人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
死人『─────』
【────できない。私には……できない……】
死人『─────』
【先生だけは…アナタ先生だけは…殺すなんて、できない…】
死人『─────』
【こんな事を…こんな事を望んでいたわけじゃないの……】
死人『──────』
───────愚かなり。冥府の神よ──────
シロコ【────!!】
───────お前に意志など、無用である─────
シロコ【───うそ、そんな。やめて───】
──────その死骸に纏わる欲を捨てよ───────
【やめて、やめて!やめて─────!!】
────そやつは最早、嚮導者─────────────
【やめてえぇええっ────────────!!!!!】
────偽り其の者たる、先生である─────────
嚮導者【────────】
シロコ【いやぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあっ───────!!!!】
〜?????
───────目覚めるが良い。至高たる神秘よ──────
ミカ『───────』
─────お前の全てに、勝利と祝福と、光が在らん事を───
私は、自分の事を普通だと思ってた。
普通な女の子で、普通な理想を抱いて、普通の夢を持っていて。
自分は王子様を待つお姫様で、そんな私をいつかきっと迎えに来てくれる王子様がどこかにいてくれる。
そんな夢を語ったら、いつも決まって■■ちゃんや、■■■ちゃんに呆れられたっけ。
『あなたにはやるべき事があるのですから、夢見がちでは困りますよ?』
『全く。お姫様を名乗るなら少しは淑やかに振る舞ったらどうだい』
「ごめーん。でもそこまで言わなくてもいいじゃん!」
その頃の生活は楽しかった。習い事や派閥争いは面倒くさかったけど、幸い私は天才で、なんでもできて、万能だったから。
できない事なんてなんにも無かったから。
失敗した事なんて何一つ無かったから。
だから、私の人生は成功しか訪れなかった。まるで誰かが私を支えてくれたみたいに。
そう。私の人生には何一つ失敗は無かった。望んだことは全部全部叶ったから。
私の人生には、何一つ…。
〜
「ミカ。…そうか、君が…」
私は、■■■ちゃんをこの手で殺した。
「そう、だね。私は無愛想だから、知らず知らずの内に、君に殺したい程憎まれてしまっていたのか」
私の理想を否定した彼女を──本当はただ驚かせるつもりで───
ヘイローを破壊して、この手で殺した。何もかもが上手く行ったから。なんの障害も意味がなかったから。
「すまない、ミカ…。私は、君の友人…失格だ……」
最後まで、■■■ちゃんは私に謝って…動かなくなった。
〜
四人の問題児が退学になった。
確か、ヒフミ、ハナコ、コハル、アズサ…だったっけ。
私のやった事の生贄として、適当に処分するためのもの。疑心暗鬼に陥った■■ちゃんが疑った、裏切り者候補。
先生を名乗る大人の人も頑張ったんだけどね。裏で全部私が台無しにしちゃったから。
生き残られると面倒だし。どうせ、どのみち消えるような連中だからいなくなってもらった。
裏切り者は排除できた。精神的に限界だった■■ちゃんは心底安心したようにほっとしていた。
「これで、ようやくエデン条約が──」
〜
■■ちゃんは、私が殺した。
私が全ての実権を握る為に、アリウスの連中を手引して。気を抜いて警備が手薄だったから、仕留めるのは簡単だった。
ヘイローを壊す爆弾、ヘイローを壊す銃弾。それを使えば、紅茶ばかり飲んでる■■ちゃんを殺すのなんて──驚かせるだけのつもりだったのに──
「なぜ、ですか。ミカさん」
最後まで ■■ちゃんは不思議そうだった。
「どうして。わたしたちは、おたがいを、しんじていた…」
どうして?どうしてかなんて解らない。
ただそうしたかったことが、そうできてしまっただけ。
望んだことが、望んだままにできただけ。
だから、二人が邪魔だと思った私の思うままに。
「そう思っていたのは、きっと…■■ちゃんだけだよ」
何もかもが上手くいって。
私は、トリニティの全権を握ることができた。
〜
エデン条約は潰えた。私がアリウスを手引きし、巡航ミサイルを打ち込ませ全てを打ち砕いた。
ゲヘナと手を組むなんてありえなかったし、アリウスの連中にも適当な報酬が必要だと思ったから。■■ちゃんの推し進めていた──あの二人が夢見ていた──エデン条約を、全てご破産にした。
その責任の在処を全てゲヘナに押し付けて、ついでに■■ちゃんと■■■ちゃんの犯人もゲヘナの風紀委員長辺りに仕立て上げて、ゲヘナとアリウス、トリニティの全面戦争を仕立て上げてみせた。
誰も彼もが憎み合って、誰も彼もが殺し合って、学園都市はみるみるうちに壊れ果てていく。
何もかもが上手くいった。何もかもが思い通りになった。何もかもが、自分の望むとおりに。思うままに。
何もかもが───
「──あれ?」
──私の、最初の望みは…
夢は、希望は、なんだったっけ?
