人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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リッカ「夏の記憶…ブライド様と、過ごした記憶…」


オベロン(……全く、君はバカだよ、ブライド。僕や虫達、救世主なんていらないものばかりを愛して、慈しんで。結局、君は何も報われなかった)
ブランカ『チチ…』

オベロン(…気持ち悪い妖精どもは滅んで当然だ。せいせいする、ざまあみろだ。だけど…この歴史があったことだけは、絶対に否定してやるもんか)
ブランカ『チチチチ』

オベロン(だって、どんなに醜くたって。…ここは、君が生まれた歴史じゃないか)


それだけで。僕が何かをするには充分なんだよ。──お世話焼きのブライド。


キャストリア「…いよいよ、春の記憶」

CCA「なんでしょうね!トネリコの春の記憶は興味ありありです!」

キャストリア「…ですね」

(…良かった。ちゃんと、トネリコにはあったんだ…)


春の乙女

私の見ていた世界、感じていた世界。それは嵐と暗雲、一寸先も見渡せない真っ暗闇が広がる世界でした。

 

目を閉じても見せつけられる闇黒。耳を塞いでも飛び込んでくる。どうやっても、どうやっても、切り離すことも、止むこともできず、終わりのない永劫の悪天候。私はその中を、ひたすらに進みます。それこそが私の人生。それこそが私の使命。

 

その嵐と暗雲の正体は解っていました。それは妖精眼が捉えるこの国に生きる妖精達の、人間の本性。

 

欺瞞、保身、嫉妬、強欲、怠惰、傲慢。罪人達が死体と共に積み重ねた悪性と本性が、感覚情報として伝えられます。

 

目を抉っても無意味です。耳を塞いでも無意味です。私の感覚は、魂は、それらを決して見逃しません。汚濁を風に変えたような悍ましい嵐が、私の身体を打ち付けます。肌は抉れ、肉は削げ、骨は砕け、魂は潰れる。そんな悍ましい悪性情報。

 

ですが、『私は歩みを止めませんでした』。不思議に思うかもしれません。狂ってしまったのかと思うかもしれません。ですがそれは自棄でもなく、開き直りでもありません。

 

──辛くなれば、いつでも前を向きます。辛くなれば、いつでも空を見上げます。そうすれば、私にはいつだってそれが見えました。

 

「──まだ、星は輝いている。まだ、道は煌めいている」 

 

悍ましい悪性の嵐にも消えない、輝ける黄金の道。そして、冥き夜空に確かに輝く、星の眩い光。それがなんなのかも、私にはしっかりと解っていました。

 

それは、その星とはこの地における希望。この地における、輝ける人間性、善性。心と生命が持つ、かけがえのない輝き。はじめは、そんなものはありえないと考えていました。こんな地獄に、そんなものがあるはずがないと。

 

ですが、それは確かにあるのです。それは確かに、あったのです。それは私の冥き道の旅路を照らす確かなる日差し、月光として。私の傍にいてくれたのです。

 

 

『安心してほしいんだわ!君を虐めてた妖精はみーんな追い払った!もう君は安心だぜ!それで相談なんだけど…ボクを君の仲間に入れてくれないか?暴れすぎて働き手がつかないんだわ!』

 

 

『ま、待て!オレはお前の腕前に惚れ込んだ!どうかお前に仕えさせてくれ!野蛮な獣でなく、救世主なるお前の騎士として!』

 

 

『徒労となるぞ。…だがお前は頑固だ。言っても聞きはしないだろう』

 

 

トトロット。ライネック。エクター。

 

 

『トネリコ様!今日もあなた様に、たくさんの希望と祝福がありますように!』

 

 

『今日は腕によりをかけました。さぁ、食卓へいざぁ…』

 

 

『お母様。助けてくれて、ありがとう』

 

 

『君の理想を支えるよ。それが夫として、僕の望む全てだからね』

 

 

ホープ、ビリィ、バーヴァンシー。そして、ウーサー。

 

 

『あなたの理想と、あなた自身を見失わないで。星の輝きを、どうか信じて進みなさい──』

 

 

…ブライド。私には、こんなにもたくさんの宝物ができたのです。たくさんの輝きを見つけることができたのです。

 

ぐっすりと眠れることが、あんなにも嬉しかった事はありませんでした。

 

お腹いっぱい食べられることが、あんなに幸せな事だったとは知りませんでした。

 

裏切られ、裏切られ、いつかは、きっといつかはと願ってきた想いが報われた事が、あんなにも嬉しかった事だとは思いませんでした。

 

