人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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トットムジカ【お前…どうやってここに?オレが怖くないのか?】

リッカ「大丈夫!私はリッカって言うんだ。トットムジカ、あなたとお話しに来たの!」

トットムジカ【オレと…?怖がりもしないし、憎くもないのか?】

リッカ「全然?むしろ、あなたの事を知りたくて会いに来たんだ!トットムジカを、もっと知りたいと思って!」

トットムジカ【オレを…本当か…?】

リッカ「うん!」

トットムジカ【そんな事を言われたのは初めてだ…。解った、話すよ。最近、呼ばれたこともあるからな…次こそは…】

リッカ「次こそは…?」

トットムジカ【うん。今度こそ、オレはオレを世界中に歌うんだ…】


誰も望まない歌

かつて遥か昔。古代とも呼べる時代。文明は未発達ながら、神の信仰が強く根付いていた頃の話。

 

人は敬虔であった。あらゆるものに感謝し、毎日を懸命に生き、恵みを授かり、日々の豊かさを有り難いものとして噛み締めていた。

 

文明の代わりに、人々は神を信じた。万物には神が宿り、自らの信仰は神に届くと信じながら日々を幸福に生きていた。

 

そんな中、神に捧げられるものとして芸能が選ばれた。舞踏、舞台。聖なる儀式として、言葉より雄弁と認められたそれは、発展と開発、研鑽と共に人々の中で研ぎ澄まされていった。

 

当然それは歌という芸能も含まれる。音楽と言霊を重ね合わせ、神への祝詞として大変重宝され、崇高なものとなっていた。

 

そんな折、人々は自らの感情をそれぞれ象った音楽と楽譜を制作した。人の持つ心が織り成す感情こそが、神に届く芸能に至ると。

 

トットムジカはそんな中で生み出されたものだった。人の心の織り成す感情を担う音楽として、彼は存在したのだ。彼の担当する音楽は【哀しみ】や【憎しみ】といった人間の負の感情。しかし、人には不可欠なものを彼は担うこととなった。

 

トットムジカは自身という音楽を愛していた。聞くものに鮮烈な感情を。たくさんの人間に自分の歌を届ける事を願っていた。

 

しかし、感情を区分けした事により人間は感情を選り好みするようになってしまった。怒りや悲しみより、喜びや楽しみを人は選ぶようになってしまったのだ。

 

喜びの楽譜や楽しみの楽譜は、一年の内に何度も歌われ愛されていった。人々の笑顔や幸せを望む幸福の歌である、と。

 

しかし、トットムジカはそうではなかった。恨みや憎しみ、悲しみを疎み、時には恥やおぞましく考えた人間達は、トットムジカを蔑み疎むようになった。楽しみと、喜びばかりを求めるようになったのだ。

 

【おい、オレも歌ってくれよ!いい旋律をかなでられるぞ!】

 

何年もトットムジカは無視をされ。

 

【一回でいい、一人でいいんだ!なぁ、オレも皆と歌わせてくれよ!】

 

楽しみと喜びを謳う人々に、何十年も訴えて。

 

【なぁ、オレも仲間に入れてくれ!なぁ、オレも皆と一緒に楽しいことがしたいんだ!】

 

百年以上の間、トットムジカは蔑まれ疎まれ続けた。それだけでなく、トットムジカの楽譜は人の負の感情や悪の心を吸収する避難装置として扱われる事となっていた。

 

『ずっとずっと楽しいままでいたい』

『哀しいことも辛いことも私達にはいらない』

『トットムジカに捨てていこう。毎日を幸せに過ごすためにも』

 

トットムジカの楽譜に、人々は自身らの悪感情を捨てていった。トットムジカは楽譜という扱いすらされず、ただ誰かの悲しみや憎しみを押し付けられる装置となっていた。

 

【いいんだ。忘れられていないだけでオレは十分に幸せだ】

 

その扱いを甘んじたトットムジカは、世界中の悪感情を引き受けていた。憎しみと悲しみ、迷いと恐れを一斉に押し付けられた。

 

【迷い、恐れよ。トットムジカの名の下に】

 

それがやがて共通の言葉となるころには、トットムジカに蓄積された悲しみや憎しみは魔王と呼ぶべきものに相応しいものとなっていたのだ。

 

【忘れられていないなら、いつかきっと皆オレを歌ってくれる。その日をずっと、オレは待つぞ】

 

楽譜の中で、トットムジカは待ち続けた。いつか皆が、自分を歌ってくれる事を。いつか、自分が皆を歌で幸せにすることを願っていたのだ。歴史の闇に消えようと、彼はその未来と光景を夢見ていた。片時も忘れること無く。

 

やがてどれほど経ったか解らない時が流れた頃、彼はトットムジカとして召喚される事と成る。

 

待ちに待った日が来たのだと、トットムジカは喜んだ。そして数百年を跨いだ顕現により、トットムジカは世界に現れたのだ。

 

【ようやくお待ちかねの出番だ!お前達全員を笑顔と喜びの…】

 

