人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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エレジア

ゴードン「ウタ…本当にやるんだね?」

ウタ「うん。私は…トットムジカと向き合わなくちゃいけないから。あんな悲劇を、繰り返さないためにも」

ゴードン「そうか……君とルシファーが決めたのなら、私はそれを信じるだけだ。どうか気を付けるんだよ、ウタ」

ウタ「ありがとう、ゴードンさん。それと…ごめんなさい」

ゴードン「君が謝ることじゃない。トットムジカとの向き合い方を決められなかった私の責任なんだ。君は…いや。君も、トットムジカも被害者だったんだ」

ウタ「ゴードンさん…」

ゴードン「必ず戻っておいで。また、三人でパンケーキを食べよう。いや…今度は、四人でかな」

ウタ「…うん!」


歌姫と、魔王の二人で

「ここが、トットムジカの楽譜の中…?」

 

ルシファーとゴードンの手による、トットムジカの楽譜の中。ウタウタの実の能力『ウタワールド』によってアクセスが叶ったウタは、楽譜の中の世界…トットムジカがいる空間へとやってきた。目的は、トットムジカと話をするために。

 

「なんか、暗くておっかない感じ…でも、ルシファーが言うにはトットムジカは怖くないんだよね…」

 

その言葉を信じ、ウタは黒き空間を進んでいく。ルシファーはもしもに備え、ゴードンは現実世界のウタの身体を見守っている。

 

「あ、いた!トットムジカ!」

 

少し歩みを進めれば、現れしは大柄のピエロ。彼こそがトットムジカ…絶対悪を定められた負の楽譜の化身。彼はウタに気づき身体を起こす。

 

【最近はお客さんがよく来るなぁ…って、お前は!?】

 

「な、何?あたしの事知ってるの?」

 

【あの時の、あの時の女の子じゃないか…!随分大きく、立派になったなぁ…!】

 

まるでいとこか親戚のように、笑みを浮かべウタを迎えるトットムジカ。その対応の柔らかさに、苛烈さや残酷さは見受けられない。

 

「そっか…ちっちゃい時以来だね、トットムジカ。久しぶりっていうか、また会ったねっていうか…」

 

【オレはお前が歌ってくれたから、あの日皆に歌を届けられたんだ。お前のお陰だ。最後まで歌えなかったのは残念だったけど…それでも、ありがとう!】

 

(…ルシファーやゴードンさん、マシュ達が言った通り。トットムジカは…)

 

悪意ある存在ではないことをウタは確信する。あの日はただ、エレジアの中で歌を披露したに過ぎないのだと。だからこそ…ウタは説明しなくてはいけない。

 

「その事…なんだけどさ。聞いてほしいことが在るんだ」

 

【?】

 

「あたしたちが…やってしまった事を。今から説明するね」

 

ウタは償いと、そして罪から逃げないことを決めた。故に、話さねばならないのだ。

 

自分達の行いと、過ち。その顛末を。

 

 

【オレが…エレジアを…滅ぼした…沢山の人も一緒に…】

 

ウタの説明を受け、トットムジカは力無くへたり込んだ。哀しみや憎しみ、負の感情を得たトットムジカの歌は、破滅の歌でもあったと告げる。

 

【じゃあ…もうエレジアは…無いのか?音楽の都を、オレが…この手で…?ウタ、お前も無理やり操って…?】

 

「今は復興してる。でも…あたしたちが奪った命はもう、戻ってこない。あたしたちが、かつてのエレジアを滅ぼしたのは事実だよ」

 

【なんてことを……オレは、なんてことを……!】

 

突っ伏し、泣くトットムジカ。彼にとって、憎しみや涙と悲鳴は彼を奏で呼び寄せる演奏であった。彼が誰かを喜ばせようと歌う詩は、破滅と破壊の楽章にほかならない。

 

だが、それはトットムジカの性質であり現状であった。彼自身に悪意や害意はなく、世界に満ち溢れるそれらが、トットムジカを焚き付けたにすぎない。世界中の嘆きは、彼を呼ぶ喝采として受け止められるのだ。トットムジカには。

 

【オレは…君やエレジアの皆になんという事を………!!】

 

その認識の齟齬を突きつけられたトットムジカは大いに泣き、涙し、慟哭した。彼自身は歌を愛し、誰かに歌ってもらいたいだけの陽気な存在だ。疎まれたのは、人間達の勝手な都合に他ならない。

 

その齟齬を知らなくば、泣くことなど無かったろう。しかしそれでは、また世界に満ちる嘆きや哀しみに応えトットムジカは魔王として顕現してしまう。誰かが、伝えねばならなかったのだ。ウタは、それをしたのだ。

 

「………やらかしたのは、あなただけじゃない。私も、あなたと一緒にエレジアを滅ぼしたから」

 

