クー・フーリン伝説
「ホッケーやろうぜ!」
「おうかかってこいや!」
「セタンタ一人対150人な!」
「あ?」
~
「だらしねぇな、そんなもんかよ」
「せ、セタンタやべぇ・・・」
『死屍累々』
「むしろなんで勝てねぇんだよ」
ホッケーやるときは毎日クー・フーリン一人に対してガチムチ男150人。それでもクー・フーリンが毎日パーフェクト勝ち
「・・・特異点にはオレがいるのか」
「・・・ならばヤツもいるのだろう。・・・おそらくは、ケルトの陣営に就いたか、アルジュナ・・・」
『清掃衣装を纏い部屋を掃除しながら』
「メイヴ、ネロやらエリザなんやらの位置を調べとけ」
「ドラゴン系女子を殺しに行くのね!」
「一眠りした後にな。起きた後にまだはぐれていたならば、それまでだ」
「はーい、おやすみ、クーちゃん!」
「・・・何かあったら起こせ」
「王を名乗るものとしては聞き捨てならん言葉が聞こえたな、獅子頭。アメリカのみを救う、とは如何なる所見だ?その心持ちを聞かせてもらおうではないか」
グラスを手に取り、ゆっくりと問い質すは黄金の英雄王、ギルガメッシュ
「・・・」
「ナイチンゲール、まだ」
ゆっくりとホルスターに手を伸ばすナイチンゲールをリッカが制止しつつ、エジソンの対話を促す
「世界を救う必要はない。聖杯があれば私が改良することで時代の焼却を防ぐこともできよう」
《――我の宝を改悪する腹積もりと来たか。命拾いしたな獅子頭。カルナめの嘆願なくば串刺していたところだ》
僅かに沸き立つ殺気を酒に浸し飲み干し、王が鼻を鳴らす
――確かにエジソンは発明王、概念改良に長けた英雄。しかし、それでは・・・
「そうすれば他の時代とは異なる時間軸にこのアメリカという世界が誕生することとなる」
「近代の英雄も侮れねぇな。んなことマジで出来んのかよ」
クー・フーリンの訝しげな視線に胸を張るエジソン
「充分に可能だという結論が出た」
「他の時代はどうなるんですか」
リッカが静かに怒気を込めた口調で問い質す
「――滅びるだろうな」
「それでは意味がありません!」
マシュの糾弾が、響き渡る。それに王も続く
「左様。話にならぬ。仮にも王でありながら己が使命を妥協するなど言語道断。王とは常に自らが納得の行く仕事をこなすもの。己が前に広がる世界総てを救うもの。現実に屈し、滅びより目を逸らし、己が手に収まるもののみを救うなぞ、王道を名乗るも愚かしい。貴様は、アメリカという国はその程度か、雑種が」
――それは、断じて王道ではない
王に呼応するかのように、姫たる魂に、義憤と憤慨が猛る
確信する。魂を以てエジソンの意見は真なる王を目の当たりにしてきたワタシの所感として『否』を叩き付けたい
救世者ならばそれでいい。救いたいものを救えればいい
教祖ならばそれでいい。自らを信じるものだけを救えばいい
だが、王を。この世総てを背負うべき称号を名乗るならば、断じて自らの手の届くものだけを救うなどとあってはならない
・・・いや、逆だ。王とは世界総て、この世の総てを背負う者を指す言葉
王が救うと口にしたならば、それは世界総てを救うことに他ならない。王の納得行く責務を果たすならば、それはこの世の総て、世界を救う以外に解釈、裁定の余地はない
だからこそ王は人理に挑んでいる。だからこそワタシは、全身全霊を込めて王を補佐している
・・・王を口にし、そう生きると決めたならば。救うと決めたならば。断じて『己が総てを救う』という以外の結末を、選びとってはならないのだ。自らが統治する領地だけを救い、他は見捨てるなどと、結論を出してはならない・・・!
なぜなら、この世界の総てに余分はない。それらは総て、王の庭なのだ。英雄王以外の裁量で、切り捨てていい場所などどこにもない
・・・そして世界は、自分が『愉悦』するための、かけがえのない場所だから。そこに住む人を、命を、文化を。誰かに勝手に切り捨てられたくなんてない。そんなこと――赦せない
この世の総ては、とうの昔に王が背負っている。ならば、この世界を救う王は、英雄王以外に有り得ない。王を名乗るならば、妥協なんて赦さない。
価値ある世界を獲得し、守護する。邪魔をするものは、悉くを粉砕する。そして――その在り方の極致にて世界を救う
それが、王たる者が掲げし矜持であり。・・・ワタシが敬愛し、誇らしく思う王の輝かしい王道なのだから・・・!
