人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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ブラックマーケット上空

リッカ『戦闘開始十分経過…!でも全然戦力減ってる気がしないねこれ!』

ヤマト『相手も必死なんだよ。私達子供にこうまで好きにされたら面子が立たないんだ。ブラックマーケット存亡の危機なんだと思う』

リッカ『死物狂いって事…!』

ヤマト『……リッカ。ここは私がなんとかする。リッカはアダム先生のところへ』

リッカ『えっ!?』

ヤマト『リッカの家族の事は知ってる。…アダム先生は、君の父親が本来そうであらなければいけない人そのもので、そうあってほしい人そのものでもあると思う』

リッカ『…!』

ヤマト『傍で支えてあげて。多分だけど…リッカと似て、怒ると凄く恐い人な筈だから』

リッカ『ヤマト…』

ヤマト『君はもう、誰かを支えることだって出来るんだって…私は知っているから。それを、アダム先生にも。それに』

リッカ『?』

ヤマト『私達が倒すべきは──憎しみを『利用する』人達だから』


リッカ『!!──うん!いってきます!』

ヤマト『行ってらっしゃい。──……』

『残りEN 40%』

『理不尽を許しはしない…。仲間の為に、護りたいものの為に私は戦う…!アスカ!まだ行けるよね!』
アスカ『勿論!』

『覚悟はある。私達は戦う…!』







裁きの拳

ブラックマーケット人材派遣会社、地下金庫シェルター。爆撃にも耐える仕様にて作られた鉄壁の防御施設。金や機密情報を護るためのその場所にて──安全である筈の場所にて、怯えながら扉を見つめる者がいた。

 

「ひっ、ひぃい……ひぃい……!」

 

それは人材派遣会社の社長。アリウス卒業生達を使いトリニティ生徒達を攫っていた禁断のビジネスに手を出した男。キヴォトスの外からブラックマーケットにビジネスを果たしに来た男は、そのキヴォトスに来たことを心の底から後悔していた。

 

キヴォトスの者等は、頑強で尚且つ学生が多く未熟な者ばかり。人間扱いせずモノとして流通させ、外の世界に流し売る。研究材料、労働力、愛玩具、政治家達の所有物。彼はそういった、人の価値を売り買いしてきた外道であった。

 

だから今回も、人面獣身の輩を手玉に取るように上手くやれると想い上がったが故の愚行を犯した。アダムの生徒を傷つけるという愚行を。

 

絶えず起こる地響き。雇っていたはずのビル内部即戦力の音信不通、即ち全滅報告。そして、侵入者から送られてきた一通のメッセージ。

 

【一切の希望を捨てろ】

 

その言葉の通り、ビル最下層の地下に逃げ込んだ社長は袋の鼠だった。絶えず起こる激震…これは、外からシェルターの入口に攻撃が加えられているのだ。それは、今の激震で四度目となり。

 

そして───

 

「ひぃいぃいぃい!!」

 

信じ難い事が起こった。最も強固であるはずのシェルターの扉…分厚い鉄板で作られたその防御がなんと、『剥ぎ取られた』。ジョイント部分から、力強くで扉をもぎ取ったのである。

 

『アダム先生!ターゲットです!』

「あぁ」

 

地震のプレートの歪を力強くで直すような驚天動地の腕力でそれを成したのは──アダム・カドモン。ビル内のアリウス特殊部隊以外の全てをたった一人で叩き潰したのだ。並み居る警備システムも、レーザートラップも、地雷も機雷も、人海も何もかもを、その身一つで叩き潰した。

 

「──────」

 

女性の誰もが目眩を起こす完璧な美貌は、能面のように無表情。目だけがじろりと、腰を抜かした社長を見据える。

 

「ゆ、許してくれ!まさか、まさかそんな、たかが数人でこうまでするやつだなんて…!」

 

「───────」

 

