人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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アリウス分校

ベアトリーチェ【危なかったですね、アツコ。もう少しであなたはアダム先生に仕留められていたでしょう】

アツコ「……私だけを、助けるつもりだったんだね」

ベアトリーチェ【決まっているでしょう?あなたはロイヤル・ブラッド…彼女達とは何もかも違うのですから】

アツコ「………」

ベアトリーチェ【あなたは私の大切な生徒なのです。先生が生徒を助けるのは至極当然でしょう?】

アツコ「……………うん。やっぱり、違う」

ベアトリーチェ【?】

アツコ「あなたとアダム先生じゃ、言葉の重みが全然違う」

【…なんですって?】

アツコ「あなたが大切なのは私じゃない。私に流れるこの血だけ。あなたは私達を、道具としか見ていない」

【…………】

アツコ「あなたは私達を導く『先生』なんかじゃない。これからのアリウスに、私達の未来に、あなたも憎しみももう要らない」

ベアトリーチェ【……アリウスの成り立ちは知っているでしょう?あなた達はトリニティに弾圧、迫害され…】

アツコ「知ってる」

ベアトリーチェ【その憎しみはアリウスの始まり。全ては虚しいという諦観はアリウスの真理。それらに、背を向けるのですか?】

アツコ「新しい時代に、持っていっちゃいけないものがある。それは憎しみであり、あなたみたいな醜い大人の欲望」

ベアトリーチェ【……何が言いたいのです?】

アツコ「私はエデン条約に調印した。アリウスは新しい時代を迎える。もう、虚しい虚しいなんて唱えるアリウスは終わりにする。私が、生徒会長になって」

ベアトリーチェ【………………】

アツコ「私達を導くのは、アダム先生。私達に未来をくれる大人は、アダム先生だから。あなたも、あなたが齎した憎しみも…もう、要らない」

ベアトリーチェ【………貴様……】

アツコ「ずっと…言いたかった」

「────ドレス、似合ってないよ。おばさん」

【貴様ァ─────!!!】

アツコ「!」

ベアトリーチェ【儀式の素材如きが図に乗るなよ…!!アリウススクワッドを動かすいい餌と見逃していれば図に乗りおって!!身の程を教えてやる!また怒りと憎しみを以て!!】

アツコ「……くすっ」

ベアトリーチェ【何がおかしい!?】

アツコ「もう、全然怖くない。私の心はもう私のもの。あなたの教育なんて、全然響かない」

ベアトリーチェ【─────小娘えぇえぇえッ!!!】

アツコ「───私は小娘じゃない」

ベアトリーチェ【!!】

アツコ「アリウススクワッド、そして……アリウス分校生徒会長。秤アツコだ!(どやっ)」

ベアトリーチェ【死ねぇえぇえぇえぇえっ!!】

アツコ(───言ってやった。サッちゃん。皆)

(───アダム先生。憎しみ…捨てれたよ──)


親愛なる隣人達へ

「彼女を迎えに行く」

 

エデン条約締結から数時間。戦いが終わり間もない頃合いには既に、アダムは不本意な別れ方をしたアツコを救出、取り戻す覚悟を決めていた。

 

〘相も変わらず、一度こうと決めたら梃子でも動かん男だなお前は〙

 

ティマイオスは意思のみでその様子に声をかける。アダムは元々、このままで終わらせるつもりなど毛頭無かったのだ。

 

「責任を取る。皆の命運を私に託し、全ての決着を独りでつけんとするその在り方と、その決心は感服するばかりだ。大人でさえ、事後処理や責任問題をまともに受け合おうとする者は少ない中で…彼女は真に貴い意志と気品を有しているだろう」

 

〘……〙

 

「だが、命を投げ出すことは違う。自らの全てを擲つ事は間違っている。この場で全てが終わりではない。ここが人生の決着ではない。彼女達には先がある。彼女達には未来がある。もう…私の大切な生徒を食い物にされるのは沢山だ!」

 

苛立ちを顕に、机を叩くアダム。ヒビが多少入りながら軋む程の強さは彼の決心の強さだ。

 

