人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
いつかの妖精の国
土の厄災【ケルヌンノスの巫女?あぁ、そうだとも。アレを解体し、部品にし、加工に使ったのはこの私だとも。泣き叫ぶアレを丹念に、丹念に。くたばった神の目の前でなぁ!】
黒き騎士「何故だ…。何故そのような短絡的な愚考に走った。元々貴様らに協力する気概だっただろうに…」
【何も解っておらぬようだな。減らぬ部品が入り用だったのだ。礎が必要だったのだ。その為に使えるものはアレと口喧しいケルヌンノスだけだったからなぁ】
黒騎士「……」
【あぁ、この鎚とノミで女の身体をバラバラにしていくのは得難い経験だった…!泣き叫ぶ絶望に魂が砕けていく感覚、身体がもげた時のあの達成感!忘れたくても忘れられぬ!】
黒騎士「…このような悍ましいもの等から、我等は生まれた、か」
【さぁそこをどけ、老いぼれ!救世主の肉体、喚ばれたからにはたっぷりとバラして味わわずにはいられないのだからなぁ──!!】
黒騎士「…すまなんだ、トネリコ。我等は救われる価値など、どこにも無かったのだ…」
〜
【ひぃぃ、馬鹿な、なぜ、私がこんな、バラバラにぃ…】
黒騎士「巫女を生きたまま素材にした、と言ったな…。わしはそこまで下衆にはなれん。貴様の魂を殺して身体だけ、使わせてもらう」
【ま、待て!いやだ!よせ、やめろ!なりたくない!巫女のようになりたくない!あんな目に逢いたくない!】
黒騎士「他人に行うはよし、自身は御免被る。…そんな稚拙な理論が通ると思うか。この釘が今、貴様の腐った脳髄を貫く」
【やめてくれぇぇ!!いやだ、しにたくない!殺されるような事なんて、何も、何もしていないのに!!ちょっと、道具を使っただけで──】
黒騎士「己の罪すら背負えぬか。愚かを通り越して、哀れな」
【ひぃい──!】
黒騎士「───すまなんだ、トネリコ。償いは、楽園にてさせておくれ…」
【ぎゃああぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!】
【バラしたオモチャが治ったみたいだからみてこい、だなんて。見に来てみたら本当だ!ソイルがせっかく壊したオモチャが治ってる!】
【不思議だね。絶対に壊れないし死なないように加工した筈なのに】
無邪気に嗤う、二つの影。一見すれば青と白の衣服の可愛らしい姿が、纏う邪悪さとおぞましい笑みは味方であるはずもない。地表より現れ出た、原罪を犯せしはじまりの悪魔、その二匹。
「鏡の妖精、ミラ…雨の妖精、レイン…」
苦々しく呟くウーサー。そう、それらはまさに彼の知る勇者達と全く以て同じ姿をしていたのだ。あまりにも、残酷な事に。ファングに続く、大罪の具現。
〜
【雨の厄災】
【鏡の厄災】
【RAIN】
【MIROR】
〜
【私達の事を知ってるの?じゃあアンタたちが、ケルヌンノスの呪いを誤魔化したオモチャ?】
【いち、に、さん、…オモチャもいれてよっつつ。丁度私達の分あるね。これでうるさいケルヌンノスからおさらばだ】
ファングと同じ様に、赦しを奪い取れるものとしか見ていないミラにレインは無邪気に跳ねる。その幼稚な有り様は、まさに一般的な妖精が持つイメージの姿なれど、その所業から、彼女らは狡猾な悪魔そのものである。いや、義理と契約を遵守し、絶対に快楽に溺れぬ規律主義の悪魔とは比べることすら烏滸がましい。
「答えろ、はじまりの悪魔ども!何故この様な真似をした!お前たちを叱り、正しき道に導かんとした神と、巫女を、なぜ!」
ウーサーが声を荒げ妖精達を糾弾する。最早目の前の生き物と、手にする聖剣に宿りし勇者達を同じにするなどできない。それでも彼は問う。
「子々孫々は末代まで呪われ、ブリテンは屍の積み重なった国となり、滅びた後も呪いは燻り、あろうことか他の世界の破滅の尖兵となった!この事実に、一欠片も思うことは無いというのか…!」
