人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
バーヴァンシー「どういうワケか解んないけど、私はこの人の声や感覚がなんとなく解ってた。こんな事をやらかされても死ねないこの人の、声無き叫び。…妖精騎士にならなきゃ満足に歩けもしなかったからな。モルガン様に感謝だぜ」
CCA「見るからに恨み骨髄ですよね、当たり前ですが…」
ルイノス「…早く、ケルヌンノス様の下へ還しましょう。もうこんな生き地獄はあまりにも…」
ウーサー「!待てルイノス、触れてはいけない!」
ルイノス「!」
ビリィ「失礼。───」
ホープ「ビリィ!?」
ビリィ「ぐっ…!!」
〜
よくも。よくもケルヌンノス様を…!
ケルヌンノス様は殺されてしまった。祭りを開くと。祭神として祀り上げるという言葉を信じたケルヌンノス様を、あろうことか毒で殺した!
それだけに飽き足らず大地として踏みにじり、自身の悪行を作り替えて覆い隠した!
呪われろ、死に絶えろ、滅び去れ、たったの一匹たりとて赦さない。
返せ、返せ。ケルヌンノス様を返せ!
お前達が死ねない命を私に寄越した。私は永遠に死ねなくなった。
好都合だ。生み出す命の種など残させない。お前達の発展など絶対に認めない。
死ね。死ね、死ね、死ね、死ね!
私からケルヌンノス様を奪ったお前達を未来永劫赦さない。
ケルヌンノス様の慈悲を踏み躙ったお前達を永遠に認めない。
許すものか、絶対に。
この命在る限り…!!
お前達の全てに、この世全ての苦痛と苦悶が降り注ぎ!
自身の犯した罪に潰され、なんの価値もなく死んでいけ!!
お前達など、お前達など───
この宇宙に存在してはならない汚物と思い知れええええええええええええええええッ!!!
〜
ビリィ「がぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ホープ「ビリィ!!」
チルノ「…こいつ、自分の事は憎んでないな」
リッカ「チルノ、判ったの?」
チルノ「視えた。こいつは…ケルヌンノスへした事だけを憎んでいるぞ」
マシュ「毒酒の、毒殺…」
ビリィ「はぁ、はぁ…どうやら、巫女に触れると、彼女と同じ痛みが跳ね返ってくるようだ。身体がバラバラになったかと思ったよ…」
バーヴァンシー「…ホント、私達は救えないな…」
モルガン『バーヴァンシー…』
バーヴァンシー「思いつかないぜ。どんな風に許してもらえればいいのかも…さ」
『ソロモンの指輪を使い、魔術を確認してみたところ、確かに呪詛返しに生鮮保存の魔術がかけられている。ルイノス君にかけられた呪いもこれと同じものだ。巫女さんは今も全身全霊で妖精を呪っている。それは、他の部位にも同じ効果をもたらす程に強烈なものだ』
「目を閉じさせる事も困難ですね。リッカとマシュは触れてはなりません。ショック死の危険があります」
騎士王が入念に注意を喚起する通り、それはまさに呪物そのものであった。何重にも魔力コーティングを施され、死ねなくなったケルヌンノスの巫女。それはケルヌンノスの呪いに共鳴し、何百倍にも妖精を害するものとして機能していたのだ。
「なんという惨さだ。…あまりにも信じられん。これが六妖精の所業だというのか」
「ウーサー様…」
「…信じられん…」
聞く限りと、見る限りではあまりにも違う。ウーサーは最早悪夢を見ているかのような気持ちだ。異聞帯とはいえ、こうまで自らの知る勇者が堕ちるのかと。ルイノスに、そっと背中を擦られながら目眩を抑える。
「でも、チルノが見るには憎しみの根源はケルヌンノス様を奪われた事だけみたいだね…」