《・・・》
王は無言で、王の在り方を侮辱され、憤る姫の頭に手を乗せ、撫でてやる
《・・・お前の敬愛は、まこと心地好いな、エアよ》
――悔しいです、王よ・・・王に庇護されながらでしか意見を懐けぬ、卑怯にも隠れながら憤る自分が、意見一つ言えない自分が恥ずかしい・・・!
彼に叩き付けたい、言ってやりたい・・・!ワタシの見てきた王は、そんな小さなものじゃないって・・・!
(――君はけして、護られ、ちやほやされるだけのお姫様じゃないんだね・・・)
ゆっくりと心肺停止を引き起こし、安らかに安楽死するフォウ
(とうといよ、エア――)
「ぐ、ぅう、・・・ぬぅ・・・」
「・・・!」
マシュの糾弾、王の告発に、並々ならぬ様子で苦しむ様子を見せるエジソンを、リッカは見逃さなかった
「・・・何を言う。これほど素晴らしい意味があろうか」
すぐに平静を戻し、エジソンは、いや、愛国者は告げる
「このアメリカを永遠に残すのだ。私の発明が、アメリカを作り直すのだ。ただ増え続け、戦い続けるケルト人どもに示してくれる。私の発明こそが人類の光、文明の力なのだとな」
「そうかい?メイヴの肩を持つ気はないが、今のアンタと悪辣さでは同じなんじゃないのかね」
肩を竦めてクー・フーリンがからかうように問う
「な、何を言うのだ光の御子」
「自分達の国がよけりゃどうなったっていいあちらと、アメリカがよけりゃ他はどうなったっていいこちらさん。大した違いは無いようにオレの目には見えるがね。いや、切り捨てる決断からしてこっちの方が非情かね?いや・・・」
ギラリ、と真紅の瞳をぎらつかせる
「国民全員巻き込んで戦わせてる時点で、アンタはよっぽど質がわりぃ。テメェの体液だけしか使わねぇメイヴの方が少しはましに見えてくるぜ」
「ぐぐ、ぬぅ・・・!」
頭を抱え、頭痛を堪えるエジソン
「その為に戦線を広げるのですか。戦いで命を落とす兵士たちを切り捨てて」
もはやナイチンゲールは話し合いの意志を持っていない、それは病巣を見つけた医者のそれだ
「私とて、う、ぐ。切り捨てたくて切り捨てるのではない、が・・・」
「エジソン、落ち着いて。皆の意見はただの意見、告発ではないわ」
エジソンの背中を優しくさすりながら、エレナが諭す
「・・・承知している。今のはいつもの頭痛だ、気にしなくていい。今の我々、私にとってはこの国が総て。王たるもの、まずは何より自国を守護する義務がある」
「だが、それは英雄としての王道ではない」
アルスターの大英雄が確かに断言する
「オレ達は英雄だ。国より何より護らなきゃならんもんは、今を生きる奴等の未来だろうが。笑わせんな。テメェの国だけ護って後は知りませんだぁ?・・・テメェも同じだな。オレが見てきた、愚かな王となにも変わっちゃいねぇ一山いくらだ」
「そうですね。今の私ですら、理性の隅でそう考えるところがあります。ミスターエジソン。それを否定するなら、ただの愛国者に過ぎません」
「そうだとも。王たる私が、愛国者で何が悪い?」
「――そうですか。であれば、私のするべきことは一つです!」
速やかにホルスターから銃を抜くナイチンゲール
それを・・・
「ダメ、ナイチンゲール。そういう約束だから」
片手で制するリッカ
「令呪をサーヴァントを縛るためには使いたくないから・・・今は堪えて」
「何故です、ドクター!私は知っている。こういう目をした長は、必ず総てを破滅に導く!そうして最後に無責任に宣うのだ!『こんな筈ではなかった』と!」
ナイチンゲールの叫びは、真に迫っていた
それは、数多の戦場を作り出した長たちを見知っているがゆえの、数多の命を切り捨てた決断を下した者を見てきたがゆえの、血を吐き出さんとする叫びだった
「それでも、彼は戦っている。『何か』を救うために。そこは私達と同じ。だからまだ――私達は戦ってはいけない」
「ドクター・・・、・・・っ」
歯噛みしながら、銃を下ろすナイチンゲール。ドクターがそう決めたならば、看護師が暴走するわけにはいかない、と、理性と信念の制止だった
