人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ユーノ「はい、魔導王。万全を期し、なんとしても成功させましょう」
ギルくん「…………」
ユーノ「魔導王?」
ギルくん「いえ。…夜天の書は、元は偉大な魔法と技法を収めるストレージアーカイブ…なのでしたよね?」
ユーノ「はい。ソレがいつかの時代のマスターにより改変を加えられ、闇の書と呼ばれる書物へと変異してしまったのが始まりなのです」
ギルくん「…………」
(原典自体には改変の跡は無かった。その見解は正しい。ただ…)
ユーノ「魔導王?何か気になることでも…?」
ギルくん「あぁ、いえ。なんでもありません」
(…何が起きても、大丈夫な心構えだけはしておきましょう。何事も、絶対はありませんからね)
「勿論…何も起きないことが一番な訳ですが…」
「いよいよ、また会えるんやな。リインフォース…!カルデアにもギルくんにも、感謝してもしたりんわ…!」
「はやてちゃん、まだこれからだよ。笑顔で迎えなきゃ、あれ?場違いかな?なんて勘違いされちゃうかもよ?」
「ここは初手でハグしてあげるとか…どうかな?」
「ふふ、そやね。それくらいしたってあげてもバチは当たらんね!」
ヘラクレスがスカウト中ではあるが、声を掛ける予定のシグナム等雲の騎士たちが別件でプリズマコーズにおもむいていたた事、先んじて召喚を始めて構わないという言葉の下、夜天の魔導書リインフォースの召喚儀式が組まれていた。そこに立ち合う一同は、そわそわしながらその時を待つ。特にはやての高揚ぶりはいっそ微笑ましい程だ。
「望まぬ別離を、最高の形で引き合わせる。うむ!これこそ楽園カルデアのもたらす縁結び!これには八百万の神も満面の笑みを有するというもの!」
「3人とも、凄く嬉しそう…!あんな風に笑えるんですね…」
『イリヤさん、彼女達もうら若き乙女なんですよ?そんな人外魔境の住人みたいな物言いは感心しませんね〜?』
「これは内緒にしてね…!」
『フ、やはり貴様は逃げなかったなイリヤスフィール。それでこそ、ヘラと弁当を手掛けた女傑だ』
『LINE イリヤちゃん私にもお弁当作って! ゼウス』
「ゼウス様からラインだ!?」
『あの好色めが…!!』
そこには勿論、カルデアのメンバーも立ち会う。闇の書を宝具として持っていたのなら、戦い分離させねばならない為だ。
「おーい!カルデアのみなさーん!」
「こんにちは。その節はリッカに大変お世話になったわね」
「む、そなたらはティアナ・ランスターにスバル・ナカジマ。そなたらもリインフォース分離作戦に参加するのだな?」
手を振り駆け寄ってくるはスバル・ナカジマ、そしてティアナ・ランスター。リッカの修行相手を努めた、なのはの愛弟子達だ。もうすっかり敵愾心は失せ、態度は軟化している。
「なのはさんたちと激闘を繰り広げた夜天の魔導書を仲間にする作戦、参加しないなんて嘘ですから!リッカちゃんとも今度は肩を並べたいので!」
「トリプルエースと戦う作戦、腕が鳴らないわけがないもの。リッカに見せてあげる。姉弟子としての力をね!」
「わぁあ、頼もしい!あとはヘラクレスさんのスカウトメンバーが来てくれたら完璧ですね、リッカさん!」
「……………」
「あれ?リッカさん?」
イリヤに返事が遅れるほど、リッカは何かを考え込んでいた。その顔は普段の明朗快活な彼女にしてはいつになく険しい皺を刻んでいる。
「何よ、リッカ…そんなに協力を嫌がらなくたっていいじゃない。あれはこっちが馬鹿に逸って悪かったけど、謝罪はちゃんとした筈よ?」
「あ、ごめんなさいティアナさん。そうじゃなくて。夜天の書と闇の書の関連性を考えてたの」
「闇の書と、夜天の魔導書の…?」
スバルの傾げにリッカは頷き、所感を告げる。夜天の魔導書は、いつかのマスターが欲望のままに改悪となる改変を加え続けた結果、変容したとされる。その件の変質に、リッカは何か引っかかるものを感じていたのだ。
「夜天の魔導書は偉大な魔導ストレージだってギルくんやユーノさんから聞いているし、そこに疑いは無いんだけど…そもそも、マスターはどうして夜天の魔導書を改変しようだなんて思ったのかなって」
「それは…私利私欲に偉大な力を利用しようとして…」
「まぁ人間は簡単に欲に溺れるところもあるし、実際にそうなったからそこは否定する気はないんだけれど…まず、必ず最初に手を施した人間がいる訳でしょ?その人間は、何を思ってそんな事を…魔導書の改変なんて思いついたんだろうね、って」
リッカは悪意に極めて敏感な獣、アジ・ダハーカを宿している。そんな彼女が問うのは悪意の大きさや質ではなく、その根源だ。
「例えば、野菜の無人販売所ってあるじゃない。イリヤはそこを使うとき、どうする?」
「それはもちろん、お金を置いて欲しい野菜を持っていきます!」
