人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
(なんだ、ここ。俺は…いったい、どうなった…?)
白き虫『チチ、チチッ』
「!…ブランカ…?」
白き虫『チチッ、チチ…』
ギルガメッシュ「ようやく目を覚ましたか。厄災に呑まれたせいか、はたまた厄災を甘く見たのかは知らぬが、我等が手を出すまでもなく死にかけていようとは。手間はかからぬがいささか驚きというものよ」
「!!」
ギルガメッシュ「責めはせん、しかし示すが良い。貴様が何者であり、どのような経緯を持って瀕死に打ち捨てられていたのかをな。付け加えておしえてやるが、失った臓器の代わりに詰め込まれていた呪いを肩代わりし、取り払っていたのはその白き虫の功績だぞ?」
ブランカ『チチ……』
「見出すころには瀕死であったが故、まとめて治療しておいた。なんであれ、貴様はこの功績に報いるべきでは無いか?」
「…………今更教えてやる義理もないけれど、助けてくれた事自体に文句を言うのも馬鹿馬鹿しいな」
───ブランカさんを従えた、あなたは一体…
「ヴォーティガーン。オベロン・ヴォーティガーン。このクソッタレなブリテンを跡形もなく滅ぼして、ついでに願いを叶えたくて仕方ない存在さ。まぁめでたくヴォーティガーンはクビになった木っ端妖精さ!よろしくな?クソ王様!」
──オベロン…ヴォーティガーン…
「ブリテンの望んだ終末装置とやらか。…むしろよくぞ生き延び、死に損なっていたものよ──」
〜
ライネック「オレは思う。妖精は救われるべきではなかったと。お前の献身に、あまりにも報いれないゆえ滅ぶべきだと」
トネリコ「それでは困ります」
ライネック「なぜだ?使命を果たせぬからか?」
トネリコ「ライネックや皆が、当たり前のように滅ぶなんて認めたくないからですよ」
ライネック「トネリコ…」
トネリコ「私は、みんなのために妖精を救います。皆が、私の國の民だから。みんなみんな、幸せでいてほしいから。だから、そんな哀しいことを言わないで」
ライネック「……」
トネリコ「私は、あなたや皆に逢えただけで幸せなのですから──」
…そうか、ならばせめて祝おう。
お前が人として、ついに幸せを掴む日に
「あ…ここらへんには、たしか…」
南西をより、北へ北へと向かうカルデアの探索メンバー。北にあるとされる、トネリコの婚姻の儀が行われていたある意味では救世主達の聖地とも言える場所を目指す中で、彼女らはちょうどブリテン中心へと差し掛かる。それと同時に、バーヴァンシーがぼんやりと声を上げた。全てを、懐かしむように。
「ここは、近くに…ウェールズの森があった場所。お母さんが虫の苦手な人だったから、避けていたけど…」
「…そうだね。僕達の殺害を目論んだ、当時の氏族達の謀略で…それだけの理由で燃やされ焼け落ちてしまった、森があった場所、だね」
「ウェールズの森…なるほど。あなたたちは何百年、何千年とブリテンを旅していたことがあったのですものね」
思えばホープ、ビリィ、バーヴァンシーを助け、未来の救いになるように細工を施し、自身の命すら活用した救世主トネリコの人となりや話をまるで聞いてはいなかった事をリッカは思い出す。
「ねぇねぇ、トネリコ様って一体どんな人だったの?救世主だった人の事、もっと良く知りたいな」
「トネリコ様のこと、ですか?勿論構いません!私達が知り得る事を、何でもお話いたします!」
ただ黙々とこなす贖罪の形もあるが、最期までやり切るには長い旅路に話しの花を咲かせるもまた一興。誰もリッカを止めるものも、阻むものもいなかった。ホープ達は、危機として語り出す。
