人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ヘラ『幼子に言い聞かせるような言質はよせという。サーヴァントという仮初の立場、出過ぎた真似などはせぬ』
ヘラクレス「よし。ではまた決行前ブリーフィングにて会おう」
ヘラ「全く。アレでバーサーカーで無いほうが珍しいとはなんという皮肉か…」
イリヤ「あ、あのぅ〜。ヘラさん…」
ヘラ『む?イリヤか。神妙な顔持ちだが、如何にしたか?』
イリヤ「お、お願いがあるんです。割と切実な…」
ヘラ『切実…?貴様のような幼子がか』
イリヤ「そ、その…私にちょっとだけでもいいので…祝福とか超パワーを授けてもらえたらなーと…」
ヘラ『……なんと。詳しく話を聞かせるがいい』
「皆さんご存知なんでしょうけど、カルデアは一大作戦に参加するんです。私はイマイチ掴みきれてないけれど、なんだか伝説の魔導書を仲間にする為のミッションをクリアするという事で、なのはさん、フェイトさん、はやてさん、リッカさんにギルくんが参加するとても大切な作戦。そこには、私も立候補しました!」
『ほう…見上げた気概と意志よ。カルデアを支える力となる事を決めた貴様が、何故今更神の祝福などを望む?』
ロビーにて、ヘラが買ったジュースをいただきながらイリヤはぽつぽつと語り出す。ヘラはイリヤの事を一目置き始めた段階の最中で突如切り出されしヘラへの祝福の懇願。奇怪な申し出に、首をひねりながらイリヤに問う。不敬や讒言ではなく、純粋な興味ゆえだ。
「そ、そのぅ。勢いで立候補したのはいいんですが、いや全然良くないけれど!本番が近付くにつれ不安が強くなっちゃって…私、皆についていけるのかなって…」
『うむ…カルデア、時空管理局とやら共に最高戦力を投入するのは明白。その助っ人が魔導王はともかく…貴様では心許ないな』
「はっきり言われたぁ…でも、はい。その通りなんです。そこでさっきの悩みに繋がるんです。ヘラクレスさんは、ヘラの栄光って意味なんですよね?私もヘラクレスさんやリッカさんみたいに、神様のスッゴいパワーにあやかれたらなぁって…!」
ふむ、とヘラは頷く。どうやら感じている実力不足への不安から、神々の祝福をカバーに使用したいという魂胆らしい。リッカという数多の神の祝福を操る恒例を見ればある意味当然の帰結と言えるだろう。
『女神ヘラ、実際のところはどうなのだ?祝福はあたえてやれるものか?』
『無論可能だ。妾は神々の女王。戦いより託宣と祝福をくれてやるほうが本懐なのだ。小娘一人の身に゙祝福を充溢させるなど、赤子ヘラクレスの手を捻るより容易い』
想像を絶する難行になってしまうぞそれでは…黒神の懸念をよそにヘラはイリヤに向き直り、自身の下に手招いた。
『よし、ではくれてやろう、イリヤ。目を閉じデコを出せ』
「わぁ!ありがとうございます!では早速…!」
何も疑わぬイリヤは満面の笑みでヘラの成すがままに目を閉じ、額を差し出す。人を疑わぬはなんとも可愛らしい事だ、とヘラはその素直さを好ましく思う。
『では行くぞ。この…愚か者め!』
「あいたぁ!」
しかし、そんな素直なイリヤに与えられしは神々の祝福等ではなく、軽めのデコピンの制裁であった。勿論、加減して放った為首が飛んだりはしていない。驚いたイリヤが、ふらふらとよろけ尻もちをつく。
「あいたぁ…ど、どうしてぇ〜…?」
『若き身空で祝福パワーアップなどあてにするでないわ、馬鹿者。全く、これが妾に熱い魂を魅せた寵児と同一人物か?嘆かわしい』
口調はそうではあるが、その様は怒りというより嘆きだ。定期的に弱音の波に攫われるのだな貴様は、とヘラは視線を合わせイリヤに問いかける。
『よいかイリヤ。祝福を授かることと祝福にすがることは異なるのだ。盲目に信仰を求めるは下劣であり、また見返りを求める信仰を捧げるもまた不敬にあたる』
「で、でもこれは絶対に外せない戦いになる予感がしているんです!もし私が足を引っ張って失敗なんてしてしまったらと思うと…」
『敗北を考えながら戦場に臨むなど愚の骨頂だ、たわけめ!』
「二度目っ!?」
ヘラの叱咤はデコピンと共にイリヤに届けられる。それは神罰のような苛烈なもの…ではなく、共に困難を乗り越えた者の腑抜けを諫めるものだ。
『よいか?貴様が弱いからなんだというのだ。貴様が弱いと何が不都合なのだ?貴様が誰かにそう言われたのか?』
「い、言われてません!そんな酷い人なわけないです、みんなが!」
