人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
死とは、平穏である。
死とは、公平である。
死とは、孤高である。
死とは、崇高である。
死とは、寛容である。
だからどうか、死を怖がらないでください。
私を怖がらないでください。
私はあなたたちのそばにいます。
私はあなたたちの安らぎでありたいから。
だからどうか──
私を、置いていかないでください。
ーー■■■■■■■■ーー
それは、楽園カルデアでない並行世界。
それは、『精霊』と呼ばれる生命体が観測されていた世界。そこには当たり前の営みと、恋愛ゲームのような非日常がある世界。
精霊と心を通わせ、その溢れ出す力を鎮め、共に歩む事で未来を切り拓いていく世界。数多無数の精霊──そう呼称された存在──がいる世界。
そこに、それは現れた。精霊達が現れる際に起きる『振動』は起きること無く、それは現れた。
現れてしまった。
【あー、ぅあ、あ。あー】
まず【ソレ】は、人型だった。少女。白と灰の長い髪。鎖とスーツ、銀色の靴に手袋。成人女性、淑女そのものたる麗しい存在。だがその振る舞いは、知性や知能の介在が乏しいもの。
その存在は深夜未明、音もなく、予兆無く、観測なく、前兆もなくその世界に現れた。
『精霊』と呼ばれる存在が呼ばれる際は、世界を周囲まるごと抉り取るような時空振動が巻き起こる。
故に精霊は【人類の敵】とされ、討伐対象とされていた。それを人類は、一人の少年が精霊と心を通わせる事を叡智を結集させ目指した。
だが、それに予兆はなかった。前兆はなく、予測も無意味。予想も不可能。
それは誰のそばにもいるものだから。それはだれもが知っていることだから。
だから【それ】は、厳密には『精霊』ですらなかったのだろう。ただ、それを定義するケースが類似した精霊というサンプルがあっただけだった。
その世界の人類は見逃した。
その世界の人類は間違えた。
何をおいても、その存在を■■するべきだった。
何をおいても、その存在を■■するべきだった。
それは、なんの事象もないように。
それは、なんの思案もないように。
【さー、たー、なー、えー、る】
それを、口にした。
〜
まずは、町が一つ死に絶えた。
当たり前のように、それが当然であるかのように命は終わりを迎えた。
次に、都市が死に絶えた。
何の思案もなく、何の思慮もなく、ただただ生命が活動を停止した。
それは範囲を広げていった。
それに善意も、悪意もない。それはまるで、時計の針だった。
その時が来たよ、と。
時間が来たよ、と。
【さー、たー、なー、えー、る】
愛する子供を迎えに来たように。
熱中する友人の肩を叩くように。
ただただ、それは運命の時を運んできたのだ。
【さー、たー、なー、えー、る】
命の行き着く先を。
命の当然の結末と未来を。
何故と聞かれて困る。
走り疲れたなら止まってほしい。
動き疲れたのなら休んでほしい。
それだけのこと。たった、それだけ。
【さー、たー、なー、えー、る】
異常に気付いた人類は、少年を派遣した。
精霊達の心と絆を束ねた英雄たる少年だった。
人類はそれを『精霊』と定義した。
それが希望と、それが活路だと信じて。
【さー、たー、なー、えー、る】
当然の様に少年は死亡した。
いや、精霊達の力と加護により永遠に眠っただけに留まった。
二度と目覚めないのだとして、それは終わりではない。
永遠に生き続ける。即ち、【死】を剥奪された。
【さー、たー、なー、えー、る】
彼を愛した数多の精霊達が、それを討ち果たさんと挑んだ。
【さー、たー、なー、えー、る】
彼女達も、少年達と同じ様に【死】を、剥奪された。永遠に生き続ける呪いを受けた。
死なぬことは幸福だろうか?
不老不死とは至高の夢であろうか?
星も、宇宙も死ぬと言うのに、何故死なないということが幸福なのだろうか?