「救世主トネリコ様。妖精たちを救い、人間と妖精を繋ぐとされていた救い主。彼女はアヴァロンからやってきてくださった楽園の妖精で、妖精達の罪を全て許す存在…そのように、あの御方が教えてくださった事を、まとめてお話させていただきますね!」
…──トネリコはアヴァロンより齎された、使命を帯びてこのブリテンへと現れた救世主。卓越した魔術と並外れた知見と洞察力を併せ持ち、妖精達の未来を考え動いていた者である。彼女は仲間とされる妖精達を従え、何千年も前から妖精國を救うために活動を続けたもの。彼女は末期の1000 から2000年程には、眠っていたバーヴァンシーを除き心を通わせた妖精と共にあったとされる。
まず、乱暴者のトトロット。妖精達の中でも気性が荒く、罪人たる妖精達と反りが全く合わずに妖精國を放浪していたところを拾われたマイペースな妖精。花嫁を支える妖精として、トネリコをあくまで少女、女性として支え導いた一人。
排熱騎士ライネック。力が強く嘘をつかず、直情型で激情型の妖精として名を轟かせ暴れ回っていたところ、トネリコに惨敗した後その強さに惚れ込み行動を共にした戦闘を司っていた存在、その一人。
黒騎士。寡黙であり自身から言葉を発することは滅多になかった職人気質。武器や鎧などの鋳造に長けた、鍛冶屋のような存在であり、揺るがぬ柱のようであったその一人。
「妖精國として評判が悪いのなら、それは私達に取っては良い妖精という事でもある…という事ですね」
「どう聞いても愚連隊や反社会グループに聞こえますが、罪人たちが作り上げた犯罪都市に弾圧扱いされていたなら私達の中に敵意は必要ありませんね」
「数千年、か…想像もできない間戦っていたんですね…」
キャスターアルトリア、CCAはトネリコについて知っている情報が異なるため、うんうんと頷いている。彼女は救世主として、数多の苦悩と苦難に直面してきた。その中で、自らの可能な範囲での救済を行い活動を続けてきた。
「僕達も妖精國で過ごしている以上、トネリコ様の事は出会う前から心得ていた。我等の罪を赦したもう救世主。予言に語られていた子。ブリテンに人と妖精の和睦をもたらすものである、と」
事実、ケルヌンノスが死んでからの間、怒りと呪いの大厄災にて妖精たちは何度も何度も滅んでいた。そんな中トネリコは、未来と希望を信じて妖精達を救い、導く活動を長い間行っていたとされる。
「我々が合流する前から、何度も何度も妖精達を救ってくださったトネリコ様に、我々妖精は感謝ではなく裏切りを以て応えていった」
そう、妖精の改心と反省を信じて種の存続と救済を行い続けてきたトネリコは、その全てに裏切られた。妖精達の心は移ろいやすく、お礼や感謝などといった感情が極めて希薄。助けを求めたその口で、トネリコの所在を告げ氏族の長から報奨を授かるなどとは日常茶飯事だったという。
「『もう経験していない死因は毒殺だけ』というのがトネリコ様渾身のジョークでした。いくらなんでも、それを笑うことはできませんでしたが…」
気まぐれで裏切り、その力を恐れて裏切り、もっと最悪な際にはトネリコの力や名声をまるごと奪い取ろうと裏切った妖精達。その旅路は、あまりにも過酷だったとされる。
「先程お伝えした、ウェールズの森という場所は、ちょっと智慧を身につけ辛かった妖精達の憩いの場所だったんです。そこには、意思疎通は難しくても気の良い、優しい妖精達もたくさんいました。妖精達の鼻つまみものや、何らかの理由で追放されたもの、身を寄せ合って過ごしていた森があったんです」
『…虫が多かった筈だが、トネリコは平気であったのか?』
「それが、私達が合流した千年間の中で克服しようと必死に頑張り、五百年かけてようやく悲鳴をあげずに向き合えるようになったと胸を張っていましたよ!」
