人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ティアナ「今更ショートブレード二本で何をしようっていうの…?」
リッカ(私が負けたらカルデアの負け。気負い過ぎかもしれないけど、皆が私にかけてくれた期待はそのレベルにまで来ている。この奥義を、今までの研鑽を振るう為の心意気はきっと…)
〜
期待が重ければこう考えよ。貴様の肩には人類と、カルデアすべての命がかかっていると。
そう考えれば気は楽だぞ?貴様が負ければその瞬間、汎人類史もカルデアも全てが死に堪えるのだ。責任と糾弾を問うものはどこにもおらぬ。
悩むことはない。この世すべてを背負うということは、己のみですべてと相対することだ。
思うままに戦うがいい。その戦いがどのようなものか、それを決めるは我と、お前のみなのだからな。
〜
メイヴ「ちょっとリッカ、手が荒れ放題じゃない。何これ?剣ダコ?血豆?」
リッカ「素振りとかやるとどうしてもね…」
メイヴ「あのねぇ…あんたは戦士じゃなくて今をときめく高校生でしょう?運動ならともかく、こんな戦いの勲章なんてあんたには似合わないわよ」
リッカ「そ、そう?」
メイヴ「そうそう。あんたには帰る日常があるんだから、しっかり自分をケアなさい。ほら、特別に魔力をたっぷり込めた蜂蜜オイルローション使ってあげるから。傷なんてあっという間よ?」
リッカ「あ、ありがとう…!」
メイヴ「ちなみに鈴鹿もネイルケアで待ってるから。しっかり手荒れは直しなさい。爪だけキレイなんてナンセンスよ、ナンセンス!」
〜
リッカ「必要なのは…全部を背負って戦う覚悟!皆が教えてくれた技を全部使って、皆で勝つ…!!」
スバル「来るよ、ティア!こっちも全力で!」
リッカ「見ててね皆──奥義・神速!発動!!正式名称まだ未定!!」
「ッ!?」
「えっ!?」
訓練のクライマックス。リッカの魔力が爆発的に高まった事から最大限の警戒を行っていたスバル、ティアナの視界からリッカが消え失せたのはまさに一瞬、瞬き以下の時間の出来事だった。
(何処へ──ッ!?)
弾かれるようにその場を飛びのくティアナ。そこには濃密すぎる危険の報せを本能的に感じ取ったのだ。そしてそれは、正しい意味で的中する事となる。
「くぅうぅうっ!?」
「スバル!?」
瞬間、スバルが黄金の軌跡を引く斬撃に滅多切りにされ、その場に釘付けとなってしまったのである。すんでのところで飛び退いたティアナは運が良かった。先に選ばれたのがスバルであったという事実が彼女の明暗を分けた。
(嘘でしょ、全く見えない…!捉えられない…!)
魔導師でもない人間が、時空管理局に所属していない人間が出していい速度や制動ではない。閃光の死神の異名を取るフェイトとしか思えない超速戦闘が、目の前のなのはの一番弟子を称する輩が行っている事実に混乱を隠せぬティアナ。
「待ってなさい、今援護を…!ッ、何!?」
切り刻まれるスバルを助けようと動いたティアナが静止する。我が身可愛さなどではない。そもそも助けられる立場では無かったからだ。
「こ、れは…!?」
ティアナを無数に囲うように、黄金の斬撃が空中に展開、静止されている。それはまるで斬撃を切り置いて設置したかのような重なり方を見せ、弾幕としてティアナを完全に包囲していたのだ。
「まずいっ…!」
直感で把握する。これは触れてはいけない、当たってはいけない類の攻撃だ。すぐさまティアナは幻影魔法を使い、姿を眩ませ斬撃のない地点へと逃げ果せる。反撃も防御も許さないそれらは、回避に専念するが精一杯のものであった。
(どこにいるか全く解らない…!どこからどうやって攻撃してきているの…!)