「何が望みだ!?金ならある!慰謝料か!?なんでも渡すから許してくれよ!な!?」

 

人間社会において、王を討つは奴隷である。それは奴隷が何も持たぬからだ。

 

民や市民は金や地位で飼い慣らせる。いくらでも肥えさせ、牙を抜けば王は民を羊や豚に変えられる。

 

しかし、アダムこそは王である。エデンの王であり、キヴォトスの生徒達の全てを愛する、異聞帯より流れ着いた真なる王。

 

その王は、民の下らぬ地位や名声などに微塵も揺らぐことなく、また奴隷の無責任な蜂起による被害も断じて許すことはない。

 

故に───

 

「案ずるな」

 

「え…」

 

大切な生徒達を、宝を無粋な欲望で穢した者に、慈悲など与えるはずもない。そしてその怒りは、愛の深さにより無限に膨れ上がる。

 

「貴様の後を、ブラックマーケットの全ての権力者に権利者が追うこととなる。生徒達の尊厳を売買し、認可し、そしてそれを良しとしたこの地を、私は許さん」

 

「そ、それはまさか……」

 

「ブラックマーケットは私が滅ぼす。生徒達の青春を食い物にした貴様らの存在を…私は断じて許さん」

 

二度と、この様な事が起こらぬよう。アダムは大人として、先生として決断した。

 

即ち──ブラックマーケットをキヴォトスから消滅させる事。生徒の人身売買を認可したことで、アダムにとってのソドムとゴモラと化したのだ。

 

「まずは貴様からだ」

 

「ひいっ!?」

 

「そして、後にこの不徳の市場の全てが貴様の後を追う」

 

社長は震え上がった。淡々と歩き、迫り来るアダムの姿は…。

 

「遅いか早いかが在るだけだ」

 

神よりも、悪魔よりも。何よりも恐ろしかったのだから。

 

「ひ、ひぃいぃいぃい………!」

 

最早逃げることなど出来なかった。脆弱な人の末裔が、怒り狂う原初の人類の威容に堪えられる筈もない。

 

身体中の穴という穴から液体を垂れ流し放心する社長の首を掴み、脚が浮くほどに持ち上げる。

 

「死ね」

 

血が出るほどに拳を握る。怒りを込めた全身全霊の拳。次の瞬間には塵すら残らぬであろう絶死の一撃。生きとし生けるものに振るってはならぬ神殺しの拳を振るわんほどに、今のアダムは激憤していたのだ。

 

その拳は一切の慈悲もなく、社長をこの世から原子崩壊レベルで消滅させ──。

 

「…!」

 

…しかし、アダムの手を、温もりに満ちた手が包み止めた。

 

「──待って、アダム先生!」

 

それは──リッカ。藤丸リッカが地上より床をぶち抜き、間一髪アダムの下に参じたのであった。

 

「リッカ…」

 

「殺しちゃダメ、アダム先生!その手は──」

 

説得している暇はない。アダムの怒りと殺意は頂点に達している。だから…

 

生徒として、娘として。彼女は真摯に伝えた。

 

「──全ての生徒を救うべき、美しいものだから!」

 

「…!」

『せ、先生…』

 

あまりの殺意と怒りに、腰を抜かしていたアロナとリッカの手から伝わる温もりに…アダムは拳を止める。

 

そして同時に…

 

『先生…着信が来ています!』

「…………───」

 

【──どうやら落ち着いてくださいましたか、先生。私です。黒服です】

 

黒服からの着信。拳を解きリッカを撫でた後、一息入れて黒服に対処する。

 

「どうした」

【ククク、どうやらブラックマーケットはあなたという存在を敵に回す愚かさを骨身に染みて理解したようです。あなた個人に、当市場との協定を結びたいようですよ】

 

「何…?」

 

【キヴォトス生徒への不当な搾取や非合法、非人道な行為全般の禁止。アダム先生へのあらゆる敵対行動の停止。被害を受けた生徒達への社会復帰と賠償補填…事実上の全面降伏ですね】

