人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
アダム「お邪魔する。顔色がいいな、ヒナ」
ヒナ「勿論よ。だって…目の前にいてくれるから、あなたが」
アダム「嬉しいことを言う。さぁ、二人共」
リッカ「お、お邪魔します〜…」
ヒナの部屋
リッカ「可愛いお部屋〜…!?」
『紫の制服』
【ゴツい銃火器】
リッカ「うん、キヴォトスだね…」
パパポポ『実に透き通っているポ…』
「アダム先生。そして…アダム先生の養子さん。はじめまして。ゲヘナ学園、風紀委員会、風紀委員長…空崎ヒナ。まだ就寝時間には余裕があるから、色々お話しましょう」
ミレニアムより移動し、日課と称するアダムの導きによりやってきたのは、一人の生徒の部屋。豊かなボリュームの白髪に、パジャマを着て紫色のヘイローと角、羽を有した萎びた雰囲気の小学生にすら見える華奢な少女…空崎ヒナはベッドに腰掛け、挨拶を交わした。リッカとアダムは、部屋に招かれた形となる。
「ヒナ、ちゃんとお風呂には入ったか?髪はきちんと乾かしたか?ドライヤーは?」
「実は、面倒くさくなっちゃっておざなりに…」
「それは良くない。髪が傷むぞ。私がやってあげよう。こちらに来なさい」
「ふふ…。うん、お願いするわ。アダム先生」
ミレニアムとアビドスの奇行は一体何処へと消えたのか、まるで父か執事のようにヒナの世話周りを焼くその姿はリッカに感嘆を齎した。おおよそそれは、一人の女性に対する振る舞いとして完璧だからだ。
「耳掃除はしたか?風呂上がりが狙い目だぞ」
「…実は、それも…疲れて面倒臭いなって…」
「あれ程の一日の忙しなさだ、仕方あるまい。いつものように、私がやってみせよう」
「〜。この時間が、私の一番の御褒美よ。…あ、ごめんなさい。リッカさん…」
「続けて?(ニマニマ)」
「〜。ま、まずは私と先生がどうしてこうなっているかを説明しなくちゃいけないわね。実は…アダム先生」
「ゲヘナ学園に彼女は在籍している。その学園が曲者でな…」
ゲヘナ学園。対立関係にあるトリニティ総合学園と並んで、学園都市キヴォトスでも一二を争うマンモス校の1つである。
「自由と混沌」を校風としている他、破天荒、型破り、粗暴な生徒が多く、それに銃撃戦が茶飯事というキヴォトスの価値観も加わっている為、領内の治安は非常に悪い。もはやこの学園内だけ世紀末のような有様で、学級崩壊は当たり前。教育機関としての機能はほぼ損失している。
活動を認められていない違法なサークルがいくつもあり、美食研究会や温泉開発部などといったテロリスト・危険集団として悪名が他校にまで広まっている部活も存在している。中には『会社』と称して独立を掲げる便利屋68のようなレアケースも。
結果各エリアの事故・事件数が年間100件を下回れば少ない方という有様で、該当する「アラバ海岸」と言うリゾートビーチはゲヘナ基準で比較的閑静と言われるほど。
生徒会の役割をもつ万魔殿も無責任な思いつきで校則を突如増やしたりするなど、まさに自由と混沌を体現した学校である。
自治区内ではヒノム火山と呼ばれる火山がある影響か温泉が多いらしく、温泉開発部が勝手に開発・改修した温泉施設もそれなりに存在している。そんな土地柄ゆえなのか、中には70℃にも及ぶという熱湯風呂がメジャーであり、これは体が頑丈なキヴォトスの住人全体から見ても高温らしい。
その他文化として、仮面をつけて参加する祭りもある模様。
一方、数少ない常識人である委員長のヒナを筆頭とした風紀委員会は厳格に風紀を取り締まっており、自由すぎるゲヘナ生や万魔殿の対処に日々追われている。他にも一部ではあるが真面目な生徒も存在し、そういった生徒たちは荒廃した第1校舎を離れ、第2校舎に集まって勉強しているらしい。
このような有様なので、キヴォトス最大手ながら提携を取りたがる勢力は殆どいない。例としてハイランダー鉄道学園のゲヘナ支部は、無賃乗車やハイジャック等が横行している影響で荒んでおり、裏家業と提携して維持している程。
特に思想や気風、モチーフ(天使と悪魔)的にも正反対であるトリニティとの関係は非常に険悪で、長く対立が続いており、連邦生徒会によりその解決が図られている。
〜
「………世紀末ヒャッハー学園?」
『救世主不在だっポ』
