人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
オルガマリー「楽にしてくれていいのよ。ただ、お話しをティマイオス様に聞きおよぶだけ。それ以外は、何もしないわ」
メイ「はい、ありがとうございます。…お話する準備は、できていると」
黒服【ゲマトリア代表として、司会を務めさせていただきます。本日はよろしくお願いしますね。…おや、アダム先生は?】
オルガマリー「アダム先生は今、外せない用事…とのことよ」
黒服【おや……。あの御方を縛るほどの用事。気になりますね…】
【さて……では、友好の証として、カルデアへの利敵行為を惜しみなく行う事としましょうか。本日はよろしくお願いします、ティマイオスに尾張メイさん】
『うむ。私が知ることは皆に伝える所存だ。メイ共々よろしく頼もう』
シャーレ・ビースト対策課。そこに集いしオルガマリーと黒服、メイとティマイオスが、事情を聴取する形でティマイオスの二の句を待つ。
「偽神…。アダム先生がかつて殺したとされる、デミウルゴスなる唯一神。カルデアの旅路に、汎人類史の唯一神教に深く関わっている存在です。アダム先生に討たれたという面で、齟齬はないはずですね?」
『あぁ。私は…かつて間違いなくアダムに討ち果たされた。世界の王にして、あらゆる生物の頂点たる存在であるアダム。だが、魂だけは自然発生するもの。アダムのそれは、知恵の実を食らう前に既に高潔なものだった』
ティマイオスはデミウルゴスの分身、アルターエゴ。即ちデミウルゴスの紛れもない一部。それが、確かなるアダムの神殺しを裏付けた。
『誰かが誰かを犠牲にし、唯一無二たる者に全てを捧げる。それを精神的な奴隷、不完全なるものとしたアダムは私に挑んだのだ』
【男尊女卑。アダム先生はそれが許せなかったという事ですね?】
『正確には、繁栄の為に他者を犠牲にしなくてはならない世界の理そのものにだ。私は自らを全知全能と本気で確信していた。真理たる結論であると。故に、私とアダムは世界の繁栄を懸けて争い…私は敗れた』
「神殺し。人が成し得る究極の偉業が一つ…」
『世界に私は満ちており、世界は私そのものであった。それをアダムは、世界そのものを討ち果たす事にて私を葬ったのだ。そこまでが、私が神として把握…記憶しているもの』
【当事者の観点から様々な所感を伺いたく思います。つまるところ、あなたという神は…デミウルゴスという神格は何を目指し、何を思って世界に君臨していたのですか?】
神の実在、神の意志の介在。かつてのエデンにて、果たしてデミウルゴスは何を思い、何を目的としていたのかをティマイオスへと黒服は問うた。
『究極的には、世界の全てを自らが手中に収めた事による永劫不滅の千年王国の創造…。あらゆる歪みと哀しみ、苦難や苦痛を廃した真の楽園を創り上げる事こそを命題としていた』
【真なる楽園……。楽園の証明のもととなる、存在を確認できない理想郷を作ることが目的であると?】
『そうだ。だがそれは其処に遍く過ごす命の為等では断じてない。何者も、どのような存在も成し遂げられなかった恒久的なる平穏と平和…。無謬なる理想郷を創り上げたという宇宙に轟く神の偉業を形とするためだ』
「徹頭徹尾、それは自身の功績と威光の為であったと?」
『そうだ。どのような存在も、どのような生物も成し遂げられなかった実績を、自分自身のものとする。浅ましく聞こえるであろうが、それが全世界に福音と幸福をもたらす唯一無二の手段であると…私は心より確信していたのだ。それこそが、今尚宇宙に蠢く偽神たる存在の変わらぬ行動原理にして理念であるのだろう』
「それが全宇宙にとって、真に平穏なる楽園を作る為の手段である…。それはまさに、独善と言えるものではないでしょうか」
『その通りだ。己のみを置いた、己のみが満たされた世界を作り上げる。それが異聞帯の創世神話における、神と呼ばれたものの行動規範であった』
【悪意ではなく、心の底よりそれが世界にとって正しい道であると確信した振る舞いこそが、かつての神の全てである…という事ですか】
ティマイオスはその指摘に頷いた。己の、己による、己の為の千年王国の建造。それこそが、かつてのアダムと戦った神の理念であるのだと。それのみが、かつての神の全てであると。
「あなたは、今の偽神を三位一体により復活し、世界に仇なす存在であると教えてくださいました。かつての本体たる存在が望むべくもの。今の宇宙における偽神とは、一体どのような存在であるのでしょう」
