やかな時間を、ベリルは心ゆくまで堪能する。
「粋な休暇だぜぇ…ありがとよ旦那ぁ、アンタの事ロクデナシだって誤解しちまってたぜ…」
【気にすることはない。純然たる事実だからな。お前を平気で使い潰せるわたしがだれかに優しくできる事こそ奇跡だ。はじめから聖人では意味がない】
「となると、オレはアンタのアイデンティティの証明ってことかい?恐ろしい邪神であるためのさ」
【そうだな。お前で自分の残虐性や嗜虐性等を確認しているのは事実だ。…愛するものが増えたのは嬉しいが、護るために神格の部分は捨ててはならないからな】
ニャルは敵が多い。それを踏まえて家庭を持ったのだから、覚悟たるや推して知るべしであろう。優しく甘くなっていくのは良いが、それを完全に受け入れてはならない。ニャルは普段より不安定なバランスなのかもしれない。
となるとベリルのアレコレは…照れ隠しであるのか?そう思うものも現れたがそんなことは決してない。頑丈なモルモット、それ以上でもそれ以下でもないのだろう。
「…ところで旦那、一ついいかい?」
【なんだ】
ふと、ベリルには懸念があった。それをニャルに訪ねてみる
。
「湧きドコロの食料は無限なのかい?」
【湧く限りはな。他の生物も喰らいはするが、取り合いの中で無くなったという機会は聞かないままだ】
「もし、湧かなくなったらどうなるんだ?」
【お前を含め、多くの人連中が餓死するだろうな】
「…家とか、ないのか?ここ」
【あるわけ無いだろ。欲しければ金貯めるか懸賞で当ててみるんだな】
「じゃあこのまま雨でも降ったらよ…」
【ずぶ濡れで死ぬ思いをすることになるぞ】
ベリルは立ち上がった。のんびりするのは後でいい。即座に拠点を確保しなくてはならないのだ。雨や風よけは必須だ。大いに生活水準を上げなくては野垂れ死ぬのだから。
「急げ急げ!雨が振る前になんでもいいから金目のモンをいただいて資金にしなくちゃならねぇ!」
【討伐か草むしりか…どっちが好きだ?】
「なんの話だよ!?」
ベリルの困惑しきりな対応に、ニャルはニヤニヤしながら見守っている。
【教訓其の一。ただ生きているだけなどそうそう出来はしない】
「現実をちゃんと見ろって事だなチクショー!!」
バタバタと走り回っていたベリルだが、その時…
「だいじょうぶ〜?」
「うぉおぉ!?」
突如ひょっこり現れてきた、この世界のなんか可愛くて小さいヤツ族の個体がなんとベリルに接触してきたのである。流石にこれにはベリルも面食らう。
「な、な、なんだこいつは旦那!?」
【慌てるな、ちいかわ族だ。まだ害はないだろう】
「だいじょうぶ〜?だいじょうぶ〜?」
好奇心旺盛そうに見つめてくるベリルはバツの悪さを感じながらも邪険にできないでいた。
「だいじょうぶ〜?あ!だいじょうぶ〜!」
すると、だいじょうぶちいかわがヒョイヒョイと向こうへ行ってしまった事を確認する。
いや、ついてきてと言ってるのだろう。しきりに跳ね跳び、所在を見せているからだ。
【ついて行ってみろ。何かわかるかもしれんな】
ニャルに促され、ベリルはそのちいかわ族へとついていく。待っているものは、果たして…。
だいじょうぶ宅
だいじょうぶちゃん「だいじょうぶ〜!」
ベリル「おいおい、マイホームじゃねぇか。いい生活してんなぁ」
だいじょうぶちゃん「だいじょうぶ〜!」
ベリル「…泊まらせてくれんのかい?」
だいじょうぶちゃん「だいじょうぶ〜!」
ニャル【良かったな、ベリル。一つ分かったか?】
ベリル「あぁ、よくわかったぜ…」
ただ生きているだけも案外難しい。遊びや道楽、娯楽などの色彩がなくては人がもたない。確信のベリルであった。
だいじょうぶちゃん「だいじょうぶ〜!」
そしてこのボジティブなちいかわ族が、ベリルのパートナーとなっていくのはまた別のお話。
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