…トットムジカは違和感に気付く。召喚され、そこにあったものは、かつて夢見た平和な世の中では決して無い。国家間戦争、世界大戦とも言うべき人類の争いの只中という有り様だ。

 

【お、おい、喧嘩はよせよ、どうしちゃったんだよ?】

 

「トットムジカ、どうかお願い…!」

 

見ると傍らにいた自身の召喚者を見つけ出す。

 

【おぉ!お前が呼んでくれたのか!ありがとうな、オレは…】

 

「どうか!!」

 

【!】

 

「どうか世界中に…あなたの歌を届けてください…!!」

 

燃え滾るような、涙しているようなその少女は訴えた。あなたの歌を世界中に、と。

 

【おう!任せとけ!必ず届けてやるからな!】

 

トットムジカとしても、世界中から呼ばれている感覚と実感を持っていた。世界は今、自分を求めているのだと。

 

【いつもみたいに仲良くやろう!ほら、今度はオレと歌ってくれよ!】

 

世界中に、トットムジカは響いていた。人間が積み重ねてきた感情の分、トットムジカは歌い続けた。それらは三日三晩、連日連夜片時も休むことなく欠かさずに。そうすればきっと、かつての楽しい時間が帰って来るのだと信じて。

 

……やがて、トットムジカは異変に気付く。どれだけの時間を歌っただろうか。どれだけの間、世界にその歌声を響かせたか。

 

【ようやくオレは、皆と一緒に────】

 

その結果……トットムジカは、世界に蔓延る者達を残らず滅ぼした。恨みや憎しみ、人の負の感情の化身となっていたトットムジカの歌。それこそ、世界を滅ぼす破滅の魔王の降臨するものに相応しい力を有してしまったのだ。

 

【お、おおーい!誰か、誰かいないのかー!?】

 

世界中の人々、ほぼ全てが死に絶えた様な世界でトットムジカは必死に生き残りを探し続けた。これは彼が望んだ結末などでは決して無い。かつてのように、幸福と活力を見つめ夢見ていた事に変わりはない。

 

【誰か…………】

 

世界を巡るたびに思い知る、自らの行った事実と結果。世界を滅ぼしたのが、一体なんであるのかと。

 

トットムジカ自身も、自身の変質は理解できていなかった。ただ、懸命に歌った故の結末がこれだった。

 

…自身を呼び出した少女が亡骸となっているのを見つけた時、トットムジカは慟哭と共に絶望を吠えた。自分は、なんという事をしたのかと。

 

【オレは…ただ…!皆が幸せ出会ってほしかっただけなのに…!!】

 

深い絶望の中で、トットムジカはそう叫ばずにはいられなかった。世界中に満ちていた感情にてトットムジカが望まれたのならば、それは間違いなく憎しみと恨みが満ち溢れていたということだ。

 

【エレジアに戻ろう。いつか自分をまた、呼んでも大丈夫な時代がやってくるまで待ち続けよう。ずっと…】

 

トットムジカはそう思い、待ち続けた。そして、その日は来る。

 

かつてと比べ物にならない感情の共鳴。かつてよりずっと強く満ちる感情たち。

 

そして、エレジアにて繁栄を極めた音楽たち。古い音楽として、自分も歌ってもらわずにはいられなかった。

 

世界中が自分を望んでいる。強く強く、待ち望んでいる。そうトットムジカは確信し、かつての少女の様な能力を持つものの前に現れ…

 

【今度こそ、皆を幸せにしてみせる!さぁ歌ってくれ、このエレジアから始めよう!平和と喜びの歌を!】

 

彼は…未だ尚、自身が変容している事実を理解していなかった。

 

【今度こそ、世界中に人間に応えるような歌声を──!】

 

…それにより、古代より凝縮された負の感情はさらなる領域となり、ウタという少女すらも取り込んだ魔王として、顕現することとなる。

 

【世界中の皆よ!もう大丈夫だ、皆で仲良く歌おうじゃないか!トットムジカがやってきたぞ!】

 

世界中に渦巻く負の感情を、今度こそ自身が招かれている

のだと信じて。シャンクスに止められるその瞬間まで信じていた。

 

【今度こそ──争いのない平和な世界に相応しい楽しい歌を……!!】

 

…エレジアを滅ぼし、再び楽譜に封印される瞬間まで、彼はそう信じていた。

 

これが、トットムジカという魔王の記録の全て。彼はただ至ってしまっただけだったのだ。

 

人が生み出した【魔王】という存在。憎しみと悲しみを担う…邪悪なる存在へと。




トットムジカ【今回も、オレはダメだった。最後まで、オレは必要とされなかったんだ。どうすればいい?どうすればあの日みたいに皆でウタを歌えるようになる?】

リッカ「…………」

トットムジカ【オレはただ…皆と歌えればそれでいいんだ…】

その話を聞いたリッカは、思わざるを得なかった。

不要なものを押し付けられた絶対悪。

人の善を象徴するもの。

即ち───この世すべての悪。

リッカ「トットムジカ、あなたは…」

彼こそは、人が歴史の中で生み出した悪。

誰もが望んだ、邪悪そのものであったのだ。
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