人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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――随分と悪さしてるじゃねぇか。お前、何処のもんだ


――名乗れません。名乗るわけにはいかないのです


――そうかよ。名乗らなきゃてめぇが死ぬ・・・と言ってもかい?

――それが、私の誓約(ゲッシュ)なれば

――あぁ、ならしょうがねぇな。並々ならぬその腕前、さぞ名のある、祝福された戦士と見たが・・・

――殺させてもらうぜ。アルスターの名誉の為にな

――はい。誉れも高きクー・フーリン。私は・・・

・・・私は、本当は――貴方にこそ、この名を告げたかった――


二人は戦った。戦って戦って戦い抜いた


初めは素手で、次は刀剣で。最後は水辺で凌ぎを削った

その幼児はあまりに強く、クー・フーリンを以てしてもてこずる相手だった


――コイツ、同門か!

クー・フーリンは刹那に理解し、悟る

随分と仕込まれたみてぇだが・・・――ならコイツはどうだい!

師匠に託され譲り渡されたその槍を、一息に解放する


――刺し穿つ、死棘の槍(ゲイ・ボルク)――!!

・・・穿たれた。死の槍は確かに本懐を果たした

――あぁ、ソレは・・・

――それが、悲劇の完遂をもたらす幕引きとなる


――ババ様に、教えてもらえなかった・・・なぁ――

クー・フーリンは眼を見開く、

右指に収まる、その指輪に

――!!!!!


その、出生を、理解する――


それは、影の国を出立する折


コイツがこの金の指環がピッタリ嵌まるようになったら、俺んとこに向かわせてくれ

コイツは強い戦士になる。もしかしたら俺よりもな。――俺とアンタの大事な息子だ、よぇえ筈はねぇ

――ならば、誓約を授けてやれ。重く、確かな誓約をな

そうだな・・・『一度始めた旅を止めるな』『如何なる挑戦も受けて立て』そんで・・・『名前を名乗るな』だ

――何故だ、クー・フーリン


いちいち名乗るまでもねぇ。こいつが戦い、歩んだ旅路が物語るだろうぜ。『これは間違いねぇ、ヤツの仕業だ』ってな!痛快じゃねぇか!コイツの旅路こそが、何よりの名乗りになるってわけよ!

――ふふ。必ず届けよう。私と、お前の子をな

あぁ、頼むぜ。名前は――





――『コンラ』――!?


――致命的な訣別を得て、彼はようやく気付いたのだ

運命の悪辣さに――


キャンプ幕間1/2ケルトは芸術だって嗜むよ!

「む~・・・・・・」

 

子犬のごとき唸り声をあげながら、とある少女が不満を訴える

 

キャンプ、兵士達の拠点の一角足る場所。点々と休まるためのテントが用意され、兵士達の息遣いが聞こえる場所に一行は辿り着いた

 

 

ワープというちゃぶ台を引っくり返すような力業で一位をもぎ取ったギルガメッシュ

 

 

己の迅速さのみでほぼ同着に持ち込んだアルスターサイクルのクー・フーリン

 

 

その10分ほど後にロイグ率いるマハ、セングレンの戦車一行が辿り着いたのだ

 

「なぁ、コンラ。そろそろ機嫌を直せ、な?笑顔だぞ笑顔だぞ。大事だ!はははは・・・」

 

「む~・・・」

 

フェルディアの制止も聞かず、不満のこもった瞳で英雄王ギルガメッシュを見つめるはコンラだ

 

「まぁまぁ、ほぼ同着に持ち込んだんだ。不満は無しにしようや」

 

笑いながら言うクー・フーリン。彼は納得しているが、彼女はそうはいかなかった

 

「む。どうした?そのような熱い視線を向けおって。お前の祖父すら上回る我のあまりの輝きに参ったか?」

 

ふはは、と笑う英雄王

 

 

・・・自分には解る。いや、王も解っていっているのかもしれない

 

コンラは不満なのだ。競争の結果に

 

あまりにも堂々と父の顔に泥を塗りかけた王に、とても納得いかない気持ちを浮かべているのだ

 

「英雄の中の英雄王、ギルガメッシュ!我が誇りの総てを懸けて、あなたにお伝えします!」

 

「赦す、述べるがよい」

 

「――私のお父様は最強の英雄なんだ!あなたみたいなズルをする人には絶対絶対!負けないんだ!」

 

涙目になりながら、コンラは王に捲し立てる

 