『解っているのなら何故悩む?貴様は己を謳い、他者はそれを信じた。そこに神の介する余地はない。何故貴様はそう自身の迷いを育てるのは得手なのだ』
「そ、それは…でも、不安なんです…!私より大人なエース三人に、一瞬目を離したらどこまでも強くなってくリッカさん。肩を並べて、本当にいいのかなって今更…」
なるほど、年相応と言うべきか。生来の優しさとネガティブさが顔を出した一種の気の迷いであろうとヘラは判断した。ここに来て、今更自分が原因自信を喪失したなど手落ちもいいところである。
『よいか、よく聞け。確かに貴様が戦士や英雄であれば、その悩みは正しい。祝福もくれてやることに異論はない』
「そ、それじゃあ…!」
『だが貴様はそのどちらでも無かろう。貴様はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。英雄でもなく、ましてや神等でもない。カルデアのメンバー。そうであろう?』
「そ、それはそうですが…」
ならば話は早い。一時の気の迷いで得られる祝福などより、最も尊いものは有しているのだから。
『貴様に求められているものは強さではない。何かを成し遂げようとする強き意志。困難を知りながらも挑まんとする勇気。未熟な貴様を主軸に選抜した者達は、それこそを貴様に求めたと私は思う。そうでなくては、自分すら信ぜぬ未熟者と共に戦場に参ずるものか』
「ヘラさん…」
ヘラは誠実にイリヤを諭す。ヘラにとって、イリヤはもう知らぬ顔ではない。。共に弁当をつくった仲だ。そして奇しくもその助言は、嫉妬の女神ではなく聡明な女神にして神々の女王の言葉。
『貴様に必要なものは神々の祝福ではない。自信だ。しゃんとせよ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。貴様はこのヘラに弁当を作らせた女傑なのだぞ?もっとその幼い胸を張って、堂々とせよ!』
それは、崇め奉る信者達に向ける神託ではなく、しかししっかりと言霊を込められたもの。そう、ヘラなりの彼女へのエール。
彼女が諦めかけていた挑戦を、イリヤは励まし後押しし、引っ張るように前に進めさせた。他人にやっておいて、自分はできませんだなどとの甘えを容認するつもりはヘラにはない。
「はっ、はひぃ!?すみませんでしたぁ!?」
誰かに劣っている、と思っているのはイリヤだけなのだ。彼女にしかできない、彼女だけに出来ることは確かに存在しているだろう。その際に、付け焼き刃の祝福など邪魔になるだけであろう。
『分かったのであれば、自身に出来ることを最後まで探してしゃんとせぬか!まだ妾に縋るつもりならば、貴様を妾よりも弁当上手に作れたと嫉妬モードに入るぞ!』
「嫉妬モード!?初めて聞く概念!?」
『おのれイリヤスフィール…なんだあの可愛いタコさんウインナーは許さぬぞ…!妬ましいセンス、妬ましいフレッシュさ…!許せん、許せん…許せん!』
「ひぇえぇえぇえぇえヘラさんの嫉妬だけは勘弁してください〜〜〜!?」
ヘラからた立ち上る嫉妬オーラから素早く退散せんと去っていくイリヤ。だが、その表情は晴れやかであり先程のウジウジモードの靄は晴れていた…そう、ヘラは認識する。
『全く手間のかかる子供だ。ヘラクレスとは別の方向だ。あの歳で楽を選ぶとはけしからん!』
『フフ…ヘラよ、良きアドバイスだったと私は思う』
『あんなもの助言の内に入るものか。激を飛ばしてやっただけに過ぎん。黒神、それよりもお前も油断はするなよ。どんな英雄も不滅の運命はありえん。不測の事態は起こり得るのだからな』
イリヤだけではなく、依代たる黒神にもしっかりと心配と配慮を送る。その有様は厳しくも優しい、母の有り様だ。
『あぁ、そうだな。私と貴女で、手間のかかる者達を見据えお尻を叩いていこう!』
『尻は別に叩かぬとも良いのではないか…?』
間違いなく、嫉妬の女神たる存在のヘラはもういない。その確信と共に、タイプライターにて記録の編纂に精を出す黒神達であった。
イリヤ「うぅ、怒られちゃったけどその通りだよね…ちょっとあれだけど、足を引っ張ったフォローができるように頑張ろう!」
ギルくん「後ろ向きな決意ですね〜」
イリヤ「あ、ギルくん!」
ギルくん「少しお時間いいですか?イリヤさんにパワーアッププランが考案されました。そのお話を…という事で」
イリヤ「私の…パワーアッププラン!?」
ギルくん「えぇ。足手まといと切札…あなたはどっちに、なりたいですか?」