「そんな学園の風紀を取り締まる委員長は激務にして多忙を極めていてな。そんな中でも彼女はよくシャーレの当番に立候補し、私を良く助けてくれたのだ」
「仕事の苦労は、とても共感できるから。…でも、その時に先生に心配をかけちゃって」
それはシャーレの業務を共に行っていた時、昼寝の時間に一息ついたアダムはヒナに仮眠を推奨。彼女はそれを承諾し仮眠。
「その際に、シャーレのベッドに頭から突っ込んだヒナを見て大層心配になってな。どう見てもオーバーワーク気味の彼女を、こうして夜にこっそりメンタルケアに訪れている訳だ」
どう見ても大丈夫に見えない睡眠を目の当たりにしたアダムが、ヒナの為に個人的な時間を割いて世話を焼く。風呂上がりのココアや、部屋の簡単な整理整頓、ドライヤー、耳掃除、寝かしつけの頭を撫でるなど…一日の仕事に追われるヒナの癒やしになっていたのは、それが理由だったのだ。
「本当は、こんな風に先生を独り占めするなんて駄目なんだけど…先生ってば『君が時間を作れないなら、私が時間を合わせ会いに行く』だなんて…」
「迷惑だったか?」
「ううん、とても嬉しいわ。…夜に先生と会える時間があるのなら、どんなに面倒な仕事や騒動も辛くないもの」
ヒナは安心したように目を細め、アダムにもたれかかる。枕を抱えながら、彼に甘えるように。
「あぁ、幸せ…。この時間が、ずっとずっと続いてくれたら…」
「続くとも。頑張る君を、決して放りだしはしない。…頑張らなくとも、見捨てたりはしないがな」
「…ありがとう、先生。…エデン条約当日も…必ず、先生の為に…」
そうしてヒナは、ゆっくりと安らかに寝息を立て始めた。アダムへの安心感と、疲労感が共に限界を迎えたのだろう。そっとアダムはヒナに布団をかけ、安らかに眠りにつくヒナの頭を撫でながら言葉を紡ぐ。
「…ヒナの精神性は、リッカ。君に良く似ていてな。風紀委員長としては勿論、風紀に関係なくとも困った人々に手を差し伸べる秩序と善の生徒だ。だが…それ故に彼女にかかる負担と重圧は重いものでな」
『こう見えて、彼女はキヴォトス生徒トップクラスのつよつよな存在だっポ。ゲヘナの戦力の大半を担う…そういうところも君に似ているッポね、リッカ』
「ヒナちゃん…頑張り屋で強くてめんどくさがりで先生大好きって圧倒的ヒロインだよ…」
「──だが、それは健全な状態ではない」
アダムは安らかに寝息を立てるヒナの頬を撫でる。彼は、危惧しているのだ。
「何でもできる、何でもやれる、何でもできてしまうというのは…望ましい体制ではない。私は危惧している。彼女が、何かをきっかけに折れてしまわないかという可能性を」
「…!」
『…そう。藤丸君のように、一人で背負える重圧を抱えているのがヒナちゃんだっポ。彼女はそれが出来てしまえるから、慣れてしまっているが…』
彼女の奮闘を、否定はしない。しかしリッカには、その頑張りの危うさを理解できた。
「……誰にも頼らないというのは、強いことじゃない…」
「そうだ。ヒナは折れない、挫けない強さを有してはいるが…それは完全無欠のものではない。…故に、リッカ」
その時、アダムがリッカに問いを投げた。いや、それは嘆願…懇願であっただろう。
「頼む、リッカ。彼女に…『助け合う』大切さを、教えてあげてはくれないか」
「!」
『…彼女には、必要だっポよ。『自分の苦労を分かち合える』存在が。コラボイベントの一環として…お願いしたいッポ』
…リッカの目には、ゲヘナ学園の奮闘を背負うには、ヒナの身体は華奢に過ぎると感じた。
そして、彼女がアダムをとても好ましく想っている事を。
…彼女がアダムにとって大切な存在であり、逆もまた然りなら。
「───うん!」
彼女にとって、それを断る理由は無く。
…ゲヘナの波乱の一日に、身を投じる覚悟を決めるには十分であった。
朝
ヒナ「んっ……ん〜〜〜〜〜………。なんてスッキリした目覚め…アダム先生は健康に効くわね…」
(さぁ、早く起きて今日も頑張ろう。アダム先生に、沢山褒めてもらいたいから…)
扉前
?「おはようございます!ヒナ風紀委員長!!」
ヒナ「え…?」
リッカ「ゲヘナ学園、風紀委員会一般生徒藤丸リッカ!アダム先生の指令を受け、一日風紀委員の一員としてヒナ委員長をお助けいたします!よろしくお願いします!!」
ヒナ「………リッカ……アダム先生の?えぇ……??」
風紀委員のモブ制服に身を包んだゲヘナオッスゴドラゴンをエントリーに、朝から頭に疑問符を浮かび上がらせるヒナであった。