それのあまりの理解不能さに気付いた一人の精霊は、その世界には最早活路はないと結論し、その打開策を他所の世界に求め旅立った。
逃げおおせたと言った方が正しい。
【さー、たー、なー、えー、る】
精霊と対抗する、否…精霊と共に生きる唯一の手段を喪失した人類は武力行使による排除を決断。
もうそれしか残されていない。対話の手段は永遠に生き続けているのだから。
【さー、たー、なー、えー、る】
全ての抵抗は無意味だった。
全ての武力は徒労だった。
全ての叡智は不覚だった。
その世界の人類は、何もかもを致命的に間違えた。
【さー、たー、なー、えー、る】
それを中心に、何もかもが死んでいく。
それを中心に、何もかもが絶えていく。
それは対話するものではなかった。
それは排除するものではなかった。
それをどうにかするとか、利用するとか、支配するとか、歩み寄るとか、理解するとか。
全てが、間違えていた。
たった一つ。
それを隣人にするには、たった一つの方法で良かったのに。
【さー、たー、なー、えー、る】
都市の次は国が死んだ。
【さー、たー、なー、えー、る】
国の次は島が死んだ。
【さー、たー、なー、えー、る】
島の次は陸が死んだ。
【さー、たー、なー、えー、る】
陸の次は海が死んだ。
【さー、たー、なー、えー、る】
海の次は空が死んだ。
【さー、たー、なー、えー、る】
空の次は文明が死んだ。
【さー、たー、なー、えー、る】
文明の次は、星が死んだ。
【さー、たー、なー、えー、る】
星が死んだあとは、それでおしまいだった。
【ぁ………】
それは、死を司る精霊であると人類は定義した。
それは間違いであり、正しくもある。
【あぁ…】
それは、【精霊となった死】。精霊ではない。始原の精霊とは全く関わりのない、それでいてあまりにも精霊たる存在。
それこそは死である。物質化した宇宙の法則である。
固形化した、世界の法則である。
手に触れられる、目で見える、耳に聞こえる命の運命である。
人型の命運である。
【うぁ〜……】
即ち、世界に現れた絶対の宿痾。命が全て辿り着く結末である。
人類はかつて、これを排除するべきと決断した。
これを消し去れば、人類は究極の領域に辿り着くと。
不老不死を手に入れる事ができると。
事実、それは正しかった。
それを消し去れば、抹殺すれば、その世界から死は喪失した。
【あー…】
その世界の人類は、それの向き合い方を間違えてしまった。
それは向き合うのではない。
それは拒絶するのではない。
ただ、■■するだけで良かったのだ。
知ろうとしてはいけない。嘘つきだ。
消そうとしてはいけない。薄情だ。
使おうとしてはいけない。冒涜だ。
ただ、全てに命が当たり前のように■■するべきだった。
それができなかった。それとデートができなかった。
だから終わる。だから終わった。
並行世界の一つに、デッドエンドが生まれた。
…しかし、それは幸いだったのだろうか。
その存在の不可解さは、周囲の全てを切り取り理不尽な『特異点』と化した。
それは、或いはこう判断したのか。
こうじゃないと。
迎えるべきはこうじゃないと。
たどり着き方がこうじゃないと。
それにより、まだそれは【確定していない未来】になったのだと。
【……………】
あり得た未来において、全ては死に絶え消え去ってしまった。
しかしそれは、覆せる段階の【もしも】。
それが巻き起こした全ての事。
それに対し、正しい結末をもたらすことができたのならば。
それに対し、答えを示すことが出来たのならば。
それの齎した死は、当たり前のものとして修正される。
【命は死ぬもの】という、当たり前の辻褄合わせが起きる。
この特異点に挑むとするならば、心するべきだ。
理解しようとしてはならない。
排除しようとしてはならない。
当たり前の事を、当たり前の様に。
それだけが、この特異点をなんとかできる方法で。
それだけが、命が忘れてはならないたった一つの真実。
チャンスはたった一度。
機会はたった一度。
それに何を、どうするべきなのか。
【さー、たー、なー、えー、る】
あらゆる全てを使って、辿り着かなくてはならない。
完全なる死を迎える前に。
【さー、たー、なー、えー、る】
完全なる死を…
世界が、迎える前に。
?「……っ、っ……」
南極
?「この、神殿は……」
「……どうやら、まだ……運に見放されてはいないようですわね……」