人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ベリル「…………」

ニャル【浮かない顔だな。今更目の前で命が絶えた程度で何を堪える事がある】

ベリル「いや、そうなんだけどよ…やっぱマイルドで可愛らしい世界でグロを見せられると心の準備ってもんがな…」

だいじょうぶちゃん「だいじょうぶ?」

ベリル「お、おう。大丈夫だ。あんたは気にせず仕事を斡旋してくれや」

ニャル【上位ランカーだというのに取り巻きが現れない…それだけ気配を消すことを完璧としているのだな。流石だ】

『武器にマークされただいじょうぶちゃんスタンプ』

ニャル【確か上位ランカーは武器に自分のスタンプを入れられると聞いたな…】

ベリル「折り紙付きじゃねぇか…」



草むしり

「で、次にやるべきことは草むしりね…まぁ討伐よりは安全だってんで、誠心誠意やるとしますか」

 

だいじょうぶちゃんと共に、草むしり業務にいそしむベリル。選り好みできる立場ではないので、彼はだいじょうぶちゃんに従いいそいそと草を抜き続ける。それが生きるための術なのだから、手を抜く理由はどこにもない。

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶじゃない、だいじょうぶ、だいじょうぶじゃない」

 

だいじょうぶちゃんは手際よく草を抜いていく。見た目は変わらないが、ニャルが読み取るには土壌に汚染作用があったり有害な外来草を的確に読み取って処理しているようだ。一級は、伊達ではないようである。

 

【あの手練ぶり…そしてどちらの仕事もマルチにこなせる手腕…あそこまで来るとパーソナリティが気になるところだ。彼女は一体何者なのだろう】

 

「もうすっかり女で通していくんだな。まぁ、オレも気になるっちゃ気になるけどよ…」

 

人懐こく、警戒心が強く、それでいて腕も立つ。まるで誂えたかのようなその在り方は、ともすればチュートリアルに用意されたお助けキャラクターのようではないか。頼れながらも、ニャル的にはどうしても疑念を持っておかねばならないのだ。疑わなければ、信じることはできない。

 

【…ちいかわワールドには友好型、擬態型、敵対型に敵対者が分類されているのは知っているか?】

 

「なんだよ、ヤブから棒に」

 

【友好型はその名の通りだが、擬態型は友好型を装って近づき襲いかかってくる敵対者、怪異の類だ。先程見た白い獣ならも解る通り、この世界の怪異は狡猾な一面を持つ】

 

「……その擬態型が、だいじょうぶちゃんだってのかい?」

 

ニャルの懸念は読み取れた。もし彼女が、参戦した初心者を狩らんとする擬態型の存在であったならば。もう既に、ベリルは術中に嵌っている事となる。

 

「擬態型ねぇ……」

 

ちらりとだいじょうぶちゃんを見てみれば、真面目かつ誠実に草むしりの任務を行っている。ああいったマメさも、彼女自身の強さと優しさを形作っているのだろう。

 

「……まぁ、どっちにしろだ。だいじょうぶちゃんと離れたら死ぬか、だいじょうぶちゃんに騙されて死ぬかのどっちだ。大して変わらねぇよ」

 

【おや、腹は括っているようだな。死ぬのは怖くないと?】

 

「逆に聞かせてくれよ旦那。素直に死なせてくれるのかい?」

 

【そんなわけ無いだろう。お前に死の安寧はない。宇宙が冷えるまでは生きてもらうぞ】

 

そういう事だ。クズな自分をクズなままで受け入れてもらった結果、もうまともに死ぬこともできなくなっているのだから、突然の死等に怯える必要はない。勿論死ぬのはごめんだ。死の苦しみで心は即座にくたばるからである。

 

【フン。稚拙な居直りを覚えるとは生意気なやつめ。ならばいい、さっさと自分の家賃ぐらいは稼ぐんだな】

 

ニャルに促され、無心となって草を抜き続ける。だいじょうぶちゃんはベリルを危険の少ない場所に配置してくれたようだ。

 

「ふぅ、こんなもんでもやりがいは感じられるんだなぁ。汗水垂らして働くっていいねぇ」

 

【余生の過ごし方は見出したようだな。それならば報告を…む?】

 

瞬間、ニャルの言葉が詰まる。その対応にほのかに嫌な予感しかしないベリルが、念のために問いかける。

 

「ど…どうした、旦那?」

 

【後ろを振り向いてみろ】

 

促されるまま、後ろを振り向くと…、そこには。

 

【てぃは、てぃはっ…てぃはっ…】

 

右腕が刀、左腕がハンマーとなった異形のちいかわ族。頭部には、へし折れた角のような跡がある。

 

【………キメラだ】

 

「キメ──」

 

キメラってなんだよ、そう問いかけるより早く、その異形は動き出していた。

 

【てヤーーーーッッ!!!】

 

「うぉおぉお!?」

 

右腕の刃を振りかざす異形。ベリルは丸腰だ。そんな中で襲われた今、対抗手段は皆無に等しい。

 

【初死亡か。まぁ保った方だな】

 

助ける気が微塵もないニャルの呟きと共にベリルは死を覚悟する。

 