「お父様は!クー・フーリンは最強の・・・最強の、戦士で・・・最強の・・・!」

 

「ふはは、上には上がいると言うことだ。勉強になったな?コンラよ」

 

「う、うわぁあぁん!」

 

フェルディアにすがり付き、泣きわめくコンラ

 

「嫌い!嫌い!お父様の名誉に傷をつける人なんてだいっきらいだー!うわぁあぁーん!」

 

「おぉ、よしよし。可哀想になぁ。涙と鼻水でべちゃべちゃになる俺のタイツも可哀想になぁ・・・」

 

ケルトの戦士たちは、喜怒哀楽を鮮烈に現す

 

 

コンラは齢一桁にて命を落とした身。・・・感情をうまく制御できないのだ

 

 

「・・・むぅ。これでは我が悪者ではないか」

 

「まぁ、ガキの癇癪だと流してくれや。別にワープ禁止されてねぇしな」

 

ロイグは『動物は不衛生だから』とマハとセングレンを引き連れキャンプの外にて二頭の手入れにさっさと行ってしまった

 

 

《煽られたので本気を出したまでなのだが・・・何か不味かったか?》

 

――父は息子にとって偉大なるもの。それをゴージャスプレイで潰したとあっては・・・

 

《あぁ、成る程。私のお父様が負けるわけがない、と。ますますあの映像記録を見せたくなってきたな》

 

――や、やめてあげてください!流石にあまりにもあんまりでしょう!と、とにかく。コンラちゃんと仲直りしましょう!

 

《むぅ。・・・そうするか。奴は貴重な戦力。戦場で連携を拒まれては面倒だ。こと幼児の癇癪は理不尽かつ突発的であるからな》

 

――はい、後顧の憂いなく。絆は磐石、一枚岩にしておきましょう

 

《うむ。では任せたエア》

 

はい!・・・はい!?

 

《いい感じになだめるがよい。落ち着いた言霊は姫の方が相応しかろう。王が放つは威厳と哄笑、裁定であるからな》

 

――わ、解りました。・・・うぅ、ごめんね、コンラちゃん

 

「おら、コンラ。いつまでもないてんじゃねぇ。大地の精霊も泣き出しちまうだろうが」

 

「そうだぞコンラ。クー・フーリンが涙するとな、一週間は雨が止まずに偉いことになってだな?河が氾濫してだな。村が流される」

 

「だって、だってぇ・・・!」

 

「――すまなかったな、コンラ。我が大人げなかった」

 

王の、いや。姫の言霊が口火を切る

 

「は――?」

 

「おおっ――!」

 

「え・・・?」

 

呆然とするクー・フーリン、感嘆するフェルディアを横目に、目線を合わせ、真っ直ぐにコンラの目を見つめる

 

「お前の父、クー・フーリンのあまりに勇壮かつ雄々しい疾走と、それを誇るお前の姿がいとおしかったものでな。王の名に懸け侮ることなく全力を出したのだ。涙ではなく、凱歌を歌うべきだぞ。お前の父は、王たるものに本気を出させたのだ。我に本気を出させるものなぞ指が三本あれば事足りよう。ヘラクレス、我が友、そして――お前の父だ、コンラ」

 

「・・・お父様が凄かったから、英雄王は全力を出してくれた、ということ?」

 

うむ、と頷き、飴を手渡す

 

「お前の父を侮蔑したのではない。愚弄したのではない。敬意と矜持にて全力を出したのだ。お前が認めているように、我もこやつを高く高く評価している。赦し、そして仲直りをしようではないか。そら、飴をやる。涙の味より甘味の方が好みであろう?」

 

差し出された飴を恐る恐る受け取り、パクリと口に含む

 

「・・・美味しい!も、もう一個!もう一個ください!」

 

「貴様が我を赦すならば賜わしてやってもよい」

 

「・・・も、もう二個!三個!」

 

「十個やろう!さぁ返答を聞こうではないか!」

 

「許します!お父様は英雄王が認める、世界で三本の指に入る無敵の英雄です!そうですよね、ギル様!」

 

「さよう!我も白兵戦では勝ち目があるやも解らぬ!(負けるとは宣わない)ふははは!コンラ!貴様はよい父を持ったな!」

 

「ギル様!これからよろしくお願いいたします!」

 

涙はひっこみ、満面の笑みを浮かべるコンラ

 

「まさに太陽のような笑みだ!はははは!女性とはそうでなくてはならんな!」

 

「ギル様!飴!ください!」

 

「そら、口を開けよ!」

 