「決着を付けねばならない!もう誰も、あんな辛い慟哭をしないように!誰もが自らの人生を生きていけるように…!例えこれが、シャーレやトリニティにもう関わりが無いのだとしても…私は!」

 

そう…エデン条約は結ばれた。アダム先生が託された仕事は終わった。ここから先は立場が保証されない。彼自身が望んだ独断となる。それでも。

 

「これは!私が望む、私の成し遂げたい仕事だ…!アツコもまた、光り輝く道を歩んでほしい!その手助けをしたいのだ…!」

 

彼女はそれを拒んだのだとしても。自身の決めた事なのだとしても。これはアダムの意志が望む事。

 

アツコを救いたい。それはアダムの、先生としての心からの願いであった。

 

「──────そう、か」

 

そしてアダムは、一つの事実に思い至る。アツコの選択から、天啓を得る。

 

「自らを犠牲にして…何かを成し遂げてはならない。使命が果たされようと、その影には永劫悲しみ曇る涙が流れる…。自己犠牲とは、尊くあるが決して正しくはない。これが…私やリッカが他人にかけていた不安と心配そのものだったのか……」

 

〘…気付いたか。そしてそれは、リリスや生徒達がお前に懐いた思いでもあろう〙

 

ティマイオスは厳かに頷く。

 

〘先生は生徒を育て、また生徒は先生を育てる。善き生徒に…恵まれたな〙

 

「……あぁ。だからこそ、アツコの帰る場所は此処だと教えてあげなくては」

 

〘ならばどうする?また単身で向かい助けるか?お前が説いた、解り合い繋がり合う教えの後に選ぶ選択がそれでいいのか?〙

 

ティマイオスの言葉にアダムは───更に気付きを得る。

 

「───アロナ。皆を集めてくれ」

『は、はい!どうしましたか、先生!?』

 

「彼女達は成長を果たした。ならば次は、私が教師として成長する番だ…!」

 

シッテムの箱を持ち、部屋を飛び出すアダム。彼の目は、焦りでなく決意に満ちていた。

 

〘それでいい…。子を食い物にする相手に、お前だけで勝つのは意味が無いのだ…〙

 

その様子を、厳かなる神の分身は静かに見つめていた。

 

 

「皆、まずはエデン条約の成立と調印を成し遂げた事に心からの祝福を贈らせてほしい。君達の選択と決断がこの結果であることを、心から誇りに思う」

 

パンゲア・パーラメントに集められた、エデン条約の主要メンバー達。ゲヘナ、トリニティ、アズサの一同が皆アダムの呼び出しに応えた形だ。アダムは口火を切る。

 

「だが──ここにいるべきアリウスの首脳、生徒会長たる秤アツコは行ってしまった。この動乱を起こした責任を負うために。この騒動を起こした者へ決別を告げる為に」

 

「……姫。あなたも足掻くことを決めたんだな。アダム先生と、皆を知って…」

 

「彼女は、例え死のうとも自らの責任を果たすつもりだ。仲間達と友人達を託し、自らが業を背負う事により。──結論から言う。私は、アツコを助け連れ戻したい」

 

アダムは、本心を吐露する。彼女の決断があればこそ真のエデン条約は結ばれた。あの状況で、深く諦観と憎しみを刻まれた状態でなお、彼女はアダムを信じたのだ。

 

「そしてこの場に集まった皆に、伏して願いたい!どうか私に力を貸してはくれないだろうか!アツコを取り戻す為、私と共に戦ってはくれないだろうか!」

 

そのままアダムは、深々と頭を下げた。それは、最も敬意を込めた角度のお辞儀。アダムが、大人が子供達に誠心誠意頭を下げたのだ。

 

「私は君達が好きだ…!君達の持つ無限の可能性が好きだ!私が教えた学びを得て、また私が訓えずとも成長していく君達は私の宝物だ!」

 

「アダム先生……!」

 

「アツコや、アリウスの皆も同じ生徒だ…!私はこれ以上、君達やアツコ達生徒が食い物にされ、絶望する様を見たくはない…!私だけが彼女を助けに行っては意味がない!私は教育者として、彼女らを食い物にする邪悪な大人に勝利したい!その為には、君達と共にアツコを助けなければ駄目なのだ!」