「・・・藤丸リッカ、お前はどう思う?」
エジソンは続けて、リッカに問いを投げる
「私と共に、ケルトと戦い、聖杯を奪い取るべきではないか?」
「共闘はできません。その後に、あなたたちと聖杯を奪い合わなければならなくなる」
即断、即決に、人類最後のマスターは決を下した
「どのような理由があれ、どのような信念があれ、カルデアの皆の力を、『世界を救う』以外に振るう気はありません」
「世界を救うと言いながら、私達とは手を組めぬ、と」
「私達が救うべき世界は、アメリカだけじゃない。焼き払われた世界すべてです」
きっぱり、と。真っ直ぐにリッカは大統王に告げたのだ
お前の望む世界と、私達の望む世界は違う、と
手は出さないが、肩を並べることもまたしない
協力の先に待つのが利権と対立のみと見えたからこその・・・決裂なのだと
「・・・意外と言えば、意外な答えだ。裏で何を策すにせよ、共闘は承知すると思っていたが」
「私の信念として、うわべだけの付き合いは絶対にしません。仲良くなるなら徹底的に。それ以外なら仲良くなれるまで機を窺う。・・・腹の底で出し抜く関係なんて、嫌いだから」
「フッ」
「・・・あぁ、だよな!」
――うん!
「・・・その誠実さ、真摯さ。トーマス・アルバ・エジソンとしては許すべきなのだろう。しかし、大統王としての私は・・・」
即座に身構えるリッカ
「――いや、心配ない。構えを解け、リッカ」
それを静止したのは、太陽輝ける施しの英雄であった
「カルナさん・・・」
「言ったはずだ、双方の戦闘行為は許さんと。対話を完遂し、己が意志を交わしあったのならそれまでだ。お互いを害する行為を、オレはオレの生命を懸けて制止しよう」
厳かに告げるカルナ
「カルナ君・・・」
「早計は身を滅ぼすぞ、エジソン。彼等は容易く戦力の勢力を塗り替える力を手にしている。オレ達がここで手を出せば、それはアメリカの決定的な敗北、滅亡となろう」
カルナの真っ直ぐな言霊に、エジソンの中に燻る『ナニか』が説き伏せられる
「・・・つくづくよい拾い物をしたな、雑種」
「おう、施しの英雄サマにそうまで買われるとは嬉しいねぇ」
二人はさほど慌てた様子も見せずに笑う
――はい。カルナさんの高潔さに、お互いが助けられました
「・・・藤丸リッカ。ならば、互いの勢力を看過、不干渉という折衷案を提案する。やむを得ず戦闘をせねばならぬ場合を除き、互いの存在に危害を加えぬ、というのはどうだろうか?」
『不可侵条約、だね。いいとおもうよ。少なくとも後ろから刺される心配は無さそうだしね』
ロマンの呟きに、頷くリッカ
「うん!私達の敵は、あなたたちじゃないから!」
「――心から感謝する。お前のような人間が、人類最後のマスターであったこと、喜ばしく思う」
小さく、確かに笑みを浮かべるカルナ
「――此処に両陣営の裁決は下された。我が名にかけて、互いの戦闘は認めない。来客たる彼等はプレジデントハウスより無事に送り届け、お前たちは我等の戦力を害することを認めない」
(・・・オレ大体半殺しにしちまったが・・・まぁ契約前だからいいだろ別に)
「命運を懸けた対談は終わった。――赴くがいい、カルデアの勇者たち。このアメリカの広い大地にて、お前達の救世を掴みとれ」
「うん、解った。ありがとう、カルナさん」
「うむ。我等がいながら随分と穏便に終わったものよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・ナイチンゲールが唇を噛みながら、涙を湛えリッカを見つめている
「――――――ごめん、カルナさん。一言だけ、精神的に言っていい?」
「・・・あぁ、構わない」
「大統王・・・ううん、エジソン」
「何かな、ドラゴンスピリットガール」
ゆっくりと、息を吸う
「行ってきます。『
その言葉を受け、愕然とするエジソン
「その、言葉は――」
