人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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命は平等だと、博愛精神に溢れた活動家は口にする。

一寸の虫にも五分の魂。そういうものだろう。

要するにどんな命も平等な価値でそこに貴賎はない。

なら、人は何故滅びることを良しとしない?

人間は天地万物と完全な調和を果たしていたとでもいうのか?

散々滅ぼしてきたはずだ。絶滅させてきたはずだ。

平等ならば、順番が回ってきただけの話だ。

何故自分が滅びる番になったら醜く足掻く?

理解できない。理解できないからマスターとしてのやる気はなかった。ロマニとタバコを蒸しサボっていた。

世界が燃えたらしい。

人が滅んだらしい。

清々するぜと毒づいた。生憎人間社会や文明に未練なんぞハなかったから。

やる気もなかった自分を奮わせたのは…

自分より若い少女の懇願。

暇潰しに旅の話を聞かせていたら、えらく懐かれた…

一人の少女の懇願。

世界を一緒に救ってほしいという懇願。

……参った、クソ。

オレにとっては人や世界なんぞ、どうでもよかったが…  

まだ見ぬ景色しかないこのガキにとっては。

世界は綺麗なままであるらしい。

なら…

大人が頑張らなきゃ、始まらないよな。




己を解決させた異変

「皆……」 

 

 

結論から言えば、藤丸は世界を救った。世界をすべて見るという誓いと、マシュの生きる世界は滅ぼされちゃ困る(自分の生きる世界ではない)という大人の責任感による甲斐性だ。ブーディカに公私共に支えられながら、彼は人理修復をやり遂げた。

 

そして結論から言えば、地球は漂白された。異星の神の勢力に、真っ白な無味乾燥な星にされ異聞帯の切除を執り行う羽目ににった。

 

悲しいことに、異聞帯の全ては藤丸には素晴らしい体験だった。見たことのない歴史。見たことのない世界、見たことのない景色。ブーディカやマシュと見る異聞帯の旅は得がたい思い出だ。

 

…それらを全て滅ぼすとしても、彼は決して現地の存在を無下にはできなかった。

 

全ての異聞帯にて、彼は人間力に溢れた存在だった。旅は彼を、外見でわからぬ魅力に満ち溢れさせていた。その経験や体験は閉塞した世界の住人を魅了するに十分だった。

 

酷い話であった。夢を語り、希望をもたせ、すべてを、最後には刈り取る。

 

新たに挑みたい世界が、自分の手で滅んでいく。彼は眼の前にいる全てと深い交流を結んだ。

 

ヤガのパツシィとは火薬酒を飲んだ。少女のゲルダとは花輪を作りあった。名もなき少年とは平原を走った。アーシャとは犬と共に駆け回った。アデーレとマカリオスとは未来を語った。テペウとはミクトランの在り方を語った。

 

彼は誰よりも異聞帯に誠実に向き合った。汎人類史に誰よりも嫌気が差していたからこそ、異聞帯の在り方を尊んだ。

 

尊んだ上で…切り捨てた者達が、今目の前にいた。全員がだ。

 

「星空の下をバイクで走る…やってみたいとずっと思ってたよ」

 

「おじさん!皆で乗れる車はあるかしら!」

 

「もちろん制作済みです。全員乗っても大丈夫」

 

「わーい!」

 

「すげー!」

 

「マカリオス、楽しみね?」

「そうだな!姉さん!」

 

藤丸を取り囲む、異聞帯の住人達。友好的に、最終的には切り捨てた者たち。

 

「おじさん、どうしたの?顔色悪いよ?」

 

「…俺は…俺は…」

 

彼が世界を救った理由。それは自分のため以外にもある。

 

それは『自分より若い奴らの世界は、自分よりきっとマシに見えている』というもの。うだつのあがらぬ中年の自分よりも、きっと世界は美しいものだと。だから、奪わせてはいけないと。彼はそう戦い抜いたのだ。

 

だが…異聞帯では、そんなマシな世界を自分の手で滅ぼしたのだ。

 

「…すまん」

 

それはただの自己満足でしかなかったとしても。彼は詫びずにはいられなかった。

 

 

「すまん…生きるために。俺なんかが生きるために…皆の未来を奪って……本当にすまん…!」

 

彼は異聞帯という概念を好んでいた。歴史レベルで変化した景色や世界…それはまさに、自分が憧れた未知だ。

 

戦いたくはなかった。叶うことなら、敵対したくはなかった。

 

出来ることなら…楽しく、賑やかに、踏みしめてみたかった。見上げたかった。知らない景色や、空の数々を。

 

だが……人類が、汎人類史が生きるために、彼等を。

 

「俺なんかが勝ち残って…本当にすまん………!!」

 

自分より、きっと輝く未来を生きるべきだった者達。

 

そんな彼等を、摘み取った自分。藤丸は静かに、確かに泣きながら詫び続けた。

 

果たしてそれは、事実であったのか。幻か、現実か、そうでないかは最早彼には解らなかったけれど。

 

「謝ることはありません。あなた達は正当に、生き残ることを勝ち取った。それだけではありませんか」

 