 

「…私に求める見返りはなんだ」

 

【たった一つ。ブラックマーケット自体の存続の認可。……素晴らしい事です。ようやく私腹を肥やしていた愚鈍な輩が、あなたという存在の崇高さを理解したという事だ】

 

金輪際、アダムと生徒達に非人道な行為や違法な商売行為を禁止することを誓う。ただそのかわり、ブラックマーケットの存在を赦してほしい。

 

黒服の言葉通り、ブラックマーケットにおける富裕層や権力者は理解したのだ。アダムという先生が、まさしく…

 

───たった一人で、自身らの全てを滅ぼすことの出来る存在である事を。契約とは名ばかりの、平身低頭の命乞いを聞いたアダムは……

 

「…………───」

「アダム先生…」

 

「──────解った」

 

大人として、自身の怒りをぶつけ、怨みを晴らすよりも。生徒達の安全を保証するその契約を飲むことを了承したのだった。

 

『!さすがアダム先生です!』

 

「怖がらせて済まなかった、アロナ」

『えへへ…大丈夫です!怖かったのはちょっぴりでしたから!』

 

「アダム先生…」

「──止めてくれて、ありがとう。リッカ」

 

「ううん。だって生徒は、先生を支えるものだから!」

 

「た……助かった……」

 

ヘナヘナと崩れ落ちる社長。アダムは歩み言葉を告げんとした。

 

「貴様にはこれから罪を──」

 

だが、その前に。

 

「──────ふんっ!!!!!」

「!」

 

アダムの前に、リッカが動いた。渾身の鉄拳が、社長の顔面を捉え、叩きつけた床が亀裂まみれにひび割れる。

 

「がぺ────」

 

【おやおや、二度と人前には出れませんね。可哀想に】

 

顔面を粉々に砕いたリッカが、ゆっくりと起き上がる。

 

「今殴ったのは、私の拳であり…」

 

それは、先に宣言した通り。【黒幕には死ぬより酷い地獄を見せる】という使命の実行。

 

「食い物にされて、傷付いた全ての生徒達の怒りだよ」

 

正しき怒りを叩きつけたリッカの、断罪と制裁の一撃を以て憎しみの連鎖を断ち切るもの。

 

「生徒の皆が、ブラックマーケットの戦力をほぼ壊滅させたよ。…帰ろう、アダム先生。生徒を助けて、ね」

 

「…あぁ、そうだな」

 

顔面が最早陥没した社長を引き渡す為に首を掴み、二人は地下を後にする。

 

悪辣な大人の欲望は終わった。しかし──

 

「!」

 

「何、地震…!?」

 

憎しみは、悪意を食らって顕現しようとしていたのだ。

 

 

 

 

 




黒服【…此度は身内の恥を晒してしまいました。申し訳ありません、アダム先生】

アダム「何が起きている」

黒服【アリウス分校の生徒達は、わざわざ拾われ利用されていたのではありません。自身らの全てを使い、トリニティへの憎しみを極限まで活用した。自らの、神秘や心身全てを捧げて】

アダム「…!」

黒服【それは思惑通り動き出す。……こちらの無粋極まる【淑女】がもたらした願望機『聖杯』を使うことで】

リッカ「聖杯…!」

黒服【お気をつけください、アダム先生。あなたが倒すべきものは、憎しみや欲望ではない】

アダム「黒服…」

【憎しみを煽り、焚きつけるもの。利用するもの。それこそが、貴方の崇高な魂が討ち果たすべき醜悪な──】



──夜明け前の最も深い闇に。人材派遣会社の奥底…否、地獄から湧き出るかの様に。


ヤマト『──あれは…!?』

全長100メートルを越える、天を衝くような威容を持つ…


頭に歪みきった、黒き輪を懐く巨人が現れた。
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