人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
「あの事件以降、破壊された「シャーレ」の建物では───蘇生の可能性について数々の議論が行われ───各医療従事者は───」
「───そ、速報です!!」
「「先生」の意識が戻らなくなってから、100日が経過した本日───病院より緊急発表がありました───」
「世論はこのことに関して───」
「医療関係者はアナタ先生の回復は見込めないと判断───蘇生は不可能と───」
「これ以上の延命は無意味であると───」
「……………ただいま」
電気もなく、誰もいなくなったアビドスの学校。私は、電気を付ける。
「今日は、連邦生徒会の秘密金庫を襲って……なんとか、利息分のお金は…。これでなんとか…来月までは…」
誰もいない、対策委員会。私だけになった対策委員会の部室の中で、私は一人現状を報告する。
「残りの借金は……6億、6666万………利息も加算して、後……」
誰も聞くことがなくても、せめて口に、言葉にしないと押し潰されてしまいそうで。でも、口にする現実は、なんの希望もあり得なくて。
「来月の返済期限にまで必要な金額は……後……」
それでも、ここは皆のいた場所だから。
それでも、ここは私のいる場所だから。
「もっと、もっと…銀行を襲わなきゃ…。こんなのもう、まともな手段じゃどうしようも…」
もっともっと、頑張らなくちゃ。もっともっと、戦わなくちゃ。
もっと、もっと。此処にいるのはもう……。
『あれ〜?どうしたのシロコちゃん?泣きそうな顔してさ〜』
「!!!」
そんな声が、聞こえたような気がして。
〜
【アビドス在校生、小鳥遊ホシノの死亡が確認されました。遺体の状況はヘイローが破壊されており、何らかの特殊な手段による悪意に満ちた事件であると…】
〜
『シロコ先輩、また銀行を襲ったの?そういうのはダメだってホシノ先輩が──』
〜
【拉致された黒見セリカの行方はまだわかっておりません。しかし、この期日で音沙汰もないようでは、生還は絶望的かと…】
〜
『まぁまぁ、若気の至りというものですよ☆ね、シロコちゃん?』
〜
【十六夜ノノミが、自室にて死亡している状態で発見されました。死因は拳銃による自殺と……──】
〜
『もう!いい加減にしてくださ〜〜い!!』
〜
【アヤネさんは自分から生命維持装置を外していました。恐らく、これ以上生きる気力もなく…自らの死を以て、楽になりたかったのかと…】
〜
『あははは。さぁ皆!今日も対策委員会の活動を始めよう!』
〜
【シャーレのアナタ先生、植物人間に。懸命な措置も意識は戻らず。生還は絶望的か】
〜
「……………」
たくさんの絶望があって。
たくさんの現実があって。
私一人が残されてしまって。
この現実から、何もかもを護らなくちゃいけなくて。
「学生証……全員分の、護らなくっちゃ……」
皆がいた証を懸命に拾い集めて。
「みんなの武器…セリカのだけは、見つからなかった…」
皆の居場所を、懸命に護り抜いて。
「いつだって、皆の居場所はここだから……私が、皆の居場所を護るから…いつまでも、いつまでも…」
皆の居場所を、いつまでも。
……いつまで。
「……………いつまで」
いつまで……いつまで……いつまで……いつまで…………
誰も戻ってこない。もう誰もいないこの場所を。
何も帰ってこないこの場所を、いつまで?
「…………う……うっ……ううっ………」
いつまで苦しむの?いつまで頑張るの?いつまで苦しめばいいの?いつまで頑張れば報われるの?
私は、いつまで…頑張ればいいの?
「…………私は………。私は、どうしたら…………」
銀行強盗の範囲はキヴォトス中に及んだ。最早特級指名手配の凶悪犯罪者になってしまった。
どこにももう居場所はない。残っているのは、全ての人生を投げ出しても返せない借金だけ。
護りたい人達は、皆皆いなくなってしまった。
そんな空っぽな場所を。
私だけしかもういない場所を。
一体、いつまで護り続ければいいの?
「…………誰か」
誰もいない場所だから。一言くらいはどうか赦してほしい。
どうせ、誰も聞いてはいないんだから。
「誰か…………助けて……………誰か……………」
「…………アナタ先生………」
〜
【速報です!キヴォトス中で指名手配されていた砂狼シロコが、連邦生徒会とヴァルキューレ警察学校と交戦!重傷を負った砂狼シロコは逃亡したとの事!今尚続報が待たれています!繰り返します!キヴォトス中で指名手配されていた砂狼シロコが───】
【同時に、アナタ先生の様態が──】
〜
(前が、よく見えない……)
砂漠を歩く。もうここが何処かも解らない。
(血を流しすぎて……?傷の手当てもせず、何日も、食べてないから?──それとも……)
もうとっくに、死んでいるのかもしれない。皆のように、皆と同じ様に。
(このままじゃ、私……)
死んでしまう?終わる?何もかも終わる?