「それともう一つ!あなたの患う病気の風邪薬の一言!」
更に、更に息を吸う
「今のエジソン!昔読んだ伝記と違ってとってもカッコ悪い!!」
「GAAAAAAAAA!!?」
倒れ伏すエジソン
「――致命傷か。痛烈な投薬、痛み入る、リッカ」
「これで少しは遅延する筈!さぁ行こう!ナイチンゲール、皆!」
「――はい、ドクター!」
――こうして、一滴の血も流すことなく
ゴージャスプレジデント会談は、終わりを告げた――
プレジデントハウス前
「・・・態々足労をさせたというのに、すまなかったな」
「よい。中々に痛快な論破が見れた。退屈はしなかった故笑って流す」
「そうか。・・・良い顔で笑うようになったな、今のお前は」
「得難いものを拾ったのでな」
「――大切にするがいい」
「見送りありがとうね!カルナさん!」
「・・・対談は残念な結果になってしまったが、オレは諦めてはいない。この大地にて戦い続ける限り、必ずオレ達の道は交わるだろう」
「おう。オレもお前さんとやるのは勘弁だ、誓いがあぶねぇ」
「こうして笑いながら別れられる幸運に感謝を。英雄王、光の御子よ、そして――」
――?
「――いや、何でもない。脚を運んでもらった礼だ。一つ、指針を贈ろう。――この大陸に、両勢力に反抗する勢力、レジスタンスがある。もしかすれば、それらがお前たち、いや・・・世界を救うきっかけになるやもしれん」
「ふむ。大穴の勢力に投資し完全勝利を行うもまた面白い。我はかまわぬぞ、マスター」
「オレも問題ねぇ。マスターの方針には従う。アルスターの流儀だからな」
「うん!じゃあ、行ってみるね!ありがとう、カルナさん!」
「お前達の道行きに、太陽の祝福が在らんことを――さらばだ」
「では、行きましょう。ドクター」
「ごめんね、ナイチンゲール」
「いえ・・・。・・・痛快な、投薬でした」
「そう?良かった!」
「わりぃなテメェら、待たせた!」
「つよきす・・・椰子なごみ。これがツンデレか・・・」
「何してんだロイグオメー」
「お父様!おかえりなさい!」
「ブルルゥア(腹減ってないか?ルーンニンジン食うか?)」
「ヒィーン(早く走ろうよー)」
「わかったわかった。よぉし!テメェら!なんか攻められてる町に向かうぞ!!」
――ふぉ、フォウ
(ん?なんだいエア)
――さっきのワタシ、忘れて?ちょっと、熱くなりすぎちゃって・・・エジソンさんもエジソンさんなりに頑張っていたのに・・・ひとりよがりが過ぎたよね・・・反省しなきゃ・・・
(そうだよエア。怒るとシワができちゃう。ボクはそれが赦せないよ。さぁ後でボクをいっぱい抱きしめて癒されるんだよ。いいかい?ボクはいつでも、傍ににいるからね)
――うん!ありがと、フォウ!
(どういたしまして、ボクのお姫様!(ステンドグラスになって砕け散る))
フォウ!?
《・・・己が意志を伝えられぬが悔しい、か。・・・箱入りも過ぎれば枷となる、か》
――王?
《こちらの話よ。・・・エア、近いうちに、またお前の研鑽の場を設けるとしよう》
?あ、ありがとうございます!
《先の憤慨、見事であった。これは益々、気合いを入れてお前の期待に応えねばな――》
「よーし!とりあえずアメリカをはしりまわろー!」
「――それではあまりに非効率的だ。宜しければ、私が水先案内を担当しよう」
「っ!?何者ですか!?」
「驚かせてしまったかな?私は・・・こう名乗らせてもらおう。『ジェロニモ』・・・と」
「婦人!婦人ー!私は、私は何がいけなかったのだー!?」
「よしよし。殺されなかった、敵に回さなかっただけあなたは立派だったわよ」
「・・・すまん、エジソン。お前達を傷つけず護る手段がこれしか思い付かなかった」
「ありがとうカルナ君!しかし彼女のあの言葉・・・ショックだ!実に!私の何が、彼女を失望させてしまったと言うのだ――!!」
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