人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ポイッ
『2023年11月13日発売号週刊少年ジャンプ』
【それではこれより、天竜人洗脳解除カリキュラムを開始する。レタッソクにウロヤソク。お前達は高貴なる天竜人の尊厳とノブレス・オブリージュを思い出す大いなる先駆者となる。奮って参加するように】
ケイオス・カルデア。ルシファーによりルートで回してもらった二人の天竜人を前にニャルラト聖としての彼が声を上げる。天竜人が環境により愚民化していることを予想し、それを解除し彼等を人間に戻すための極めて真っ当な教育を開始するのだ。これを受ければ、姫君や国王と対話し賢人に戻った例の天竜人の後追いを生み出せるだろう。
「ふざけるなえ!わちきらが何故そのような理由のわからん勉強をしなければならんえ!?わちきらは天竜人!神たる存在だえ!」
「死刑だぇ!貴様は必ず死刑だえ!!わちきらをこんなめにあわ、ホデュアアァァー!!?」
当然抗議する二人の天竜人であるが、自らを律してもらうためにニャルは前歯を全て折る。やりたい、やらないではない。やるのだ。
「レタッソク聖ー!!」
「わぢぎの、わぢぎのラガぁー!!」
【まずはその哀れなる認識を、自尊心と共に完膚なきまでに破壊し矯正する。お前達は…人間になる。ベリル!】
「あいよー」
【愛の鞭を振るってやれ】
「へいへい。噂の天竜人、どれくらい頑丈か楽しみだぜ」
「おい!!こんな事をしてただで済むとおもっ」
閉まる扉の向こうから、鈍い打撃音に骨が砕ける音、絶え間ない絶叫が響き渡り始めた。それをBGMにしながら、リモートで娘達に授業を行う。
【暴力は虚しい、という概念がある。殴ってスカッとするのは一瞬で、その後すぐに何も現状が変わらない虚しさと殴っただけ痛む拳の事を指すが、これは少々間違いだ】
モニターに、ベリルによって顔面が変形するほどタコ殴りにされ伸びる二人の天竜人を映す。そこには余りにも酷い撲殺寸前の跡が広がっていた。ベリルはインターバルである。
【何も産まない暴力などあってはならない。それだと突発的な暴力や衝動による事件は無くならない。そして暴力性は伝播していく。それを危惧するのならば暴力とはどうあればいいか?】
インターバルから戻ったベリルが再び教育を開始する。そこには目を覆いたくなるような凄惨なリンチの現場が広がっている。
【暴力とは恐ろしく、悍ましくならなくてはならない。苛烈に、徹底的に他者を虐げることの恐ろしさ。そしてそれがもしかしたら自分に向けられるかもという悍ましさ。それを宿して初めて暴力はいけないと気付くことができる】
撲殺寸前まで殴り倒し、休憩し殴り倒す。だがそれはいくら相手が悪名高い相手でも、手放しに歓迎できるようなものではなかった。肉がちぎれ骨が砕ける音は、ともすれば気分を害するだろう。
【暴力を振るう段階に至るまであらゆる可能性を模索しろ。暴力を振るう段階に至ったならば一切の躊躇と情けをかけるな。それが、暴力のやるせなさを知る一番の近道だ。では、次の項目に移ろう】
当然のように時空を歪め、天竜人更生カリキュラムは先へと段階を進めていく……。
〜
「お、おまべぇ!おまっ、ゆるさないんだえ!」
「死刑!絶対に死刑にしてやるんだえ!!」
ニャルの顔を見るなり、凄惨な顔になりながらも口汚く罵二人の天竜人。その肉体のスペックはまさに折り紙付きだ。流石の回復力である。
【ベリル…貴様まさか手心を加えたのではあるまいな】
「いやいや、マジで頑丈なんだよこいつら!殴りに殴ってもはまるでへこたれねぇ!こりゃあかなりの素養だぜ」
【伊達に飼い殺されていないということか…】
「わちきたちを探し、今に海軍大将がわちきらを助けに来るはずだぇ!そうすればお前ら下々民など木っ端微塵のイチコロだぇ!」
「それがイヤならあの娘をわちきに差し出すえ!あの美しい銀髪のホデュアアァァーァァァ!!???」
ニャルが最後まで言わせず鼻の骨を折り、踵を返す。シラミの大量に付着した囚人服に、カビの生えきったパンだ。
【お前達のこれからの衣食だ。そして1畳半の個室でそれぞれ過ごしてもらう。連れて行け】
「あいよ。おら、きびきび歩け!」
「こ、殺してやる!絶対に殺してやるんだえー!!」
「ぱなが!わちぎのぱながァァァ!!」
