人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ルイノス「あぁ…ありがとうございます、極東の麗しき創造の女神様。とても、楽になりました」
イザナミ『無理はなさらぬよう。護符も含めれば歩けはします。ですが呪いは、あなたに刻まれたままなのですから』
ウーサー「ルイノス…」
ルイノス「ウーサー、ケルヌンノス様とも決めた事です。私達は、向かわなくてはならないのです。あの国へ。我々とは異なる、確かに似通ったあの国へと」
ウーサー「…」
ケルヌンノス「ヌン…ヌン…」
ルイノス「あそこには、苦しむケルヌンノス様や、巫女も、そして最後の希望をもたらす妖精も。誰もの無念を、晴らしに」
ウーサー「………」
(……力を貸してくれるだろうか。誇り高き、六人の妖精達よ)
〜
キャスター・アルトリア「では改めて。私はアルトリア・ペンドラゴン。そちらの楽園の妖精たるキャスター・アルトリアとは違う、キャスターとしての人生を選んだアルトリアです。ハトさんに必要な人材として召喚されました。もう護りたいものはここだけにしかありませんが、よろしくお願い致します!パワー魔術が得意です!」
モルガン『ほう。(座のモルガンと同期)なるほど。できの悪い妹だが、活用するとしよう』
アルトリア「なんだとぉ!?」
チルノ「お前らが妖精國の妖精か!あたいはチルノ!よろしくなぁ!」
ビリィ「よろしくね。あと一人、仲間がいるからそちらとも是非」
ホープ「わざわざ、本当にありがとうございます!」
ロマン『あ、あの…あそこで首を吊っている方は…』
?「この異聞帯の中は重ねる時間軸が違う。一日はそちらと同期しない。妖精は自らのルールで世界を変える。罪と悪意に染まらぬ三人の妖精の力と、湖の管理人の力によりこの空間は作られた」
マシュ「は、はい?」
?「この地はかの妖精、ヴォーティガンと名乗る妖精と神の怒りにより滅亡し、呪いと怒り、憎しみが渦巻いている。贖罪が必要だ。幸いにも、その意志を最後の最後に妖精は懐くことが出来た」
アルトリア「あー、あの人はアレがルーティンみたいなんで。そろそろ降りてくださーぃ!」
オーディン「智慧の首吊り終わり。創造主の命を受け現れし、オーディンという。クラスは今はランサー。贖罪の為の、あらゆる叡智を導こう」
ロマン『お…オーディンだってぇ!?』
オルガマリー『北欧神話の…主神…!!』
「賢くなるには首を吊るのが一番だ。汎人類史の者達よ、ホープ、ビリィ、そしてもう一人の妖精の下へよくぞ辿り着いた。情報共有の任は、今から私が果たそうぞ」
首吊りを終え、オーディンを名乗るサーヴァントがゆっくりと口を開く。ブリュンヒルデは硬直している。無理もない、紛れもない大神、主神、父が現れているのだから。
「まず、友好的な妖精の生き残りは三人だ。こちらのホープ、そしてビリィ、最後にはバーヴァン・シーという三人。妖精國の妖精は、皆全てかの厄災に呑まれていった」
「妖精っていうのは、自分の力で世界のルールを簡単に曲げられますからね。地表が地獄みたいになってるのは、厄災と一つになった妖精が領域を支配してるから…と、姉が言っていました」
アルトリア、並びにオーディンが説明を開始する。ホープとビリィは、チルノと話し意気投合をしているために彼等が説明役を買って出たのだ。
「この異聞帯の成り立ちは、君達の知るセファール来襲が分岐点だ。かの巨人が現れた時、楽園に済む妖精達が使命を果たさなかった事により世界は無の海となった」
「せっかちなのは許してくださいね。もうマジで長い成り立ちかつ話さなくちゃいけないことだらけですんで!」
『使命を果たさなかった…?それはどういう事だい?』
「あー、それはですね…」
「…サボタージュしたんだ。はじまりの妖精達、その六人。我々の先祖は白き巨人が来たその日に、仕事をボイコットしたんだよ」
それはオーディンではなく、ビリィの口から放たれた。それきり俯いたビリィに変わり、二人は説明を続ける。
「彼等妖精の先祖とは、はじまりのろくにんと言われる者達だ。彼らは星の聖剣を担う役割を持っていたが、その日に限り仕事を放棄し遊んでしまった」