「よろしい!こんな風に、普通の人間は、しっかり善悪を知る人間は普通なら悪意なんて思いつきもしないんだよ。些細な出来心はあったって、捕まったらどうしよう、見つかったらどうしようってリスクヘッジや自制心の方が勝つんだよ、普通はね。夜天の魔導書を担えるような立派な大魔導師が、そんな出来心を抑えられない人であるかなぁ〜、なんて」
『つまりマスターは、夜天の魔導書を改悪した者…闇の書を生み出した最初のマスターを懸念しているってことね?』
カレイジャスハートにリッカは頷く。数多の魔導書の生きた証を有する物を、躊躇いもなく弄んだ魔導師はどんな存在であったのかと。
(……まさか…)
胸騒ぎがする。リッカはそう思案し結論を導く。彼女は知っているのだから。誰もが証明できる、理由もない、理屈もない、ただ息をするように悪を振りまく存在を。
「カレイジャスハート、ディーヴァ。召喚システムには細心の注意を払うようにロマン達に伝えて?もしかしたら、闇の書に蓄積された悪意全部と戦うかもって…」
そう、リッカが告げた瞬間だった。
『マスター!召喚システムが起動しているわ!』
「!?」
それは急転直下の出来事だ。カルデアのシステムフェイトと繋げる前の、ユーノが夜天の魔導書の原典を元に組み上げた術式。いよいよ両システムを力を合わせて夜天の魔導書を招かんとした刹那、ユーノ側のシステムが独りでに動き出したのである。
「これは…!?」
いや、正確にはユーノ側のサモンプログラムは稼働していない。電源も、魔術式も何も起動していない。道は繋がっているが、舗装も整備もされていない、一歩先も見えない状態と言える。
だが、その術式自体を辿り、または抉じ開け、食い破るような強引極まる術式を割り込ませ召喚…否、【顕現】しようとしている事態が巻き起こっている。電源がオフになっている筈なのに起動している、という異常事態、法外の魔術行使に時空管理局側の対処が遅れてしまった。
『無限書庫、こちらギルガメッシュ。召喚システムの励起は始まっていないはずですが、何が起きていますか?』
「な、何者かがこちらの術式を探知し逆召喚されようとしています!こん馬鹿な、あり得ない…!なんの魔力も、術式も介さないだなんて…!」
「ユーノ、早く召喚システムを切らないと!」
「駄目なんだなのは!召喚システムは動いていない、そもそもまだ術式はこれから座に繋げる段階なんだ!まだ夜天の魔導書が来るはずが…!」
瞬間、ユーノの狼狽を見たなのはは異常召喚を果たそうとする術式を瞬時に破壊しにかかる。ユーノの動揺はまっさきに自分が対処する。その決断の下、ディバインバスターを一斉掃射する。
───だが。
【…ご挨拶は辞めてもらおうか、管理局の魔王様。お前達が欲しいものを、わざわざ届けに来てやったんだぞ?】
「!!」
その攻撃は、いともたやすく無力化される。【魔導陣】から講師された防御魔術が、あっさりなのはの魔法を弾いたのだ。
【中々豪華な歓待ぶりだ。ああ、そうでなくちゃわざわざ来たかいがないってもんだ。そうだよな?時空管理局の魔法使い共】
「────…!!」
その瞬間、リッカは全てを理解した。夜天の魔導書が何故狂ってしまったのか。数多の欲望と哀しみを背負う魔導書に変異してしまったのか。
『こちらカルデア、ロマニ・アーキマン!どうなってるんだ!?そっちで何が起きている!?』
『…この反応は楽園カルデアにとっては敵対を意味しない。だけど、あえて今はこう言うわ。リッカ、そこにいるわね?』
「うん。──どうやら、この世界には相当厄介なのが住み着いてるみたい」
リッカの眼の前で、それは起こる。
浮かび上がるは、獣の紋章。
【闇の書、夜天の魔導書。数多の人間の悪意を記した魔導書。それを改竄したのは、他でもない最初の持ち主だ】
吐き出される。漆黒の汚泥。サークルから満ちる、混沌の魔力。
【完璧な夜天の魔導書を、簡単に改竄できるように。巳が全てを魔法を手にする。そんな人間に渡ることを願って】
そして──魔導書を持った、一人の男。
【数多の時空を超え、人の悪意に染まることを願った原初の所持者…闇の書、いや。夜天の書を担う、最初の魔導師】
その者が──時空管理局が組み上げた召喚式、その道筋を辿り現れたのだ。
即ち、闇の書の最初の持ち主たる存在を。悪意を以て、夜天を闇に落とした男を。
リッカ「…………──二度とその顔は見たくなかったよ、クソ野郎」
【つれないな、天の供物。オレの魂を有した器なんだ、愛想よくしてくれよ。さぁ、挨拶といこうか】
そう──リッカにとって、唯一無二なる不倶戴天の存在。
【キャスター、ザッハーク。闇の書の最初の持ち主だ。お前達の熱い呼び声に応じて…参上したぞ?】
世の悪意を刻み込んだローブを深く被ったその存在は…闇の書を手にし、嘲笑うように。
自身の所在を、明かしてみせた。