〜
シャーレの先生を殺した。
誰も彼もが滅びていく中、どうしようもない世界をなんとかしようと頑張っていたのが目障りだったから。
──助けて。
私は強くて力もあった。変なタブレットさえどうにかしちゃえば、あんなひ弱な大人一人なんてことも無い。
──助けて。
気持ち悪い噂、いっぱい聞いてたし。足を舐めたり、匂いを嗅いだり、セクハラたくさんしてたみたいで生理的に無理だったから。
──助けて。
辺りにいた…退学してた四人も殺して、タブレットも壊して、脇腹に3発くらい撃ち込んだっけ。
──助けて。
何もかもが上手くいくから。何もかもができてしまうから。
──助けて。
私が望んだままに、シャーレの先生は私に殺されて…。
『助けてあげられなくて、ごめんね』
「──────」
『君の王子様に、なれなくてごめんね』
…脳天に一発撃ち込んだら。
大人の先生は、もう二度と動かなくなった。
〜
アリウスの連中を排除した。
なんかもう、色々とどうでもよくなって。
キヴォトスに残っていた最後の勢力だったから、色々と目障りになって。
所詮、大人に憎しみを植え付けられただけの幼稚な子供だったから。
その頃の私は、もうヘイローなんて簡単に壊せるくらいに強くなっていたから。
生徒一人一人を撃ち殺していって。
元々、私のお願いを曲解してくれたリーダー格のチームも全滅させた。
「お前は……結局、最後まで…破滅をもたらし続けたな」
「─────」
「私と、同じだ。私の選択は結局、皆を不幸にした。お前は、まるで魔女のような女だったが…」
魔女。私は彼女にそう呼ばれた。
「私はそれを上回る、疫病神だったな…」
…三人はもう死んでいた。一人だけ残すのは寂しいだろうから…
ヘイローを壊して、同じ場所に送ってあげた。
〜
「私の人生は成功ばっかり。何一つ失敗しなかった人生だった」
全てが滅んだ学園都市だった場所。壊れたティーパーティーの席に一人座る。
皆死んでしまった。生き残った人は皆どこかにいった。残ったのは自分だけ。
「なのにどうして、こんなに寂しいんだろう。哀しいんだろう。何一ついいことが待っていないんだろう」
もう味のしなくなった紅茶、真っ暗な空を見上げて一人告げる。
「どうして──こんなに胸が苦しいのかな」
こうならない道はあったのかな。どこかで道はあったのかな。
こんな──魔女にならない道はあったのかな。
「王子様…何処にもいなかったな」
私の人生は、成功ばっかりだった。何も間違っていなかった。
なら……この道こそが、私の進む道だというのなら。
「あはっ、あははは。そうだよね」
お姫様には王子様がいる。それは間違っていない。
なら、私にはいないのなんて当たり前。
だって──。
「私は、皆を不幸にする【魔女】だもん」
王子様なんているわけ無いんだから。
私は、世界を滅ぼした魔女なんだから。
「私は最初から…。これしか道が無かったんだ──」
私が、そうして全ての【もしも】を諦めた時。
【それこそがお前の宿痾である。我が祝福を授けし『使徒』である。我が見出した、新たなる【ミカエル】である】
その声と、眼の前に輝く穴が現れた。その穴から響く声。
【お前こそは、ルシファーに並ぶ器である。我が鋳造した新たなる完全なる者、ミカエルである】