(私、こうやって……終わるんだ)
借金を返さなくてもいい。もう銀行強盗もしなくてもいい。
もう、誰もいない夜を一人で過ごさなくていい。
(……そっか もう、苦しまなくていいんだ……よかった……)
なんて幸せなんだろう。もう考えることもなく、もう苦しむこともなく、ただ眠ることが出来る。
こんな幸せがあるだなんて、思いもしなかった。
(でも……それなら……どうして……)
私が生まれてきた意味は、一体何だったんだろう。
大切なものを何も護れなくて。幸せなものを全部うしなって。
それでも此処にいた意味は、何だったんだろう。
(……アナタ先生、私は……どうして、ここに
先生が、生徒達は生きていかなきゃいけないといった意味。
元気に健やかに、生きていってほしいといった意味。
(……そっか 私も……みんなも)
今、解った気がする。
やっぱりアナタ先生は、素敵な先生だ。
私達に、大人の現実を教えてくれてた。
私達は────。
「苦しむために、生まれてきたんだ」
そう確信した。
なら、もういいでしょう?
たくさんたくさん苦しんだ。たくさんたくさん嫌な思いをした。
そろそろ……
もう、苦しいだけの人生は終わっていいはずだよね。
【──そうだ。お前の人生は苦しみと共にあった】
…その時、声が聞こえた。
【お前の人生は無意味であった。お前の人生は無価値であった。お前という存在は、世界になんの意味ももたらさぬものであった】
眼の前に広がる、異様な穴とその声が現れた。
【だが、お前の人生は今より生まれ変わる。無意味な教導も、無価値な生命も、輝ける色彩によって生まれ変わる】
【つまり、何を意味する?】
【福音だ。大いなる意志と色彩の下に神秘は恐怖へと反転し、真なる光が世に満ちる!お前はその先駆けにして、全てを救う使徒となるのだ!】
私は、その光に触れて───。
【おぉお……!色彩が、宇宙の意志が救いを齎した!】
【神秘は反転し!恐怖にして死を司る神へと至った!】
【死の神アヌビス!大いなる意志の慈悲により生誕せり!】
私は──
【大人】になった。
大人になったのならば、何をすべきか?
終わらせる。
苦しいだけの人生から、皆を解放する。
【祝福を!無価値なるお前は今、真理を齎す神となった!】
【全てを滅ぼせ!それがお前の受けた啓示である!】
【大いなる意志の御心のままに!下劣なる【大人】のまやかしの教育の満ちた世を破壊せよ!】
【お前はその為だけに生まれたのだ!】
【それ以外のお前の人生になど、なんの価値も無いのだから───!!】
言われるまでもない。
私なんかがいたから、皆がいなくなった。死んでしまった。
なら、私を生んだこの世界は間違っている。
きっと死んだ先で皆が幸せになれる。
『アダム先生』の世界に皆が行けることを願って…。
私が全てを滅ぼそう。
私が全てを殺してあげよう。
苦しいだけの人生なんて。
苦しむだけに生きていくなんて。
そんなの、絶対に間違っている筈だから───。
〜
「─────────あ、ろな」
【はい。アナタ先生。お目覚めをお待ちしていました】
「いかなきゃ いけないんだ」
【心臓は動いていません。あなたはデータ上では死んでいます。どこへ?】
「わたしは せんせい だから」
【……今、砂狼シロコがキヴォトス中に破壊活動を行っています。全ての学園は機能停止。連邦生徒会の壊滅は目前です】
「とめ ないと」
【……………】
「わたしは せんせい だから」
【……解りました。アロナが、先生をサポートします】
「たいせつな ものを …… 」
【…折紙、ですか?】
「もらった もの なんだ」
【…はい。先生】
【では…行きましょう】
シロコ【……………………】
死人「シロ コ」
【…………アナタ先生。苦しいよね】
死人「────」
【私がこうなったのは、アナタ先生を助けたかったから。アナタ先生の苦しいだけの人生を、救ってあげたかったから】
死人「────」
【アナタ先生は、私の最後の大切なもの。アナタ先生だけは、私のところに帰ってきてくれた…。私の、大切な、大好きなアナタ先生…】
死人「────」
【だから…………終わらせるね。これ以上。アナタ先生を苦しめはしない】
死人「────」
【皆に向こうで、よろしくね。…ん。ちゃんと、言えた】
死人「─────」
【……さようなら。アナタ先生】
死人「─────」
…………こうして。
一人の先生の人生が終わった。