人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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「───シャーレのアナタ先生」が重体になってから、75日が経過しました」


「あの事件以降、破壊された「シャーレ」の建物では───蘇生の可能性について数々の議論が行われ───各医療従事者は───」


「───そ、速報です!!」


「「先生」の意識が戻らなくなってから、100日が経過した本日───病院より緊急発表がありました───」


「世論はこのことに関して───」


「医療関係者はアナタ先生の回復は見込めないと判断───蘇生は不可能と───」


「これ以上の延命は無意味であると───」


■■■■■■■

「……………ただいま」

 

電気もなく、誰もいなくなったアビドスの学校。私は、電気を付ける。

 

「今日は、連邦生徒会の秘密金庫を襲って……なんとか、利息分のお金は…。これでなんとか…来月までは…」

 

 

誰もいない、対策委員会。私だけになった対策委員会の部室の中で、私は一人現状を報告する。

 

「残りの借金は……6億、6666万………利息も加算して、後……」

 

誰も聞くことがなくても、せめて口に、言葉にしないと押し潰されてしまいそうで。でも、口にする現実は、なんの希望もあり得なくて。

 

「来月の返済期限にまで必要な金額は……後……」

 

それでも、ここは皆のいた場所だから。

 

それでも、ここは私のいる場所だから。

 

「もっと、もっと…銀行を襲わなきゃ…。こんなのもう、まともな手段じゃどうしようも…」

 

もっともっと、頑張らなくちゃ。もっともっと、戦わなくちゃ。

 

もっと、もっと。此処にいるのはもう……。

 

『あれ〜?どうしたのシロコちゃん?泣きそうな顔してさ〜』

 

「!!!」

 

そんな声が、聞こえたような気がして。

 

 

【アビドス在校生、小鳥遊ホシノの死亡が確認されました。遺体の状況はヘイローが破壊されており、何らかの特殊な手段による悪意に満ちた事件であると…】

 

 

『シロコ先輩、また銀行を襲ったの?そういうのはダメだってホシノ先輩が──』

 

 

【拉致された黒見セリカの行方はまだわかっておりません。しかし、この期日で音沙汰もないようでは、生還は絶望的かと…】

 

 

『まぁまぁ、若気の至りというものですよ☆ね、シロコちゃん?』

 

 

【十六夜ノノミが、自室にて死亡している状態で発見されました。死因は拳銃による自殺と……──】

 

 

『もう!いい加減にしてくださ〜〜い!!』

 

 

【アヤネさんは自分から生命維持装置を外していました。恐らく、これ以上生きる気力もなく…自らの死を以て、楽になりたかったのかと…】

 

 

『あははは。さぁ皆!今日も対策委員会の活動を始めよう!』

 

 

【シャーレのアナタ先生、植物人間に。懸命な措置も意識は戻らず。生還は絶望的か】

 

 

「……………」

 

たくさんの絶望があって。

 

たくさんの現実があって。

 

私一人が残されてしまって。

 

この現実から、何もかもを護らなくちゃいけなくて。

 

「学生証……全員分の、護らなくっちゃ……」

 

皆がいた証を懸命に拾い集めて。

 

「みんなの武器…セリカのだけは、見つからなかった…」

 

皆の居場所を、懸命に護り抜いて。

 

「いつだって、皆の居場所はここだから……私が、皆の居場所を護るから…いつまでも、いつまでも…」

 

皆の居場所を、いつまでも。

 

……いつまで。

 

「……………いつまで」

 

いつまで……いつまで……いつまで……いつまで…………

 

誰も戻ってこない。もう誰もいないこの場所を。

 

何も帰ってこないこの場所を、いつまで?

 

「…………う……うっ……ううっ………」

 

 

いつまで苦しむの?いつまで頑張るの?いつまで苦しめばいいの?いつまで頑張れば報われるの?

 

私は、いつまで…頑張ればいいの?

 

「…………私は………。私は、どうしたら…………」

 

銀行強盗の範囲はキヴォトス中に及んだ。最早特級指名手配の凶悪犯罪者になってしまった。

 

どこにももう居場所はない。残っているのは、全ての人生を投げ出しても返せない借金だけ。

 

護りたい人達は、皆皆いなくなってしまった。

 

そんな空っぽな場所を。

 

私だけしかもういない場所を。

 

一体、いつまで護り続ければいいの?

 

「…………誰か」

 

誰もいない場所だから。一言くらいはどうか赦してほしい。

 

どうせ、誰も聞いてはいないんだから。

 

「誰か…………助けて……………誰か……………」

 

「…………アナタ先生………」

 

 

 

【速報です!キヴォトス中で指名手配されていた砂狼シロコが、連邦生徒会とヴァルキューレ警察学校と交戦!重傷を負った砂狼シロコは逃亡したとの事!今尚続報が待たれています!繰り返します!キヴォトス中で指名手配されていた砂狼シロコが───】

 

【同時に、アナタ先生の様態が──】

 

 

 

(前が、よく見えない……)

 

砂漠を歩く。もうここが何処かも解らない。

 

(血を流しすぎて……?傷の手当てもせず、何日も、食べてないから?──それとも……)

 

もうとっくに、死んでいるのかもしれない。皆のように、皆と同じ様に。

 

(このままじゃ、私……)

 

死んでしまう?終わる?何もかも終わる?