ウーサーの叫びは最早慟哭だった。これ以上、汎人類史を救ってくれた勇者達と同じ声で、同じ姿で罪を重ねてほしくない。そんな彼の願いは──。
【?それが何?別に私達が辛くないならどうでもいいよ】
【もうやっちゃった事だしね〜。】
「……なん、だと?」
これ以上なく残酷に、踏み躙られる。むしろ、この地において彼女らにまつわる者が幸福になれる筈もない。
【ケルヌンノスみたいな事言ってるんだ。反省しなさい、悔い改めなさい。一緒にやり直してあげるから、だって。ばっかみたい!私達、何にも悪いことしてないのにさ!】
ミラが嘲笑う。レインもまた、それに倣う。
【そうそう。私達は毎日のように楽しく遊んでいただけ。まぁ、あの日は特別楽しかったけれど】
「その日…セファールが来て暴れた日。あなた達は仕事をサボっていたんでしょ」
リッカが問うと、殊更楽しげにミラは嗤う。それは、ともすれば誰もが知る伝説よりなお悍ましかった。
【そうそう。それで私達は見てたんだ。私の鏡と、レインの雨で楽園からずっとね。白い巨人が、何もかもを奪って行くのを!】
【外の世界には楽しいことがあるって知ったから見てみたら、本当だった。踏みにじられて泣き叫ぶ人間や神様の無様で面白いことこの上なさと言ったら!】
【【最高に楽しかったよね!あはははは!滅びた、滅びた、真っ白に!何にもなくなり、さようなら!】】
『…………待ってくれ。そんな、嘘だと言ってくれ。いくらなんでも、それはあんまりだ』
ロマニが、その最悪の事実に顔面を蒼白にしながら言葉を紡ぐ。それは、あらゆる歴史の中で最低最悪の終着。
『このロストベルト、このブリテンは妖精のサボタージュで滅んだんじゃなく…はじまりのろくにんに、明確に、この上なく残酷に!【見捨てられた】という事なのか…!?』
【せいかーい!私達はね、人間と神が死んでいくのを見るのが、白き巨人が暴れ回るのを見るのがとても楽しかったんだ!】
【だから仕事どころじゃ無かったんだ。だって、一人一人が泣きながら踏み潰されて、一生懸命祈って、来てくれた神様が目の前で死んだ時の顔と言ったら、もう!】
【【たまらない、たまらない!面白くってたまらない!人も神もいなくなった!白い神が持ってった、人の不幸は面白い、神の末路は面白い!】】
ゲラゲラと腹を抱えて笑うミラと、レイン。悪魔は高らかに告げるのだ。
【教えてもらった、お楽しみ!】
【見つけてもらった、お楽しみ】
【人の不幸は、蜜の味!誰かの不幸は美味い酒!こういう事を、何て言う?はい、レイン!】
【一緒に言おう、さぁ、せーの!】
【【【ユエツ!】【ユエツ!】他人の不幸は蜜の味!他人の不幸は蜜の味!どうせ全部は後の祭り!後始末はしっかりね!どうせなんにも、ないけれど!あははは、きゃははは、あっはははははははははははは!!】】
悪魔達は愉快げに笑う。この世界は、滅んだのですら無い。
消費されたのだ。娯楽として、エンターテイメントとして。神の奮起も、人の嘆きも。楽園たるアヴァロン、安全圏の観客席で、妖精達は末路をひたすらに嘲笑っていた。
なんたる皮肉だろうか。それは人間の消費文明、生まれては消える文明社会に酷似していたもの。
この世界は…悪魔達の手により、あらゆる全てを踏み躙られた絶望の袋小路であったのだ。
「……悪妖精化、している……」
だが、ウーサーにはその状態に覚えがあった。六人の勇者達が、自身らを繋ぎ止めてくれなかった際のもしも。
「妖精は、とあるはずみで邪悪な側面に偏ってしまう。それはどんなきっかけでも起こりうる妖精の宿業。彼女たちもケルヌンノスとルイノスを目の当たりにしなければ、滅びを見て見ぬふりし開き直っていただろうと悔いていた。…まさか、はじまりの悪魔たちは、既に」
『悪妖精化していたっていうのか!?あり得ない!楽園アヴァロンにいて、どうやって悪妖精になるっていうんだ!』
「おちついて、ロマニ。あのクズ共は言ってた。教えてもらったって。牙のヤツも、アレが楽しかったって言ってた。そして今回の、カース・ロンギヌス…」
『──ビーストΩ!妖精達の歴史を、全て汎人類史を滅ぼすための手段に悪用したという事なのか…!』