「ぉおぉおぉおぉおぁあぁあぁあッ!!!」
「スバル!?」
瞬間、スバルの全力全開を告げる咆哮が響き渡る。スバルは純粋な人間でなく、戦闘機人と呼ばれる戦闘に特化した人種だ。丸まりやられるくらいならと、その切り札を切ったのだ。
「そこだぁあぁあぁあぁっ!!!」
全力のスバルの速度とパワーは尋常ではなく、絶え間なく発生している黄金の軌跡を目掛け渾身のパワーを以て殴りつける。その一撃はまさしく全身全霊のもの。直感と幸運も助け、ティアナとスバルはその姿を見やる。
「何よ、あんた、それ…!」
そこにいたのは、黄金に輝く龍鎧の人物。蒼き炎のマフラーと、紫色の雷を絶えず奔らせる、先程まで戦っていたと思わしき人物の姿がそこに在った。両手には、金と銀の意匠の短刀が握られている。
「えっ!?」
直撃はしていない。魔力泥で遮ったスバルの拳を、横からそっと掌で押した瞬間──急転直下の出来事が巻き起こる。
「くぅうぅうぅうっ!?」
空中に多数の魔法陣が展開された瞬間、魔力の奔流が巻き起こりティアナを強烈に吹き付ける。それはリッカが動いた瞬間に振るわれた、攻撃の証だ。
「スバ、ううっ!?」
もはや状況確認で精一杯なティアナに、速いスピードでぶつかる物体がある。それを受け止めたティアナの表情が戦慄に染まる。
「ス…スバルッ!?」
「う、うっ………」
全身、首以外の全身にアザが刻まれ指一本動かせなくなっているスバルが、自身の腕の中で小さく呻いていた。戦闘機人モードの輝きは喪われ、戦闘不能であるのは明白の惨状。全身をくまなく封じられた痕跡があまりにも痛々しい。
「ティア、気を、つけて…リッカちゃんは、本当に…強い…」
「くっ…!」
ティアナは唇を強く噛む。ここに来て、自身の不明を深く恥じることとなる。
余裕をかますことなく、スバルと連携を取っていれば、自身が対抗心を燃やすことなく、冷静に相手の力量を認めていれば。二対一だと、侮ることがなければ。
(なのはさんが過小評価なんてするわけが無かった…!信じられないけど、間違いなく私達一人一人よりも強い…!)
そしてそれは、裏を返せばもう勝ち目は絶望的なまでに薄いという事実を如実に表していた。強敵相手にはタッグで活路を開けとお題でなのはは伝えていたのに、全く足並みを揃えることができず相棒を戦闘不能にされてしまった。これからはもはや、加速度的に状況は悪くなるばかりだ。
「ッ!?」
鳥が啼くような雷の音が耳に飛び込む。もはやどの様な魔法や魔術を使っているのか想像もできないが、解っていることは一つ。
「やられっぱなしで終われるもんですか───!!!」
ティアナは最大戦速で上空高度を稼ぎ、クロスミラージュを下方へとつきつける。
(予測の範囲で考えれば、恐らくやっているのは超高速移動…!なら、移動する全域をまとめて吹っ飛ばす!)