心から信頼できる仲間達が、大切な者たちが織り成す善なる意志。この死骸と悪意に満ちた悍ましいブリテンにもなおも輝き続ける、彼女らや彼等の存在そのもの。

 

それこそが、輝ける星の正体。決して消えることのない、人の、妖精達がもたらす輝きの証。彼女達の存在が、彼等の存在が、私の道を照らす星の輝きであり、光り輝く虹であったのです。

 

何よりも──私の目の前を駆け抜ける、小さく無垢な、なんの痛みも苦しみも知らない少女の背中。

 

 

『よーし!私はこのブリテンを、素敵ですっごい国に変えてやるぞー!皆が新しい未来と明日を迎えられるようにする!それが私の使命なんだから!』

 

それは、楽園で輝ける明日を夢見ていた私の遠き日の姿。希望と未来を見つめていた、妖精達と迎える未来を信じていた或日の私の姿。

 

『妖精達は赦されたがっている。誰もが楽になりたがっている。当然だよね。いつまでも苦しいままだなんて、辛くて辛くてたまらないはずだから!』

 

自分が、皆の苦しみを終わらせることを信じていたあの日の姿。地獄にもたらす光であれと信じていた理想の姿。

 

『待っていて、皆!私が救世主として、皆に素晴らしい明日を届けてみせるからね!』

 

…あぁ、なんという事でしょう。どれほど苦難に晒されようと。どれほど絶望に満ちようと。

 

『私の国には、皆が必要だから!皆で一緒に迎えようね!素敵な、眩しい夜明けのような未来を──!』

 

私は、あの日の自分の決断を善かったと信じているのです。救世主である自分を、今でも誇りに思っているのです。

 

仲間達と共に過ごした時間。赦しを得ることができた妖精達の時間。

 

それら全ては、私が救世主であることを選んだことで手にしたかけがえのない宝物。

 

どれだけ苦痛と苦難にまみれようと。どれだけ絶望と失意に沈もうと。

 

『生まれた事』『救世主であることを選んだこと』。それだけは、決して色褪せることのないものでした。

 

 

だからこそ。私に、春の記憶があるとするならば。それは、『救世主トネリコ』という人生の轍そのもの。

 

どれほどの苦痛に打ちのめされようと。

 

私はこの妖精國に生まれることができて良かった。

 

 

どれほどの裏切りと絶望を刻み込まれようと。

 

私は救世主として生きることを選んで良かった。

 

 

かけがえのない仲間達と歩んだ記憶そのもの。

 

救世主としての使命全てを報いさせてくれた存在全て。

 

それらと出逢うことができた始まりである、自分自身の理想郷で杖を掲げて宣った誓い。

 

それこそが私の春の記憶。それこそが、私というかつての春の想いが懐いた心の全て。

 

この記憶が在る限り、私は絶対に使命を過ちません。私を素材にしてできた聖剣は、きっと世界を救う為の希望となる。

 

ホープ達が生まれた世界を、ライネック達が生まれた証を、確実に、輝ける未来へと導くために。

 

だからどうか、私の使命を果たすための儀式を躊躇わないで。

 

いずれ至るであろう、私の全てを託す人達の為の行為を、躊躇わないで。

 

私の心の中には、いつだって素敵な春の景色が広がっていました。

 

私は、救世主トネリコとして生きることができて本当に良かった。

 

大切な、大好きな皆の世界を救うお手伝いができて、本当に良かった。

 

これこそが、この原初の誓いと感謝こそが私を進ませてくれたのです。

 

理想に力を与え、進む足を緩ませず。揺るぎない最高の未来へと向かって、私を導いてくれたのです。

 

春の記憶は、決して多くありません。ですがこの記憶は、私が私であるが故の中核の記憶です。

 

遠き日に現れる、眩しき黄金の旅人の皆様。

 

どうか、誰もが見向きもしなかった宝物を受け取ってください。

 

誰もがいらないと、無駄なものだと打ち捨てたものを、私が懸命に拾い集めた宝物を御土産に持ち帰ってください。

 

それこそが、私が最も価値あるものと信じる全てです。

 

私の國に来てくれた皆様にお出しできる、精一杯のおもてなしです。

 

──私の宝物はどうでしょうか?美しいものでしょうか?目も眩むような、輝ける価値を有するものでしょうか?

 

そうであれば、これに勝る喜びはありません。

 

私の國に、私の理想郷にようこそ。黄金の旅団の皆様。一度も出会えなかった、お客様。

 

 

どうかこの宝物が。どうか、私が夢見た理想の國が。

 

いつまでも、いつまでも。皆様の心に残りますように───

 




春の記憶は、今も此処に。


私の心に、ずっとずっと灯されているのです。
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