『人を恨むような人間ではないのは、ルイノスやバーヴァンシーを見れば解ります。思えばバーヴァンシーは、巫女の良心を手繰り寄せた妖精だったのかもしれませんね』
あくまで徹頭徹尾、自らの神を辱め殺めた事への憎悪を燃やしている巫女。自身のことなどで恨まぬ高潔さは、それ故にあまりにも深く終わりがないのだ。
「…すまぬ、カルデア。善き草案をくれ。…オレは最早、妖精の罪の重さに何を思えばいいか分からん…」
『ライネック…』
トネリコやバーヴァンシーとそう変わらない娘が、こんな惨い目に遭わされていること。自らの先祖がこのような悍ましい罪を犯していたこと。何よりそれを隠していた卑劣さに、ライネックはもたれかかり目を覆う。
妖精の原罪は、あまりにも重い。
「何をへこたれてる!ごめんなさいをする相手は目の前だぞ!」
しかし、親分たる妖精は強く、そして勇敢に、高らかに叫んだのだ。迷っている場合じゃないと。
「罪が重いのなんて今更だぞ。これは楽しい遠足じゃない!ごめんなさいをする旅だ!今更怖じ気づくな!こうやって──!」
「オヤブン!?」
「チルノ、待って!?」
チルノは頭に手を伸ばし、がっつりと掴んだ。血涙を流す首は、無差別に呪いを放つ。
「ぐああああああああああああああああっ!!!!」
チルノは五体が引き裂けるような痛みに耐え、台座から離す。ロマニは即座に、術式遮断の魔法陣を通信越しに書く。台座に魔術遮断がかけられていたのだ。
「いいかっ…!!ごめんなさいは、勇気がいるんだ…!相手の辛いこと、受け止めなくちゃだめなんだ…!こんなふうに!!」
「オヤブン……」
「痛い思いをしたくないから辞めるのか!!それがお前らのごめんなさいか!?あたいの子分ならそうじゃないだろ!!」
やがて、保護は完了し首は宙に浮く。チルノの五体に、呪われた痕の黒が刻まれたが本人は意に介さない。
「誰も、ごめんなさいしたくなかったから。妖精の国はこんな場所になったんだ。お前たちはそれが嫌だからごめんなさいしたいんだろ!」
「チルノ…」
「オヤブンとして、一緒に謝ってやる!こんな辛い思いも、誰も幸せじゃないバカみたいな国も!あたい達が終わらせる!その為に!お前ら妖精はここにいるんじゃないのか!!」
…本来なら、チルノは汎人類史の妖精だ。はじまりの悪魔の罪などで苦しむ理由はどこにもない。
だが、チルノは親分を名乗った。子分の痛みは自分の痛み。子分を頑張らせるのは親分の役目。彼女は責任の取り方を示したのだ。それは、妖精の台座から離せば回収できるということ。
「──やります、チルノオヤブン!私達が、やります!」
「あぁ。ありがとう、オヤブン!」
「ホント、アンタは凄い親分だぜチルノ。仲良くなれてホント良かったわ!」
「…勇者よ…」
チルノの奮起は、妖精に力を与える。怨みを受け止め、憎しみを終わらせるための、力を。
〜
『まず何より大事なのは、妖精にかけられた不死の呪いを解除し、身体をもとに戻す事だ。生きている状態だから、身体を繋ぎ合わせれば苦痛は終わる。…ショックから、目覚める可能性は極めて低いだろうけれど…』
ロマニが冷静に判断を行う。彼もまた、この蛮行を見過ごせない側の人間であるのだ。
『巫女の身体を湖に持ち帰り、カルデアサーヴァント総出で清め祓い巫女を鎮める。その際に魂に語りかけられるなら、リッカ君に託そうと思う。できるかい?』
「勿論。私の戦いそのものだからね」
『その際、君達の謝罪の証として捧げ物が有効なはずだ。何でもいい、巫女に真作…ケルヌンノス神が見出した心を見せてあげるんだ。それもまた御祓になるはずさ』
「なら、私が巫女の靴とか衣装を作ってみせるぜ。数少ない特技だからな」
「じゃあ私は!ケルヌンノス様と巫女様の衣装を!」