垣間見えた最悪の手筈。ビーストΩの手により、楽園の妖精全てが悪妖精化したというのならば。それは間違いなく、破滅と滅びしかあり得ない末路に一つの歴史は追い込まれたのだろう。
「だが、それはなんの免罪符にもならない…その選択をしたのも、実行したのも、彼ら六人の選択だ。そんな彼女らならば、誰に言われずとも…仕事を放棄しただろう」
「私達は…どうしても、滅びるしかなかった世界に生まれた…」
「…まぁ、今更だけどな。罪がどういう種類かってだけで、向き合うことに変わりはねーだろ」
三人は、深く絶望を浮かべながらも堕ちない。自身らを支える希望は、未だここにあるのだからと、チルノや皆と頷き合う。
【話はおしまい?じゃあそのケルヌンノスを誤魔化せるのをもらおうかな!】
【傍にいるのは、外の世界から来たんだって。またオモチャに使えそうだね】
【そうだね!使おう、使おう!外の世界に行くときに、何かに使えたらいいね!引っ越しの為に使おうよ!巫女みたいに、バラバラにしてさ!】
「──何、勘違いしてるのか。解ってないみたいだけどさ」
その時、リッカの身体がゆらりと揺れた。その瞬間、手にはすらりと伸びた【龍哮】が握られている。
──次の、瞬間。
【ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!】
【み、ミラ…!?】
天空より雷鳴が轟いた刹那、ミラの身体が一瞬でバラバラに寸断される。それは刀で刻まれ、切断面は芸術の粋。
瞬間、ホープ達は見た。紅き竜、白き竜でもない。
怒りに、憤怒に、義憤に打ち震える黒き【龍】。怒髪天もかくやに、身体中のラインが紅蓮に煌めく黒龍の姿。
【次にバラバラになるのはお前らだ────!!!!!】
──度重なる幼稚な罪人達の責任逃れに、リッカの怒りはとうの昔に頂点に達していたのだ。
【あぁ、痛い!痛い!痛いぃいい…!!なんで、人間なんてオモチャなんかにやられたの!?この私が!?】
【み、ミラ…】
【何してるのレイン!見てないで助けてよ!グズ、のろま!役立たず!このままじゃ、また死んじゃうでしょ!?】
「先輩!落ち着いてください、どうか!」
「マスター、今は巫女を!ここを離れましょう!」
【大丈夫、どっちも出来る。こいつらをバラ撒いてそこらに捨てるのなんて三秒もいらない…!】
【ひ、ひっ…】
【覚えがないならそれでもいいよ。何が悪いか解らないまま死んでいけ…!!】
【あ、ああああぁぁぁぁっ!!】
…妖精達の最悪の手は、愉悦を口にし嘲笑ったこと。
それは、楽園の全てを侮辱する事に等しい。
【れ、レイン!見捨てないで!私も連れてってよ!レイン!!レインーー!!】
そのあまりの怒りと剣幕に、雨の悪魔は無様に逃げ出し。
【────】
【ひっ、いや、助け】
鏡の悪魔は、頭を怒れるリッカの刃に貫かれ苦悶の内に五体四散し絶命するのだった。
【くけっ──】
仲間に見捨てられ、かつての巫女と同じ目にあい死ぬ。
──それは、これ以上なく悪魔に相応しき末路であろう。
しかし、逃げ出した悪魔にも救いは無い。
【う、ウィンダ!助け──】
オルガマリー『高エネルギー反応!ブラックバレルよ、伏せて!!』
【え──?】
瞬間、レインの上空より破滅の光が降り注ぐ。幸いに、レインは離れていたが故に。
【ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!】
その破滅の光に巻き込まれ、塵も残さず消滅する事となった。それに、一同は覚えがある。
【よーし、当たった当たった!今回は外さなかったんだわ!】
ウーサー「あれは…!」
ルイノス「恩讐の厄災…!」
【ありゃ?打ち漏らしがあったかな?生きてるじゃん、残りの】
リッカ「ッ!」
【まぁいいや。こいつらは自分の手でやればさ!えーと…いたいた!】
騎士王「……」
【──この国は誰のものだって?もう一度、言ってみろよ】
現れた恩讐の厄災は…騎士王のみを睨みつけていた。