人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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レヴィアタン【ベルフェゴール。ベルフェゴール、あなたも身辺整理して】

ベルフェゴール【( ˘ω˘)スヤァ】

レヴィアタン【…いつでも安眠。熟睡。凄く羨ましい…】

ベルゼブブ【すまんな、レヴィアタン。そやつはサタン様の命にしか動かぬ。私が代わりにやるから、そっとしておいてくれ】

レヴィアタン【ベルゼブブ…。確かベルフェゴールは、バアルペオルとも呼ばれた経歴ありだっけ】

ベルゼブブ【あぁ。我等は近しい。故にヤツの好みも知っている。文句も出はせぬだろう】

レヴィアタン【なんでいつも寝てるんだろう…】

ベルゼブブ【そやつはそやつなりに…世に絶望し、またサタン様から光を受けた者でもあるということだ】


怠惰の源泉

ベルフェゴールは、元来勤勉なる存在であった。誰よりも懸命に働き、民を愛し、他者を重んじる存在であった。

 

彼は元はペオル山の化身であり、自然現象により近しい神として、『バアル』の名を冠するもう一人の神であった。山のように雄大で、おおらかで、頑然たる彼は多くの信仰を集め、高い館の主たるバアル・ゼブルとは互いに祝福を与え合う存在であり、信者をよく導き、庇護した存在であった。

 

その際、モーセ率いるイスラエルの民がカナンの地の前、モアブに訪れた際、モアブの娘達はバアル・ペオルを始めとした神々を食卓に招き、遠方からやってきたモーセ達をよく歓迎し、旅路の疲れを癒やさんと労りと歓迎をもって饗した。

 

しかし、これが唯一無二の神を名乗る者を激怒させた。『神』の名に相応しいのは自身のみ。神を僭称する者、それらを崇拝する偶像崇拝者をモーセに皆殺しにするように告げたが、モーセはこれを当然のように拒否。歓迎を齎した彼等は友人にして隣人であり、その信仰は尊重されるべきだと。

 

しかし唯一無二の神はそれを赦さず、疫病を齎した数万のモアブの民達を殺害。ペオルの山には汚物を供物にするが相応しく、バアルは糞山の王であると信仰をひたすらに辱めた。ゼブル、ペオルが魔王たる所以はその位の高さである。

バアル・ゼブルは糞山の王としてベルゼブブに辱められ、バアル・ペオルは『神を饗さなかった愚鈍なる怠惰者』として、その名を歪めたベルフェゴールの忌み名と大罪を背負わせ地獄に落とした。

信仰者を喪った神は零落するしか無い。彼ら二人は、共に信仰を失墜させられた背景を持っていた。

 

【それでも、地獄に堕ちたとしても悼める魂はある。成すべき事はある。懸命に何かを為すことに、地位と身分は関係ない。】

 

そう信じたベルフェゴールは、不信心として地獄に落とされたモアブの民の魂の尊厳を護った。怠惰の魔王とは他称であり、彼はひたすらに勤勉で、地獄の環境と治世、地盤を整えていった。地獄が活気に満ち溢れているのは、ベルフェゴールがその環境を暗くとも陰鬱ではない環境に変えたからである。言うなれば彼は地獄の中興の祖であった。

 

そんな彼が何よりも大切に、そして楽しみにしていたのが婚姻の儀であった。男女が結ばれ、互いを愛し合い、共に生きる。バアル・ペオルであった日から、その祝福を担うことが自身の何よりの楽しみであった。

 

だが、婚姻の祝福を行わなくなって久しい事を彼は自覚していた。モアブの民達は相手を見つける前に唯一神に皆殺しにされ、地獄の悪魔達はまだ、他者との共存や協力、協調性に乏しい混沌の軍勢であったからだ。(バアルは軍隊としての統率を重視しており、アスモデウスの人智礼節の法を敷くまでの話)

 

バアル・ペオルの頃から婚姻を祝福するのが楽しみであった彼は、サタンに上申した。【地上の婚姻や夫婦を祝福してもいいだろうか】【その幸せを、自身の労働の対価としたい】と。

 

【いいよ。じゃあついでに調べてきてほしいものがあるんだ】

 

サタンはそう言い、ベルフェゴールに調査を命じた。それは【今の世に幸福な結婚はあるのか】というサタンの疑問。果たして人は、人と結ばれ永遠の愛を育むに足る存在であるのかと。

 

そんなもの、当然だとベルフェゴールは言い地上に向かった。婚姻とはいついかなるときも互いを支え合い、助け合う崇高な誓い。それこそが婚姻が婚姻たる所以。ベルフェゴールはその質問の意図すら解らなかったのだ。

 

──その質問の真意は、地上に出た事により理解することとなる。人と人とが結ぶ永遠の誓い、その欺瞞を。

 

【こ、これは…】

 