超高速の線であるならば、面の制圧力で叩き潰す。自身にはそれができる技がある。なのはの弟子として、誇りとしている技がある。
「受けてみなさい、これが私の全力全開…!!」
大気の魔力を限界まで収束。燐光が如き輝きが、クロスミラージュの銃口へとフルチャージされていく。
『───!』
その輝きを認めたリッカが停止する。遥か上空へ飛んだティアナを見上げる形で佇む。当然だろう。ティアナのそれは、リッカの目標としている一撃であったのだから。
「なのはさん直伝……!!スターライト・ブレイカーーーーーーーーッ!!!」
放たれる、必殺の一撃。なのはより伝授された、星の燐光の名を冠する代名詞ともいうべき一撃。ティアナはそれを、なのはより確かに受け継いでいた。それはなのはとティアナの師弟の絆とも言うべき技であった。
『─────』
それは、奥義・神速にて超高速の戦闘を行うリッカには回避が容易いものだったかもしれない。だが、それを…リッカが目標としているそれを魅せてくれたティアナへの尊敬が彼女に無粋な回避行動を取らせなかった。
リッカは──鉾を取り出した。それはイザナミより受け取りし鉾。日本を創り出す際に使用された、世界をかき回す矛。乖離剣と同格の、世界に対し振るわれる矛。
『───!』
なんとリッカは驚愕の行動を行う。本来なら、それは槍であり矛だ。振る、或いは刺すなどの用途に使うもの。それをリッカは、左手にアルテミスの弓矢オルテギュアーを展開し──
「え…!?」
逃げることなく、スターライトブレイカーの魔力の奔流に向け『天沼矛をオルテギュアーで引絞った』。矢のように引絞られた矛が、凄まじい魔力を帯びる。
『奥義の行き着く先は、皆同じ…!』
胤舜、そして縁壱の言葉を思い返し、神速の脚にかける負荷を引絞る両腕に転化。神速を習得したからこそ発動可能な絶技が、自身の目標たる燐光へと放たれる。
『これも私の、全力全開だぁーーーーーーッ!!!』
軟な弓ならばへし折れ、矢が砕けんばかりの力を怒張を以て放たれしイザナミの槍が、オルテギュアーによって放たれる。それらはなんと、ティアナのスターライトブレイカーを巻き込み、かき混ぜ、吸収していく形で猛進していく。
「なっ───!?」
反応することも、身動ぎすることも叶わなかった。ティアナにとって最後の切り札であるそれは、反動ももたらす代物。全力全開をかけた一撃、予備の力など用意している筈もない。
「か──はっ────!!」
深々と腹部に槍が突き刺さる。その衝撃は、ティアナの意識を一撃で刈り取るに値する凄まじきもの。ティアナ自身の意識と共に、決着の幕も静かに降りる。
「そこまで! この勝負、リッカちゃんの勝ち!」
なのはの宣言に、リッカは神速の構えを解き、弓矢と槍、ティアナを回収する。
「私が一番弟子だなんてとんでもない。ティアナちゃんにスバルちゃん。二人こそ、なのは教官の一番弟子だよ」
自身がクラスカードでしか撃てないスターライトブレイカーを撃ち、奥義発動の動きすら捉えられた。
それこそ、エースオブエースたるなのはの教えの賜物。リッカは心から二人に感服し、尊敬を贈っていたのだから。
…天沼矛の矛先に、スターライトブレイカーの魔力が被さりティアナには傷ひとつない。
師匠はティアナを、完璧に護りきっていたのだ。
リッカ「っ…!!」
(本当は、雷位で距離を詰めたかったんだけど…普通に一閃するのより何倍も負担がかかったのが肌で感じられた…イザナミおばあちゃんとアルテミス、日の呼吸がなかったらどうなってたか…)
リッカ「今はまだ、雷位一閃と神速は併用できない…」
(これが、高町パパの行ってた奥義の先。雷位にはまだ、先がある…!)
ティアナとスバル、なのはやみんなのお陰で見えた奥義の先。
リッカは確かに、その遥かなる先行きの光明を見出すことが出来たのであった…
余談
なのは「……………」
リッカ(なのは教官が石板読んでるムスカ大佐みたいになってる…)
『部下に怖がられない!コミュニケーション大全』
リッカ「???」
〜
ティアナ「ところで、ティアナちゃんやスバルちゃんとは一体…」
なのは「えっ?あ、あぁ実はリッカちゃんの事、ずっとちゃん付けで呼んでて!コミュニケーションすごくうまくいったから、その流れでもっともっと親しみを以て接してもらえるかなぁ〜って思って…!」
ティアナ「…その」
なのは「うん」
ティアナ「違和感が凄いので…なるべく控えてもらえると…」
スバル「きゅう…」
なのは(がーーん…!!)
なのは、公私共に距離を近くしよう作戦は無事失敗であった。