十個の飴を瞬く間に頬張るコンラ

 

「(むふ~)」

 

ハムスターのように頬を膨らませ、神代の飴を貪るその姿は、年相応に相応しいものだった

 

――ふぅ、良かった。機嫌は直ったみたいです、王よ

 

《流石は生粋の反逆者を説き伏せた魂、幼児など容易く調伏せしめるか》

 

――ストレートに謝り、ストレートに褒めて、偽りなく接すれば。子供は応えてくれると・・・王を見て学んでいますから

 

《フッ、いつか外界に挑む際も、これなら心配は少なく済もうな。大儀であった、我に代われ》

 

・・・ひょっとしてこれは、ワタシのコミュニケーション能力を査定したのだろうか・・・

 

幸せそうに飴を頬張るコンラの頭を撫でる。拒否されないところを見ると本当に警戒はなされていないようだ

 

 

「よしよし、これで遺恨は・・・む、なんだ、い・・・クー・フーリン」

 

クー・フーリンがこちらを無言で見つめているのに王が気付く

 

「や、見ろよこの鳥肌と蕁麻疹。今のオマエ、クラン・カラティンよりおっかねぇわ」

 

「怪物と我を同列に語るな、無礼であろう」

 

「いやはや英雄王、こやつのソレは畏怖の意味合いだ。こやつはクラン・カラティンに殺されかけた程の苦い記憶を持つ。横槍が無くば流石のクー・フーリンも危うしと・・・」

 

「あー無し!その話はタンマ!無しな!負けてませんー!生命拾ってませんー!」

 

「ふははは!流石の貴様も、常勝無敗とはいかないようだな!いや・・・いつもの事か」

 

「アレはクソ神父の方針が悪いって何度言わせんだよ!」

 

「皆さん!ここは兵士達の休む場です!静かにしましょう!」

 

め!ですよと口にチャックする動作で、英雄王、クランの猛犬、コノートの勇者を諫めるコンラ

 

「「「・・・はい」」」

 

 

三人は顔を見合せ

 

 

「「「――はははははははははははは!!」」」

 

 

高らかに、笑いあった。

 

「もう!静かにしなきゃだめなのに!」

 

 

「・・・なんの騒ぎだ」

 

手入れを済ませたロイグが頭を掻きながらコンラに訪ねる

 

「あ、それがですね」

 

 

「よし、どうせなら静かに騒ぐとするか。コンラ、喉に治癒のルーン書くからいっちょ歌え!」

 

「う、歌ですか?」

 

「歌声に乗せて、兵士達を癒してやるんだよ。ケルトはただ敵を殺すだけじゃねぇ。そこんとこをきっちり教えてやらんとならねぇだろ」

 

「うむ、まさしくそうだ!酒は飲むし女は抱くし歌を吟ずる楽器を嗜む!太く短く生きるのがケルト道よ!」

 

「うむ、野蛮の代名詞と思っていたが・・・中々文化人なのだな」

 

「おう!金ぴか、適当な楽器出せ!俺は琴、フェルディアはフルート、ロイグは草笛かハーモニカな!」

 

――これ、それ、どれ!選別は終わりました!

 

「良かろう。ならば我が聞き入ってやる!さぁくれてやる、演奏を始めるがよい!」

 

楽器を投げ渡し、三人が奏で始める

 

繊細かつ細やかな琴を掻き鳴らすクー・フーリン

 

穏やかなながら芯の通る音を吹き奏でるフェルディア

 

静かに、心に染み渡る安らかなハーモニカを吹くロイグ

 

「さぁコンラ、魅せてみよ。お前の歌声をな!」

 

「――はい!」

 

 

そしてそれらを美しく、力強く、切なく、哀しく彩り始めるコンラの歌声

 

 

あらゆる音階を使いこなし、高音にて透き通った絶世の美声が喉を震わし、キャンプに響き渡る

 

音色が歌を彩り、歌が音色を彩る

 

そしてルーンを刻まれたその音は、治癒と癒しを伴いキャンプを満たす

 

――魔力と効果を増幅する楽器を選別いたしました。この演奏が終わるうちには、負傷者は全快を果たすかと

 

《うむ。よい働きよ。――む》

 

王の耳が、遥か数百キロ先の軍の行進をつかみとる

 

 

《――キャンプに攻め入るとは小賢しいことよ》

 

――交戦ですね

 

《うむ。だがまぁ時間はある。今はこのままでも良かろうよ》

 

 

――はい

 

(惜しいなぁ、残念だなぁ・・・エアがここにいれば、最高の歌姫が誕生していたのになぁ・・・)

 

心から残念そうに呟くフォウをそっと撫でる

 

――後で、歌ってあげるね。フォウだけに、フォウの為だけに。歌は、リクエストを考えておいて?何でも歌ってあげるから、だからそんなに残念そうにしないで、ね?