 

更に深々と──アダムは土下座を行う。

 

「「「「「!!」」」」」

 

「これはシャーレも、エデン条約も関係無い!私個人の願いだ!私個人の想いだ!君達が付き合う道理などない、理由もない!それでもどうか、君達に頼みたい!」

 

それは、生徒達を──心からの隣人と信じた故の、嘆願であった。

 

「私と共に邪悪な大人と戦い、アツコを連れ戻してほしい!私はこれ以上──生徒達が弄ばれることが、どうしても我慢ならないんだ!」

 

悔しさと、決意と、熱意が籠もった声音にてアダムは告げる。これは、シャーレは関係無い。彼自身の依頼。それを受けるは、生徒達次第だった。

 

そして───。

 

「顔を、上げてよ。アダム先生」

 

アダムに声をかけたのはミカだった。ミカは…目を潤ませていた。

 

「ありがとう。私達生徒に、こんなにも本気になってくれて」

 

「ミカ…」

 

「力を貸すなんて当たり前だよ。アツコちゃんを助けに行くのだって勿論賛成。何より…アダム先生がこんなに頼ってくれたのが、本当に嬉しいんだ」

 

ミカはアダムに抱きつき、何度も頷く。それは、この場にいる者達の総意であった。

 

「最早アリウスの皆様は外敵や傍流ではありません。共に未来を歩む同志です。あの決断なくして、エデン条約の成立はありえませんでした」

「あぁ。あの瞬間の彼女は、何よりも誰よりも誇らしかった」

 

ティーパーティーの二人も…。

 

「アズサちゃんの友達なら私達の友達も同然です!皆で助けに行きましょう、先生!」

「あぁ!ありがとう、アダム先生!こんなにも姫を案じてくれて…!」

「躊躇うことなく私達に全てを曝け出してくれる…。そんなアダム先生が、皆大好きなのです♡」

「だから顔を上げてよ!その…悲しい声なんて、聞いたら苦しくなるじゃない…!」

 

パンゲア・パーラメント達も…。

 

「キキキッ!案ずることは無いぞアダム先生。シャーレもティーパーティーもアリウスもどうでもいい。アダム先生という傑物相手にならいくらでも手を貸そう!!」

「私はシャーレの先生だからあなたを慕っているんじゃないわ。あなたが素敵なあなただから、心から慕っているの。だから、あなたがやりたい事は私のやりたい事よ」

 

「むしろ独りで行っていたら許しませんでした!本当に…!本当に本当に本当に!心配したんですからね!!」

「ここまで来たんだ。とことんまでやってやろうじゃないか!」

「はい。全部が終わったら…一緒に温泉にでも入りましょう」

 

万魔殿、風紀委員会も……。

 

「主のご意思は、常にあなたと共にあります」

「はい。アツコさんにも懇親の救護を!」

「正義実現委員会、あなたに力を貸そう。くけけけ……!」

 

シスターフッド、救護騎士団、正義実現委員会も。

 

「皆……」

 

「皆、アダム先生が大好きだから。気持ちは一緒だよ。だから、そんなにも哀しい顔なんかしちゃダメだよ」

 

ミカはアダムの唇に、人差し指を付けてウィンクを贈る。

 

「私達と一緒に迎えるハッピーエンドは、皆笑顔じゃなくっちゃ!アダム先生も、アツコちゃんもね!」

 

「─────あぁ!!皆、本当に……ありがとう!!」

 

アダムは立ち上がり、皆と強い視線を交わし合う。だが、彼に力を貸すのは彼女らだけではない。

 

『水臭いことを言いますね、アダム先生』

 

「リン!?」

 

『エデン条約の主要人物を助ける…。これは立派なエデン条約絡みのタスクです。連邦生徒会は、あなたの判断を支援します』

 

「リン…!」

 

『あなたが仕事を引き受けてくださるお陰で、私達にも余裕はあります。残業くらい、付き合いますよ』

 

『アダム先生!少しお時間いただけますか!』

 