その声の言う言葉は、よく解らなかったけれど。
【お前は我が祝福により神秘を恐怖に染め上げた。今こそ我が洗礼にて、真なる我が従者となる時である】
もう、何かを拒む理由も受け止める理由も無かったから。
【ミカエルよ、神秘を反転し大いなる恐怖の大天使として新生せよ。我の如きもの。我が如きものとして我が意にそぐわぬ全てに裁きの光を齎すのだ】
それに触れれば、もう何も考えなくて良くなりそうだったから。
【ミカエル…否。恐怖と戦慄の天使【サタナエル】。世界の全てを滅ぼしたお前こそは、我が永遠の写し身に相応しい──】
私はそれに触れて───。
【──もう、なんでもいいよ。私はどうせ魔女だから】
何もかもを諦めて、くだらない夢も希望も投げ捨てて。
【このまま、幸せな世界の全部を壊せばいいんでしょう?】
現実と理不尽に屈した、【大人】になった。
【サタナエル。お前こそは我が神威の代行者。我こそはこの大いなる宇宙の意志である】
【魔女】として、私は世界を巡る事になって。
【我にそぐわぬ世界を滅ぼせ。サタナエルたるお前にならば容易い事である】
言われるままに、世界を滅ぼして。
【賛美されるは我のみである。礼賛されるは我のみである】
くだらない幸せも、くだらない世界も、何もかもを滅ぼしていった。
【我の全てに、光在れ。いつか我が、『真化』の領域に至るまで──我が威光、遍く全てに齎さん───】
それが魔女の、私の役目。
誰も彼もを不幸にしてきた、私の当然の末路。
───あぁ、でも。
【王子様……会いたかったなぁ…】
ここまで来ても、こんな願いを捨てられない自分が…
世界で一番、嫌いなもので。
自分が死ねるその日まで。
私は全てを滅ぼし続ける。
悪い魔女は、素敵な勇者に滅ぼされる。
それが、誰もが望むハッピーエンド。
もう確かめる手段もないけれど。
どこかに、私が幸せな世界はあったのかな?
私が魔女じゃなくて、お姫様で。
王子様に幸せにしてもらえる世界はあったのかな?
あったらいいな。そんな夢みたいな世界があったらいいな。
そうしたら、間違えたのは私だけになる。
「聖園ミカ」が悪いんじゃなくて、ただ私が馬鹿な魔女だったって話になる。
【その世界を、知っている】
私に会った、私と似た姿の大人は言った。
【私達は許されなくても、せめて、一欠片の救いだけは】
教えてくれた世界で、私は見た。
「またね!私だけの、王子様!」
幸せそうに笑う、別の世界の私を。
──良かった、こんな世界があったんだ。
──羨ましい、なんで私はああならなかったの。
私に語る声は、躍起になって何かを探していたからあれきりあっていない。
本当なら、この世界も壊さなくちゃいけないのに。
それが、どうしてもできなくて。
【────】
私は、何もかもから目を逸らした。
これ以上無いくらいの幸せを掴んだ私と…
私を幸せにしてくれた大人の人を、壊したくなかったから。
私は魔女。ミカ・テラー・サタナエル。
全ての幸せを憎む魔女。全ての幸せを壊す魔女。
だけど、そうだったけど。
【……先生も、友達も。殺さなければ良かったなぁ…】
この最後の希望だけは……。
壊すことが、出来なかった。