 

(ボクだけの・・・歌姫・・・あぁ――ありがとう。ボクは君の優しさに、倒された・・・――)

 

虹色の炎になりながら、フォウは燃え尽きた・・・

 

 

フォウ――!?




コンラ!しっかりしろ!コンラ!!


穿たれ、瀕死となったコンラの身体を抱き抱えるクー・フーリン

何でだ!!なんで真っ先に俺んとこに来なかった!!

・・・あぁ、やっと・・・やっと名前を名乗れるね・・・


コンラは死ぬ。死の槍の呪いに穿たれ、確実に

――だからこそ。だからこそ、彼は破った

生涯の誓いを、誓約を。何も喪うものは無いゆえに

――私の名前は、コンラ・・・アルスターにて最も強く、美しい・・・クー・フーリンの息子です・・・

――誰に差し向けられた!誰に!誰だ!しっかりしろ!しっかりしろコンラ!!

――あぁ・・・やっと逢えた・・・やっと、名前を告げられた・・・

加速度的に冷たくなる身体、クー・フーリンの腕の中で冷たくなるコンラ

――貴方の子であることは誇りでした。貴方の子であると言うことが、私にあらゆる苦難を乗り越えさせる勇気をくれました


止めろ、止めろ!止めろ!!そんなんじゃねぇ、俺が、お前の口から聞きたかった言葉は、末期の告白じゃねぇ!!

涙を流し、泣きながらコンラの身体を抱き抱える

――ありがとう、お父様・・・戦士としてクー・フーリンに討ち果たされ、父として看取られて逝く・・・えへへ、コンラは、アルスター一の幸せ者です・・・――

止めろ!コンラ!!死ぬんじゃねぇ――!!

・・・だい、すき――おとう、さま――

コンラは、逝った

遥か先に掴む栄光を

細やかな親子の幸せをも、味わうこと無く

ただ、父の強い腕と、温もりを味わい

感謝を捧げ、逝ったのだ



――――うぉおぉおぉぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあーーーっっ!!!!

クー・フーリンは叫んだ。泣いた。泣き叫んだ


何故だ!!何でだ!!どうしてだ!!なんで――なんで!!何も知らねぇガキを!!使いに寄越しやがった――!!


もう動かない、大切な大切な子を抱き締め、彼は海の浜辺で泣き続けた


答えろ!!スカサハァアァアァアァアァアーーーーーーッッッ!!!


これが、伝説にいわく、クー・フーリンとコンラの戦いである



・・・そして、クー・フーリンの他にもう一人。嘆き悲しむものがいた


クー・フーリン・・・!おぉ、コンラ、クー・フーリン・・・!

クー・フーリンの父、太陽神ルーである


何故だ、何故だ。このような運命を、このような天命を何故彼等が引き受けねばならぬ、とルーは悔しみ、涙を流した


愛する息子になにもしてやれなかった

愛する孫になにもしてやれなかった

その後悔と無念は、世界の裏側に弾き出された後もルーを苛み、痛めつけ続けた

なにかをしてやりたかった

せめて、当たり前の邂逅を用意してやりたかった


そしてルーは思い至る



もし、彼等に第二の生があるならば

遥かな時空の果てで、巡り会う運命があるならば


その時は、我が総てを懸けて彼等を護ろう。彼等に祝福の総てを捧げよう


愛する息子と孫が、今度こそ離ればなれにならぬように

いつまでも、当たり前の親子でいられるように


ルーは総てを懸けて、コンラに力を授けた

投石器には光の加護を、肉体は有り得ざる成長の可能性を

その祝福の総てを――彼が持つ槍に託した

そして、ルー個人のお節介として

コンラの容姿を、母の面影を残す『女性』へと変え、送り出した

息子よ。どうか彼を、彼女を見て、思い出してほしい

その子は、お前と妻の子であるのだと

オィフェがクー・フーリン確かな愛と祝福にて育み、歓喜に恵まれ生誕した子であるのだと――

――太陽神は、祈りを託し孫を送り出した


今度こそ、その旅路に


『光と祝福あれかし』と――

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