それは、婚姻の誓いの陳腐化と形骸化が蔓延った惨状だった。婚姻を結びながらも間男や間女と関係を結ぶ男女。産み落とした子を放置する夫婦。永遠の誓いを破棄し、離婚という概念を作り上げた男女達。

 

彼はそれらを全て見つめた。幸福な婚姻、永遠の愛などどこにもない。日に日に募る互いへの不満、留まらぬ互いへの無関心。遺産目当ての婚儀や、また同じ空間にいるだけの無関心。彼の知る永遠の愛など、ただの一度も見つけることは出来なかった。

 

特に心を打ちのめしたのは、ハンス・クリスチャン・アンデルセンという作家の恋愛の顛末。アンデルセンが想いを寄せた女性は裕福な家系に嫁いでいった。だが…数ヶ月後に見るも無惨な姿で打ち捨てられていたのだ。

 

彼は地上の全てに幻滅した。人間という種族全てを軽蔑した。永遠の愛を軽んじる者達。醜悪な詐欺師共。けがらわしい地球という星に蔓延る蛆虫。アダムとイヴの罪を引き継ぐ永遠の咎人達。

 

地獄に戻った彼は人が変わったように空虚となった。何をする気にもなれず、しようとも思えず、在りし日の幸福なる日々にひたすら想いを馳せる日々。

 

【人という存在をもう見たくない。人が生きる世界が穢らわしくてたまらない。私は一体、どうすればいいのだろうか】

 

悲嘆を極めたベルフェゴールはサタンに告解した。もう、彼等と指先一つ関わりたくないと告げられたサタンは、彼にこう告げる。

 

【見たくないなら見なければいい。やらなきゃいけない仕事、したくもない労働、取り組まなきゃいけない働きなんていうものこそが疑問なんだから】

 

自分はもう、何もしなくてもいいのだろうか。自分にとって幸福なる夫婦の祝福こそが最大の報酬だった。それが無くなったのならば。

 

【当然だ。報酬もご褒美もやり甲斐もない仕事なんて何故やる必要がある?むしろ、ただ漠然と仕事をしているものこそが最悪の怠惰だ。君にはそうなってほしくはないよ】

 

そしてサタンはベルフェゴールに告げる。君は今まで頑張りすぎたのだと。

 

【君がまた目を覚ますべき時には僕が声をかけよう。君の怠惰は僕が終わらせよう。だから今は存分にお休み。やらなきゃいけない仕事なんてやらなくていい。いつか君が行いたいと願う本当の労働を、僕が見つけてあげる】

 

ベルフェゴールは彼の言葉を、彼の言葉のみを信じた。自身が働く時、自身の怠惰が終わるときは彼が齎してくれると。

 

ならばそれまで自身は一歩も働くまい。報酬もやり甲斐もない仕事などやるつもりもない。永遠の愛を祝福する機会など、もう二度と訪れはしないのだから。

 

彼は永遠に目を閉じ、惰眠を貪ることとした。ルシファーを、サタンのみを信じ、彼が自分を起こしてくれる瞬間のみを信じて。

 

【お休み、ベルフェゴール。君の怠惰が晴れる日が来たら、必ず教えてあげるからね】

 

ベルフェゴールは怠惰…【やるべきことの放棄】と【休むべき時に休まない】の両方を大罪として担う魔王である。故に彼は、サタンの命なく目覚める事は絶対にない。

 

【自分を目覚めさせてよいのはルシファー様、サタン様のみ。世界がそうなる日まで、指一つ動かさずにいよう】

 

それは絶望の結論とも言えるものかもしれない。だが、彼は【サタンの目覚め】は待ち望んでいる。

 

それはつまり『世界にまた永遠の愛が現れてほしい』という期待と願望の発露に他ならない。今は駄目でも、いつかきっと現れてくれますようにと。

 

そして、それを福音として齎してくれるのはルシファー様以外にありえないと確信し、ひたすらに眠り続けているのだ。

 

この世界において、自分のみが愛おしく素晴らしいという傲慢は、真実の自己愛。

そして自身より美しいものを心から尊び重んじるという愛を持つルシファーこそが、愛を見定めるに相応しいと信じているために。

 

これが、怠惰の魔王ベルフェゴールのオリジン。

 

ロマンチストにしてペシミスト。愛を信じ眠る魔王の全てである。




レヴィアタン【……そろそろ、ルフィ達がシャボンディ諸島付近の騒動に絡みそう(ワンピースを読みながら)】

ベルゼブブ【こやつの安眠グッズで良かろう。ヒュプノス神に渡しておくか】

レヴィアタン【……ベルゼブブ】

ベルゼブブ【む?】

レヴィアタン【サタン様の宝物、護ろうね】

ベルゼブブ【無論だ】

ベルフェゴール【( ˘ω˘)スヤァ】

そして地獄は、来たるべき戦いに備える──
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