オルガマリーの問いは、カルデアが挑むべき指針たる存在の明瞭化を望んだものだ。あらゆる時空にて因縁を作り上げたかの偽神は、汎人類史においてどのような存在とになっているのかを。
『……目的は分身ゆえ、完全なる断定は難しい。しかし今、偽神は暗躍を進め自らが表舞台に出ることはない。これは恐らく探しているのだ。宇宙の真理に至った存在…『真化人類』の痕跡を』
「真化人類…。遥かなる未来の果てから、我々に英雄機神マルドゥークを託してくださった人類の到達点の方々ですね」
『そうだ。愚かしくも偽神たる存在は、アダムや今に生きる人類達を失敗作と断定し、自らが支配し治めるに相応しい存在として真化人類の所在と在処を求めたのであろう』
【そもそも、真化とは一体どのようなものを指すのでしょう?その真化人類とは、神から見たうえでどのような存在なのですか?】
黒服の問に、ティマイオス……白き鷲の器を有したアルターエゴは返答を返す。
『宇宙にて誤解なくお互いを理解し、自然と他人の境を超え、人と人とが解り合うという理念にして宇宙の真理を体現したもの。それこそが真化人類と呼ばれる者達だ』
【誤解なき相互理解こそが宇宙の真理にして、真化人類が到達した場所であるのだと?】
『そうだ。魂を一つ上の存在に押し上げ、宇宙の神秘と合一する。それこそが真化人類が到達せしめた領域であろう』
「暗躍に終始しているのは、自らが支配するべき存在を…その手掛かりを探しているため…」
【ならば今、この宇宙においてこの偽神たる存在はどの様なものとなっているのですか?我々の…汎人類史における、偽神との確執の果てとは、いったいどのようなものなのでしょう】
黒服が…あるいはゲマトリアが追及、或いは探求してきたこの宇宙における偽神の打倒の果て。それにすらも、ティマイオスは指針に等しい答えを齎す。
『汎人類史と、剪定事象という現象。それらの区分を生み出したのは、世界の有り様を定め、自らの裁量にて消し去らんとする偽神がこの世界に現れたことによる現象だ。並行世界の運用のため、完成され、これ以上の進歩はありえないとされた世界の消滅。それこそ、今の偽神が司る宇宙の理そのもの』
「つまり、偽神を討ち果たすという目的は…」
『そう。『剪定事象』という宇宙の大いなる意志そのものを討ち果たすという事。並行世界の維持、管理、エネルギー分配に容量の限界。剪定事象を司るそれは、偽神デミウルゴスと一つとなっている』
その打倒とはつまり、宇宙の定めた理そのものと戦うと言うこと。それを討ち果たした暁には、真なる福音がもたらされると。
『これ以上発展の余地がないと、余分なる世界を伐採する概念そのものを討ち果たせたのであれば。あらゆる世界は容認され、可能性を認められ、歴史の勝敗も優劣もない宇宙の理が取り戻されるであろう。偽神デミウルゴスこそが、汎人類史に剪定事象をもたらした全て。それは、宇宙の意志への反逆にして答えとなろう。『不要なる歴史、それを定める事こそ不要である』と』
「………全ての歴史を尊び、重んじる為の戦い。それこそが、偽神という存在と戦うという事」
【────お待ち下さい。アダム先生は自らの異聞帯エデンが剪定され消え去ってしまうという事を懸念していました。それは剪定事象という存在が前提にある。つまり、まさか…】
黒服の疑問に、ティマイオスは静かに頷く。
『───偽神、ビーストΩを討ち果たせし時。やつのエデンは剪定の運命から解き放たれるであろう。最早大いなる意志による世界の選別は起こり得ぬ。剪定世界は、並行世界として大いなる一つとなりうるのだ』
宇宙の意思との合一した偽神により齎せた、【剪定事象】。
ビーストΩを討ち果たせし時、それらの区切りと区別は消え去ることとなる。
それはカルデアが、あらゆる世界に旅立ち星の海を巡ることの保証となり…。
アダム・カドモンが知るエデンの、新たなる門出となり得る比類なき希望となる情報であった。
黒服【アダム先生!あなたのエデンの運命を覆す光明がついに……ん?】
アロナ「しゅっしゅ!じゃぶ!ジャブです!」
アダム「黒服か。詳しい話は後で聞こう」
黒服【…失礼ですが、アダム先生は何を?】
アダム「私は今──アロナと戦わなくてはならないらしい」
黒服【!?】
アロナ「行きますよぉ、先生!全力で、先生に勝ってみせます!だからアダム先生も全力で来てください!」
アダム「全力……」
アロナ「アロナを、アロナを置いていくなんて赦しませんから!私が勝ったら、アダム先生はずっとずっとキヴォトスにいるんです!いざ、勝負──!」
大いなる福音の裏で…
先生と一人の生徒の最終決戦(?)が、始まろうとしていた。