人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
だいじょうぶちゃん「だいじょうぶ〜」
ニャル【なるほど…トップランカー同士で訓練し、技術を高め合い磨き上げているのも強さの秘訣か…】
ベリル「ほー、ラッコくんはガンガン攻めてだいじょうぶちゃんはカウンター狙いねぇ。どっちも優勢を取らせないくらいの腕前だぁ」
ニャル【達人同士の戦い…まさかちいかわワールドでこんなハイクオリティな殺陣を見ることになるとはな。実に良い収穫だ。……………】
ベリル「?旦那、どうしたい」
ニャル【いや…少しばかり、ちいかわ族の数が気になってな】
ベリル「数…?」
「だいじょうぶ〜!だいじょうぶ〜!」
「うぉおぉおこっち来ないでくれ〜!!」
上位ランカー仲間、ラッコとの組手を終え、新武器ハンマーを振り回しながらベリルと戯れるだいじょうぶちゃん。ラッコは休憩がてら、ニャルが提供したじゃんぬスイーツを貪り食いながら彼女との関係を話す。
「彼女はふらりと現れ、討伐と草むしりに精を出し瞬く間にトップクラスの才覚を見せた。あっという間に、自分に並ぶ程に」
【なるほど…古参という訳ではないのか。それでいてあのセンスと戦闘能力…謎が多い存在だ】
「詳しく自分を語らないタイプの彼女だが、一緒に討伐依頼をこなすようになって、一つだけ教えてくれた。『倒さなきゃいけないやつがいる』と」
倒さなきゃいけないやつ。それを倒すために、だいじょうぶちゃんは自身の殺意と技術をひたすらに磨き上げたのだと。だいじょうぶちゃんと互角の実力を持つラッコは、そうニャルへと教えてくれた。
「自分も、強くなる事を誓っているッ。だからこそ、彼女が強い理由がよくわかる。彼女もまた、だれかに何かを誓っているのだ」
【言われてみれば…あの強さ、センスにかまけたものではない。何か、狂気的な信念をもって極限まで研ぎ澄まされたもののそれだ】
ニャルはそれを知っている。見てきたし、磨き上げたものも目の当たりにした。自身に挑んできた輩もいたし、愛娘もセンスと努力で磨き上げた類の強さである。それは、信念や信仰があってこそ身に付くものだ。
「何に誓っているのかは教えてもらっていないが…それを成し遂げるまでは絶対に負けられないと、彼女は教えてくれた」
【誓いの強さ、か。それは一体何に向けられたものなのか…】
「だい、じょう、ぶ!」
「うぉおぉお!!」
だいじょうぶちゃんは大型武器すらも容易く振り回し、ベリルを傷付けないように振り回している。ラッコはぽつりと、こんなことを呟く。
「彼女は、敬遠されているんだ。その強さと恐ろしい討伐の姿。草むしりの名人としての在り方に、敬われながら距離を置かれている」
【やはりそうか。上位ランカーでありながら取り巻きが少ない理由は】
ラッコは上位ランカーとして人気を博し、街角を歩けば目線と話題を独占する華形のような扱いを受けている。それに比べれば、だいじょうぶちゃんの扱いはまさに腫れ物といったところであることをニャルは見逃さなかった。
「その強さと、明るさと優しさが相俟って…擬態型、などとつまらん噂が流れている。彼女は一人で、自分以外とチームや依頼をこなしたところは見たところがない」
【…そんなところまで似るものなのか】
その境遇には痛いほど覚えがあった。娘に当たる彼女は、まさにそのように育ててしまった事を思い返す。長い長い間、孤高のままでいさせてしまった。
「彼女自身は優しく、何度か仲間や同胞を助けた事もある。…だが、皆怖がって逃げ出してしまうんだ」
〜
「わ、わ、わ…」
「だいじょうぶ?」
「ワァーーッ!!」
「ぁ………」
〜
「だいじょうぶ、とは…最初は励ましの言葉だった。やがてそれは、自分に言い聞かせているのだ。だいじょうぶだと。辛くはないと」
【…いっそ、獣であれば幸せだったのかもしれないが】
優しい心と、強き力。誰かを護る二つは備わっているのにこんなにも人の理解は遠い。ニャルはそのままならなさを悼む。
しかし、その心を不要とはしなかった。彼は知っている。獣でなく人である要素と、大切な部品。それこそが心なのだ。思えば、戦犯ちゃんは激しい怒りと自責から怪物に成り果てていたが…それもまた、心の作用であろう。
【心があるから苦しむが、心がなければ他者の悲しみや苦しみは理解できない。ちいかわワールドでそれを再認識するとはな…】
「だからこそ、今の彼女は楽しそうだ。あなたや、彼がいてくれる。彼女が力を振るっても側にいてくれる」
「だいじょうぶ!だいじょうぶ!」
「当たったら死ぬからほどほどにな…」