「彼女だけは何故か、虫の妖精達と話をすることができた。その森での女王たる白き羽のブライド様と協力して、ブリテンの未来を変える礎を築き上げようと手を取り合えたんです。ウェールズの森は、中心付近ながらも妖精達の迫害を受けたはぐれものが身を寄せ合っていた場所。僕達は、そこを拠点にしていた時期もあったのです」
『……想像を絶する苦労だったろう。どこまでも努力家だったのだな、トネリコは』
知恵がやや劣る分、人間の幼稚な模倣たる社会性を受け入れなかった森として、トネリコはそこの妖精たちを導いた。ホープやビリィという奇跡を手にし、妖精は救われると信じていたが故の行動を取っていた。しかし…
「…ウェールズの森は、焼き払われてしまったんです。トネリコ様の名誉を手にしたがった妖精達の手によって。或いは、本能的に切り捨てた筈の妖精達が救いに向かおうとしていた事への自分勝手な憎悪をもって」
トネリコが(尽きかけていた愛想を注いで)育んだウェールズの善なる妖精は、風の氏族の親衛隊、牙の氏族との連合軍により完全に討滅されたのだとビリィは語る。最後の千年の風の氏族のトネリコ達への執着はあまりに異常で、痕跡がわずかでも見られればそれを踏み躙り、彼女らに続こうとした妖精達は片端から追放、処刑された。ウェールズの森にいた、追放され、反省は未だせねどいずれ辿り着くはずだった妖精たちは皆殺しにされた。
「なんで、より良く向かおうとしたものに限って台無しにするんだろう…確かその時の風の氏族はオーロラだよね?」
「はい。オーロラは常にトネリコ様をひと目見たい、見つけたら私の下へ連れてきてと兵を派遣し捜索していましたから。思えば、殺すための捜索を」
「頭オーロラの全身オーロラだもんね…」
キャストリアの呆れ果てた言葉を誰も否定しない。最後の五百年の成果すら台無しにされたトネリコは、残りの五百年を完全に妖精國へ施す仕掛けを優先し、ほかの妖精には目もくれなくなったとされる。
「ここらへんは、ウェールズの森があった場所。だから今でも思い出すんです。笑う事がなくなってしまったトネリコ様が、最後に微笑んでいた場所だったから」
「…それでも、トネリコはあらゆるものを残したんですよ。妖精そのものに愛想は尽かしても、妖精を救い、助けることは絶対に諦めなかった」
ウェールズの森。救世主最後の活動拠点。その地の付近で思いを馳せる一行。
それと同時に…カルデアのグランドマスター達の厄災討伐戦が、始まろうとしていた。
【殺せ!殺せ!】【死んだぞ、死んだ!】【救世主はくたばった!】
?「おお、おお…おおおおおおおおおお!!」
【はぎ取れ、はぎ取れ、奪い取れ!救世主の全部を奪い取れ!】
【全部全部僕らのものだ、あいつの全ては僕らのものだ!】
「これが、これが……!!彼女が救おうとしていたものの正体か!!この国に蠢くモノの正体か!」
【トネリコなんて、いなかった!】
【僕らの毒酒で、くたばった!】
【何もかもが、無駄だった!】
【【【ざまあみろ!ざまあみろ!救世主は、おしまいだ!お酒を飲んで、くたばった!】】】
「間違えた、お前は間違えたぞトネリコ…!!何もかもを間違えた!お前は救うべきでなかった、許すべきでなかった!」
【奪い取れ!奪い取れ!何もかもを奪い取れ!】
【生きた証も、功績も!全部全部、いただきだ!】
【今日から僕らが人気者!今日から僕らが憧れの的!】
「こんな、おぞましいものなどに…!こんな穢らわしい生き物などに関わるべきではなかったのだ…!!」
【トネリコなんて、いなかった!】
【【【【【【今日から僕らが、トネリコだ!今日から僕らが救世主!今日から僕らが、人気者!】】】】】】
「救うべきでは無かった…!!
…その日から、全てを貪る牙獣の厄災が生まれたとされる。
それは北の地を縄張りとし、足を運んだ全てを喰らい尽くす大厄災の一つとされた。