「聖剣が無ければセファールも倒せず全てが手詰まり。為す術もなく、地表はほとんどが回収されてしまいました。やらかしと言うにもなまぬるい、最悪の間の悪さですよねホント」
「困り果てた妖精達を、叱り糺す者がいた。それがケルヌンノスと呼ばれる神であり、その巫女の二人。彼等は楽園に逃げ込み、難を逃れていた。そして今度こそ、六人に怠けることが無いよう、戒め、叱ったのだ」
再び全てを産み出すために、今一度新しきを始めるために。だがそれを受けたはじまりのろくにんは、あまりにも幼稚でおぞましい行動に出る。
「大地がない状態、海しか無い状態。それらを厭うた妖精どもは、あろうことか神に責任転嫁を行った。『自身らを働かせなかった神が悪い』と。そして…」
「…祭祀と称してケルヌンノス神を欺き、毒酒を呑ませて殺し。その遺体を、大地として利用したのです」
「…………………は?」
マシュの胴間声は、カルデアの総意であった。いや、まともな人間が素直に受け止められるはずもない、あまりにも下劣で醜悪な行為だった。
「…私達の先祖は、私達を叱り、導いてくれようとした神を殺し、自分達の為に利用しました。そして傍らにいた巫女…人間を、大切な、大切な道具として扱ったのです」
『ちょっと待て!それはケルヌンノスの巫女、ルイノスの事か!?…解体保存って、まさか…!』
「…クローニング技術に、生体部品としての技術転用。ケルヌンノスの巫女を、バラバラにし…その命と尊厳を、最悪の形で活用したんだ。人間という動物を、作り増やすために」
稚拙で、幼稚な思いつきであり、そこに悪意はなかった。ただ、新しい妖精の世を迎えるための工程であり活用法だったのだろう。
故にそれは、己がいかに悍ましい原罪を懐いたか理解すらしていない、自分自身を、自身が悪とすら自覚のない最も醜悪な悪魔と堕した行為であった。六匹の悪魔は、二度と楽園へと戻れなくなった。永劫許されぬ罪を、犯したゆえに。
「遺体となったケルヌンノス神は、怒りと呪いをその遺体からまき散らし続け、君たちが見た厄災の最も強き根源として妖精達を呪い続けた。いや、今もなお呪い続けている。妖精達が、残り彼等となった今でさえも」
「妖精達は理不尽に死ぬようになりました。無論それはケルヌンノスの呪いのせいです。六匹のクソ妖精どもは慌ててケルヌンノスから逃げ、海を埋め立て、罪を覆い隠すように伝説を書き換え、見知らぬふりをし繁栄してきたんです。それが、このロストベルトの成り立ちです」
『…はじまりのろくにんが、仕事をサボり、神を殺し、人間を悪用し、罪から目を逸らし栄えたのがこのロストベルトだというのかね!?』
何も擁護できん!ゴルドルフの叫びに、シオンも自身の所感を付け足す。
『こんなに滅びて残当としか言えないケースはちょっと覚えが無いですね…汎人類史の妖精は人間の関わりを絶ちましたが、それは人間の悪意に染まるのを恐れた、というのが通説です。はじまりのろくにんの悪意を、人間のクローンで更に熟成させたとなれば…』
『魂に永劫許されぬ罪を懐いた罪人が無数に増える。何が悪いか、赦しをどう得るかも分からぬまま、呪いで死んだ亡骸が積み重なり大陸として広がる。そうして現在まで続いてきたのが、今お前達のいるロストベルトという事だ』
モルガンの締めにより、一同はかの異様な厄災の数を理解する。ケルヌンノスは怒り、呪い続けているのだ。妖精達を滅ぼす為に。文明として、死に絶えた今も。
「…僕達の罪はまだある。それでも、僕達を救わんとしてくれていた人はいてくれた。救世主と呼ばれた人。僕とホープ、そしてバーヴァン・シーという仲間を僕達に託した、トネリコという人が」
『………私の記憶が正しければ、汎人類史の換算で紀元前4000年前に死んでいる筈です』
モルガンの言葉に、ビリィはホープを抱き寄せながら話す。他人任せにせず、それを受け止めるように
「………そうなんだ。僕達が懐いた罪はあまりに重すぎる。それを突きつけられることを嫌がった妖精達は皆、罪を知らせる救世主を敵として迫害したんだ。長い間、ずっとずっと」
罪を見つめることも、自覚することも、償うことで罪から始まった自分自身の歴史と世界が消えることを厭った悪魔の末裔達は、差し伸べられた手を裏切り続けた。救いを求め、助けられたら功績を羨み、恩を仇で返し、救世主たる者を殺しに殺し続けたのだ。
