人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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クー・フーリン伝説


「なんてことだ!大地が丸々抉られている!」


「こちらに積み上げられた死体は総て胴体に頭が埋まり、地面にめり込んでいるぞ!」

「それだけじゃない!死体が八つ裂きにされ、川は干上がり、大地は割れ、戦場が余すことなく血にまみれている!」

「間違いない、これは――!!」


「「「「「「クー・フーリンの仕業だ!!」」」」」」




「はっくしゅっ!」

誰にも真似できない神業は、総てクー・フーリンの仕業


クー・フーリンの縁結び

「オレはアルスターのクー・フーリン。今更名乗るまでもねぇだろ」

 

 

槍を構え、視認すらできるような濃密かつ獰猛な殺気を放つクー・フーリンが簡潔に告げる

 

 

「縁だ。死ぬ前にとっとと名乗れ」

 

 

「――フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ」

 

輝くような美貌、目元の艶やかな黒子、手にした紅と黄の槍

 

麗しの若武者、ディルムッドが、畏怖を浮かべながら名乗りをあげる

 

 

「同じく、フィオナ騎士団の首魁、フィン・マックール」

 

笑みに決死の運命を覚悟せし、絶世の美貌をまた湛える、美しき槍を得物とする、栄光なるフィオナ騎士団を纏めあげるフィン・マックール

 

 

二人は、ケルトにその誉れを刻みし『フィオナ騎士団』所属の英雄。それがメイヴに召喚され、仕えているのだろう

 

 

二人の気迫は凄まじい。それは戦士としてのものであり

 

 

・・・逃れられぬ死を抱いた故の、生存本能でもあったのだ

 

「――・・・っ」

 

息を呑むリッカ

 

 

ケルトの戦い。その一部始終を目の当たりにせんと目を見開く

 

不思議だ、と感じる自分がいる

 

あんなにも強く、濃く、凄まじい殺気を放っているというのに、恐怖も畏怖も感じない

 

・・・あるのは、安心と確信のみ

 

『彼なら大丈夫』と確固たる安心を与えてくれるその背中

 

彼は語る。自らを見守る、背中を預けるマスターに

 

言葉にせずとも、背中にて彼は語るのだ

 

 

――オレを、信じろ。と

 

 

(信じてるよ、クー・フーリン・・・!)

 

右手の甲を握りながら、リッカは祈る

 

(勝って!完膚無きまでに!)

 

――図らずとも、それは彼へ届いた

 

 

令呪が、莫大な魔力の塊へと変化しクー・フーリンへと流れ込む

 

 

令呪とは、極めて具体的かつ限定的な強制に絶対的な権限を持つ

 

『ここへ来い』とあれば時空を跳躍する

 

『自害しろ』とあれば全身の力を込めて武器を己に押し込む

 

『聖杯を破壊しろ』とあれば存在に担う魔力を使ってまで破壊するだろう

 

 

逆に、曖昧な命令はけして強制することはない

 

『一生従え』とあれば、逆らう際にステータスにペナルティがかかるだけであるし

 

『必ずや勝て』などでは只の魔力となりサーヴァントに還元されるのみである

 

――今更のリッカの願いは、魔術的な観点で言えば無駄打ちにも等しい

 

 

あまりにも観念的な、あまりにも即物的な願い

 

 

――だが。アルスターの戦士には

 

 

――おう。任せときな!

 

令呪にて散々と煮え湯を飲まされ、命すら奪われた彼にとっては、その願いは

 

 

――嬢ちゃんはホント、最高のマスターだなぁ!

 

その令呪の授ける想いは・・・己が積み上げた栄光に匹敵するほどの尊い願いであった

 

 

「さぁ、始めるとするかね!」

 

 

クー・フーリンが吠え、力を込める――!

 

 

「――主よ」

 

ディルムッドが、振り向かずに主たるフィンに呼び掛ける

 

「――何かな、ディルムッド」

 

また振り向かず、応えるフィン

 

 

「・・・刹那のごとき一瞬だとしても。このディルムッド、貴方と肩を並べ戦えた事に、感謝を」

 

それは、心からの想いかつ、願いであった

 

騎士道の本懐を果たす。ディルムッドの願いはただそれのみ

 

彼は聖杯にすらそれを願う。主と共に、誉れある勝利を

 

故に――彼の願いは、叶っていたのだ

 

「――私も同じ気持ちだとも、ディルムッド」

 

涼やかに笑うフィン

 

「こうして、お前とまた同じ戦場に立てて、本当に・・・――」

 

 

確かに生まれ、確かに育まれた絆を確かめあう二人の主従

 

 

巡り会えた奇跡に感謝を

 