「彼女自身は、決して悪い娘じゃない。それは自分が保証する。誇り高き、上位ランカーの仲間だ」
ラッコはスイーツを食べ終わり、そう彼女に太鼓判を押す。その力と心は、決して邪悪などではないのだと。
【あの強さでは擬態し欺く必要もなさそうだからな。ベリルの奴め、とことん運のいい】
「せっかくだ。自分も君達としばらくパーティーを組んでいいか?より良い討伐を果たし、美味しいスイーツがいっぱい食べられそうだ」
ラッコはよほどじゃんぬスイーツが気に入ったのだろう。仲間になりたげにこちらを見つめている。じゃんぬの腕前はちいかわワールド最強クラスの存在を射止める事が出来たのだ。
【それは素晴らしい。こちらもだいじょうぶちゃんや君の戦いぶりを観察したかったんだ。よろしく頼むよ。あの可愛くないメガネはデコイ代わりに使い潰してくれ】
「ありがとう。君達にも見せよう。我々の強さをッ!…あの自分がスイーツが好きな事は…」
【フフ。私達だけの秘密だ】
「…(照れながら頷く)」
「だいじょうぶ〜?」
「ああ!さぁ、稽古の再開だッ!」
【ベリル、お前は精々囮として役に立て】
「へーい。せめてたくさん身体は張りますよっと」
「ヤーーーッ!!」
「だいじょうぶー!」
剣とハンマーで、日が暮れるまで稽古をする二人。その日から組まれた上位ランカー二人と囮一匹の活躍は目を見張るものがあった。
「またラッコさんがでかいやつを討伐したぞーッ!」
「あの怖い人も一緒にだッ!」
難易度が高すぎて受けられなかった依頼を、難なく連続討伐。ラッコとだいじょうぶちゃんは、豪邸を築き上げる程に報酬を手にする。
「だいじょうぶ〜?」
「ムゥ…」
「あーと…」
時にはラッコとベリルに、草むしり検定の試験問題を教えてあげたり。
「やったぞッ!」
「なんとかな、サンキュー」
「わーい!だいじょうぶ〜!」
その甲斐あって、ラッコは3級、ベリルは5級の草むしり検定の資格を獲得。攻撃はラッコ、草むしりと防御はだいじょうぶちゃん、ヘイトタンクはベリルのバランスのいいパーティが形成されていく。
【フフ…どうなることかと思ったが、立派にエンジョイしてるじゃないか】
「中止でーす」
「は?」
「打ち上げは中止でーす。中止でーす。中止でーす」
「ぎゃあぁあぁぁぁぁぁ!!?」
「怪異だ!行くぞッ!」
「だいじょうぶ〜!!」
ラッコとだいじょうぶちゃんのパーティは、ちいかわワールドに広く轟くパーティとなっていく。怪異やでかいやつの被害も減っていき、ちいかわ族たちの平穏は保たれていく。
「じゃんぬスイーツ、サイコーッ!」
「だいじょうぶ〜!」
【だそうです、じゃんぬ店長】
『何言ってるのよ。そんなこと言われたってありがとうすごく嬉しいわ!毎日作ってあげてもいいけど!?』
「ヤーーーッ!!!!」
(ラッコの旦那のテンションが偉いことになってら…)
【私の娘があなたに弟子入りしたいそうです、だいじょうぶちゃん】
「?」
そう。全ては順調だった。あまりにも順調にすぎるほどに。
そう…───
ちいかわワールドの湧きドコロから、一切の食料が無くなるのは、彼女達が頑張り始めて数週間が経った頃だった。
豪邸
ラッコ「やはりダメだ。各地の湧きドコロが完全に停止している」
ベリル「マジかよ。ちいかわたちの生命線じゃなかったか?ありゃあ」
ニャル【既に食事処や仕事場は長蛇の列だ。君たちレベルの上位ランカーは食うのには困らんくらいの蓄えがあるが…】
だいじょうぶちゃん「……………」
ラッコ「このままでは、弱き者達が餓死してしまうッ」
ベリル「なんか湧きドコロ復活の舞が流行ってるらしいぜ?美味しいもの〜美味しいもの〜ってよ」
ニャル【……………おい、ベリル】
ベリル「?」
【ちょっと来い】
〜
ニャル【湧きドコロ涸れに合わせ、今鎧さんからちいかわ族の名簿を貰ってきた】
ベリル「うぉ、増えたなおい」
ニャル【それに対し、怪異討伐で倒したでかいやつリストだ】
ベリル「…机に置かれたらオレが隠れるぜ…」
ニャル【……………………】
ベリル「…旦那?」
ニャル【この食糧難…私達が解決できるかもしれん】
ベリル「マジかよオイ、だいじょうぶちゃんやラッコの兄貴が飢え死なないなら越したことはねぇが…」
ニャル【ちいかわ族が増えたことにより食糧難になった】
ベリル「?あ、あぁ」
ニャル【なら、何をするべきなのかは解るな?】
ベリル「…………………おい、旦那…そりゃあ…」
ニャル【解るな?】
ベリル「…………………そりゃあ…」
ニャル【解るな?】
ベリル「────あぁ、そういう事かい」
物陰
だいじょうぶちゃん「……………」
ギュッ…