「救世主様は、結婚式を挙げました。私とビリィは、救世主様と仲良くさせてもらったから、御客様として参加していて…旦那様が、飲み物を飲んだら苦しみ始めて、そのまま…」
ホープとビリィは、救世主が罪人の島々で見出すことの出来た奇跡の存在だったという。偶然、ほんの偶然見つけることのできた、間に合う事ができ掬い取った僅かな、確かな善性。
「更なる相違点として、恐ろしい事に神を殺した毒酒を妖精たちは現存させ、ウーサーと救世主に飲ませたのだ。最早魂を殺す毒に、夫婦は完全に死に絶え、結婚の義は破壊し尽くされ、完全に救済の道は絶たれてしまった」
オーディンは敢えて現在の9日前にズレて召喚され、首を吊りながら妖精國の知識を蓄えた。先の知識は、考古学を人間から学び、模倣し、自らのものとしたビリィと共に紐解いた真実の歴史。
「その時に…バーヴァン・シーと名前を付けていた、一人の妖精を僕達は託された。救世主様は、最後の力で僕達を逃してくれた」
救世主の死。救いの死。妖精とは名ばかりの罪人たちが行った、救世主への尊厳の侮辱は、間もなく応報したという。
「その、一年もしない後に…この島を、呪いと絶望が覆い尽くしたの。獣が暴れ、炎が満ちて、呪いの手が、何もかも、何もかもを引きずり込んで…」
ホープは恐ろしげに、しかし当然だと言わんばかりに口にした。自身らの、種族の末路を。
「生き残っていた、先祖返りの妖精も。クローンの人間達も、全ての妖精も、何もかもが厄災に呑まれて消えていきました。残ったのは、ここにいるほんの僅かな妖精のみ。妖精たちは皆、更地となったこの島にてただ消え去り死んでいったのです」
「そして、現在に至る。これが妖精國…いや、国ですら無い。妖精達の『生態』の全てだ」
『……あまりにもショッキングだけれど、あなたが紛れもなく大神オーディンだというのは理解できました。そして、キャスター・アルトリアもまた味方だということも』
「それは良かった!あ、じゃなくて…凄く重い話で疲れましたよね?まだ妖精とか、ビリィやホープとかの紹介もあるので、一旦休憩にしましょうよ!この場所は私がニミュエと手掛けた、アヴァロン直通道らへんに作ったセーフティエリアなので!」
アルトリアが明るく声を上げるも、カルデア側の困惑と沈痛は深いものだった。
『……もうこれ、ホープちゃんやビリィ君、バーヴァン・シーとやらを引き取るだけでいいのではないかね…?』
『ロストベルト由来の存在は汎人類史には持ち込めません、副所長』
『あぁ…では、さっさとルイノス君を助けて帰りたいね…』
あまりにも完璧な、滅亡の理由。その真実に、ゴルドルフは落胆を隠せないのであった…。
ホープ「………」
ビリィ「………」
チルノ「おい、ホープ!ビリィ!もっとおまえらの事を教えろ!」
ホープ「え、えっ?なんで…?」
チルノ「なんでって、名前しか聞いてないじゃないか!」
ビリィ「僕達は…とても罪深い存在なんだよ、チルノ。せっかく会えはしたけれど、ここはお互いに仲良くなることは避けて…」
チルノ「お前たちが悪いことしたわけじゃないだろ!」
「「!」」
チルノ「よくわかんないが、ごめんなさいの仕方がわからないんだろ?ならあたいが教えてやる!だからあたいの、子分になれ!」
ビリィ「…チルノくん…」
ホープ「…ありがとう…ありがとう…!」
チルノ「???泣くほどか??」
オーディン「いいマスターだな、娘よ」
ブリュンヒルデ「あ、あの、あの、あの…」
モルガン『お前は…相当に愉快なアルトリアなのですね』
アルトリア「紛らわしいので妖精騎士ベディヴィエールでいいです?」
モルガン『名誉毀損はやめなさい』
アルトリア「はぁ!?名誉なんじゃないですか!?」
リッカ「…………」
ロマン『リッカ君…その、モチベーションは大丈夫かい?』
ゴルドルフ『う、うむ…君のメンタルが心配だよ、我々は』
リッカ「まだだよ、皆」
オルガマリー『リッカ?』
リッカ「まだ…希望は呪いに沈んでない」
チルノ達を見据え、リッカは冥き漆の空を見上げる。
その眼は──この地にて成すべき業を、強く見つめていた。