再び出逢えた運命に歓喜を

 

二人の心は、確かに繋がっていた

 

 

――だが、同時に彼等は一瞬、忘れてしまった

 

 

「さぁ、共に――――、」

 

・・・彼等が目の前にしている男が何者なのかを

 

「――――主・・・!!?」

 

戦場にてクー・フーリンの前に立つことの意味を

 

 

「『蹴り鏖す死棘の槍(ゲイ・ボルク)』」

 

味方には情厚く、けして裏切らぬ誇り高き犬である彼の矜持を

 

「――、く、ふっ・・・――」

 

そして――敵対するものには

 

 

「――何をごちゃごちゃくっちゃべってやがる。末期の別れなんぞ陣の内で済ませとけ、間抜け」

 

微塵の情け容赦も示さぬ、その獰猛たる気性と本性を――!

 

 

大量の血反吐を吐き、立ち尽くすフィン・マックール

 

その胸には、いや『胸があった場所』には綺麗に空洞が穿たれてあり、心臓とその周囲にある臓器、筋肉、皮膚を総て抉り取られていたのだ

 

 

――そう、因果逆転、一死一殺の呪いの槍『蹴り鏖す死棘の槍(ゲイ・ボルク)』を発動し、彼はフィン目掛けて蹴り込んだのだ

 

マッハ3をゆうに越えながら、生じる総ての威力を確かに心臓を穿つために放たれし呪いの槍

 

 

穿つは心臓のみならず。胸の辺り一面を綺麗に根刮ぎ奪い去り、遥か彼方まで飛来していったのだ

 

 

「風通しが良くなったな、マックールの小僧」

 

「――――――――――――――」

 

「あばよ。次の縁でまた逢おうや」

 

霊核、心臓、臓器を余さず穿たれ、もはや眼の光を喪う屍と成り果てたフィンに別れを告げる

 

 

 

「王――――――!!!!」

 

 

王を討ち果たされ、先立たれし忠義の騎士の慟哭が響き渡る

 

が――

 

「わめくんじゃねぇ。次はテメェだ」

 

一瞬にて必殺の間合いに踏み込まれ、全身が粟立つディルムッド

 

 

――やられる――!!

 

戦士の本能で、培った心眼で自らの運命を察しなお足掻く

 

 

「『破魔の』――!!!」

 

 

真名を解放する――が

 

 

「『突き砕く不壊の槍(ドゥ・バッハ)』」

 

総ては遅く、運命はここに定まっている

 

「なっ――!!?」

 

 

真名を解放し、黒き槍を振るうクー・フーリン

 

その余りに速く力強い槍捌きを受け止めた。受け止めた筈だった

 

 

ディルムッドが絶望に眼を見開いたのは・・・

 

 

『槍に触れた』紅き槍と黄の槍が・・・粉微塵に消し飛んだことである

 

 

――そして

 

「がふっっっっっ――――!!!」

 

 

遥か彼方に飛来したゲイ・ボルクが、その何倍もの速さにて持ち主たるクー・フーリンの手に収まる

 

 

――その軌道上にいたディルムッドの心臓と辺りの総てを。仕えし王と同じように穿たれ消し飛ばされながら

 

 

「その心臓、確かに貰い受けた」

 

勝負の決着を告げる、光の御子の声を遠く耳にしながら

 

 

「俺には負けられ・・・いや、苦戦すら許されねぇ誓いがあってよ。この程度も避けられねぇようじゃ、俺の前にはたてねぇよ」

 

 

霊核を心臓を、己の総てを打ち砕かれし虚無感と喪失感に苛まれしディルムッドが最期に見たものは

 

 

「次は肩を並べたいもんだ。ーあばよ。ディルムッド」

 

悠然と光輝き、返り血の一つすら残さずマスターに歩み寄る

 

「――――こう、えい・・・です――――」

 

 

光の御子の、勇姿のみだった――

 

 

 

 

――クー・フーリンは己に誓いを懸けていた

 

 

 

この授かった力を、けして我欲のために振るうまい、と

 

 

戦の快楽に耽らず、戦の歓喜に身を預けず

 

 

ただ、誓いを果たすために戦うのだと。この身にこの上なく重く、また誇らしい願いを課したマスターの為に、マスターの未来の為に槍を振るうと定めたのだ

 

 

戦士として、駆け抜ける。思うままに戦い、必ず勝利を掴む

 

 

マスターの背負っちまった重荷を、少しでも肩代わりし、軽くしてやる

 

最短距離で駆け抜けて、最短距離で誓いを果たす

 

 

いつか、嬢ちゃんが、なんもかんもの重りを捨てて、心から笑って世界に生きる未来を掴むため、己の総てを懸けて戦い抜く

 