「では、回収するとしましょうか。ここは私と、頑強なライネック卿に…」
「待ってほしい。──回収は、僕がやります」
名乗り出るビリィ。部品のある部屋には、魔術でワープできる。
「僕は土の氏族上がりの頑強さを持ちます。先に触れた際も大丈夫でした。だから…巫女の身体は、僕が取り戻します」
「ビリィ…。出来るのだな」
「はい。やります」
その決意は固く、誰にも異論は挟ませなかった。そして彼は、巫女の身体の一つ一つを丁寧に抱えて魔法陣へと運んでいく。
「ぐああああああああっ!!はっ、ほぉあああぁぁ…!!」
触れる度に、五体が引き裂ける激痛が絶え間なく身体を襲う。常人なら十は精神崩壊している痛みを、彼は一度、ニ度、三度と繰り返す。
「ビリィ!私も!私もやるから!死んじゃうよ!」
「よせ、バカ!ホープじゃ死ぬだろ!」
「そう、だよ。バーヴァンシーの言う通りさ。僕は、このためにいるのさ、間違い無い…!」
自身の鍛え上げられた肉体。生まれながらのマッスルボディ。
何故か?ビリィはずっとわからなかった。妖精は、意味と使命を有して生まれてくる。自分がこんなに恵まれた体をしている理由がわからなかった。
ホープを護った時に一つわかった。弱きものを守るためだ。
「ほぉおあぁぁぁあぁぁ!!がっ、ぐあぁっ…!!!」
ならば、この妖精国で最も弱い存在は誰だ?彼には心当たりがある。
人間だ。妖精のオモチャ。気まぐれにバラバラにされる程度の備品。暇潰しの道具。彼にはそれが許せなかった。
「ぬぅーッ!!ぬぅーッ!!!」
「ビリィ…」
人間は、妖精の持たぬ可能性を持っていた。人間の生み出す全てをビリィは愛していた。悪魔の罪を暴いたのも、人間から授かった智慧だ。
なら、この世界で最も弱い人間とは?その答えが、今解ったのだ。
「あと、胴体…!」
それは、巫女だ。生きた尊厳すら、生命そのものすら剥奪され部品にされた。
悪魔どもに解体され、人間以下の人間にされた。
彼は確信した。自らの償いを。
「ぐっ、ぐぅっ…ぐううぅ…!!」
例え、この身が引き裂かれようと。この世界に人間を齎してくれた彼女に尊厳を取り戻す。
赦しを請うと共に、感謝を捧げる。その為に、自らの生はあったのだ。
──彼女を抱きかかえ、神の元へ返し、その苦しみを終わらせるために。彼女を優しく抱き上げる為に。
「アッーーーーーーーーーーー!!!!!」
自らは、屈強な妖精ビリィはあったのだと。彼は確信に至ったのだ。
──断末魔にも等しい絶叫を上げながら、一つ一つの部位を丁寧に並べ、巫女の身体を復元させる。
『よし!ウーサー、ルイノス君!力を貸してくれ!』
「悪魔の呪いよ、去れ!」
「巫女の尊厳よ、ここに!」
そして、それは果たされ、巫女の身体は元の少女に戻る。白き肌に紅き髪、まともな服などない少女。
「湖に運びましょう。ワープポイントも点在済です」
「ビリィ、大丈夫!?ビリィ!?」
「も、もちろん、さ。僕は、ビリィ。トネリコ様の、妖精だからね…」
「ビリィ、流石だ!よくやったぞ!」
「ガッツしかねぇな、アナタ。…カッコ良かったぜ」
「素晴らしき友、ビリィよ!尊敬を受け取れ!」
ビリィは巫女をそっと撫で、おぶる。
「──人間を生み出してくれて、ありがとうございます。巫女様」
血涙の跡を残す巫女の体を、大切に労りながら。ビリィは妖精の目的を、果たしたのだった。
オルガマリー『このまま一気に…いえ、ちょっと待って!』
マシュ「どうしましたか!?」
オルガマリー『この反応…氏族よ!しかも2体!』
リッカ「2体…!」
どこまでも道を阻む、悪魔が来る。
…そして。
キャストリア「…あった。ロンゴミニアド…こっちでも残されてた…!」
キャストリアが、トネリコの遺していた兵器を見出す──。