テペウの言葉は、非難でもなく罵倒でもなく、暖かな後押しと肯定であり、一同も同じ想いとばかりに頷く。

 

「あなたは私達に、誠実に付き合い向き合ってくださった。侵略者ではなく、隣人や友人であろうと努めてくれた。私が代表として話してはおりますが…一同、皆あなたを好んでおりますよ」

 

「…都合が良すぎる解釈だろ、それは……皆、もっと生きたかった筈だ…」

 

「それでも、短い中であなたに会えたわ。私達のことを、対等に扱ってくれたあなたに会えたわ。私達!」

 

「それは………」

 

何故、滅ぼした相手を肯定するのか。都合が良すぎる夢ではないのか。それでも、彼は聞き届けた。

 

「世界自体は争うしかなくても、あんたは俺達を好きになってくれたじゃないか」

 

「不理解の侵略者ではなく、等身大の旅人として、あなたは私達に接してくれたわ」

 

どんな異聞帯にも、どんな異聞帯でも、彼は歩み寄ることを軽んじなかった。そこにある未知が好ましかったから。

 

そこに生きる者達が、とても眩しかったから。

 

「私達を覚えててくれて、ありがとう。おじさん」

 

「あなたみたいな、優しい大人になりたい。そう思えたのはあなたのお陰よ」

 

「アーシャ…ゲルダ…」

 

どれだけ矛盾していると解っていても、それでも交流は止められなかった。

 

「英雄様がめそめそしてんなよ!」

 

「まだ、立ってるんだろ?戦ってるんだろ?なら───頑張って、戦い抜けよ。おっさん」

 

「少年、パツシィ……」

 

そんな彼は…彼の世界に触れた者たちだけは。

 

彼のことを『隣人』として。深く信頼していたのだ。

 

「……。どうやら我々を含めたおかしな出来事は、あなた達の出来事に関わりがあるようですね」

 

「テペウ…」

 

「こうしてあなたを害するべき我々が…あなたに伝えるべき事を伝えられた。数奇ですが、この空間全てが残酷というわけでは、無いかもしれません」

 

テペウの眼鏡が煌く。それは、ヒントの一環か。

 

「なんにせよ…もう一度、あなたとお話ができて良かった。さぁ、藤丸さん」

 

皆が藤丸を起こし、背中を押す。──異変を見つけたなら、引き返さなくては。

 

「このような場所で、あなたの夢は叶わぬでしょう?」

 

「もう迷ったりするなよ。世界の全部を見るんだろ?」

「次に会うときに…素敵な話をお聞かせくださいな」

 

「ばいばい!今度は、私の家族を紹介するね!」

「すっげー立派な英雄になってやるからな!」

「少し大人になって…また会いましょう!」

 

「皆…!待ってくれ、俺は……!」

 

こんなに、暖かく送り出される資格など、どこにも無いというのに。

 

「何度も言わせるなよ、藤丸。立って、戦え」

 

「パツシィ…!」

 

「負けるな。こんな…ただ残酷であろうとする場所に負けるな」

 

それを最後に、全員が藤丸の背中を押し───。

 

「ご武運をお祈りしています。マシュさんにもどうぞ、よろしくお願いしますね。藤丸さん」

 

「テペウ…!!」

 

彼は、後戻りを果たした。四番出口のボードが、進歩を告げる。

 

「……………馬鹿野郎。本当に…馬鹿野郎どもだ……」

 

藤丸は、涙を隠さずに立ち尽くす。

 

死ぬべきではなかったのだ。

 

滅びるべきではなかったのだ。

 

自分の夢を、あんなに楽しげに聞いてくれたのに。

 

死なせたくなかった。

 

滅ぼしたくなかった。

 

もっともっと…違う形で。例えば、未知の世界への冒険として会いたかった。

 

 

叶わぬ夢だけれど、彼は決して、滅ぼす世界を軽んじなかった。

 

ありえぬ世界すら、夢の舞台と受け入れた。

 

だから彼は、『異変の方が正解を示した』のだ。

 

 

「オレの夢や希望を信じてくれた…大馬鹿野郎どもなんだよ、お前等は…」

 

一歩も動けない自分の背中を、正解に導いた。

 

引き込むことだって出来たのに。

 

あまりにもかけがえのない…

 

それでももういない、自分が滅ぼした『夢の仲間達』に救われた命に報いるように。

 

「………──ありがとう。ありがとうよ。お前ら…」

 

涙を流しながら、礼を告げ続けた。

 

 

異変を見つけたら、引き返すこと。

 

……彼は、異変に愛された藤丸立香。

 

涙脆い、優しく人間力に溢れたおじさんであった。




立香「あ、お帰りなさい!」

りつか「進捗は、どうでしたか?」


おじさん「大丈夫だ」

「「!」」

おじさん「異変なんて…無かったさ」

彼にとってそれは、紛れもない救いであった。

逃げ出すべき異変などどこにもない。

あったのは…

「古い友達に、会ったぐらいだ」

夢を分かち合った、異なる世界の友人たちのみだった。
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