『世界を救うまで、誰にも負けない戦士であって』。それを果たすためだけに。己は誇りを以て戦うわけだ

 

 

敗北など話にならねぇ

 

苦戦ですら恥と知れ

 

自分がマスターにくれてやるのは、ただ圧倒的で、完全な勝利のみ

 

 

そうでなきゃ、オレはオレを赦せねぇ

 

 

聖杯を惜しげもなく俺に使うことを決めた嬢ちゃんに

 

『カッコいいオレを見たい』なんて理由で、オレの総てを背負うと決めたマスターに

 

・・・オレの総てを取り戻すために、願望機を使っちまったおバカな嬢ちゃんの期待に

 

 

応えてやらなきゃ、英雄なんぞを名乗る意味がねぇだろうよ――

 

 

「――わりぃわりぃ、待たせちまったな」

 

ニカッ、と歯を光らせ笑う、いつものクー・フーリン

 

「つい張り切っちまってよ。――どうだい?」

 

頭を、わしわしと撫で付ける

 

「嬢ちゃんが選んだサーヴァントは、かっこよかったかい?」

 

「――うん!最高だったよ!コンちゃんが言うように、兄貴は最高の戦士だね!」

 

「おう!!こっからもガンガン活躍してやっから期待しとけよ!さぁ、帰っか!」

 

ヒョイ、とリッカを抱きあげ、素早く速度を上げアメリカの大地を駆け抜ける

 

 

「帰る方が戦ってる時間より速いかもだよ兄貴!!」

 

「ハハッ、そうかもな!じゃあ――もっと本気を出して駆けるとするかい!!」

 

 

更にスピードを上げ、速度はマッハ5に達する。ソニックブームを撒き散らしアメリカの大地を抉り飛ばしながら

 

 

「はや――――――――――――――い!!!!」

 

「そこそこ本気だ!ルーンが無きゃ挽き肉だ、掴まってろよマスター!!」

 

「すご――――――――――――い!!!!」

 

蒼き彗星は、一直線に駆け抜けた――




「ふん、滞りなく討ち取ったようだな。よい仕事ぶりだ、クー・フーリン」

――ま、まさか苦戦すらしないとは・・・!クー・フーリンの全力、想像を遥かに越えていました・・・!

《ヘラクレスを最強とするならば、ヤツはこれ以上無い戦士である、という事よな。我の財を賜せたのだ、敗北も苦戦も話にならぬ。――それはヤツとて同じだろうよ》

――ごくり・・・っ


《どうだ?エア。ヤツの本気に、我は後れを取ると思うか?》

――取りません

いえ、取らせません!ワタシが傍にある限り、絶対に!!

《――ふはは!そうかそうか!頼もしいことよな!まこと、お前という存在は倦怠と慢心に効く特効薬よな!》

――あ、あっ、あっ・・・!も、申し訳ありません!王を負けさせぬ、など・・・不遜かつ、傲慢に過ぎました・・・!

《よい。――信を置いているぞ。何よりもな》

――はいっ!もっともっと、ギルの為に頑張りますっ!

《ふははははは!まことに貴様は愛いにも程があろうよ!もう一度、呼んでみよ、ん?そら、早く呼ばぬか、ん?》

――あーっ!あーっ!あ~っ!すみません!ごめんなさい!不敬でした――!!

(尊い・・・(虹色の結晶になり、レインボーダストとなり砕け散る))


フォウ――――っ!?


《さて、存分に姫を弄んだ事だ。――さて》




???


「――・・・・・・ラーマ、さま・・・・・・」





《――エア。赤面してる暇は無いぞ》

――は、はいっ?

《『解呪』の原典を見繕っておけ。あるだけ、山ほどな。神の呪いすら弾く代物も必ずや見つかろう。『転写』の原典もあれば尚磐石だ》

――重大な呪いを受けたサーヴァントが、もしや・・・?

《――恋愛譚など我にはどうでもよいが、愛するものの応援で鼻息荒く奮闘する馬鹿者の醜態を楽しむのも悪くない。それに――》

――?

《――お前の愉悦には、絶好の教材であろうからな。コンラめに当てられたか?まこと我も、甘く、煩悩を懐くようになったものよな―》


NEWクー・フーリン伝説

名乗りを上げた2秒後にはサーヴァント2体を討ち取っていた。マッハ3で槍を蹴り飛ばし一人を仕留め、その倍速で帰ってきた槍を片手でキャッチ

縁を繋ぎ、敵に回った顔見知りとの再会を来世に託し一瞬で殺戮することを『クー・フーリンの縁結び』という

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