 

(私、こうやって……終わるんだ)

 

借金を返さなくてもいい。もう銀行強盗もしなくてもいい。

 

もう、誰もいない夜を一人で過ごさなくていい。

 

(……そっか もう、苦しまなくていいんだ……よかった……)

 

なんて幸せなんだろう。もう考えることもなく、もう苦しむこともなく、ただ眠ることが出来る。

 

こんな幸せがあるだなんて、思いもしなかった。

 

(でも……それなら……どうして……)

 

私が生まれてきた意味は、一体何だったんだろう。

 

大切なものを何も護れなくて。幸せなものを全部うしなって。

 

それでも此処にいた意味は、何だったんだろう。

 

(……アナタ先生、私は……どうして、ここに存在した(うまれた)んだろう)

 

先生が、生徒達は生きていかなきゃいけないといった意味。

 

元気に健やかに、生きていってほしいといった意味。

 

(……そっか 私も……みんなも)

 

今、解った気がする。

 

やっぱりアナタ先生は、素敵な先生だ。

 

私達に、大人の現実を教えてくれてた。

 

私達は────。

 

「苦しむために、生まれてきたんだ」

 

そう確信した。

 

なら、もういいでしょう?

 

たくさんたくさん苦しんだ。たくさんたくさん嫌な思いをした。

 

そろそろ……

 

もう、苦しいだけの人生は終わっていいはずだよね。

 

【──そうだ。お前の人生は苦しみと共にあった】

 

…その時、声が聞こえた。

 

【お前の人生は無意味であった。お前の人生は無価値であった。お前という存在は、世界になんの意味ももたらさぬものであった】

 

眼の前に広がる、異様な穴とその声が現れた。

 

【だが、お前の人生は今より生まれ変わる。無意味な教導も、無価値な生命も、輝ける色彩によって生まれ変わる】

 

【つまり、何を意味する?】

 

【福音だ。大いなる意志と色彩の下に神秘は恐怖へと反転し、真なる光が世に満ちる!お前はその先駆けにして、全てを救う使徒となるのだ!】

 

私は、その光に触れて───。

 

【おぉお……!色彩が、宇宙の意志が救いを齎した!】

 

【神秘は反転し!恐怖にして死を司る神へと至った!】

 

【死の神アヌビス!大いなる意志の慈悲により生誕せり!】

 

 

私は──

 

【大人】になった。

 

大人になったのならば、何をすべきか?

 

終わらせる。

 

苦しいだけの人生から、皆を解放する。

 

【祝福を!無価値なるお前は今、真理を齎す神となった!】

 

【全てを滅ぼせ!それがお前の受けた啓示である!】

 

【大いなる意志の御心のままに!下劣なる【大人】のまやかしの教育の満ちた世を破壊せよ!】

 

【お前はその為だけに生まれたのだ!】

 

【それ以外のお前の人生になど、なんの価値も無いのだから───!!】

 

言われるまでもない。

 

私なんかがいたから、皆がいなくなった。死んでしまった。

 

なら、私を生んだこの世界は間違っている。

 

きっと死んだ先で皆が幸せになれる。

 

『アダム先生』の世界に皆が行けることを願って…。

 

私が全てを滅ぼそう。

 

私が全てを殺してあげよう。

 

苦しいだけの人生なんて。

 

苦しむだけに生きていくなんて。

 

そんなの、絶対に間違っている筈だから───。

 

 

 

 

「─────────あ、ろな」

 

 

【はい。アナタ先生。お目覚めをお待ちしていました】

 

 

「いかなきゃ いけないんだ」

 

【心臓は動いていません。あなたはデータ上では死んでいます。どこへ?】

 

「わたしは せんせい だから」

 

【……今、砂狼シロコがキヴォトス中に破壊活動を行っています。全ての学園は機能停止。連邦生徒会の壊滅は目前です】

 

「とめ ないと」

 

【……………】

 

「わたしは せんせい だから」

 

【……解りました。アロナが、先生をサポートします】

 

「たいせつな ものを …… 」

 

【…折紙、ですか?】

 

「もらった もの なんだ」

 

【…はい。先生】

 

【では…行きましょう】




シロコ【……………………】

死人「シロ コ」

【…………アナタ先生。苦しいよね】

死人「────」

【私がこうなったのは、アナタ先生を助けたかったから。アナタ先生の苦しいだけの人生を、救ってあげたかったから】

死人「────」

【アナタ先生は、私の最後の大切なもの。アナタ先生だけは、私のところに帰ってきてくれた…。私の、大切な、大好きなアナタ先生…】

死人「────」

【だから…………終わらせるね。これ以上。アナタ先生を苦しめはしない】

死人「────」

【皆に向こうで、よろしくね。…ん。ちゃんと、言えた】

死人「─────」

【……さようなら。アナタ先生】

死人「─────」


…………こうして。

一人の先生の人生が終わった。

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