無理矢理着替えさせ、個室に投獄させその様子をモニターで映しながらリモート授業を行うニャル。
【次に、生命的価値と社会的地位の因果関係を説明しよう。昨今の社会、地位や富、社会的名誉を獲得した人間が至上として祭り上げられやすい傾向にある】
「わちきは天竜人だぞ!?神たる存在!こんな扱いをするなど言語道断!罰当たりの犯罪者め!覚悟するんだえ!!」
「父上も母上も絶対にお前らを許さんえ!お前達は奴隷の下、家畜の餌にしてやるんだえ!震えて眠るがいいえ!」
【だが、それは生命的価値にはなんら関係のないものだ。では暫く奴等の時間を早めてみよう】
パチリ、と時空を早め一週間ほど天竜人の時空を進める。その過程は実に鮮明に映される。
「今ならまだ謝れば奴隷にするだけで……!!」
「わちきの前に跪き………!!」
【社会的地位は、当然文明社会の中でのみ効果を発揮するものだ。いくら血統を誇ろうが、いくら富を誇ろうが、いくら権力を振りかざそうが…】
更に一週間。最低限のパンと水だけ与えられた天竜人はみるみる憔悴していく。
「…………!………………」
「はら……減ったえ…………飢え死にするえ…」
【迫りくる生命の危機には、なんら効力を持たないものとなる。どれほど現世で功績を残そうが人は死ぬ。金も権力も、血統も、自らの死を遠ざけはできないものだ。そして当然、文明社会から切り離されれば意味をなさない】
更に進めると、あれほど威勢のよかった二人の啖呵は見る影もなく、虚ろに空を眺め、配給されるパンと水に恥も外観もなく食らいつく浅ましさを見せ始める。
【こうした時に活路となる、重要となるものが人間社会で軽視されがちな助け合い、絆、友情や愛情、交友といった生命的価値、人間力というものだ。その命が真に価値あるものであったなら、真に困窮した際には助けてくれる何かが現れるのだが…】
出会った二人は、小さなパンを奪い合いながら罵り合う。身に付けていた虚飾を剥ぎ取れば、そこには脆弱な人がいるのみだ。
【奴等のように、外的要因で生命的価値を剥奪され、社会地位のみを与えられれば愚民と化す。そしてその人生の終わりは無様なものになるだろう。昨今の消費文明、競争社会では社会地位こそ人間の真価とこぞって教育するが…人と人との当たり前の触れ合いや交流こそ、その人間の本当の価値というものだ。私の子達よ。真に価値ある人生の為、他者との正しい触れ合いをどうか心掛けてくれ】
そして更に時は進み…
【そして最後のレッスンだ。人間を支える衣食住…それを取り上げ奪ってやれば………】
「…カ……………ァ………」
「…………、………………………」
【人の自尊心など簡単に壊れる】
一ヶ月ほど経過させられた二人は、誰も助けに来ない…何も希望がないという事実に絶望し、打ちひしがれ…最早最初の勢いなど見る影もなく憔悴しきっていた。
【そろそろ仕込みはこんなものだろう。では、教訓と実例を交えた道徳の授業はここまでとする。健やかに育ってくれ、私の子供達】
ディスプレイを落とし、ニャルはすっと立ち上がりとある場所へ連絡をつける。
【あ、お世話になっております。はい、はい。そちらに二人を送りますので、遠慮なく使い倒してやってください。はい、代わりに子供達にはお休みを。はい、はい。よろしくお願いします──】
約束を取り付け、ニャルは鼻歌交じりにスマホを投げながら天竜人二人へと会いに行くのであった。
ニャル【どうだ?海軍大将と軍艦は助けに来てくれたか?】
レタッソク「………………こ……」
ウロヤソク「ころし………て……」
ニャル【どうした天竜人。偉いんだろう?神なんだろう?私の娘を妻にするのではなかったのか?ん?】
レタッソク「………ご」
ニャル【?】
レタッソク「ごめん…………なさい………」
ウロヤソク「わたしたちは………かみなどでは……なかった…」
ニャル【……………】
「おなかいっぱい…しあわせだった……」
「どれいのみんなは、いまの…わたしたちより…くるしかったのだ………」
「わたしたちは………なんと、おろかな………」
「ひどい、ことを……………」
ニャル【………経験から学んだか。愚者よりだが、ようやく人になったようだな。では行くぞ】
「「え…………?」」
【お前達はいずれ死ぬ。だがどうせ死ぬのなら、最後くらい誰かの役に立て。ボランティアだ】
「「ボラン、ティア…?」」
【あぁ。──夏草の美化活動、ゴミ拾いだ】
To Be Continued …