──しかし、ニャルの思惑という点において、ダイスの女神は思い通りにさせるつもりなどなかった。

 

【げはッ!?】

 

異形のちいかわ族が弾き飛ばされる。その豪を制した技術は、バックラーによるパリィ技術に他ならない。

 

「だいじょうぶ?」

「だいじょうぶちゃん!天使かよぉ…」

 

だいじょうぶちゃんが素早く間に割って入り、異形の攻撃を無力化したのだ。ベリルを護るように、小型のバックラーを構え相対する。

 

【ワァッ!!ワァーッ!!】

 

「だいじょうぶじゃない〜…」

 

半狂乱になった異形の刀の斬撃を、バックラーで余さずパリィしていくだいじょうぶちゃん。刀の鋭い一撃は尽くいなされ、受け流され、だいじょうぶちゃんに届く事はない。

 

「すっげぇ……」

【なんだあの戦闘センスは…上位ランカーが皆こうだと言うのか…?】

 

【ワァーーーッ!!!】

 

血涙を流しながら、左腕のハンマーを振り上げる異形のちいかわ族。

 

「だいじょうぶじゃない〜」

 

流石にバックラーで跳ね返せるような一撃ではない。あわや万事休すかと思いベリルと違って助け舟を出そうとしたニャルだが、それも徒労に終わる。

 

「だいじょうぶ!」

 

【ワァッ!!!】

 

瞬間、だいじょうぶちゃんは踏み込んできた異形の足をバレルを短く切り詰めた改造ショットガンで撃ち抜いたのだ。

 

【馬鹿なっ!?銃パリィだと…!?】

 

ニャルが驚く間もなく、脚を撃ち抜かれ跪く異形に向け、すらりと日本刀を引き抜くだいじょうぶちゃん。

 

【ワァ………ァ、ァ…………】

 

「だいじょうぶ…」

 

そして、一閃。日本刀の一閃は速やかに異形を討伐せしめる。討伐対象ではないので報酬は出ない。ならば…

 

「だいじょうぶ?」

 

「おぉ…何から何まで、ホントにありがとな…」

 

「うん!だいじょうぶ!」

 

それは心から、ベリルを案じたものの行動だったのだろう。その手並みは、ちいかわにしておくには惜しい程に鮮烈で鮮やかであった。

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶ!」

 

【………突如現れたキメラにすらこれほどの対応か。いよいよもって彼女は何者だ?ただ才覚に溢れたちいかわ族なのか…?】

 

「ん?おいおい、アイツ落とし物してったぜ」

 

その異形がいた場所には、金平糖が落ちていた。どうやら、その存在が唯一持っていたものらしい。

 

【…………せっかくだ。その金平糖はだいじょうぶちゃんにくれてやれ】

 

「奇遇だな旦那。オレは決めたぜ、だいじょうぶちゃんに媚を売りまくって生き延びてやる!」

 

【引くほどダサい宣誓だな。まあ、お前の休暇だ。好きにしろ】

 

その金平糖を拾い、ベリルは最後の仕事を終わらせる。

 

「ところで、アイツはなんだったんだい?旦那よ」

 

【アレはキメラだ】

 

「キメラ?」

 

【バケモノになってしまったもの…そう覚えておけばいい】

 

秘密主義なのか、もったいぶっているのか。それ以上語ろうとしないニャルへの追求をベリルはやめる。

 

「ま、物騒なのは分かったし触らぬ神に祟りなしってな」

 

そのまま、ベリルはだいじょうぶちゃんと仕事を達成し、たんまりと報酬を貰って帰還する。

 

「だいじょうぶ〜!」

「お、おう。悪酔いには気をつけろよな…?」

 

ベリルの歓迎会として、夜通しパーティを開いてくれただいじょうぶちゃんの厚意にニャルとベリルは甘え、心ゆくまでパーティを楽しむのであった。

 

「金平糖ってんだ。食べてみろよ」

 

「!!だいじょうぶじゃない〜!?だいじょうぶ〜!!」

 

「あー、うまいってことな。そりゃあ良かった良かった」

 

厳しくも楽しいこの世界において、ベリルめがねすーつの姿は幸先のよいスタートを切るのであった…




だいじょうぶちゃん「すや〜」

ベリル「寝ちまったよ。大活躍だったしなぁ」

ニャル【お前というお荷物の御守りをしていたのだ、尚更な。お前は眠らないのか?】

ベリル「や、ちょっとな…」

ニャル【なら、夜風にでも当たってこい】

ベリル「…そうするぜ」



ベリル「とんでもねぇ世界だ…」

ミギモヒダリモワカラナイ〜、ソンナアナタニコモリウタ〜♪

ベリル「お…?」

象「ソーレッ」

ベリル「おぉ…」

象「リラックス〜?」

ベリル「お、おう」

象「だーるまさんがこーろんだ、にーらめっこしましょ♪」

ベリル「な、なんだなんだ?いきなり?」

象「わーらうっとまけよ♪」

ベリル(あぁ、朝旦那が言ってた友好型か──)

「あ く む ♪」
ベリル「」

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