【君は違う、君に罪は無い…!オレだ、オレが無知で愚かであったばかりにその悲劇は起きた…!オレが、誰かと共に歌いたいと思ったからだ…!】

 

残酷なのは、トットムジカ本人は決して悪ではないことだ。悪が善になればそれは因果となって魂を焼く。しかしなまじ意思があり、それが善良と呼べるものなばかりに…彼は彼自身の歪みと罪に焼かれてしまう。

 

【オレは……オレは、死ぬべき楽譜だ…!歌われるべきでは無かったのだ…!!!】

 

誰かが伝えねばならない事実を、トットムジカは泣きながら受け止める。行き着く先が自己否定であっても、彼は向き合わざるを得ないのだ。彼自身の歪みと。

 

「…………」

 

ウタは蹲るトットムジカに近寄り、そっと背中を撫でる。ウタはその気持ちを理解していた。なぜなら、同じだからだ。

 

「一緒に、償おう。トットムジカ。私と一緒に、悲劇を二度と繰り返さないためにも」

 

【…償う…?】

 

「うん。あなたと私で、復興したエレジアを護る存在になるの。エレジアの象徴として…私とあなたで新時代の歌を歌い続けよう」

 

トットムジカを受け入れる決断。それをウタは決めていた。友達に言われたことと、育った情緒。それはウタに精神の気付きをもたらした。

 

「あなたと私にしか出来ない償いだよ。悲劇を二度と繰り返さない。これから生まれる音楽を、私とあなたで守っていくの。エレジアの象徴として」

 

【そんな事が…そんな事がオレに許されるのか…!?オレは君を操りエレジアを滅ぼした魔王、トットムジカなんだぞ!?】

 

そんなオレがどうしてエレジアを護る資格がある。そう告げるトットムジカは全く同じだった。ウタの結論と、答えと。

 

「うん。矛盾してるしどの面下げて…って思うよね。私も、そうだったから」

 

【!】

 

「でもさ……どれだけごめんなさいしても、どれだけ謝っても、失ったものは絶対に帰ってこないんだよ。勿論悔やんで悼むのは当たり前。だけど…それじゃ私達は、償いの道を進めない」

 

ウタはトットムジカに向き直り、告げる。ならば自分達はどうすべきか。

 

「償いは、未来に向かって足を進めなくちゃだめなんだよ。それが辛い道でも、険しい道でも。ううん、たとえ道がなくたって進まなきゃいけない。本当に申し訳ない、償いたいって思うなら」

 

【ウタ…】

 

「楽な償いなんてない。簡単に赦されるなんてありえない。だから…一生かけて前に進まなきゃ。失う辛さや、怖さを知った私達が、今度はそれを二度と起こさない為に頑張らなきゃいけないんだよ、一生…!」

 

手を差し伸べる。ウタの目にも涙が滲み、溜まっているのをトットムジカは見た。

 

「だからっ…!私達二人で、償っていこう!あたしたちが、エレジアを二度と失わない、皆の音楽の都の象徴として!どれだけ矛盾しても、どれだけ辛い道でも、笑顔で!」

 

【……お前は、そこまで……】

 

「あたしはっ!!新時代の歌姫になる女だからっ!!トットムジカも、歌で幸せにしたいから!!だから、あなたとあたしで、皆を笑顔にしようっ!!」

 

堰を切り、涙しながら、ウタは告げる。彼女も平気なはずはない。彼女は、自身が引き金を引いたとずっと思っているのだから。

 

「世界中の人達を、歌で幸せにするっ!!あたしたちが赦される日が来るなら!きっとその日を迎えた時だと思うからっ!!だから、だから…!!」

 

【…!】

 

「あたしを信じて!トットムジカ!!新時代に、一緒に行こうッ!!」

 

【ウタ……お前は………お前という娘は……!】

 

「うぅ……!うァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!あぁぁァァァ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

【うぉお、泣くなウタ……!オレも、オレも……うぉおォオォオォオォオォオ〜〜〜〜〜〜!!!】

 

ウタとトットムジカは抱き合い泣いた。それは、決して消えない罪を向き合う事から逃げないが為に。

 

二人が背負う罪は、幸せを願う歌と少女にはあまりにも重い。だが、進まなくては償えない。

 

その涙は……前に進むための、決意の涙であった。

 




ルシファー「残り数年…ウタはトットムジカと向き合ってもらわなくちゃいけない。楽譜の悪意を、吐き出すために」

ゴードン「大丈夫だろうか、ウタは…トットムジカは…」

ルシファー「!……大丈夫みたいだよ、ゴードン」

ゴードン「!」

ウタとトットムジカの浮遊が終わり、地に伏す。

ゴードン「ウタ…!」

ルシファー「……君は魔王を名乗るには、純粋すぎるね。トットムジカ」

ルシファーの言葉が──旋律部分が白くなった楽譜に手向けられた。
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