「ユウカ!?」

 

『放送、見ていましたよ!そろそろミレニアムサイエンススクールの活躍が恋しくなったんじゃありませんか?』

『エデン条約は成立しました。それより先のお仕事なら、シャーレ当番もお力になれないでしょうか?』

 

「ノア……」

 

『便利屋68、下っ端のオルガマリーよ。カルデアは偽神の眷属、アリウスの黒幕を討つことに全面的に同意します』

 

「オルガマリー…!」

 

『『姫を助けに向かう事業、よい。実によい。今の我は姫の単語に一家言ある至高の御機嫌王。支援は惜しまぬ!行け、先生王!!』…との事。連邦生徒会、並びにカルデアの承認は揃っています。あとはあなたの決断だけです。アダム先生』

 

【アダム先生。我々ゲマトリア・アダム先生大好き派も助力しますよ】

 

「黒服…!」

 

【あの女は最早無粋かつ醜悪にすぎる…】

【アダム先生の敵気取りの彼女を、共に討ち果たしましょう】

 

「……皆……!」

 

【誰かを頼る事を選んだあなたは、美しい…。さぁ、物語のエンドマークはとびきりの笑顔で終わらせましょう?】

 

「────あぁ!!皆、行こう!!シャーレ、決戦警報発令だ───!!」

『はい!アダム先生!アロナもずっとずっと、一緒ですからね!』

 

こうして、想いは届いた。皆が一丸となって、アツコ救出と『淑女』討伐に向かう。

 

 

 

「……アダム、先生」

 

少しした頃。アダムを尋ねる影が三つ。

つ。

 

「サオリ」

 

「……あれだけ敵意を向けながら、あれだけ憎しみをぶつけておきながら。恥知らずにも程がある。それは、解っている…」

 

サオリが…ミサキが、ヒヨリがアダムの前に立つ。

 

「でも!どうか…!どうか、私達に力を貸してはくれないか!アツコを、助けに行きたい!助けたいんだ…!」

 

「────」

 

「私達には、もう、アダム先生しか……!」

 

「頭を下げなくていい」

 

「!?」

 

「────そうだろう、皆!」

 

 

「「「「「「「「おーーーーッ!!!」」」」」」」」

 

「何故なら、私が既に下げておいたからだ!」

 

(唖然)

(呆然)

(愕然)

 

アダムに恥を偲んで頼みに行けば、エデン条約の全てが力を貸してくれた。

 

その事実に、アリウススクワッドの思考は完全に停止したという。




アツコ「───う……あれ……?」

ベアトリーチェ【……!】

?「──良かった!間に合ったっぽいね!」

ベアトリーチェ【お前は…!?】

アツコ「あなた、は…」

リッカ「大丈夫!?アツコちゃん!」

ベアトリーチェ【ビーストα…!?何故此処が!?】

パパポポ『ポ(ニュ)』

アツコ「わっ、フードから…」

パパポポ『私がアダムの親子の縁を辿らせつつ、こっそりアツコちゃんについてきていたッポ。居場所さえわかれば…』

リッカ「こちとらビースト!単独顕現でどこにもいけるんだい!アツコちゃんはやらせないよ、おばさん!」

ベアトリーチェ【貴様……!!】

パパポポ『おっと。お前に恨み骨髄なのは我々だけじゃないぞ』

ベアトリーチェ【何!?】

パパポポ『戒律の守護者よ、光あれ!』

パパポポの輝きにより、辺りに現れる魂が在る。

ユスティナ聖徒会・バルバラ『────』

アツコ「…!」

パパポポ『最も尊き戒律の守護者もまた、アツコちゃんを助けたいと告げている。さぁ、逃げるッポよ!』

ベアトリーチェ【逃がすと思うのか!】

リッカ「捕まえてみなよ!雷より速く動けるならね!!」
アツコ「わぁ」

リッカがアツコを抱え、雷位で離脱を行う。

ベアトリーチェ【ちぃ…!!】

バルバラ『──!!』

バルバラは──立ちはだかった。

アツコを…条約の大切な存在を護るために。
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